「おーいティナー。準備出来た〜?」
ある晴れた冬の昼下がり。辺境の地の山奥に住まう2人の少女は、何処かに引っ越すのかと思うぐらい家の中を片付けていた。だが少女の片方は何度も何度も指差し確認をしており、準備が終わらないようだった。
「フェル、私の方は既に準備出来ていますよ。むしろさっきから何度も指差し確認をして準備出来ているのか分からないのはフェルの方ですよ?」
「いやいや、指差し確認は最重要でしょ!これをするのとしないのとで二重チェックになったり、気付いていない忘れ物に気付くかもしれないじゃん!」
「今のフェルの確認だと二十チェックですよ。どれだけ確認するんですか」
「だって寮に入ったらほぼこっちには戻って来る気無いでしょ!むしろ向こうで新しい居住地探すって言ってたじゃん!どうしてこんな辺鄙なとこに住居構えたのさ!」
フェルと呼ばれた白髪ロングの少女は今までの不満をぶちまけるかのようにティナと呼んだ銀髪ロングの少女に口撃を仕掛ける。対してティナは別に気にしていないかのように、やれやれといった様子で返事する。
「別にお金に関しては困らないでしょうに。というかフェル、辺鄙な場所に居を構えたのは私達は一応隠居の身だからというのをお忘れですか?研究などをするには上質な水や広い土地が必要ですし」
「うぐっ、た、たまにはお店に行ってジャンクなフードとか食べたいじゃん!そりゃティナが作る食べ物は美味しいけどさ、二人で優雅にランチとかディナーとかしたいでしょ!?」
「うっ、それは・・・・たしかに。デートも最近はめっきりですしね・・・・・・」
軍配はフェルに上がったようだ。またため息をついて、少し達観したような表情になるティナ。
「次の居住地を探す時は、もう少しグルメなところにしましょうか」
その言葉にグッと綺麗なガッツポーズを決めるフェル。だが次の瞬間にはキリッと真面目そうな表情を見せる。
「じゃ行こっか、ティナ」
「ええ、行きましょうか。セレンディア学園に」
「全寮制らしいから、アレやっといてね?」
「まったく、この家も十分大事にしてるじゃないですか」
魔術のようなもので家をコーティングし、2人は道端に停めておいた幌馬車に乗り込む。目指すはリディル王国にあるセレンディア学園。彼女達が何故この時期に学園に向かうことになったのか。それは、
「まさか〈沈黙の魔女〉が潜入するから、協力者として先に現地入りしておけって、あの生意気なガキも立派に成長したんだねぇ」
「フェル、一応国王ですからね?」
「そりゃ分かってるけど。あ、でも事前に調べた感じだとセレンディア学園って結構膿溜まってるみたいだよ」
「なるほど。なるべく膿は出しておけ、ということですか」
「まぁセレンディア学園は政治色強しな社交界だけど、居るのは子供だからまだ分かってない人が多いんだと思う。というか分かってないから私達に依頼が来たっぽいんだよねぇ。まったく・・・・」
「『自分達は忙しいから手を付けられない。だから貴殿らの手を借りたい』でしたっけ。いわゆる厄介ごとの押し付けですよね」
「むしろ政治色入れたら厄介事が多発するなんて分かってたことでしょ・・・・。見通し甘すぎ」
「もしかすると、何か眠ってる可能性がありますね。木を隠すには森と言いますし」
「あーーーー、有り得るーーー」
「まぁ、いつものように成敗していけば、自ずと答えは見つかるでしょう」
「だねぇ。こーいうのは新たな出会いっていうのも乙なものだし、その辺りも楽しみにしとこうよ」
「そうですね」
そうして2人を乗せた幌馬車はセレンディア学園に向かう道をゆったりと進む。2人を待ち受けるのは何なのか。それすらも楽しみにしながら。