新年あけおめです。今年も書きたいように書いていきます。
セルマの自室はそれなりに広いものであった。天蓋付きの5人ぐらいは余裕で寝れそうな大きなベッド、本がびっしり詰まった本棚、意外と大きめのドレッシングチェスト、1人でも紅茶が楽しめそうなテーブルと椅子、大量のドレスが見えるクローゼット、床一面に広がる絨毯などなど。窓からはカーシュ卿が整える芸術的な庭園が一望でき、頭上の大きなシャンデリアが部屋を照らす。
そんな部屋に案内された2人はまだ恥ずかしがってるセルマも貴族なのだと再確認した。そんな中、フェルが興味津々でクローゼットを指差す。
「ねぇねぇセルマ、あの服って寝るとき用?それともお出かけ用?」
「もちろんほとんどお出かけ用・・・・」
と言ったところでセルマはフェルがニヤニヤしていることに気付く。あっと思った時にはフェルに抱きしめられていた。
「つまり、ここに居る間セルマの着る服を好き放題していいよね?」
「え、ええっ!?それは、その・・・・」
「だってセルマの色んな姿見てみたいしー?」
手をモジモジしようとしたセルマだったが、抱きしめられていて腕があんまり動かせないことに気付いて、代わりにスカートを弄った。
「あう・・・・・分かったよ・・・・」
「やったー!よーし、今日はどんな服で寝てもらおうかなー!?」
一気にテンションが上がったフェルは、セルマに軽く口付けし、そのままクローゼットへと走っていった。
セルマの方はキスされたことに一瞬どころか一拍遅れて気付き、顔が赤くなって口角が上がっていった。
「フェルはあんな風に言ってたけど、一応魔女としての訓練にも役に立つからね?」
そう言ってフェルの言ってたことに対して弁明をするのはフィア。本棚の中にミネルヴァの泉があるのを確認して戻ってきた。
「それは、どういう・・・・」
「だって魔術師とか魔女ってたまに緊急時での対処とかしないといけないんだ。例えば夜会に来ていたらクーデターを起こされて人質にされるとか、スパイが紛れ込んでたとか、そういうタイプ。その場合、どんな服でも十全に力を発揮できないといけないとは思わないかい?」
「たしかに・・・・・・」
「それなら、どんな服を着ていても恥ずかしがらずに行動ができるというのは一種のアドバンテージになると思わないかい?」
「・・・・・本音は?」
「生涯を共にすると告白してくれたからね。セルマの色んな姿は見ておきたいと思わないかい?」
「フィアぁっ」
色々と理解もできる説明をしてくれたが、本音を聞き出してみるとフェルと同じく惚気だった。思わず照れ隠しでポカポカとフィアを叩いていると、ガチャッと扉が開く音がした。その方向を見てみるとティナが入ってきて代わりにアリーシャがティナにごゆっくりと声をかけて退室した。
「あ、ティナ。カーシュ卿とのお話は終わったのかい?」
「滞りなくつつがなく終わりましたよ。それでフィアはどうして叩かれているのでしょうか?」
「フェルがセルマを着せ替え人形にしたいって言ってたから、魔術の訓練から見た知見を加えて援護したらこうなったんだ」
「だ、だって、フィアもフェルも、私の色んな姿を見たいって・・・・・」
「なるほど、そういう事でしたか。私もセルマの色んな姿は見たいですよ。結婚式まで秒読みですし、私達もセルマの姿を見て外聞をはばからずにイチャイチャしたいですから」
「そ、それはっ」
頭から湯気が出るほどセルマが真っ赤になって、反論しようにも婚約者達にあんなことやこんなことされる妄想をしてしまい、欲望として口から出てしまった。
「皆が良いなら・・・・・私もそういうの、されたい・・・・・あっ」
正気に戻った時にはもう遅く。ニコニコしていたフィアに押し倒されるセルマ。もちろんセルマの気を遣って押し倒した衝撃を受け止めており、セルマからしてみればいつの間にか床に倒れ込んでいたことになっていた。フィアの亜麻色の髪がまるでカーテンのようにセルマの視界を遮り、至近距離で見つめ合う2人。
「フィ、ふぃあ、今日は皆、激しいよ・・・・?」
「それはそうだろう?親に挨拶して、性別とか人数とか関係なく認めて貰えたし、セルマからは熱々のプロポーズをいただいたからね。その上今はセルマの部屋で他の人の目が無い完全なプライベート空間。据え膳なら平らげないといけないからね。仕方ないんじゃないかい?」
そうしてフィアは啄むようなキスを繰り返す。ただセルマも攻められっぱなしではなくフィアを求めて抱きしめて
「お二人共、熱中するのは構いませんがそういうのを見せられると私達にも影響がある、というのをお忘れなく」
「そーだそーだー!」
ティナにジト目で見られて注意されて、フェルからも同意された。慌てて離れようとしたセルマだが、幸せだからいいやと幸福を享受することにした。2人は同時にため息をつく。
「絨毯が敷かれているとはいえ制服が汚れますから」
「それにさー?大きなベッドあるんだから、せめてそっちでしない?」
そう言われてみると確かにと納得したが、セルマの制服なんてどうなってもお構い無しと言わんばかりにフィアが攻めてくる。
「あー、フィアったらスイッチ入っちゃってる」
「仕方ないですね・・・・・」
するとフェルとティナがセルマの左右に寝転がり、セルマの腕は2人の胸の谷間に挟まれて囁かれた。
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「いやー、やっぱりセルマは弄りがいがあるねー」
「ですね。良い声で鳴くというか、こちらの好きそうなことをしてくるので止まらなくなりますね」
3人による連携攻撃でセルマの幸せゲージが限界突破してツヤッツヤにされたあと、皆で大きなベッドに寝そべっていた。なおセルマはティナとフェルに挟まれる形で寝転がっているため夢見心地なのは継続中である。
「ボクもとりあえずセルマが学校に居た分のセルマニウムは補給できたから良かった。とりあえずこれからは毎日セルマニウムを摂取しないと」
「セ、セルマニウム・・・・・?何その・・・・」
フィアは体を起こすと、幸せそうにニヤけるセルマを見ながら微笑み、セルマは自分の名前が入った謎の言葉に疑問符を頭の上に浮かべる。
「セルマから補給出来る成分のことだよ。リラックス効果があるんだ。ちなみに既定値を下回ると禁断症状が出て暴れることになるから、摂取するのが必須だね」
「はいはい、セルマ成分補給のためにそんな言い訳作らなくても良いでしょ?むしろ外でもイチャイチャして見せつけていく方が欲求を満たしやすいんじゃないの?」
フェルとフィアの言葉の意味を考えているうちに気がついたのか顔が真っ赤になるセルマ。それを見てニヤニヤしながらティナは追撃を行う。
「この2人が言ってることを簡単に説明すると、セルマが以前行なっていた、フェルの制服を嗅ぐ行為ですね。あれでリラックスが出来ると言っています」
「た、確かにそれはリラックス出来るけど・・・・・、私のでもなるの?」
「セルマはもっと自分に自信を持った方がいいですよ。というよりセルマは私たちのでなるのですから、それが逆になっただけです」
ただ今までのアーロンに関する事柄があったからか、セルマはまだまだ自信を持てていないし卑下する癖がついてしまっていた。そのためティナはそんなセルマを安心させて自信を持たせるために手を繋ぎ、セルマの手の甲に口付けを落とした。セルマは一瞬何をされたのか分からなかったが、理解が追いついてくると甘い声で鳴いた。
「てぃ、ティナ・・・・?」
「前にフィアと会ってデートをした時のこと、覚えていますか?」
「え、えっと、フィアの奢りでお昼を食べた時・・・・・?」
「ええ。その時で合ってます。あの時セルマは言っていましたよね。『私達の尻に敷かれたいし、私達のしたいことをされたい』って」
「う、うん・・・・」
セルマはこれからティナに何を言われるのか分からなかった。分からなかったが愛する人からの言葉だから信じようと思った。
「では、セルマが自身を卑下するのは止めてください。そういう風に自虐するのは、私達にとってもセルマにとってもマイナスの影響しかないです」
「そーそー。私達はそんなこと全く思ってないのに『私なんて』って卑下されると私達も悲しくなってくるよー」
「そ、そうなの・・・・?」
「それと、私保健室でセルマに告白されたけどさ。あの時はそんなこと考えてたの?」
「それは、その・・・・考えてない・・・・」
「告白されて、それを受けるっていうことはね。セルマには私達を惚れさせるだけの魅力があったってことなんだよ」
「わぷ」
フェルから不意打ち気味にあの時の気持ちを答えさせられ、思い出しては恥ずかしくなるセルマに対して、フェルは背後からセルマの頭を胸で挟み込み髪を撫で始めた。
「これは魔術師の観点なんだけど、魔術師になる人は卑下だけはしちゃダメなんだ。少し強欲だったり傲慢じゃないと、魔術師として大成しないんだよ。どうしてかって言うと、自分を卑下する人って自分の実力を見誤ることが多くて、それが恨みや妬みの原因になって、最終的に後ろから刺されたりしちゃうんだ。ボクもそういう親友にモニカっていう〈沈黙の魔女〉が居るんだけどね?彼女はセルマよりも酷くて、卑屈どころの話じゃなかったんだ。それのせいで恨み買っちゃったりしてて・・・・」
「〈沈黙の魔女〉にもそんなことが・・・・・」
「だから何とか卑屈にならないように色々とやって、七賢人になってからはそういう風にはならなくなったね。人見知りとかは治らなかったから人前ではほぼ全く話さないけど、ボクと2人きりとかなら話せるようになったよ。だから、ゆっくりでいいからボク達と一緒にそういうところを治さないかい?もし治れば、もっとセルマのこと好きになりそうだからね」
「うん・・・・・・」
恥ずかしい気持ちのまま、もっと好きになって欲しくてフェルの胸の中で頷くセルマ。それを見てティナはフェルの逆側から抱きしめ、フィアはセルマの上に乗っかる。傍から見ればセルマは足だけしか見えておらず、色んな意味で襲われているようにも見えた。だからだろう。
「失礼します。お嬢様、皆様、夕餉の準備が整いましたので・・・・・、お楽しみ中でしたか。失礼しました」
「ぁ・・・・・・ま、待ってっ、アリーシャっ」
夕飯の時間のため呼びに来たアリーシャに誤解され、慌てて事情を説明しに行こうとするも3人がかりで止められた。結局誤解は解消したものの、セルマと3人の婚約者に関しては火傷しそうなほど熱々であるという噂が立つことになった。
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豪華な夕飯を終えるとお召し替えが行われ、全員豪華なドレスを身に纏うことに。フェルはいつもの青と黒のドレスを、ティナはフェルと色違いで真紅と金色のドレス、セルマは真っ黒で肌面積の多いマーメイドドレス。そしてフィアはというと。
「ボクがこんなフワフワヒラヒラしたドレスだなんて。似合ってないとは思わないのかい?」
「どこをどう見たらその感想になるのでしょうか?」
「そーそー、それにこういうの持ってきてないフィアが悪い。というかアレしかないんでしょ」
「それは、まぁ・・・・・・・・・」
「見た目とのギャップが、良い・・・・」
「あぁ!あまりに似合いすぎててセルマが倒れる寸前だ!」
「そこまで喜んでくれたなら・・・・・、ボクも嬉しい、かも」
「セルマーっ!しっかりしてー!」
フィアはいつもの赤いフード付きローブを羽織ろうとしたのだが、アリーシャ含むメイドの方々に連行されていった。そして体型が似ていたこともあってセルマのドレスを借りることになり、フリルたっぷりな真っ黒なドレスを着せられた。セルマの服装の趣味も気になったが、ちゃんと似合っているフィアに対しての反応は様々。ティナは諸手を挙げて賞賛し、フィアが疑問に思えばフェルが素体の良さを語り始める。だが反応が良すぎたのはセルマ。フィアのことは恋人になる前から推しなのである。そんな推し兼恋人に自分のドレスを着用されたらどうなるか。
「もう、ここで死んでもいいの・・・・・・・」
「セルマーーー!!戻ってきてーーーーー!!」
昇天寸前まで喜びが天元突破してしまったのである。口から魂が少し出て幽体離脱しかかっているようにも見える。とりあえずフェルは魂を掴んでセルマに戻し、目を覚ますまで肩を揺らし続けた。
「フィアの素体の良さと、セルマの推しパワーの相乗効果でこうなるなんて・・・・」
「では、フィアには責任を取ってもらいましょうか」
「ちょっとティナ!?」
何とかセルマの息の根が止まらずに済んだが、今度はセルマの笑みが不気味になって止まらなくなっていた。えくぼが頬を貫通してどこかに飛んでいきそうなほど。無理やり手刀を落として正気に戻らせようとも考えたが。
「フィアの、フィア様のお召し物が、わ、私が着ていたドレスで、もし叶うなら、着て欲しかった服を、フィア様が着てっ」
「全く、セルマ?喜ぶのはいいけど、そこまで挙動不審になられたら流石のボクも怖いよ。まぁセルマの為ならボクも一肌脱ぐから、着てほしいのがあったら言って欲しいかな?」
「ひゃあ〜」
照れ隠しでフィアにそう言われると、もう限界だったのかセルマはフィアに抱きつき匂いを嗅ぎ始めた。みるみるうちに幸せそうなだらしない表情に溶けていき、それを見たティナはフィアのことを抱きしめた。つまりセルマが間に挟まれる形となる。
そんな様子を、離れて見ていたアリーシャにフェルがこっそり近付いた。
「・・・・・ごめんね?アリーシャさん。なんかハレンチで」
「いえ。あんなに幸せな表情をするお嬢様は初めて見ました。皆さんにならお嬢様のことを安心して送り届けられそうです」
「待った待った。まだやること色々やってないし、それでアリーシャさんが廃業になるのも見過ごせないよ?」
「そうなのですか?」
「そりゃそうだよ。そうなっちゃったら私達も多かれ少なかれ責任感じちゃうし」
「気にしなくていいですよ。私はお嬢様の従者ですから」
「それだから気にするんだってば。それと、この香りはアリーシャさんの?」
少し雑談を重ねつつ、ふんわりとアリーシャのメイド服から香るものを尋ねるフェル。するとアリーシャは少し誇らしげな顔になり胸を張る。
「毎日調合しているものですね。その日の気温や湿度、天気によって匂い方は違ってきますし」
「そっか。じゃあちょーーっと忠告しとくね?ソレ、私達には効かないから」
「え?・・・・・・・・えっ?」
最初は何を言われたか分からず聞き返そうとして。そして何を言われたのかを咀嚼して理解して、アリーシャは真っ青になった。自分が何をしているのか、隣の少女は「全部分かってるぞ」と言ったのだ。
「あぁ別に、そんなに怯える必要も無いよ?さっきのも本心だし、無意識なら教えるし、意識的なら・・・・・・・・・うーん、どうしよっか。まぁでもさっきも言った通り、アリーシャさんの行く末に関しては私達にも責任があるし、これでお役御免になったらその時は改めてこっちで雇わせてもらうからね?」
その時はよろしく、なんてフェルは言っているがアリーシャは平静を保つので精一杯だった。今まではコレがあったからこそ孤児である自分をカーシュ家で雇ってもらえたし、信用を勝ち取り続けてきた。それが効かないとなるとカーシュ家に暴露されてしまい一生の傷をつけられるかもしれない。それだけは・・・・!!
なんて考えているアリーシャの気持ちを汲み取ったのかフェルはアリーシャと腕を組み、そのまま恋人繋ぎにした。目の前にセルマが居るにも関わらず。
「えっ・・・・・?」
「別に暴露しようとかそういうのは考えてないよ。むしろそれがあったからこそセルマのことを守れたんでしょ?」
「それは・・・・・」
「それに、アリーシャさんはその力を悪い方向には使ってないみたいだし。それなら同じよーな力を持ってる私達としては、アリーシャさんの悪事?を言いふらすようなこともしなくていいでしょ?」
「アリーシャ」
「え?」
腕を組まれ指を絡められて逃げられないようにされたと思っていたら、フェルの率直な気持ちを伝えられた。それと同時にアリーシャの胸の中はポカポカしてきた。この力を使ったことで貶されたり陰口を叩かれたりすることは余り無かったが、褒められるようなこともなかった。何せ常人には気付けないから。なのに隣の少女は同類らしくて、その上力のことを責めるのかと思えば許しただけでなく褒めてきた。今まで誰にもされてこなかったことを簡単にしてきたらコロっと落ちるしかなくて。
「私のことは呼び捨てで構いません」
「それなら私達のことも様付けしないで欲しいかな。立場的には上下があるかもしれないけど、それを抜きにしたら対等でしょ?もっと楽にしてて欲しいんだよ」
「善処します」
「それで大丈夫だよ。・・・・・疑惑は晴れたかな?」
「今のところは」
隣にいる少女のことが、すごく愛おしく感じるようになった。力の反動なのか、それとも優しくされたからなのかは分からないが、セルマがフェルを好いているようにアリーシャもフェルの事が好きになっていた。そして当のセルマはフィアとティナに愛されている。であれば負けじと腕組みしたフェルを近付けてしっかりと手を繋いだ。
「にしては結構積極的じゃない?」
「今ぐらいは、独占させてください」
「セルマに見られるよ?」
「その時は、どうにかしてくださいね?」
「アリーシャは意外と強かなんだね」
「そうしないと生きていけなかったので」
そうして遠い目でどこかを見るアリーシャ。そんな目は嫌だと言いたげに、フェルは組んでいる腕を引っ張り密着するまで引き寄せた。
「フェルの方こそ、強欲ではありませんか?」
「そりゃね。セルマが居ながらアリーシャも、なんてやってる時点で分かってたことでしょ?」
「それはそうですが・・・・」
「それはそうと。アリーシャのその力って、いつ頃から使えたの?」
「これは・・・・・確か私が竜害に遭って孤児になった時ですね。それからの付き合いです」
「ってことはどのぐらい前?」
「今が21歳ですので、大体10年ぐらい前かと」
「え」
フェルが固まった。それはもう彫像のように。訝しんだアリーシャが顔を覗き込むまでフェルは固まり続けた。
「どうしたのですか?」
「わっっっっっっっっっっか!?」
「なんですか。そんなに老けて見えていたんですか?」
「・・・・・まぁ、はいかいいえかで答えるならはい・・・・・・」
「今年21歳になったばかりですね」
アリーシャが意外と若くて驚愕するフェル。アリーシャにとっては年取ったおばさんだと思われていたのが気に入らなくてため息をついた。
「竜害ってことは孤児だったんでしょ?教養とか学ぶのも大変だったんじゃないの?」
「基本的な教養は孤児院で。カーシュ家に来てからはカーシュ夫人から学びました」
「で、その間にどのぐらい力使ったの?」
「そ、それは・・・・、ほぼ、毎日よ・・・・・・」
その言葉にフェルは頭を抱えて悩もうとして、アリーシャの話し方が変わっていたことに気付く。バッとアリーシャの方を見ると、やらかしてしまったような表情で固まっていた。なお顔は真っ赤っかになっていた。
「アリーシャの素が出ちゃった?」
「そう、よ・・・・・」
「私としてはそっちの方が好きかなぁ。で、さっきの話に戻るけど、その力って使いすぎると理性飛んじゃって、最終的には理性のない化け物になるから、それだけは注意しておいて欲しいね」
「・・・・・・・・・・・」
今まで目を見て話していたのに、アリーシャは突然フェルと目を合わせなくなった。何かをこらえるような、経験がありそうな挙動をしていた。フェルはその様子を見て噴き出してしまった。
「え、もしかしてもうその辺りは経験済み?」
「そうなの、よ・・・・」
「どこまでやったの?」
「それは・・・・・・、唐突に暴れたくなったのよ・・・・」
「ほほう!?また珍しい方向性だね。それで?」
「不定期にそうなるから・・・・・人目のつかない山奥の更に奥に行って、動物を、こ、ころ、こ」
「アリーシャ・・・・・?」
挙動不審になりながら話すアリーシャにフェルはニヤニヤしながら見つめ、ティナとフィアはセルマにも聞くように促した。アリーシャもセルマに見られているのに気がついたが、溢れ出る興奮を抑えきれずタガが崩壊してしまい、恍惚とした表情へと変貌した。
「動物を、ころ、殺した、のよ。それでも足りなくて竜も殺して、気持ちよくなったわ・・・・。も、もちろん、家畜とかには手を出してないわよ」
「それさ、殺しただけじゃないでしょ」
「それは・・・・殺したあとに、喰べたわ。鳥は身も少ないし野生動物は臭いがあるから殺すだけ殺したわ。竜が一番美味しいの。筋肉質で巨体なほど肉が多いから喰べる場所も豊富で喰べれば喰べるほど力も漲って来るし気持ちよくなれるから好きで、休みの日は竜を狩っては喰べてるのよ。殺した直後をかぶりつくのが1番美味しくて・・・・」
「ほい」
アリーシャの目から光が消え、楽しそうに狂った話を続けて、理性も消えかかっているのか涎を垂らすのも気に止めずうっとり顔で狂気を語り尽くす。妄想の中で喰ベた感触が忘れられないのか歯をガチガチと鳴らす。主の前だというのにそんな凶暴さを露わにして、瞳孔が縦に伸び始めたのに気付いてフェルは落ち着かせるように首元に手刀を当てる。ハッとして涎まで垂らしたのに気付いたアリーシャは、セルマが目の前で心配そうな表情をしているのを見てとてつもない罪悪感を抱いた。逃げ出そうとしたがフェルに腕を組まれて手を繋がれているため動くことすら出来なかった。
「アリーシャ」
「お嬢様・・・・・」
「ごめんなさい」
絶望した表情で主を見るしか無かったが返ってきた言葉は謝罪だった。目を剥くアリーシャにセルマは言葉を続ける。
「私がストレスをかけていたことに気が付かなくて」
「セルマ、それ違うよ」
「え?」
ただ、セルマの謝罪もフェルに止められる。キョトンとするセルマに助け舟を出したのはフィアだった。
「アリーシャさんのその症状は、竜害に巻き込まれたとかで強いショックを受けた人に出るんだ。一種の呪いみたいなものだよ。アリーシャさんの場合竜が憎いから動物全てが憎くなって殺したくなる、っていうものでこの系統の呪いの対処法としては元に戻るまで欲望を満たしてあげる以外の対処法が無いのが問題になっているんだ。幻覚が見えて人を襲ってしまう事例もあるからね。確かボクも何時かのミネルヴァの泉で論文書いてたはず。でもそんな中でアリーシャさんは動物や竜だけ殺すに留めているんだ。しかも家畜には被害を出さないようにしてるし、従者の仕事に影響が出ないようにしてた。並大抵の精神力じゃ出来ないよ」
フィアから説明されれば、セルマは自分の認識が正しくなかったことに気付きアリーシャの方を見る。そのアリーシャはというと嬉しいような悲しいような困惑した表情をしていた。彼女も暴れていた原因が実は解明されていたことを知らなかったようで、そのうえで褒められたことで難しい表情になっていた。
「とりあえず、アリーシャさんもお色直ししておくかい?それともボクみたいな格好にされてみるかい?」
「・・・・・今はまだ、お嬢様の従者なので」
「でもさアリーシャ。セルマと一緒にオフの時間は作るべきだよ。オフだからこそ話せることもいっぱいあるでしょ?」
「・・・・・善処します」
フィアは魔術で汚れを取り出してそのまま排水へと流すことでアリーシャの服は綺麗になった。そうしてセルマはフィアに、アリーシャはフェルに背中を押されて接近し、拙いながらも話し始めた。
「アリーシャ」
「はい、お嬢様。何なりとお申し付け下さい」
「・・・・・じゃあ、私やフェル達以外には仕えないで。傍に居て欲しいの」
「・・・・・良いのですか?今私が悦に浸りながら話した内容をお聞きしましたよね?」
「聞いた、けどそれがどうしたの?」
「え」
アリーシャは、従者として失格なことをしてきたのだから罰して欲しいと願っていたが、その思考はセルマに一蹴された。
「今の話を聞いても、私の従者はアリーシャしか考えられないの。アリーシャがここに来たのは、最初は下心とかあったかもしれない。でも真面目に勉強して仕事もこなすところを私は見てきたの。力のことだってもしかしたら殺人もしていたかもしれないのに竜を狩るぐらいで済ませていたし、人的被害は出ていないし従者の仕事に持ち出してこなかった。多分衝動的なもののはずなのに、その苦労は私や他の人には見せなかった。それだけで私の従者はアリーシャで良かったって思うの。今回アリーシャの深いところを知ったから、もっともっとアリーシャのことを教えて欲しいの。ダメ?」
「お嬢様・・・・・・」
「それとも、アリーシャは私の従者で居たくないの?」
「それは・・・・・」
実際のところ、アリーシャとしてはセルマの従者として居られるならそれが一番ではある。だがあの話をしてしまったがために及び腰になっていた。みっともない姿まで晒してしまったからいたたまれなくなっていた。
「アリーシャ、さっき言ってた『何なりと』は何でも良いの?」
「・・・・・はい」
「じゃあ私を裏切った罰として、アリーシャの素を私に教えるのと、アリーシャは私に一生仕えること。分かった?」
「・・・・・分かりました」
根負けしたのかアリーシャが項垂れるように頭を下げる。そうして目線が下がった先にあるのは、アリーシャとフェルが恋人繋ぎしている手だった。ハッとしてセルマを見るとニコニコしていた。目が笑っていない。
「あ、セルマ。これ誤解しないで欲しいんだけど、アリーシャが逃げ出しそうな雰囲気だったから」
「いえ、これは・・・・・私が、繋ぎました・・・・・・」
お互いがお互いを庇うような言葉が出てきてしまった。それを見てフィアが噴き出したが笑うのは必死に堪えている。セルマの口角はつり上がった。
「私より先に深ーいところまで仲良くなったのかな?」
「こ、これは、その・・・・・あの、フェル、離してもらえると・・・・・」
「離した瞬間ダッシュで逃げそうだからねぇ。あと一目惚れみたいなこと言われたし、独占したいーなんて言われちゃったからねぇ。そりゃ離すはずも無いでしょ?」
「あう」
まさかのアリーシャの口からセルマのような鳴き声が出てきた。そんなのが出てくると思ってなかったフェルは思わず噴き出してしまった。
「アリーシャも、なの?」
「・・・・・・・はい」
「そうなんだ。分かった」
観念したようにアリーシャが頷くと、セルマの目も柔らかくなった。なんというか慈母のような微笑みへと変わった。
「じゃあアリーシャ」
「・・・・・はい」
「私はフェル達に一生を捧げるって誓ったから、アリーシャもそうしてみる?」
「・・・・・・・」
顔を真っ赤にして、アリーシャはコクンと頷いた。それを見たセルマもフェル達も顔が赤くなった。
「良いのそれ?私としては心配してたアリーシャのその後が安泰になるから良いんだけど」
「私がフェル達3人のこと好きになってるから、独り占めは良くないかなって・・・・・」
「まぁセルマが良いなら私達も構いませんよ」
「というよりボクとしては、今の発言は多妻してもいいって聞こえるんだけど?」
「私の方が多夫してるし・・・・・」
「あ、私達は敷かれる方なんですね」
「そ、それは、その、私が敷かれたいというか・・・・・」
「アリーシャはそれで大丈夫?」
色々とセルマの欲望が漏れ出ていた。彼女としては幸福のお裾分けをしたいと思っているのだろう。自分だけではなく、他の人にも幸せになって欲しい。そんな気持ちなのだろう。
「私は構いません」
「セルマの従者としてじゃなくて、アリーシャとしてはどうなのさ」
「問題ありません」
「敬語使わなくていいって言ったのに・・・・。まぁいいや。ちなみにアリーシャは、フィアとかティナにはどう思ってるのさ」
「好きです」
「直球だねぇ。でもその感じだと」
「はい。今は、フェルが1番です」
「面と向かって言われると恥ずかしいねぇ。まぁ、その辺りは時間かけてフィアもティナも好きになっていったら良いんじゃないかな?」
「・・・・そのつもりです」
「では、一件落着ということで」
多分逃げないだろうと思ってフェルは手を離した。案の定アリーシャは隣に立ったままだった。そんな時、扉からノックの音が聞こえる。
「お嬢様方、準備の方はよろしいでしょうか?」
「大丈夫、だよね?」
「問題ないです」
ティナが皆を見渡して頷いたのを見て、代表として答える。
「分かりました。では、こちらへ」
そうして扉が開けられ、セルマはティナとフィアに挟まれて手を繋ぎ、フェルはその背後から、殿はアリーシャとなって長い廊下を歩く。セルマの表情は幸せそのものだった。
多分次で本編開始になるかなー?