サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女と三賢者   作:イェーレミー

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多分蛇足多いけど、なんか書けちゃいました


第13話〜 ────秘密

「私、ティナのこと、好きになっちゃった・・・・」

 

そう告白したラナはみるみるうちに顔を真っ赤にして、涙目になった。

 

「ラナ、それは・・・・」

「・・・・分かってるわ。ティナはセルマの婚約者、だもの。けど、今日のことがあって惚れ込んでしまったの・・・・」

 

そのまま、大粒の涙を流し始めるラナ。ティナは安心させようとラナの左手を両手で包み込む。

 

「少し言いにくいのですが・・・・・・、それは勘違いの可能性があります」

「言いにくい、って言いながら言ってるじゃない・・・・」

「そう、ですね。まだ研究途中で理論とかも不完全ではあるのですが・・・・・、恐怖としてのドキドキを恋心としてのドキドキと錯覚するみたいなんですよね。なので────」

 

努めて冷静に今まで見た人の傾向を口にしたティナだったが、ラナがキッと涙目で睨みつけられては何も言えなくなった。

 

「勘違いでも、勘違いでもいいのっ!ティナはセルマの婚約者だから叶わないっていうのも分かってるわよ!分かってるけど、それでも、好きになっちゃったのよ・・・・・」

 

ラナはそのままティナに抱きつき声を上げながら泣き喚いた。口を一文字に結んで見ていたティナは、呆れたようにため息をつく。

 

「仕方ないですね。ラナ、顔を上げてください」

「なに、よ」

 

ラナが顔を上げた瞬間、ティナは手をラナの頭に固定すると顔を密着させ唇同士を深く触れ合わせた。ラナが弱々しくティナを押して離れようとするが、ティナの抱きしめる力が強くなすがままに口付けされることになった。

たっぷり10分後にようやく解放してもらえたラナは、涙で目を腫らしながら蕩けた顔を真っ赤にして肩で息をしていた。

 

「何を、するの、よ・・・・・」

「何ってキスですが」

 

ストレートな物言いに感覚を思い出してラナは耳まで赤くなる。何度でも欲しいと一瞬考えてしまい、忘れようとして頭をブンブン横に振る。

 

「あ、あなたねぇ!今の、浮気とかそういう風に捉えられても仕方ないわよ!?二股とか言われるわよ!?」

「・・・・・別に構いませんよ。セルマは三股ですし彼女としては許すみたいですからね。それに、この国の法の一部は無視できますから」

「何を・・・・」

「先程言っていた私の『秘密』ですよ。正直、今明かすつもりはありませんでしたが・・・・、ラナが悲しむ事になるのなら開示した方が良いかと思いまして」

 

ラナはティナが覚悟を決めた途端、なんだか彼女の雰囲気が変わった気がした。同じような年齢の容姿でありながら、纏う雰囲気は長年生きてきたような・・・・・・

 

「ところでですが、この服装を見て、なにか気付くことはありますか?」

「何も、ないわね・・・・。少し古い流行のような気がするぐらいかしら」

「分かりました。ではラナ。この懐中時計に見覚えはありますか?」

 

そう言ってティナはラナに自分の持つ懐中時計を手渡す。外蓋を見た瞬間、その顔は驚愕に彩られた。

 

「こ、これは、世界に100個しかないっていう、三賢者モデルの懐中時計じゃない!」

「ご存知でしたか」

「1回だけしか見た事ないけれど、精巧かつ緻密で芸術作品のような時計とシンプルな内装、使い込めば使い込むほど味が出る真鍮製の外装で出来ていて、それから─────」

 

三賢者モデルの懐中時計は、リディル王国が建国されて100周年のタイミングで販売されたと言われている伝説級の懐中時計だ。当時は熱狂的なファンが多かったこともあり、世代を超えて使えるようにと専門の職人が一つ一つ丁寧に手作業で作り上げており、市場に出ること自体珍しいが出ると貴族が持つお金を全額はたいて買えるかどうかという超が幾つも付くような最高級品である。

そんな懐中時計を1度だけ見た事あるとのことで饒舌に解説するラナの口が不自然なところで止まった。よく見なくても外装の素材が異なるからだ。真鍮は少しだけ赤みを帯びた金色だが、ティナが持っているこの懐中時計は柔らかな金色を帯びた白銀色。この輝きを持つ金属は1つしかない。

 

「ぷ、白金(プラチナ)・・・・!?」

「どうかされましたか?」

 

慌ててラナは懐中時計を開く。中の金属もほぼ全てが白金でできており、時計部分は中の歯車が見えやすく文字盤は必要最低限。そして外蓋の内側にはこう彫られていた。

 

───リディル王国初代国王ラルフより、ティナ・ソフィーティアにこの懐中時計を贈る。

この者は三賢者が一人であることをリディル王国が保証する────

 

「・・・・・・・え・・・・・・?」

 

白金は加工難度が高く専用の職人でないと彫れないという知識が頭の片隅から飛び去っていった。彫られている文字が理解不能だったからだ。だが何度読み返そうとも、目を拭っても、彫られた文字を手で擦っても、そこにある文字は変わることがない。

 

「さて。では改めて自己紹介でもしておきましょうか」

 

ラナの目の前からそんな声が響く。ティナはラナに薄く微笑みかけ、ラナは呆然とした表情を返す。

 

「私はティナ・ソフィーティア。その懐中時計に書かれている通り、リディル王国の三賢者をやらせてもらっています。二つ名は・・・・・、有名なものから無名なものまで色々ありますが、いちばん有名なものとしては〈静寂の魔女〉ですかね」

 

────────────────────────

 

〈静寂の魔女〉。三賢者における「知識」担当。「戦闘」担当の〈紅姫〉や「教導」担当の〈氷獄の魔女〉と比べると大人しいが、あくまで三賢者の中ではという注意書きが付く。知識の豊富さは〈氷獄の魔女〉を超え、その未来視にも似た知見を活かし国王ラルフや多くの人々を救いリディル王国の発展に貢献。後年はリディル王国のご意見番として活躍し〈紅姫〉や〈氷獄の魔女〉らと共に三賢者の称号を賜る。

なお、三賢者は魔術とは異なる能力を複数持っており、〈静寂の魔女〉は創造と破壊を司る。魔術での攻撃を無効化するばかりか相手の武装の強制解除、無から有を生み出し有を無に帰す。

〈静寂の魔女〉の異名は大人しいからではなく、戦法が暗殺向きだったのと、敵を静かにさせるというダブルミーニングである。

 

というのが書かれていた三賢者の冒険(ワンダー・オブ・トリスメギストス)の一節を思い出してはいたのだが、ラナの思考の許容量を大幅に超えてしまっていたために微塵も動くことができなかった。もちろん、反応も。

 

「えっと・・・・、流石に反応がないと困りますね・・・・・」

 

苦笑して頬をかくティナのその一言に正気を取り戻したラナは、椅子から飛び退・・・・くことはできなかった。いつの間にかラナの背後に壁があったからだ。

 

「え、えぇっ!?」

「逃げそうだったので、壁を置いておきました」

「目が怖い・・・・・です。ティナ・・・・・様」

 

まだ完全には紐付け出来てないからか、取って付けたような敬語なラナ。それを聞いてティナは破顔した。

 

「別に敬語は要らないですよ。昔取った杵柄ですし、それに・・・・・、私とラナの関係ですからね」

「でも・・・・」

「もしそれでも敬語を使うようであれば・・・・・」

 

そこで一区切りを付けると、ティナは口元を少し淫らに歪める。

 

「その瞬間キスして分からせますので。何時でもどこでもどんなシーンでも、です」

「や、やめなさいよっ!?」

「ラナが敬語を私に使わなければ、キスは求められないとしませんよ」

「あぁぁぁぁぁもうっ!わかった!わかったわよ!いつも通りにすれば良いんでしょう!?」

「はい。ご褒美としてキス・・・・・は罰と同じなので味気ないでしょうか?」

「どっちでもいいわよ・・・・・」

 

疲れ果てたラナはフラフラと背もたれに身体を預け、そのままずり落ちるようにティナの身体にダイブした。ちょうどティナの胸元にラナの頭が突っ込んだため、大慌てで身体を起こそうとするもティナに抱きしめられラナは諦めて脱力した。

 

「これで分かったでしょうか。リディル王国の法の一部なら無視できる、というのは」

「・・・・・そうね。多大な貢献をしたからいくつかなら無法しても良い、というのは噂で聞いたことあったのだけれど、本当の話だったのね・・・・」

「なのでこの権限を使えば、ラナとも婚約者になれますね」

「・・・・セルマには話してない、のよね」

「まだ、ですね。カーシュ卿には話しましたが」

 

するとラナを抱きしめるティナの力がほんの僅かに強まる。ラナには力を行使せざるを得ない状況になってしまったから正体を明かしたが、学園での様子を見ていると正体を明かすことで関係に亀裂が入ってしまうことを恐れているのだろう。三賢者と持て囃されても彼女も一人の人間なのだ。辛いことは辛いし悲しい時は悲しむのだ。

 

「話せるようになれればいいわね」

「・・・・そうですね。それまではラナとの関係も隠して行かないとですね」

「・・・・わたしはティナの正体は公表しないけれど関係は公開するし、仲の良さは見せつけていくつもりよ。何せこんなに美味しい場所にいるのだもの。使わない手はないわ」

「商魂たくましいですね」

「わたしもセルマと仲良くしたいもの」

 

そこで一区切り置いて、ラナはモゾモゾと頭を動かしてティナと目を合わせた。

 

「それで、フェルにはこのことを言わなくてもいいのかしら?」

「フェル?どうして彼女の名前が出てくるのでしょうか?」

「え、だって。フェルも三賢者なのよね」

「フェルも三賢者?話がよく見えません」

 

するとラナは自慢げな顔になり、攻守逆転と言いたげにティナを攻め始めた。

 

「ソフィーティア、なんて苗字まで刻印されてたもの。探してすぐ見つかるような家名じゃないわ。それにティナはフェルとは姉妹だって言ってたじゃない。こうなってくると本当に姉妹なのか怪しくなってくるけどね」

「ふひゅー、ふひゅー」

 

ティナの反応は爆笑ものだった。何せ目線をずらし汗をダラダラとかいて、口笛を吹こうとして吹けていなかったからだ。こんなのであれば、誰がどう見ても結論付けられる。

 

「はぁ・・・・・、フェルにも秘密にしておいて下さい。反応を見られてすぐにバレそうな気もしますが」

「・・・・ってことはつまり」

「その通りですよ。まさか苗字から連想して勘付かれるとは。まだまだ色々と詰めが甘いですね」

 

頭に手を当てるティナ。それに対して拘束が緩んだラナはさらにティナに密着しにかかった。

 

「どうされましたか?」

「・・・・・ティナとこうしていると、安心するのよ。さっき助けてくれたお礼と思えばいいと思うわ」

「本当にそうですか?先程のキスの感触がまた欲しくなってきたとかでは?」

「うっ・・・・、それもあるけれど、本当に安心するのよ・・・・」

「そうなんですね。では趣向を変えて、こういうのはいかがでしょうか?」

 

途端、ティナとラナの身体が宙に浮いた。ラナがじたばたと藻掻こうとして、ティナが薄く微笑みかけていた。つまりこれは。

 

「あの本に書かれていた、魔術や魔法とはまた別の・・・・・?」

「そうなりますね。私の場合は確か創造と破壊とか書かれていたかと思います」

「そうね。そう書かれていたわ」

「他にもある、ということです。創造と破壊に関しては先程撃退した時にも見せましたが、これですね」

 

そうしてティナが手をかざすと、あの時虚空から現れた剣が出現、いや生成された。

 

「さっきの剣・・・・ね」

「長い間使い続けて、その度に私専用に調整している物ですからね。その日の湿度等によっても変わってきますし」

「武器のことは分からないけれど、確かに布地も湿気で肌触りが変わったりするものね」

「大体そんな感じです。持ってみますか?」

「・・・・いいかしら」

 

そうして持っている剣を手渡しするのかと思えば、同じものをラナの目の前に生成した。色々と起こりすぎて逆に驚かなくなってきたラナは、ジト目でティナを見る。

 

「・・・・・てっきりそれを渡すと思ってたのだけれど?」

「素材は周囲にいくらでも存在しますから。作り慣れてるのもあるので全て同じに作るのも・・・・・・、あぁ手渡しの特別感が欲しかったのでしょうか?」

「う、うるさいわねっ」

 

剣は片刃で軽量。レイピアのような刺突用ではなく、斬る為の物。それも騎士達が使うような重さで圧し折る物ではなくちゃんと刃先で柔らかい部分を斬る、理論的には芸術品とまで言われた極東の『カタナ』に似ているか。形自体が芸術作品のような見た目をしているが、装飾やエングレーブは一切無い。ただただ道具として最適化された完成品。他人が使う想定も無い為にティナ専用の武器としてのみ機能するように設計されたデザイン。

と、ここでラナは何かが引っかかった。違和感と言い換えてもいい。

 

「これ、グリップが無いわね」

「先程見せたような投射用ですからね。持つ必要自体がないので排除しました。グリップのあるパターンはこんな感じです。・・・・・可愛らしくないでしょう?」

「機能美に溢れてて綺麗なのよ。・・・・・ティナにはティナの剣、という考えはもしかしたら他の事に活かせるわね」

「少数にはなると思いますが、七賢人の杖と同じ考えと同じではないでしょうか。七賢人一人一人に合った杖の材質や使う宝石などが違っているのと同じかと」

「・・・・私ね、セレンディア学園を卒業したら自分だけのお店を持とうと思っているのよ」

 

ラナが将来の夢を静かに語り始めた。ティナは邪魔しないように清聴する。剣は邪魔だと思って空気に戻しておいた。

 

「唐突ですね」

「ティナの話のスケールの方が大きすぎるのよ。・・・・・私もお父様のような商人になりたい、って気持ちはあるけれど、お父様が大成功したせいで大きく見られやすいのよ」

「あのコレット男爵の娘だから過大評価されやすい、というやつですね」

「そうなのよ。だからお父様とは違う方向で、というふうに考えてたのよ。そのヒントが、ティナのおかげで見つかったかもしれないわ」

 

ふふん、と得意げになるラナに対してティナはというと。

 

「ただ、時間があるのでしたらコレット男爵の商売の仕方を必ず調べてください」

「なんでよ。そんなの調べなくても」

「調べてください。必ず、です」

「・・・・なんでよ」

 

ラナの発言に被せるようにしてまでティナが主張する。発言の意図が分からないラナは、真面目な顔をするティナに疑問符を浮かべる。

 

「まず商売において必要なものは何か分かりますか?」

「その程度もちろん知っているわ。商材よ」

「違います。信頼です」

「・・・・信頼?」

 

ティナからキッパリ違うと言われてジト目になるラナ。対してティナは一つ一つ説明していく。

 

「例えばそうですね。ある人に依頼された商品を別の人に『依頼された時より高く買う』と言われて売却したらどうなりますか?」

「依頼した人に怒られるわね」

「怒られる、で済むなら優しいですよ。依頼した人からしてみれば『自分が頼んだ物を別の人に売られた』となりますからね。そうなると、同じことが知り合いに起こることを危惧して情報共有します。『この間買おうとしてた店は他人に売るから危険だ』と」

「・・・・・・・確かにそうなるわね」

「噂には尾ひれが付き物です。他人に伝言していくにつれ、情報がどんどんねじ曲がっていきます。例えば『この店は他人より高い金を出さなければ売ってくれない』とかですね。そうなると買い手は常に『自分より高い金を出されれば、売ってもらえない』という考えになりますよね。そんなお店で物を買いたいと思いますか?」

「思わないわね。けれど、そのこととお父様を調べることに何の関連性があるのかしら」

「コレット男爵は一代でその地位に昇り詰めたのですよね。しかも商売で。となると最初はその信頼が全く無かったはずです。何せ商売などコレット家でしたことがなかったのですから」

「あっ・・・・、確かにそうね。家で誰もしたことが無い商売を一から、いえゼロから始めたってことになるわ」

 

ティナの解説が分かってきたのか、しきりに頷くラナ。そんなラナにしたり顔で頷くティナ。

 

「であれば、最初の信頼の得方であったり初めに起こるであろう注意事項などのノウハウは、当然コレット男爵が知っていますよね?」

「それでお父様を調べる事に繋がるのね。そういった知識を持っているかいないかでは雲泥の差だもの」

「本来であればこういった知識は専門の学校であったり自分の身で実際に苦渋を味わって学ぶものですが・・・・、ラナにはコレット男爵という素晴らしい教材がありますから。先程は『調べる』などという言葉を使いましたが、それこそコレット男爵に直接訊ねる方が良いでしょうね。誘拐された時に破産も覚悟するほどラナのことを愛していますし、コレット男爵のノウハウをラナに教えてもらえるかと」

「そういうことだったのね・・・・・」

 

話に一区切りがつきお互い無言で見つめ合う。ティナの力のせいで、天井を床のように使いながらではあるが逆さまであるが故の気持ち悪さなどは何一つ感じなかった。

 

「ねぇ」

「なんでしょうか?」

「今のこの状態なのだけれど、ティナのその力ってもしかして・・・・」

「創造と破壊以外だと重力ですね。対象の重力を自由自在にできます。今はラナと私の重力を逆方向にしているので、天井付近でこうして漂っていますね。もし天井が抜けてしまうと空に落ちる事に・・・・怯えないでください。嘘ですよ」

 

三賢者、というのは七賢人よりも人外であるという言葉をラナは何処かで聞いたことがあったのだが、万有引力を操るなど間違いでもないことが分かって少し複雑な気持ちになってしまった。そんなラナを知ってか知らずか、ティナはラナを引き寄せ抱きしめる。

 

「ティ、ティナ?」

「ラナ。少し夜風を浴びながら散歩しましょうか」

 

そう言うとそのままラナを連れて窓から外に出る。さっき嘘だと言っていたがそのまま外に出ると永遠に空に落ち続けるのではないか、そう思ってラナは身体を強ばらせ

 

「この辺りなら良さそうですね」

 

それが杞憂だった事に安堵して、別のことで強ばらせた。

足元は何もない空中。その先を見ると美しい夜景が広がり、豆粒以下の点が所狭しと蠢いている。それが人間だということに気がつくと今いる高さが少し怖くなった。だがいつの間にかお姫様抱っこされて身動き自体が取れなくなっていた。

 

「ち、ちょっとティナ!?」

「この方が安定するかと思いまして」

「そ、それよりも、よ!空中に立ってるわよ!?」

 

ティナの足元はどう見ても空中のはずなのに、しっかりとそこに立っていた。混乱するラナをよそに、ティナは少し顔が綻ぶ。

 

「先程の重力との合わせ技ですよ。透明な床を創造して、床が固定されるように重力を調整して浮かせています」

「・・・・私も、立てるのかしら?」

「立ってみますか?」

 

恐る恐るティナに降ろしてもらうと、そこにはティナが言っていた通り透明なガラスの上に立ったような硬い感触が足に伝わる。

 

「ほ、本当に床があるのね」

「怖いのであれば私に捕まっていてくださいね」

「い、今のところはだ、大丈夫、よ」

「強がらなくても大丈夫ですよ。ここにはラナと私しか居ませんから」

 

そう言われると少しずつ怖いという気持ちが膨れてきて、思わずティナに捕まる力が強まってしまうラナ。

 

「・・・・・・・・て、手を、繋いで貰えないかしら」

「お安い御用ですよ。お姫様」

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!そ、そのお姫様呼びはっ」

「嫌なら止めますよ?」

 

昔フェルに「もし好きな子ができて、その子を落とそうとするなら弱点を攻撃してあげるのがいいよ。その子の反応を見て恥ずかしくなってたら弱点だから」とアドバイス?を受けていたのを思い出し、長年の経験などからラナにあった言葉を発したところ、彼女は声にならない嬌声をあげてぷるぷると震え出した。流石にやりすぎたかとフォローの言葉を投げかけると、意外なのが返ってきた。

 

「ふ、2人きりの時にだけに、して欲しいわ・・・・・・」

「・・・・・今なら2人きりですね?」

「・・・・・・・そうね」

 

墓穴を掘ったことを自覚したラナは顔を真っ赤にする。ぎゅっとティナにしがみついているせいで潤んだ目も沸騰したような顔も隠せずティナに晒してしまった。恥ずかしすぎて穴があったら入ってそのまま埋まりたいとまで思っていた。

 

「別にお姫様でもお嬢様でも、どう呼ばれたいか言ってもらえれば、そのように呼びますので」

「・・・・・ご主人様とかでもかしら?」

「・・・・・呼ばせたいんですか?」

 

ジト目になってラナを見ると目を合わせなくなり、最終的にティナの胸で顔を隠した。

 

「・・・・・。いつのまにか立場逆転してそうだからやめておくわ」

「賢明ですね」

「ちょっと!そこは否定しなさいよ!」

「・・・・今もそうですが、甘えてくる人にそう言われても否定のしようがないですね」

 

そしてティナはラナの髪を優しく撫で、ラナもラナで嬉しそうな音を出す。ハッとしたラナが挙動不審になり、だが髪を撫でられている気持ちよさに身を委ねてしまった。

 

「今のラナはまるで猫みたいですね」

「喉を鳴らせば満足かしら?」

 

ムスッとしてラナがぷいっと眼下に広がる光景を見て、ティナから目を逸らす。だがティナは見逃さなかった。だからその顔を見るために密着している身体を少し離してラナの顔を覗き込む。

 

「み、見ないでよっ」

「・・・・その衣装でその顔はすごく魅力的なんですが。その自覚はありますか?」

「ティナっ!?それは・・・・・っ」

 

慌てて抱きしめていた両手を離して顔に当てて隠そうとするラナ。だが隠す寸前にティナは見た。見てしまった。顔を赤らめ、口角が上がりっぱなしで、愉悦に満ちたラナの表情を。指の隙間から恍惚とした目がティナを見ており、三日月のような口元が手からはみ出てしまっている。赤黒いの振袖の特徴的な大きい袖口が愉悦顔と相まって蠱惑的に見えた。

 

「て、ティナが悪いのよっ!三賢者だからってそんな甘い提案を・・・・っ」

「ですがこうするしかないのも事実ですからね。ラナは・・・・・、嫌ですか?」

「い、嫌なわけ・・・・、ないわよ・・・・」

「それならそれで良いじゃないですか。それとも、何か不満なところでも?」

「それは・・・・・っ」

「私はですね」

 

ここまで強情だと思ってなかったらしいティナは、やれやれといった具合に首を振ると顔を隠すラナの手を無理矢理剥がして指を絡ませた。恍惚と狂気が淫靡に混ざりあった表情で涙を浮かべるラナの顔がむき出しになった。

 

「セルマのことが好きです。それはもう毎日毎日愛の言葉を囁いて、おはようからおやすみまで一緒に居たいのですが・・・・。同じことをラナにもしたいんですよね」

「へっ!?」

「つまりですね。ラナの事もセルマと同じだけ好きになりました。所謂両想い、というやつですね」

「ず、ズルい、わよ。そんな事言うのは」

「えぇ。狡いのは理解しています。ですが私も目の前に好きな人がいて、その人が私を好いているというのならば。据え膳なのですから平らげねば女が廃るというものですよ」

 

理性が溶けそうになっているラナが何とかティナの顔を伺うと、いつものようにうっすらと微笑んでいるのが見えた。ただし頬が真っ赤になっているのが丸わかりなほど。

ブチン、とラナは理性の綱が引き千切れる音が聞こえた気がした。繋がった手を引きティナに近付き、先程のお返しだと言わんばかりに今度はラナの方からティナにキスを決めた。キスされたティナは少し含羞む。

 

「ラナ?」

「そんなこと言われてっ、我慢なんて出来るわけないじゃない!セルマに何言われても、私はどうしてもティナが好きなのよっ!」

「悪い女ですね?」

「悪くしたのはティナだから!責任取りなさいよ!」

「取るのは構いませんが・・・・・、ラナと半分こですね」

「あぁもうっ!どうしてそんな歯に浮くような言葉がどんどん出てくるのかしらね!?」

「年の功、というやつですよ」

 

ふふん、と自慢げになるティナに対してラナは更に耳まで赤くした。だが自分でも更につり上がっていく口角を抑えられなかった。

 

「〈静寂の魔女〉様」

「なんですか?ラナ」

「わ、私の、一生を捧げるので、〈静寂の魔女〉様の時間を・・・・んうっ!?」

 

ラナが言い切る前にティナは言葉が出てくる場所を口で塞いだ。されると思っていなかったのかラナは最後の言葉を飲み込むしかなく、ティナが顔を離した時には甘く惚けた表情になっていた。

 

「ラナ。先程も言いましたよね?私に敬語を使った場合、どんな時でもキスして口を塞ぐ、と」

「だ、だからって今のタイミングは・・・・」

「ええ。分かっていますよ。改まっての告白でしたね。私も我慢しようと思っていたのですが・・・・、そのフリソデドレスを着てからラナの魅力が爆上がりしていまして。その上ラナがキスして欲しそうな顔をしていたので、私も我慢が出来ませんでした」

「そ、そんな顔になってたのかしら?」

「なってましたよ。それとラナの告白ですが・・・・、セルマとの共有部分しか分けられませんよ?」

「構わないわ。私が無理を言う側だもの。泥棒猫と言われるのも覚悟の上よ」

「セルマとは喧嘩して欲しくないので、まぁそこは私が取り持とうと思いますが・・・・。ただ、ラナも説明はしてくださいね?」

「分かったわ」

 

ラナが頷いたのを見て、どちらからともなく顔を近付け唇を触れ合わせた。それだけじゃ足りなくてお互いに抱きしめて足を絡めて何度も啄むようにキスを繰り返す。夜風が浮かれた熱を気持ちよく冷ましてくれるから、お互いにもっともっとと求めてしまう。ラナが絡み合う足を動かそうとしてバランスを崩しても、スローモーションのようにゆっくりと空中の地面にキスしながら倒れ込む。それがティナが重力を操っているのだとラナが気付いた時にはラナは空中に寝転がっていて、ティナに押し倒されたような体勢になっていた。激しくキスをしているからなのか、それとも身体も心もポカポカし過ぎているのか、はたまた恥ずかしさのあまりに顔が熱を持ちすぎているのかは分からないがじんわりと汗の粒が浮かんできた。ラナの目に入らないようにティナが拭うと、ラナも同じように指で拭う。獣に身を堕とすまでには行かなくとも、お互いがお互いを欲しがり肩で息をしながら止められなくなり─────

 

ぎゅうううるるるるる

 

至近距離で大きな音が鳴った。まるで獣の咆哮のようなその音はラナの方から聞こえた。当のラナはというと、かぁっと顔を赤くした。先程までとはまた別種の赤くなった顔で恥ずかしそうに蚊の鳴くような声でティナに囁いた。

 

「お、お腹が、減っちゃったみたいなのよ」

 

そう言われて思い出す。そういえば食事の前に隣に座ったら告白されて、正体を明かしてそのまま上空に来たことを。つまり美味しそうな料理の数々に手を一切つけずにこんなくんずほぐれつをしていた、と。

 

「つ、続きはお部屋の中でしましょうか」

 

同じく恥ずかしくなったティナの言葉に、ラナは一も二もなく頷いた。

 

────────────────────────

 

先程風呂に入ったり今の服装に着替えたりした、レストラン内にある宿泊用の部屋に戻った時、ラナは薄く青い半球状の何かで料理が覆われていることに気付いた。

 

「これは・・・・・?」

「・・・・・・これは、大変なことになりましたね」

 

ティナが見つめる先には、その料理が置かれたテーブルの端に留まる青い小鳥が1羽。身体が透き通っていて綺麗ではあるが普通の生物ではないことはラナにも分かる。

 

「〈氷獄の魔女〉の使い魔ですよ。彼女からの伝言ですね」

「ひ、〈氷獄の魔女〉様!?ご存命だったの!?」

 

ラナが驚くのも無理はない。〈氷獄の魔女〉は十数年前に『三賢者の冒険』の最新刊を刊行した後、ぱったりと音沙汰が無くなったからだ。そのため『三賢者の冒険』の続刊も出なくなり、ただ人気はあったため増刷だけはされている状態だった。そんな音信不通な魔女からの便りだとティナが言ったため、一ファンであるラナは驚き、それと共にティナが本当に三賢者であるという実感もあり不思議な感覚になっていた。

 

「そ、それで伝言って?」

「すごく要約しますね。まず、〈氷獄の魔女〉はその料理の周りの時間を止めておいたらしく、私達の為に出来たてのままにしてくれたようです」

「それって・・・・、さっきのティナの重力みたいなものかしら?」

「そうですね。逆行や遡行は流石に不可能らしいですが、止めるぐらいなら朝飯前だと言ってましたね」

「普通は止めることすら出来ないわよ・・・・・」

 

がっくし、と肩を落とすラナ。そこまでの事が出来るとは思っていなかったらしい。

 

「・・・それで、まず、って言っていたけれど。まだあるのよね」

「それが厄介なことでして。先程のくんずほぐれつが2組に見られていました」

「へっ?」

 

頭の中で必死に理解しようと咀嚼して、分かった時にはラナの顔に火がついた。驚きのあまり固まってしまった。

 

「1人は〈氷獄の魔女〉本人ですね。祝電みたいなのを送ってきました」

「・・・・・ファンだから喜びたいところだけれど、見られていたというのはなんだか複雑な気持ちね・・・・」

「それでもう1組なのですが、ラナは〈砂糖の魔女〉をご存知ですか?」

「えっと、シュガーラッシュの店長だったかしら?」

「はい。合っています。彼女、氷魔術が得意なのですがそれをレンズみたいにして、フェルとセルマと一緒に上映会みたいにしていたそうです。〈氷獄の魔女〉がそれに気付いて何とか見えないようにはしたらしいのですが、上空で愛し合うシーンをがっつり見ていたらしいのです。フェルの実況付きで」

「・・・・・どこまで見られていたのかしら」

 

人間、驚きすぎると無感情になるとはいうが、実際になるとは思っていなかったラナは恥ずかしい気持ちを誤魔化そうと逸る気持ちを抑えて極めて冷静に尋ねた。

 

「ラナと私とでイチャイチャしていたところらしいですね。私が三賢者である、というのは傍受していた〈氷獄の魔女〉がバレないようにしたらしいです」

「向こうの反応はどうだったのかしら?」

「ラナの魅力にメロメロだったそうですよ。セルマが何度もラナのことを顔を赤くして眺めていたようです」

「・・・・・セルマと話し合いをしないといけないわよね」

「・・・・・そうですね。明日か明後日にはカーシュ家に向かわないといけないかもしれません」

 

少し重い空気が2人の間に流れる。ラナが諦めきれなかったのがそもそもの原因ではあるからだ。だがティナの特殊な身分と出来る権力があるから許された事象で、それを知らないセルマにとっては完全に浮気に見えるだろう。セルマに揶揄されるのも承知で至った訳だが改めて現実を突きつけられると辛いものがある。

 

「ラナ」

「な、何よ」

「セルマの性格からして、多分大丈夫ですよ」

「な、なんでそう言い切れるのよ」

「そもそも彼女、一目惚れしやすいタイプなので」

「わ、分からないじゃない!そんなの!」

「まぁそうですね。ですが、今は気にしないでください」

 

ティナが青い半球状の何かに触るとふわりと溶け、美味しそうな料理達の良い香りがラナの鼻腔をくすぐる。

 

「今は私と2人きりなのですから。余所見は厳禁ですよ?」

 

そんな風に囁かれてしまっては、ラナの理性は決壊するしか無かった。セルマへの説明も重要事項ではあるが、そんなことより今目の前の事の方が最優先になった。そして元々優先度の低かったモノはラナの頭の中から消えることとなった。といってもそんなに重要ではない事ばかりではあったため、消えたところで問題になることもなかった。今のラナはむしろティナからの寵愛を欲しがるワガママな悪い子であった。

 

「その言い方はズルいわ。そんなの、喜んで頷くぐらいしか出来なくなるじゃない」

「ラナが魅力的になるのがいけないんですよ」

「・・・・・ねぇ、本当にこのフリソデドレスに変なものを仕込んでたりしないでしょうね?」

「むしろ仕込む方が難しいですよ。何せ入れる部屋はある程度融通が利くといっても王族パワーには逆らえませんし。それに利用するのも数十年ぶりなのでどんな衣装があったかも忘れていましたね。あとは」

「わ、わかった、もういいわよ!」

 

そう言って恥ずかしいのを隠すために料理を食べようとして、ラナはティナが隣に座られて食事よりもティナが気になってしまった。

 

「セルマのことは明日や明後日に考えましょう。今は、私の事だけをですね」

「そ、そんな歯に浮くような言葉はどこで覚えたのかしらね!?」

「それはもちろん、年の功、というやつですよ。ほら、口を開けてください」

 

そのままティナが料理を食べさせに来たため、ラナは喜悦に満ちた表情で愛する人との食事を楽しむことになった。心做しかティナの表情も綻んでいるように見えた。

 

────────────────────────

 

「なんだか、ティナ無しの生活を思い浮かべるのが難しくなってきたわ。いっその事ティナの狂信者にでもなろうかしら?」

「狂信者までは行って欲しくないですね・・・・・。せめてそこは妻ぐらいまでに留めておいて欲しいものです」

「こういう風に愛を囁いてくるからティナに狂いたくなるのよ」

 

イチャイチャしながら食べさせあいっこをしながらの食事が終わり、2人は現在キングサイズベッドの上でほぼ密着しながら見つめ合いながらのピロートーク中だった。服装はそのままなのでドレスが重なり合いながら、腕や脚がほんのり触れ合いながらお互いの息がかかる近さで見つめあっていた。

 

「そういえばなのですが」

「何よ」

「泣かなくてもいいのですか?」

 

言われるまで忘却の彼方に飛んでいってたがそういえばラナは男どもに誘拐され、その恐怖が残っていたことを思い出した。ただ、そんなことは正直なところティナからの愛で簡単に吹き飛んでしまうような些細な問題でもあり。

 

「・・・・・どうされました?」

「ねぇティナ」

「はい。何でしょうか?」

「あの恐怖を忘れるぐらい、ティナで染めあげてくれないかしら」

 

涙で潤みながらも、ちゃんと意志のある目でティナを見る。ティナはその目を受けてラナの額に口付けをする。

 

「それはつまり、私に身を委ねるということですかる」

「そう捉えてもらってもかまわないわ。ティナのことが好きなのはどうしようもない事実なんだから」

「どういうのがいいですか?」

「全部ティナにお任せするわ」

「最悪壊れますよ?」

「人形になるのは少し抵抗があるけれど、それはそれで楽しみよ。それに、ティナはそんなことしないと思うもの」

 

覚悟が決まりすぎているラナの瞳を覗き込んでティナは息を呑む。へにゃっと蕩けた笑顔なのに、目の奥には狂気と欲望が渦巻いていた。それこそ、ティナのためなら何だってしそうな危険性も含めて。

 

「私としては段階を踏みたいんですけどね?セルマに嫉妬されそうですし」

「・・・・確かにそれもそうね」

「いっその事、多重結婚してみませんか?」

「・・・・どういうことよ」

「今だと私とセルマが婚約しているじゃないですか。それでラナと私が両想いになってるので、三角関係のようになってますよね」

「そうね」

「その関係になっている人達全員と結婚すれば解決しませんか?」

 

あまりにも力技すぎる解決方法にラナの目が点になる。

 

「私がセルマとも結婚する、ということかしら?」

「フェルやフィア・・・・・〈砂糖の魔女〉ともですね」

「待ちなさい」

 

一瞬で情報が洪水のように降ってきたラナは頭を抱えようとしてティナの手に触れ、そのまま恋人繋ぎにした。

 

「フィア・グレイスさん、だったわよね。ティナやフェルとの関係はどうなってるのよ」

「幼馴染、ということにしています。彼女を私とフェルとで助けたことがありまして。三賢者であることを隠してもらう代わりに幼馴染ということになりました。親が居ない状態で姉妹だと怪しまれてしまうのでこうなりましたね」

「長い間生きてきたことの弊害、ってことかしら」

「その通りです。隠居するのも大変なんですよ。同じ場所で隠居していたら幽霊扱いされますし、だからといって転々としていると今度は目撃情報が増えますから。出来るだけ七賢人と同じく襲名制だと認識させないといけなかったので」

 

とりあえずフェルとティナが〈砂糖の魔女〉と親密な関係なのは分かった。だが問題はセルマと〈砂糖の魔女〉との関係である。

 

「セルマとフィアに関しては、私達がセルマの家に行く前にシュガーラッシュに行って会わせた、のですが」

「何よ」

「セルマが〈砂糖の魔女〉の大ファンだったらしく、その場で告白までしまして・・・・」

「それは、もちろんフェルやティナが見ている中で、よね?」

「ええ。目の前で行われてまして、フィアの方もあっさり承諾した上セルマがフィアの弟子になりましたね」

「・・・・・だから、かしら?私もその輪の中に入れそうなのは」

「ですね。そのこともあって、セルマも『フェル達のことを好きになった人と会ってお話すれば婚約者として認める』方針になりました。本人が三股かけている訳ですからね」

「・・・・提案したのは誰なのよ」

「他ならぬセルマ本人ですよ。そもそも私とフェルの二股かける時に宣言してたことなので」

「・・・・・確かに」

 

そうなると、ラナとティナのカップリングが成立しやすいということになり。それはそれでラナの顔が熱くなっていく。

 

「〈氷獄の魔女〉が報告していたように、もしかするとラナもセルマから告白されるかもしれませんね?」

「ど、どうしてそうなるのよ!」

「何せ今のラナを見て恋する乙女のようになっていたらしいので」

「・・・・・私とセルマは席が近くてたまに話をする程度の仲だったのよ?」

「それならこれからは親密になれると考えればいいのではないでしょうか?」

「そう簡単に言わないでよ・・・・」

 

ムスッと不満げになるラナに対して、ティナは文句を垂れる口を塞ぐ。

 

「では夜の課題としては、ラナが良い方向に考えるように躾けていきましょうか」

「ち、ちょっと!?そんな小っ恥ずかしいこと言わないでよ!?」

「大丈夫ですよ。まだまだ夜は始まったばかりですから」

「聞いてないわね!?」

 

だけどもラナはどうしようもなくティナのことが好きなので、驚く声をあげるも表情は正直にニヤけるのを抑えられない。ティナに何をされるのか気になって喜んでいるのだった。

 

「ラナ。好きですよ」

「そんなこと言われたら、色んな気持ちが抑えられなくなっちゃうじゃないっ」

 

ベッドの上の二つの影は、どちらからともなくモゾモゾと動き、お互いの服が重なりあい、そして────

 

────────────────────────

 

朝。外で小鳥が囀っているのが聞こえて、緩やかにラナの意識が浮かび上がってくる。寝ぼけ眼で隣を見ると、至近距離でガン見するティナの目と合う。意識が急激に覚醒することもなく、そのままキスをした。

 

「おはようのキス、ですか?」

「もうっ、あんなことされればキスしたくもなるわよ。おはよう、ティナ」

「えぇ、おはようございます。ラナ。可愛い寝言が聞けて、私も大満足です」

「な、何を言ってたのかしら!?」

 

冷や水をかけられたように意識が覚め、ラナは恥ずかしくて枕を抱きしめて口元を隠す。・・・・目が幸福でいっぱいなのは隠せていないが。

 

「『〈静寂の魔女〉様のこと、本で読んだ時からお慕いしておりました』でしたね」

「ンン〜〜〜〜ッ!!」

 

枕で何とか悲鳴をあげることには成功していたが、悲鳴を出し終わったあとに枕を落として幸せそうな笑みを見せびらかすラナ。

 

「そう、なのよ。三賢者の冒険を見たり読み聞かされたりしていて、〈静寂の魔女〉様が好きだって自覚して・・・・・」

「そうしたら私が本人だと宣言されて証拠も出されて、好きが限界突破したんですか?」

「その通りよ!悪いかしら!?」

 

逆ギレしているような口調だが幸せそうなウットリとした表情なので説得力が皆無である。そんな状態で姿勢を正してベッドの上に座るラナ。

 

「改めて宣言させてくれないかしら。〈静寂の魔女〉様」

「構いませんよ」

「私、ラナ・コレットはお慕いしていた〈静寂の魔女〉様によって命を助けられました。なので私のこの命を〈静寂の魔女〉様のお好きに使ってください」

「・・・・分かりました。ではラナの命が尽きるまで、貴女は私の妻です。それ以外はラナの好きなことをして構いません。いいですね?」

「あ、ありがたき幸せを、ありがとうございます・・・・っ」

「ではそれはそれとして。敬語を使ったので可愛がりますね」

 

その言葉にラナは耳を疑う。思いっきりこれから襲うのだと宣言されたのだ。丁寧に言ったのが何故かティナには不服だったらしい。

 

「待ちなさいよっ!?」

「どうしてですか?」

「私は形式上丁寧に言っただけよ!?それともティナは、王様とかと会話する時も敬語ではないのかしら!?」

「普通にタメ口ですね。何せ年下なので」

「じゃ、じゃあ〈静寂の魔女〉様、として公の場に立って説明する場合はどうかしら!?」

「その場合は流石に、丁寧な言い方になりますね」

「そういう感じで丁寧に言ったら襲うって言われたのよ!?」

「ですがそれはラナが扇情的だからいけないのですよ。それに今も私を襲おうとしているので、襲い返すのは正当防衛ですよね?」

「え?・・・・・・・えっ?」

「・・・・・もしかして気付いていなかったのですか?」

 

今ラナはティナの上に跨り、手をティナの耳のそばについて上から浮かれて熱い瞳で見ていた。問い詰めている時にティナと触れ合いたくて無意識のうちに移動していたためにラナは気付いていなかった。慌てて離れようとして、ティナに抱きしめられ引き寄せられ唇同士が微かに触れる。

 

「全く、ラナは悪い子ですね。妻認定した途端に襲おうとしたのですから」

「い、いやこれはそのっ、無意識なのよっ、不可抗力よっ」

「まぁでも」

 

そこで一度言葉を区切るティナ。ラナが頭の上に疑問符を浮かべていたが、頭を撫でられて疑問符自体が粉砕された。そのままティナがラナの耳元で囁く。

 

「こんなに可愛くて妖艶なラナが求めてくるのですから、据え膳というやつですね。これはもう、ラナを私で狂わせるのもありかもしれません」

 

ティナの狂信者になるための沼にダイブして堕ちようかとも考えたが、ラナはブンブン首を振って忘れようとすると共に、ティナの首筋に自分の顔を密着させた。それほどまでにもうティナに依存してしまっているのである。ただ、沼にはもう既に入っていることには気付いてなかった。

 

「ティナ。セルマの所には、明日行くわよ」

「そうなると、今日が空きますね。デートですか?」

「デートは・・・・、出来ることなら皆でしたいわね。だから、その・・・・」

「分かってますよ。時間の許す限り、欲しいんですよね?」

「自分でもこんなに飢えているとは思ってなかったのよ・・・・・」

「言い方は少し悪意がありますが、ラナの寂しい気持ちにつけこんだ形になりますかね?」

「つけ込まれる隙を作ったのも、ティナで染めて欲しいのも、全部私だもの・・・・。だからその、セルマとの話し合いでもし妻として認められなかったら、道具でも愛人でも良いから」

「ラナ。ストップです」

 

目の奥がどろりと濁りきりティナで狂いそうだったため、ラナの口を人差し指を当てて止めた。ラナも自分が何を言っていたのか気付いて正気に戻っていた。

 

「全く。暴走しすぎですよ、ラナ」

「そ、そうね・・・・。どうかしてるわね」

「そんなラナにはお仕置きが必要ですね。せめて私の言うことは聞くように、あとは・・・・・ラナ。顔が蕩けてますよ」

「そんなの言われたら、もう期待しちゃうのよっ」

 

お仕置き、なんて言葉がティナの口から出てラナの耳を経由して脳に染み込めば、ラナの顔は赤黒いフリソデドレスに似合う艶やかな笑みへと変貌する。ラナも顔が蕩けて歪むのが変なことなのは理解もしている。だが昨日の夜にティナに色々仕込まれて、条件反射的になってしまうせいで仕方ないと言い聞かせている。だってティナが悪いから。ティナが色々ラナに教え込ませて悪い子にしたから。だから笑みを抑えられないのは悪くない、だなんて子供のような言い訳を考えてしまっている。

 

「ラナ」

「なにかしら?」

 

平静を装っているがティナに名前を呼ばれるだけで心の中では小躍りしている。そして心の中で小躍りしてるとみるみるうちに表情が悦に浸ったものへと変化して、それをティナが見てため息をつく。

 

「ラナ。また狂いそうになってますよ」

「学園内では我慢しようと思っていたけれど、いっその事狂いきってイチャイチャを見せびらかした方が良いと思ったのよ」

「ラナの悪い子化が止まりませんね」

「あら。そうなるように教え込んだのはティナじゃない」

「まったく、仕方がないですね。妻にする宣言もしたことですし、私が求める条件を呑むなら狂っていいですよ」

「何よ。条件って」

 

条件付きで狂っていい、なんて言われてしまえば今のラナにとっては何でも条件を呑むつもりで。しかもそれが敬愛するティナ──〈静寂の魔女〉であれば尚更だ。

 

「セルマと話してもし多重婚するとなったら、私だけではなく全員に対しても狂ってくださいね?」

「それは、セルマに対してもかしら?」

「もちろんですよ。セルマとも結婚することになるのですから」

「・・・・分かったわ」

「そう身構えなくても大丈夫ですよ。セルマも『三賢者の冒険』の大ファンですから」

「そうなの!?」

 

セルマについて意外なことを暴露されて驚くラナ。そうなるとじっくり語り合ってみたい、なんて考えてしまった。その隙をついて、ティナはラナの唇に自分の唇を合わせる。

 

「では、明日セルマのところに行くまで、しっかり教えこんでみっちり叩き込みましょうか」

 

そんなことを言われてしまえば、ラナの表情はデロデロに溶けてしまった。自分でもどんな表情になっているかも分からないが、幸せそうなモノであるのは確かなはず。もうラナの人生においてティナの存在は空気そのものであり、無くてはならない存在になっていた。

 

「分かったわ。お手柔らかにお願いするわね。ティナ」

「お願いされましたが、いっぱい狂わせるので覚悟しておいて下さいね」

「望むところよ」

 

────────────────────────

 

「ラナ、着きましたよ」

 

ラナとティナは、カーシュ家の門扉の前に来ていた。昨日は丸々愛を育み、朝からイチャイチャ、お昼ご飯は食べさせあいながらイチャイチャ、晩御飯も豪華な食事に舌鼓を打ちつつイチャイチャ、お風呂ではもっと激しくなり、お風呂から出て着替えてベッドインしてからは身体が限界を迎えて意識が途切れるまでイチャイチャパラダイスをしていた2人は、もう人前だろうと息をするようにイチャイチャするようなバカップルへと変貌した。

もちろんラナはティナにみっちり仕込まれたお陰でティナへの依存は度を超えた物に進化し、ティナ無しの生活は考えられなくなっていた。何をするにしてもティナに聞いたり、ティナに触れていないと落ち着かなくなっており、学園長に直談判して寮の部屋をティナと相部屋にするか、もしくはティナと自分の部屋を隣同士にして何時でも行き来できるように部屋を大きくしてもらうか、なんて画策していた。また、モスリンとフリソデドレスの重ね着コーデがお気に入りになった結果、それぞれの色違いを買い占め正装をその服装にした。イチャイチャによって頭のネジが何本か抜け落ちたのか、外出する時もその服装を着るようになり、日差しが強い時用に黒い傘を作ろうかとも考えていた。つまり、ラナの悪い子化が順調に進んだのである。

ちなみにカーシュ家に行く前にコレット商会に行きコレット男爵とも話をしたのだが、向こうはもうティナへの恩返しをしたいと考えていたためラナとティナとの深い関係が親公認となった。

 

「ティナ、もう着いたのかしら?早いわよ???」

「結構飛ばしましたからね」

「見られていないと分かっていても、空中でもイチャイチャするの、変な扉を開いてしまいそうだったわ」

 

移動方法はティナ謹製の空飛ぶ絨毯のような板で。周りの風景と同化する結界を張っていたため爆速の飛行物体に気付く人は居なかった・・・・けれども。そんな状態でこの2人は板の上でまたしてもイチャイチャしていたのだ。もちろん軽くキスしたり程度ではあったのだが、既にラナにとってはティナに求められるだけで悦びが止まらなくなっており、思い出すだけで顔がニヤけてしまっていた。

 

「あ、ティナじゃん。やほー」

「おや、フェルじゃないですか。私達のこと出迎えに来たのですか?」

「フェルが『皆でラナのことを迎えたらどうか』って提案したからね。ボクも駆り出されての総出だよ」

「そういえばフィアとラナはまだ初めましてでしたね」

なんだか家に帰ってきたような感覚に懐かしい気持ちを胸に抱えつつ、アリーシャとセルマの方を向いた。方を向いて驚いた。服装が2人とも見ていたものとは異なっていたからだ。

 

「ティナ・・・・・、ど、どうかしら?」

 

アリーシャはメイド服ではなく薄手のドレスを身にまとっていた。モスリンなのか身体の輪郭がほんのり浮き上がっており、ラナに対抗しようとしていた。メイド服では分からなかったが意外と身体つきが良い。

 

「・・・・・何か勘違いしていませんか?」

「か、勘違いなんてしてないわ!わ、私はただ、ティナの・・・・」

「ごめん。後でアリーシャには言っておくから」

「セルマは・・・・・、その服装では恥ずかしくて外に出れないと言っていたような気がするのですが?」

「こ、これは、その・・・・」

 

セルマはというと自分で作った〈氷獄の魔女〉の衣装を着ていた。恥ずかしくて外に出れないと言っていたのに外で着ているのはこれ如何に。

 

「いやぁ、ティナとラナのイチャイチャを盗み見ちゃったんだけどさ。ラナの余りの可愛さに頭のネジが2本ぐらい飛んじゃったみたいでね?ティナとあわよくばラナにアピールするために服装悩んでたんだよ。ねー?」

「ちょっとフェル!?」

「あー、そういう事ですか」

 

つまり、2人はラナの魅力を自分たちで上書きしつつ、あわよくばラナも誘惑して虜にしたいのだろう。・・・・・そんなことせずとも2人には2人だけの魅力があるというのに。

 

「ほら、ラナ。怖がらないで出てきてください。セルマとお話、するのでしょう?」

「わ、分かったわ・・・・」

 

渋々といった感じでやっとラナが4人の前に姿を現した。そしてアリーシャとセルマを見た瞬間、3人とも固まった。

 

「か、かかか」

「どうされました?」

「可愛いじゃない!(可愛いわ!)(可愛いよ!)」

 

ラナは2人の、セルマとアリーシャはラナの姿を見て早口が爆発した。

 

「セルマのそれってもしかしなくても『三賢者の冒険』に出てくる〈氷獄の魔女〉様の衣装よね!?再現度高いじゃない!あの挿絵から作ったのかしら!?」

「その挿絵が出る前の描写だけで作ったから、〈氷獄の魔女〉様が持ってる魔術用の本がどんなのか分からなくて作れてないの・・・・」

「え、その前に作ったの!?それでその完成度は誇っていいわよ!・・・・後でこっそり教えてくれないかしら。見てたら私も欲しくなっちゃったわ」

「いい、けど・・・・、ラナの服装も美しくて可愛くて、現物を見ると印象が変わるね。赤黒いドレスの中に明るめのドレスを重ね着することで、ドレス同士、黒いドレスと髪とかがさらに綺麗に見えるよ」

「重ね着の提案も、服装選びも全部ティナのおかげよ」

「流石はティナ。ラナの魅力を限界突破させるなんて。赤黒いドレスの要素としては可愛い方向のはずなのに、大人っぽさも出してて妖艶で、ラナの知らない魅力を引き出してる。ところどころ素肌を晒しているのが魅力マシマシの要因なのかな」

「な、なるほど。そうやって重ね着することでより魅力的にするのね」

「えーっと・・・・、貴女は確かセルマの従者の」

「アリーシャ、よ。うーん、こんなに魅了してくるラナさんのことをティナが独り占めするだなんて。裁判にかけてラナさんを皆の共有財産にしたいわね」

「ラナでいいわよ。アリーシャでいいかしら?」

「構わないわ。それでどうかしら?」

「それを言うならアリーシャのその格好はハレンチ過ぎて私が魅了される側なのだけれど?今すぐ何かを羽織らないとオオカミに貪られるわよ?」

「それは、ラナが貪る側なのね?攻守交替するならいいわよ。かかってきなさい」

「でも攻守交替して貪られる側に回った途端に変な扉を何度も開いてしまいそうね」

「あ、アリーシャ、ちょっと待ってっ。私、セルマと話さなきゃいけないことがあるからっ」

「私もよ。セルマ。ここで話した方が良いのかしら?それとも2人きりの方が良いかしら?」

 

するとセルマは一瞬表情を硬くしたが、アリーシャがセルマの手を握った。

 

「ここでサッと決めたいな」

「分かったわ。まずは・・・・・私の謝罪からね。ティナのこと、奪ってしまってごめんなさい。私は許されないことをしたわ」

 

ラナは、この話になったら真っ先に謝ろうと考えていた。本来ラナとティナが婚約することはありえないのに、それを無理やりできるようにしてしまったことについて頭を下げて精一杯の謝罪をする。だがセルマとしては答えが異なっていたようで。

 

「ら、ラナ、顔を上げて。ラナに何が起こったのかは一部始終を見たんだけど、あんなのティナに惚れない訳無いよ。それに、その・・・・」

 

セルマの様子がおかしい。何故かラナをチラ見しては顔を赤くして体をモジモジさせていた。まさか、本当に?

 

「セルマ?」

「ご、ごめん。その、セルマのその格好が似合いすぎてて、その・・・・」

「私もセルマお嬢様も、ラナのことが好きになっちゃったのよ」

「それ、本当だったのね・・・・」

 

そこで話が一旦途切れる。3人はそれぞれのことをチラチラと気にするように見ては、顔を赤くするを、繰り返す。そんな埒が明かない状況に陥ったのを救ったのは、フィアだった。

 

「コレット嬢、少し良いかい?」

「えっと貴女が〈砂糖の魔女〉・・・・・」

「兼『シュガーラッシュ』の店長でもある、フィア・グレイスだよ。ティナから聞かされていたかな?」

「い、一応は・・・・・。あと、ラナでいい、わよ」

「じゃあボクのこともフィアで構わないよ。それでラナ。キミはティナが欲しい、って事で合ってるかな?」

「合ってるわ。ただ、私は後からやって来たから・・・・」

「今はその言葉は飲み込んでいいよ。関係ないから。・・・・アリーシャとセルマは、ラナとは喧嘩せずに丸く収めながらティナとも一緒に居たい、ってことで合ってるかな?」

「そ、そうだよ・・・・」

「同じく、よ」

 

お互いの論点をササッと割りだす手際の良さに、ラナは舌を巻いた。セルマとアリーシャのことは罪悪感もあってチラ見しかできない。それがすごく悔しい。

 

「普通ならここで矛盾が発生するね。ティナが分身しない限りは解決しない問題、というのは分かるかな?」

「そうね。お互いにティナが欲しい状況だもの。ただ」

「ラナ、さっきも言ったけどボクの話はまだ続いてるから、その先の言葉は言わなくていいよ。分かったかい?」

「わ、分かったわ・・・・」

「さてと。本来なら難題ではあるんだけど、今3人は全員別のことが気になって仕方がないよね?今もお互いの事をチラチラ見ているところから丸わかりだよ」

「そ、それは・・・・・」

 

ティナが言っていた「セルマが今のラナを見て恋する乙女みたいになっていた」というのを、ラナは実感している。セルマから向けられる目が恋に落ちた人にするものだと。そしてそれは自分も同じだということに。

 

「3人とも、お互いのことが好きになったんだね?」

 

そしてフィアのその言葉にトドメを刺された。勘違いだと押さえつけていた感情が、表に出てきて制御から離れていくのがわかる。勝手に動かないでと願うけれど、それを嘲笑うかのように、言葉を紡いでいく。

 

「そ、そうなの、よ。今のセルマ、美しすぎるのが、悪いのよ」

「そ、それを言うならラナだって、そんな悪い子になって妖艶な魅力で私の感情をゆ、揺さぶらないでよっ」

「ラナの姿は以前から見ていたけれど・・・・・、今のラナが魅力的過ぎるわ・・・・。制服姿になっても、多分魅力を探し出そうとするわね」

「アリーシャはメイド服しか見ていなかったけれど、スタイルが良くて綺麗ね・・・・。私もアリーシャのメイド服姿を見たら魅了されるわね・・・・」

 

三者三様の、相手を褒める言葉が口から飛び出せば言われた相手は頬を赤くしチラ見するのをやめて見蕩れたようにぼーっと相手のことを眺めては、少しずつ頭のネジと頬が緩んでいくのがわかる。

 

「3人とも、言うのはそれで終わりで大丈夫かな?」

「う・・・・・・。そ、そんなこと言われたらっ」

 

ガキン、と頭のネジが壊されるような音が聞こえた気がした。だがそんなのを気にする余裕もなく、ラナは止まれなかった。

 

「セ、セルマとも、結婚したい、わよっ」

 

ラナのその言葉の破壊力に、アリーシャとセルマの頭のネジも壊されてしまい、気分は浮き浮きだった。

 

「そ、んな事言われたら、私も、悪い子になりたくなるよっ、ラナとも結婚したくなっちゃうっ」

「表ではほぼ赤の他人でありながら、裏では愛し愛される関係・・・・。そんなのそそられちゃうわよ」

「じゃあ、もう決まりで良いかい?」

 

そのフィアの言葉に、3人は決心する。迷ってはいたが決まってしまえばあとはなるようになるだけ。今後の学園生活が楽しみで、早く始まらないかな、なんて考えてしまう。もちろん、休みの期間中にみっちり仕込まれてラナのようになっていくのも楽しみにしてしまう。

 

「セルマ、セルマのその婚約の輪の中に、私も入っていいかしらっ?」

「大歓迎だよっ。ラナっ」

 

そうしてそのまま抱きしめあうと、ラナとセルマはどちらからともなくキスを始めた。それを見てアリーシャがラナの背後から抱きしめると、ラナの顔は幸せそうに蕩けた。

 

「ラナ。セルマとは席が近くであまり話したことがない、と言ってましたが。一目惚れって大事だと思いませんか?」

「うっ・・・・・、ティナはそういうのズルよ・・・・・」

「みんなさー?周りに誰もいないとはいえ、ここセルマの家の前なんだから、早く入っちゃおうよ」

「良いのかしら?」

「ラナなら、大歓迎っ。『三賢者の冒険』のこととか色々話してみたいのっ」

「セルマ、それならもっと悪い子になるのも良いかもね?そういう魔術かけてあげようか?」

「気、気になるけど・・・・」

「休みはまだまだ始まったところですから、学校が始まる頃にはとんでもなくなるように今からみっちりと仕込まないといけませんね」

「ティナ?ちょっと何するつもりなのかしら?悪い子にするのを、もっと成長させるのかしら?ねぇティナ?返事しなさいよ」

「一番期待してる人に言われてもにぇー」

「確かに。尻尾があったら喜んで振ってるんじゃないかな?」

「じ、じゃあ、私も悪い子に・・・・」

「アリーシャもセルマももっと悪い子にしますよ?確定事項なので安心してください」

 

その言葉にアリーシャもセルマもラナも顔を爆発寸前まで赤くさせる。だがその表情は嬉しさに蕩けてしまっていた。これから学校に行くまで、婚約者達の気の済むまで好きなようにされるのだ。喜ばないはずがない。

 

「そういえばラナ。もし私以外に増えることになったらどうするのかしら?」

「それは・・・・、多分受け入れる、かも」

「私も同感ね。明日世界が滅んだとしても、この輪の中に居たいもの」

「じゃあ皆で悪ーいオオカミさんになって、宴で踊り狂いたいわね?」

「あ、アリーシャっ!」

「私も・・・、セルマを見ているとどんどん襲いたくなってくるわ・・・・・」

「ら、ラナまでっ!」

「その代わり、好きにしていいわよ?」

「悪い子ですね」

「そ、そう育てたのはティナよ!?」

 

反論しつつも、ラナはどんどん満たされていく。素直になって、好きなことを好きなように好きなだけすることが一番気持ちいいのが分かったから。もっと素直に、そして悪い子になって、セルマやフィアと一緒にリディル王国になくてはならないお店を作るんだ、なんて野望を持ってみる。実現出来ちゃいそうで笑みがこぼれる。

 

「悪い顔してるねぇ。にしてもラナは器用だね。あーんな好き好きみたいな表情しながら悪い笑み浮かべてるんだけど?」

「まぁ本人が愉しそうなら良いのでは?」

「それでスキンシップを強化すれば完壁じゃないかな?ボク達が教え込むことになるみたいだし」

「色んなことを教えこまなきゃね?」

「ですね。できるだけノウハウなども教えて成長させましょうか」

「ティナの教え方でしか、多分覚えられなくなったから、もっともっと教えこんでくれるかしら?」

 

そんな話をしながら、ラナも連れてセルマの部屋に到着し、扉を閉め、鍵もかけると、ラナとセルマとアリーシャの目つきは熱がこもったものに変貌した。今までなるのを我慢していたのだろう。

 

「そういえばラナ。ティナとかはともかく、フィアと私とも結婚するのって大丈夫なの?」

「え?問題ないわよ?どうしてかしら?」

「いや、恋愛対象に見れてるのかなぁって思ったからねぇ」

 

フェルが素朴な疑問をラナに打ち明けると、キョトンとしてラナは当然のように答えた。理由を尋ねてみると、なんかすごいのが返ってきた。

 

「皆の婚約の輪の中に入る、って決めてから、フェルもフィアもまともに見れてないのよ。頭の中、もう皆に愛されて、愛することしか考えてないのよ。昨日一日ティナと愛し合ったのを見てたと思うけれど、アレよりも激しいものが欲しくて仕方ないのよっ」

「あちゃー。もう理性ないね?」

「理性なんてもう要らないわよっ。早く欲しいのだものっ」

 

ラナの目は襲い襲われることで悦びを得たいという純粋な気持ちで満たされており、激しくしたいされたいって劣情が瞳の奥で狂ったように燃え上がっていた。

 

「セルマ、アリーシャ。キミ達は・・・・、答えなくていいよ。昨日のこと思い出して野獣みたくなってるからね」

「フィアっ、どうしてそんなこと言うのっ。私はただ、いっぱい愛されて蹂躙されたいだけなのにっ」

「お嬢様と同じく、私ももっと理性を捨てたいわっ、狂いたいわっ」

 

セルマとアリーシャはラナに負けず劣らずの狂いっぷりで、始まりの号砲を今か今かと待ち侘びていた。それを見たラナがセルマを抱きしめてキスをした。

 

「セルマが可愛すぎて思わずしてしまったわむっ」

「ラナっ、そんなことされたら私、私ぃっ」

 

ラナのフライングによってすぐさま始まった宴は食事も風呂も睡眠も全て含まれ、生活する中でふとした拍子に欲望を満たそうとするようになった。そのため常に襲い襲われ欲望が満たされ、少しして欲しくなったらまた襲い襲われることに。そんな生活が毎日続けばどうなるか。人目を憚らずにイチャイチャするカップルの誕生である。

だがラナやセルマ、アリーシャにとってはもはやどうでも良かった。イチャイチャによって満足感を得られればそれで良いから。もちろん相性的な物もあってこの輪の中以外の人達とはイチャイチャしたくないが、輪の中に入ってくるのであれば誰だろうと愛そうだなんてロマンチックなことを考えていた。

 

「ティナ、ありがとうね」

「何のお礼ですか?」

「こんな風に両手で愛を抱えられるだなんて思ってなかったもの。ティナの思うような私になってみせるから、だから」

「ラナは心配性ですね。こちらはラナもセルマもアリーシャも一生連れ添うつもりですので、頭のネジを全部外さないように四苦八苦してくださいね」

「ど、どうして外してはいけないのよっ」

「外すと変な人になりますから。でろでろに溶けるのは構いませんが、私達はラナもセルマもアリーシャも人として愛したいので」

「うぅ・・・、分かったわよ・・・・」

「あぁでも、甘やかす時はしっかり甘やかすので、緩急つけてくださいね」

 

そのまま流れるようにティナに手を取られて手の甲にキスされれば、ラナは恍惚とした表情で頷くほかなかった。このまま時間が止まってしまえば良いのになんて考えながら、悦楽の宴という渦の中へ飛び込んで行った。




次回、やっと〈沈黙の魔女〉が出ます
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