サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女と三賢者   作:イェーレミー

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うーむ。同時進行苦手だけど転天二次創作書こうかな・・・・・


第14話〜 沈黙の魔女と───

モニカ・エヴァレットは内心困惑していた。悪魔みたいな同期から「私の代わりにセレンディア学園に潜入して、第二王子殿下をお守りしろ」なんて依頼されたのはまだ良い。潜入ついでに令嬢のマナーだとか色んなことを学べると思ったから。その上いつもローブで全身を隠しているから自分の正体に気付くような人も居ないから。居ないはずだから。居ない・・・・・はず・・・・なのに。

目の前に居るのは見知ったどころの騒ぎではない。ミネルヴァの〈紫煙の魔術師〉の研究室で共著という形で論文も出し、その後も個人的にやり取りもしている人物。

 

「長くボクのことを見つめているけれど、キミは・・・・・」

 

〈砂糖の魔女〉、フィア・グレイスが教壇の前に立っていた。モニカは潜入任務が初日で終わったと思った。

 

時は少し遡る。

 

────────────────────────

 

 

夏休みが終わり、フィアを『シュガーラッシュ』に送り、また会うと約束して久しぶりのセレンディア学園に到着したセルマご一行+ラナは、それぞれ寮の自室に荷物を置き、身軽になって教室へと向かった。・・・・・アリーシャにはティナとフェルの部屋の合鍵を渡しながら。

教室で休みの間の出来事を会話しながら待つこと十数分。担当教諭であるヴィクター・ソーンリー先生がやってきた。見知らぬ少女を1人連れて。

 

「全員注目。こちら、本日からこのクラスに編入することになったモニカ・ノートン嬢だ。・・・・挨拶を」

「も、モニカ・ノートンですっ。こ、これからよろしくお願いしまひゅっ!」

 

最後の最後で噛んでしまって顔を赤くしたモニカ嬢はソーンリー先生を見て、彼も微妙な空気にしてしまった罪悪感を持ったのか1つ咳払いをした。

 

「結構。キミの席はこの列の一番後ろだ。座りたまえ」

「は、はいぃっ!」

 

フェルの後ろの席に座ったモニカ嬢は落ち着きが無い様子で恥ずかしさのあまり顔を伏せる。隣に座るティナから左肩を3回つつかれ、フェル自身も頭を抱えることとなった。

 

 

────────────────────────

 

「ねぇ、貴女。さっきは相当痛かったと思うのだけれど、大丈夫だったかしら?」

「ひ、ひゃいっ!?」

 

モニカは休憩時間に声をかけられた。あんな失態を犯してしまった自分に声をかけるのだから罵倒しに来たのだろう。そう思って油を差していない古びた扉のようにギギギ・・・・と声が聞こえた方を向く。そこにはいかにもお嬢様と思しき美少女が自信満々に立っていた。

 

「私はラナ・コレットよ。ラナと呼んで欲しいわ」

 

何故かいきなり呼び方を教えられた。正直なところ顔と名前は何とか事前に一致させたものの、どう呼べば良いのかというのが一番の難易度だったからだ。貴族社会において呼び捨ては気さく過ぎるし、だからといって伯爵令嬢などと言えば堅苦しかったり呼ばれたくないと言われるかもしれなかったから。貴族社会、特にこういったお茶会が開かれるような令嬢の集まりではどこに爆弾があるか目視出来ないのが難点だ。

 

「じゃ、じゃあ、わたしもモニカで、いいです・・・・」

「分かったわ、モニカ。それじゃあ聞きたいのだけれど・・・・、どうしてお下げにしているのかしら?貴女の綺麗な髪が台無しになってるわよ?」

 

綺麗な髪、と褒められたのは少し嬉しいが、正直なところ潜入するにあたって同期に令嬢らしい髪型をいくつか教えてもらったもののやり方が複雑すぎて諦めてしまったのだ。ノートン、としての設定としても侍女は居ないことになっているから、見窄らしい方が潜入向きだと個人的に考えていたのもあるが。

 

「へ、編入するにあたって色々勉強はしたんですが・・・・、侍女も居ないので、わ、私一人でするしかなくて・・・・」

「その結果、普段の慣れている髪型にした、ということかしら」

「お、おっしゃる通りです・・・・」

 

少しどもりながら返してみると少しジロジロとモニカの身体をくまなく見定める。ちょっと怖くなって自分の体を抱きしめると、ラナの方が破顔した。

 

「ごめんなさいね。頭の中で貴女に合いそうな衣装や髪型を考えていたのよ。せっかく髪が綺麗なのだから、生かさないともったいないわよ?」

「こらこらラナ。教えてあげるのはいいけど、それはちょっとやりすぎだねぇ。ノートン嬢がパニック寸前になってるよ」

「あぁごめんなさいね。つい職業病が出てしまったわ・・・・」

「あ、あの・・・・・貴女は?」

 

助け舟を出してくれた白髪の少女に少し感謝の笑みを見せつつ、把握はしているけれども一応念の為に聞いてみる。

 

「あぁ私?私はフェル・ソフィーティア。隣は姉妹のティナで、こっちはセルマ。セルマも自己紹介してあげてー」

「分かったわ。私はセルマ・カーシュ。一応保健委員をしているけれど、あまり世話になってはいけないわ」

「そ、それはどうして、ですか?」

「一応保健室は怪我したり体調不良の人達の為の場所だからじゃない?」

「た、たしかに・・・・・そう、ですね」

「ラナ。流石にジロジロ見るのは失礼ですよ。謝罪代わりに彼女の髪を整えてあげるのはどうでしょうか?」

「・・・・良いかしら?」

「あ・・・はい。お願いします・・・」

 

流れるような自己紹介に続いて、さっきのラナという少女が髪を結ってくれるとの事。流行りも知らないモニカとしては渡りに舟なのでお任せすることにした。

 

「こんなものかしらね」

「あ、ありがとう、ございます・・・・・」

「敬語なんて要らないわよ。堅苦しいだけじゃない」

「ラナー?モニカ嬢は昨日か今日にここに来たばかりなんだからさー、人となりとか分からないんだよ。誰に敬語使って誰にタメ口していいか、とかの判断も難しいからね?」

「うっ・・・・それは、そうね・・・・・。ごめんなさいね」

「い、いえ!その、ラナはすごく優しいんだなって・・・・」

「あ、モニカ嬢。ラナ以外だと私とティナとセルマ辺りも敬語無しで大丈夫だよ〜。他の人にはちょーっと気をつけておいた方がいいけど」

「そ、それなら、わたしも呼び捨てで大丈夫、ですっ」

「わかりました。もちろんですが無理しないでくださいね?しなければならない!みたいな強迫観念に囚われるのもダメです。無理せず気楽に生きるのが私たちのモットーですから」

「わ、分かったっ」

「いい返事ですね」

 

なし崩し的に、友人のようなものが複数出来た気がした。それはそれで潜入の助けになるから喜ばしいことではある。罪悪感も無くはないが、今回の七賢人のお仕事として仕方がないと割り切るしかない。

 

「それじゃあラナには罰として、授業が終わり次第モニカを連れて学校案内をしてください。モニカもまだ慣れてないでしょうから」

 

 

────────────────────────

 

お昼休みは災難だった。護衛対象である第二王子に会えたはいいものの、上から植木鉢が落ちてきて危うく暗殺されそうになったから助けたけれども。第二王子が庇おうと抱きしめられたことにより、男性耐性がからきしなモニカはそのまま気絶してしまった。起きたのはもう授業が終わった後だったから、保健委員のセルマに心配されながら保健室から出ようとして。

 

「モニカ!?大丈夫かしら!?」

「ラナ、保健室ではお静かに、よ?」

「ご、ごめんなさい・・・・」

 

バァン!と扉が勢いよく開いたかと思うとラナが現れた。多分セルマが教えていたのだろう。音にはビックリしたがそれよりも心配してくれたことに心が温かくなった。

 

「私もラナの学校案内について行こうかな」

「私は良いけれど、モニカはどうかしら?」

「い、いいけど、セルマの話し方が・・・・」

「さっきまでは一応他の人が居たから、所謂外向き用の言葉を使ってただけだよ。・・・・ビックリさせちゃった?」

「あ、いや、そうじゃなくて・・・・、最初話した時にちょっと、無理に話してた感じだったから・・・・、どうしたのかなって思って・・・・」

「・・・・・もしかして無理してたの、最初からバレてた?」

 

モニカはコクンと頷く。セルマは頭を抱える。ラナは笑みを浮かべる。

 

「ほらやっぱり言った通りじゃない!」

「学校に戻ってくる前に、どうなるかの予測をみんなで立ててたの。私の素にいつ気付く人が現れるのか、って。ラナだけ今日で他の人は明日以降、フェルなんて「卒業まで気付かれない」って言ってたの」

「そ、それは・・・・ちょっと酷いというか・・・・・」

「なんでも、今の話し方が定着するから気付かれる事はないだろう、だって」

 

そういえばとモニカは、同期は元々不良で口が荒かったらしい、なんて噂が流れていたのを思い出した。今は荒いのが手癖足癖になっているがその片鱗は今でも伺える。

 

「そ、そうなんだ・・・・」

「保健室ももう閉めるからね。廊下に出て欲しいの」

「あ、ご、ごめんなさいっ」

 

カチャカチャと慣れた手つきで保健室を戸締りすると、鍵を仕舞ってセルマはモニカとラナに笑みを浮かべた。

 

「待たせちゃってごめんね」

「そんなに待ってないわよ?」

「ら、ラナっ、こ、こういうのは様式的なものだから・・・・・」

「そ、そうなのねっ」

 

勘違いしたラナは顔を赤くすると、ブンブンと首を振って忘れようとする。ラナから香る花の匂いが爽やかで、モニカは羨ましくなった。

 

「そ、それじゃあモニカにセレンディア学園の事を教えてあげるわね!」

「わ、分かったっ」

「私も補足説明とかしていくよ」

「頼もしいですっ」

「モニカ、敬語敬語」

「はっ」

 

────────────────────────

 

そして冒頭に戻る。

何事もなく案内されていたら、最後に立ち寄った教室でフィアが教壇の前に立って本を触っていた。

 

「フィア!?どうしてここにいるのよ!?」

「ん?ああ、皆を驚かせようと思ってね。今日から魔術の教師兼生徒になったんだよ。ちなみに生徒としては皆が居るクラスだね」

「こ、これからフィアも一緒に学ぶことになるの?」

「だってボク、飛び級してるからね。ミネルヴァだと・・・・・ずっと研究して論文書いて発表して、だったから貴族社会の難しさはまだ理解してないし、そっち系のルールとかマナーは学べていないから、学び直そうと思ってね。あとは・・・・2人が学園でどんなことしてるのか、実際に見てみたかったのもあるかな」

 

それを言われるとラナとセルマは顔が赤くなって俯いてしまう。モニカがフィアとの関係を聞いているかどうかは知らないが、面と向かって直に言われてしまうとそれはそれで恥ずかしいものがある。

 

「キミは・・・・・、もしかして今日から編入してきたモニカ・ノートン嬢かい?」

「は、はいっ!も、モニカ・ノートンですっ!さ、〈砂糖の魔女〉様に名前を覚えていただけるだなんてっ、光栄ですっ!」

「ソーンリー先生から情報だけは教えてもらったからね。あと一応魔術の授業以外はキミと同じクラスだから、ラナやセルマと変わらず敬語なんて要らないからね?」

「そ、そんな恐れ多いこと・・・・!」

「ボクが止めて、って言ってるんだからやめて欲しいな。分かったかい?」

「は、はいぃっ」

 

もし身内に会ってしまった場合の対処法としてイザベル様に聞いておいてよかった。こんなところで役に立つとは思っていなかったから。

 

「フィア、一緒に寮まで行くかしら?」

「もうちょっとだけ明日の準備をしてから行くよ。だから先に行ってて欲しいな。それともボクが居ないとダメかい?」

「フィアっ!?」

 

そして何故か両隣の2人はフィアの言葉に赤面したり顔を手で覆ったりしている。そういえば〈砂糖の魔女〉が複数人を囲った、なんて風の噂で聞いたのだが、もしかして彼女達が・・・・・。

 

「そ、それじゃあ先に部屋に行ってるわねっ」

「後でお邪魔させてもらうよ」

「ま、またね、フィア」

 

そうして親友との邂逅が終わり、モニカは何とかバレずにフィアから逃げおおせた。イザベル様には後でお礼を言っておかなければ、なんて考えながらセルマやラナとの女子トークに花を咲かせつつ寮への途についた。

その後モニカはそのまま自室として宛てがわれた屋根裏部屋に行こうとしたのだが、それに待ったをかけたのがフェルだった。屋根裏部屋に行くにはラナやセルマ、フェルやティナの部屋を通過しなければならず、「ここを通りたければチェスで勝負をして!」と言ってきたので渋々受けることに。場所はラナとセルマの相部屋、対戦カードはフェルvsモニカ、ティナはちんぷんかんぷんなラナとセルマに対して分かりやすい説明を付けながら、一手一手を打った後で同時に思考が分かっていたような解説を行う。フェルの打ち筋にも容赦なく解説を入れるため、チェス大会でたまにある外野との暗号を使った不正行為ではないようだ。

アリーシャというらしいセルマの従者が、喉が乾いた時用の紅茶とそのお茶請けとして東方から取り寄せたというコンペイトウという名の砂糖菓子がサイドテーブルに置き、何時でも食べていいと用意していた。その東方の国は自国文化もさることながら、他国から取り入れた物に独自の進化を施して自国のものとして他国に輸出するのが得意との事。実際そのコンペイトウもリディル王国周辺の砂糖菓子が元だというが、似ても似つかない上東方の国の技術力がとてつもない物であることに気付かされる。なお商人魂が燃えたぎったのかラナが初めて見たコンペイトウを輸入することを決めていた。モニカも食べてみたが柔らかく溶ける砂糖が心地よく、虜になってしまいそうだった。

勝負の行方はというと、

 

「あちゃー、こりゃスティルメイトだね」

「そ、そうだね」

「お互いにキングのみ、これは引き分け以外ないですね。2人とも、ナイスファイトですよ」

「いやぁ、32手目の判断ミスが痛すぎたなぁ・・・・。あそこミスってなければ勝てたよねぇ」

「あ、そこなら、39手目までほぼ同じで40手目から完全に同じになるから・・・・・」

「え、ほんと?・・・・・うわ、ホントじゃん。ってことは・・・・・、初手ミスった?」

「初手というより7手目に対しての8手目の受けがこっちなら・・・・・」

 

といった感じで感想戦も大盛り上がり。チェスを囲んで話が弾む。だから忘れていた。

 

「そういえばなんですが・・・・、モニカは気付きました?」

 

ティナのその言葉に氷柱を背中に打ち込まれるような感覚を味わった。今の一局、最初から最後まで全てどこかで見たような動きをしていたから。それに気付くと同時に結界が部屋の中に張られた。結界の範囲は部屋の中全体、種類は────遮音。そして先程の対局は、過去にモニカがミネルヴァの研究室で初めて引き分けた時と全く同じ動き。気付くべきだった。先程ラナやセルマが誰と仲良く話していたのか。

 

「やぁ、久しぶりだね。モニカ・エヴァレット魔法伯」

「ふ、フィア・・・・」

 

〈砂糖の魔女〉が、モニカを見ていた。

 

────────────────────────

 

「あ、ストップストップ。過度に警戒するのは止めてね。私達も用事があってこうしただけだから」

 

そう言ったのはフェル。両手をあげて降参のポーズをしている。ティナも同じだ。ただラナとセルマはなんの事やら分からずといった表情で目線はモニカとフィアを行ったり来たりしている。

 

「とりあえず、フェルとティナは先に明かしたらどうだい?2人の目的としてはモニカがメインだろう?」

 

そう言ってフィアがフェルの方を向くと、本人は苦笑した。

 

「まー、そうだね。私とティナがこの学園に入ってきたのって、実は王命でね。『〈沈黙の魔女〉が第二王子の護衛として編入してくるが、少し心許ない。だから護衛の護衛として編入してくれないか』って王サマから直々に頼まれたんだ。あ、王サマに呼ばれたのは昔取った杵柄で、こっちはホントに極秘にしないといけないやつだからバラせないのは心苦しいんだけど」

「付け加えるなら、さっきまでフィアに秘密にされてたので〈沈黙の魔女〉が来ていることも知らなかったんですよね。フェルがモニカを部屋に連れ込む直前に、フィアに知らされましたから」

「つまり、2人はモニカ、キミの護衛ってことだよ」

「わ、わたしのっ!?」

 

ここまで説明されて、やっとセルマもラナも事の重大さに気付いたらしい。口に手を押さえて叫ばないようにしつつ、セルマは興奮したように身体をくねらせている。

 

「も、モニカが、〈沈黙の魔女〉!?」

「・・・・・・・どうして、バラすの?」

「バラした方が、より自然に護衛が出来るからだよ。簡単に言うと現地協力者、ってやつだね。編入して学生生活間もない人達と付き合うのと、学園生活を一年以上やってきた人ならどっちと付き合う方がより自然体になると思う?」

「それは・・・・・・そうだけど」

「それに安心して欲しい。2人は・・・・まぁ厳密にはセルマの従者のアリーシャも含めて3人だけど、口は固いからね。そこはモニカの安心材料になると思うよ。どうかな。ボクの親友であるモニカは、納得してくれたかい?」

 

その言葉に納得はした。理解もした。だがモニカとしてはまだ不可解な点がある。

 

「そ、それじゃあ、 フィアが来たのは・・・・・」

「そっちは別件だね。セルマが夏休み前までノルン伯爵令嬢に虐められてたって話を聞いてね。そのままご意見番みたいなことをしても良かったんだけど、見るのと聞くのとなら雲泥の差があるから、現地調査ついでに来ただけだよ。学び直す云々の話に至っては事実だよ。ボク自身がやりたかったから」

「そ、そうなんだ・・・・」

 

そうしてモニカは目をキラキラさせているセルマとラナの方に向き直る。ただ、何と言っていいか分からず口を開けたり閉じたりする。そして。

 

「ねぇ。少しおかしいんじゃないかしら」

 

ラナが苦言を呈した。

 

「えーっと、ラナ?」

「フェルやティナが〈沈黙の魔女〉様の護衛だ、っていうのは構わないわよ。モニカが〈沈黙の魔女〉様、っていうのも、後で色々聞きたいことがあるけどそれは置いておくわ。ただ、フェルとティナが身分を明かさないのにモニカの本当の身分を明かすのはおかしいわよ」

「それはそう、なんだけどねぇ・・・・」

 

歯切れ悪く返答するフェルに対して、ラナは思い切って畳み掛ける。

 

「それならせめて、フェルが肌身離さず持ってる懐中時計をセルマに見せなさいよ」

「どうして懐中時計が出てくるの?」

「フェルの秘密が、そこに隠されてるからよ。・・・・・少なくとも、ティナはそうだったわ」

「・・・・・ティナ?」

 

フェルが隣にいるティナを見る。だがティナはフェルと同じ方向を見る。上げた両手をティナの頭に当てて、力任せにこちらを向かせようとするが、ティナはティナで必死に抵抗する。

 

「・・・・ティナ。言ったの?」

「・・・・・明かさないとラナが大変なことになっていたので」

「・・・・・まぁラナの言い分は一理どころか百理あるからねぇ。仕方ないかぁ」

 

降参するようにガックリと肩を落としたフェルは、胸ポケットをまさぐると、そこに入ってた懐中時計を取り出してベッドに座るラナとセルマに向けて放り投げた。いきなり投げられると思っていなかったセルマは慌ただしくなるが何とかキャッチ。受け止めた懐中時計に焦点が合うと同時にセルマは固まった。

 

「ど、どうしてフェルが、これを・・・・・!?」

「あー、そういえばセルマも大ファンだっけ。じゃあその懐中時計が何を意味してるのか、も分かるよね」

「それは・・・・・でも・・・・・」

「あ、懐中時計は上のボタンを押せば開くからね」

 

カチッという小気味良い音と共に懐中時計の蓋が開いた。中はラナの予想通り精密な機構が見えるスケルトン。文字盤は最低限。そして蓋の裏にはやはりというべきか、こんな文言が書かれていた。

 

───リディル王国初代国王ラルフより、フェル・ソフィーティアにこの懐中時計を贈る。

この者は三賢者が一人〈紅姫〉であることをリディル王国が保証する────

 

と。覗き見たモニカも含めて3人が絶句する。

 

「まぁラナの言う通り、私達も身分を明かさないといけないのが筋だよね。と、いうわけで改めて自己紹介!」

 

フェルがおもむろに立ち上がると決めポーズをとった。どこから取り出したのか赤黒い剣を両手に持って。

 

「リディル王国三賢者が一人!〈紅姫〉ことフェル・ソフィーティアと!」

「同じくリディル王国三賢者が一人〈静寂の魔女〉ことティナ・ソフィーティアです。・・・・・あのフェル?こんな風に派手にする必要はありましたか???」

「いやぁ、こーいうのはノリと勢いで押し切るのが大事だからねぇ」

 

唖然とするモニカとセルマ。名乗り終わった2人の背後に心做しか爆発した土煙が見えた気がした。ラナはやっぱり、といった表情で。

 

「聞きたいのだけれど、フェルとティナは姉妹じゃないわよね」

「あー、そこまで見えちゃってる?そりゃもちろん血も繋がってないんだから夫婦に決まってるよね」

「・・・・やっぱり」

「え?え?えっ?」

 

あたふたとフェルとティナを見たりラナを見たりで忙しないセルマとモニカは、まだ理解が追いついていないようで。それを見てフェルもティナも姿勢を正して頭を下げる。

 

「セルマ、モニカ、ラナも。ごめんなさい。色々嘘ついてました。簡単に言うと、皆が憧れる三賢者の内の〈紅姫〉が私で、〈静寂の魔女〉がティナ。セレンディア学園に来たのは〈沈黙の魔女〉を護衛しろ、って王サマから言われたからなんだ。ちなみにティナとは姉妹じゃなくて夫婦っていうね。幻滅しちゃったかな?」

「ほ、本の中に出てくる2人が、フェルと、ティナ、ってことなの?」

「そそ。ちなみに本の中身に関しては私もティナも監修してるけど、一切の誇張なし。あれ全部事実しか乗ってない実話なんだよ」

「切った張ったの大立ち回りも・・・・?」

「あれは3対1000とかいう対多数だったから、ああいう立ち回りをしなくちゃいけなかっただけで、ホントはもうちょっと立ち回りとか考えてるよ」

「じゅ、12巻で人助けしてた時に屋根伝いで走って、大通りを飛び越えたのも・・・・?」

「それは私ですね。ラナには体感してもらったので分かってるとは思いますが、同じ高さの屋根であれば何とかですね。流石に超えた先が高い場合は力を使わないと超えられませんが」

「・・・・三賢者が実は五賢者になっていた可能性もあったのよね」

「〈深淵〉とかがラルフの要望を蹴ったやつかな。2人はそういう風に縛られるのが嫌いだったみたいだからね。ちなみに2人とも一応存命中。たまに文通してるけどどっちも何してるか探られたくないみたいで伝書梟でのやり取りだね」

「ほ、本当に2人が三賢者、なんだよね」

「そうですね」

「そ、それじゃあ、もしかして・・・・」

 

事ここに至って告白した2人が超が何個もつく有名人であることにセルマは気付いた。

 

「もちろん、『嘘つかれてたから婚約も無し!』っていうのも」

「そ、それだけは、いや・・・・っ」

 

フェルの婚約破棄を仄めかすような発言に、セルマはポロポロと泣きながら弱々しく反論した。

 

「ふ、2人とも、嘘つかなきゃいけない人だから、隠さないといけないことだからっ、そんなので別れるなんて、いや・・・っ!」

「・・・・そうですか。分かりました。ラナも構いませんか?」

「私は〈静寂の魔女〉に助けられて恋に落ちた身だもの。婚約破棄なんかありえないわよ」

「・・・・そっか。モニカはどうする?ここの輪の中に入ってみる?」

「え・・・・・・っと。フィアもその輪の中に居るの・・・?」

 

改めてOKを貰ったところでヘッドハンティングするかのようにフェルがモニカを婚約の輪の中に誘った。それに対してモニカは少し悩むふりをしながら尋ねることにした。

 

「あ、もちろん居るよー」

「そ、それなら、入ろう・・・・・かな。フィアが居るなら・・・・・」

「ミネルヴァ時代にフィアと何かあったんですか?」

 

事情を聞かれて、モニカは思わず顔を手で覆ってしまう。モニカが何を言おうとしたか理解したフィアも同様に。

 

「じ、実は・・・・・、ミネルヴァの学祭の時に、罰ゲームとしてフィアに告白されたことがあって・・・・」

「と、当時も色んなゲームが好きだったからね。それでボクとモニカで1つ賭けをしたんだ。結果から言うとボクがモニカに負けて、罰ゲームとして・・・・・」

 

フィアが顔を真っ赤にしてそれ以上の言葉を発せなくなった。やはりヘタレか。

 

「ば、罰ゲームとして、ミネルヴァの中の噴水の前で、2人きりの時にフィアがわたしの顎に手をやって、目線を強制的に合わせてから『モニカ。キミはボクの太陽だ。キミの笑顔は陽の光より眩しい。そんなキミをボクが独り占めしてもいいかな?』って・・・・」

 

頭から湯気を出しながら、表情を見せまいとするモニカがあまり意味の無い抵抗をする。どう見ても恋する乙女だからだ。対してフィアの方は、うつ伏せになって頭の上に枕を被せていた。

 

「流石にそれはヘタレの極致では?」

「醜態成だよねそれ。誰がどう見ても」

「本当に後悔してるからやめて欲しいかな・・・・・!」

 

伏せながらもフィアは元気に返事する。もし立場が逆だったならば、モニカはフィアに精神干渉魔術を使っていたかもしれない。それほど恥ずかしいことをした自覚はあるらしい。問題は、それを言われたモニカの方である。

 

「そ、そんなこと言われちゃったら・・・・」

「そうね。どう考えてもフィアに惚れるわね」

「フィア、ギルティ」

「それに、フィア以外どうでも良くなるようなことになりかねないですよね。アフターサービスはどうしたのですか?」

「だって、罰ゲームだから・・・・」

 

つまりやっていないということである。モニカとフィア以外の全員が頭を抱える。モニカが病む可能性だってあったはずなのに。

 

「じゃあ、モニカをこの輪の中に入れていいと思う人は挙手〜」

 

当然だがモニカとフィア以外の全員が手を挙げる。つまりこれで多数決的にも決定である。

 

「ではモニカも私達の婚約の輪の中に入れる、ということで」

「・・・・・セルマとかラナは良いの?わ、わたし・・・・」

「七賢人かどうか、ならそもそもフェルやティナ三賢者だから関係ないわよ。それに、モニカはフィアのことが好きなのよね?」

「・・・・・うん」

「それならモニカも私達と同じだもの。入れない訳には行かないわ」

「そ、それに・・・・、し、幸せなことは、なるべく共有したいから・・・・・・」

 

ラナに諭されセルマの言い分に共感したモニカは、姿勢を正すと頭を下げた。その場に正座して、三つ指を立てて。

 

「ふ、ふつつか者ですが、よろしくお願いしますっ!」

「よろしくお願いされました。困り事があればこちらにも話をしてくださいね。決して一人では悩まないこと。良いですか?」

「わかったっ」

 

まだ人数は少ないけれど、モニカの正体を知る人が増えたことに心が温かくなった。あと、これからはフィアにちゃんと甘えようとも思った。そう思ってフィアの方を見ると、何故か服装が変わっていた。モニカがフィアから視線を外したのは正座した時のみ。すぐに顔を上げたから着替えるような時間はなかったはず。

 

「ふ、フィア?その服装は・・・・・?」

 

モニカのその発言でフィアに注目が集まる。いち早くラナが気付いた。

 

「そ、その服装ってもしかして、セルマが作ってた〈氷獄の魔女〉様の!?フィアの分も作ってたのね!わ、私も着てみたいわ!」

「せ、セルマが作ったの?わ、わたしも気になる・・・!」

 

紺色のシャツドレスにワンポイントとして薄紫色のリボンをシャツの首元に通して蝶結びに。膝下まであるロングブーツにストッキングで柔肌を保護するのも忘れない。それらを地面を擦りそうな青白いローブで包み込み、袖は通すが肩出しすることでラフに着こなす。ローブは着るタイプではなく羽織るタイプで、暖を取る時に役立ちそうなファーがローブの縁についており防護用と思われる魔術刻印が複雑な模様のように描かれていた。

そんなフィアの服装を見てラナとモニカはセルマに注目するが、当の本人は唖然としていた。

 

「わ、たし、フィアに〈氷獄の魔女〉様の衣装は見せたけど、その服をフィアに渡してないし、そもそも採寸もしてない・・・・」

「えっ?」

「へっ?」

 

疑問符が2つ重なる。採寸もしていなければ渡してもいない。だが現にフィアが着ているとなると・・・・・と、考えてまさかと思える選択肢が一つだけ浮かんできた。馬鹿馬鹿しい、とは否定したくなるが目の前に2人居るから現実味がある。

 

「あぁそういえば、これを持っていなかったね」

 

そう言って虚空から本を取り出す。表紙も小口も全てが黒い本。厳重に封印しているのか鎖で縛られていた。それを見て現実味を帯びていた選択肢は確信へと変わった。その服装でその本を持つ人物など1人しか存在しないからだ。

 

「まぁフェルとかティナが名乗った時点で予想はついてたとは思うけど、ボクが〈氷獄の魔女〉だよ」

 

無言で様子を窺っていたアリーシャも含めてとてつもない情報量の洪水に目の前が真っ暗になり、足元の感覚も緩やかに消失していった。




あ、バレに関してはこのタイミングの予定では無かったのですが・・・・・
動かしてたらこうなりました。

次は説明回です
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