リディル王国のセレンディア学園と言えば、院・ミネルヴァと並ぶリディル王国三大名門校の1つである。高い学費と引き換えに全寮制で一流の講師陣による授業、貴族が通うに相応しい設備がある、と謳っているが実際は政治色が強く、貴族の上下によりイジメが多発する学園である。
そんな学園の生徒会室にて、現生徒会長であるフェリクス・アーク・リディルは手元にある2枚の資料を見ていた。どちらも本日付でセレンディア学園に編入するという2人の少女だ。―――名前はフェルとティナ。姓はソフィーティア。土地を持たない子爵であり、家はケルベック伯爵領のさらに辺境の地に存在する。フェルが誕生日の都合上姉であり、2人以外にソフィーティアの姓を持つ者は居ない。また後ろ盾になるような貴族も存在していない―――ということが書かれていた。調べたところによると両親は竜害で亡くなっており、家では二人で暮らしているという。だが問題はそこではない。
(何故、このタイミングでの編入なのか)
夏季休暇まであと2ヶ月を切ったタイミングでの編入である。これが親の都合などであれば分からなくもないが、彼女達に親は存在しない。であれば何かの密命を受けてやってきたことはほぼ間違いないだろう。そうなると必然的にこの資料自体が怪しく見えてくる。自分を狙った暗殺者なのか、それとも誰かの護衛なのか。そう考えたところで声をかけられた。
「殿下」
「あぁ、この時期に編入する子が居てね。少し怪しんでいたところだよ」
「まさか、殿下の命を狙う者なのでは!?殿下!このシリル・アシュリー、命にかえても殿下をお守りいたします!」
「いやいや、まだ決まった訳じゃないからね?」
だが、シリルは殿下ラブなため聞く耳を持たなくなっていた。ため息をつきつつ、契約している精霊のウィルディアヌにこっそり調べてもらおうと心に誓うのであった。
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「ティナ・ソフィーティアです。こっちは姉のフェルです。このような時期の編入となってしまいましたがこれからよろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす」
編入時にこれからのクラスメイトになる少年少女達に挨拶をすると、担任のソーンリー先生に席を指定された。そうして一息つく間もなく授業が始まるが、2人共地頭は良いので何とかついて行くことが出来た。
授業が終わるとこんな時期にやってきた自分達のことを見ながら陰口を叩く者、無関心を貫く者などが多く、あまり歓迎されていないのが分かった。だが唐突に前に座る榛色の髪の少女が振り返ってきた。
「大丈夫?」
「慣れてるから大丈夫だよー」
「ですね」
「そうなのね。私はセルマ・カーシュよ。このクラスの保健委員をしているわ。もし良かったらなのだけれど、2人のことは名前で呼んでも良い?」
「あー、どっちもソフィーティアって呼ぶことになっちゃうもんね。良いよー」
「代わりと言ってはなんですが、貴女のことも名前で呼んでも良いでしょうか?」
「ええ。構わないわ」
「じゃあセルマ、これからよろしくお願いするね」
「よろしくお願いしますね、セルマ」
初めてセレンディア学園での友人?と呼べるものが出来た。するとその様子を見ていた薄茶色の髪を2つに結っている少女が近付いてきた。
「ねぇ貴女達」
「えーっと、私とティナで合ってる?」
「ええ。2人はどこから来たのかしら?」
「ケルベック伯爵領のさらに奥地ですね。両親は竜害を抑えるような研究をしていたので、人里離れたところに暮らしていました」
「そうだったのね。親御さんにはここに通うことになった時、反対とかされなかったのかしら?」
「あー・・・・・」
その瞬間フェルは少し遠い目になり、ティナは目を伏せた。少女は地雷を踏んだのかと焦るが、フェルが口を開く。
「仕方ないっちゃ仕方ないんだけど、竜害が起きた時に、研究の副産物で出来てた『竜の好きな匂いを出す薬』を持って街に襲いかかろうとする竜を誘導して、それで・・・・・」
「ごめんなさい。嫌なことを思い出させてしまったわね」
「いいよいいよ。もう過ぎちゃったことだし、私達が立ち直れてないだけだからね」
「・・・・強いのね」
「まだまだ強くないですよ。そういえば貴女の名前を聞いていませんね」
すると彼女は「あ、そういえば!」と手を叩いた。
「私はラナ・コレットよ。フェルとティナ・・・・で合ってたかしら?」
「合ってるよー。こっちもラナって呼んで良いかな?」
「良いわよ。これからよろしくね、2人とも」
「こちらこそよろしくお願いしますね、ラナ」
いつの間にか友人が2人に増えた。ちょっとラッキーと思っていると、ラナがセルマに話しかける。
「そういえば貴女、婚約者のところに行かなくてもいいのかしら?」
「えっ、セルマって婚約者持ちだったの!?」
「まぁ家で決まったことだから・・・・」
「にしては盲目過ぎよね。べったりくっ付いてるじゃない」
「あ、アーロン様はその、たまに見せる無邪気な表情が素敵なのよ・・・」
「語るるに落ちたってやつ?」
「みたいですね」
「ただ・・・・・」
するとセルマは目を伏せ表情を暗くする。
「最近は他の女性を侍らせていたり、会ってもお金をせびってくるから、このままで良いのか迷ってるのよ・・・・」
「それ、本当に婚約者なんです?」
ティナが白い目でセルマを見る。そんなティナに対してフェルは頭を撫でる。
「うーん、セルマがいいなら探り入れてみるよ?」
「出来るのかしら?」
「そういう探偵みたいなことは結構やった事あるからね。ただし、セルマ。1つ約束して欲しいことがあるかな」
「なに?」
「もし真実がどんなに残酷なことだとしても、否定しないで」
「・・・・・・・分かったわ。でも、どうしてそんなふうに親身にしてくれるのよ?」
フェルはセルマの顔をじっくり見据えたあと、唐突にふにゃっと笑った。
「だってこの学校に来て初めて出来た2人の友達だから。末永く大切にしたいし」
そんなことを言われると思ってなかったラナとセルマは、ボフッと音が聞こえそうなほど、顔を赤くした。
「あ、貴女ねぇ!そんなこと軽々しく口にするんじゃないわよ!」
「いやだって、住んでるのも町外れの山奥にポツンと佇む一軒家だから、町の友達もいないし・・・・」
「本当に人里離れてますからね。町まで1時間かかりますし。静かでいいですけど」
「だから、こういう縁は大切にしなきゃって思ってるんだー」
「・・・・・・・・・」
そんな中、セルマは顔が赤いまま無言を貫いていた。様子がおかしいセルマに対してティナが彼女の額に手を当てるとセルマはさらに耳まで真っ赤になった。
「突発的な熱・・・・という訳でもなさそうですが、セルマは大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ」
「・・・・・無自覚女たらしね」
ラナがボソッと小さく発した言葉に聞こえないフリをしようとして失敗し、カウンターのようにフェルの顔が赤くなった。
「も、もうこの話は止めにしよ。これ以上は多分大変なことになるし」
「え、えぇ。そうね。」
「ですね」
「・・・・・そう、ね」
「じ、じゃあ私は席に戻るわね。後でまた、お話しましょ」
そう言ってラナは自分の席に戻っていった。後に残されたのは顔が真っ赤なセルマと、同じく顔が真っ赤なフェル、そして頬に朱が差したティナである。3人は誰からともなくいそいそと次の授業の準備を始めた。そして3人は頭の中でこう願っていた。
(授業、早く終わって欲しい)
と。