「アーロン様を操っている真の黒幕に、1人だけ心当たりがあるの」
そう言われたフェルは、すぐさまポケットに忍ばせていた宝石を取り出す。セルマが何をしているのかと疑問に思っているとぼんやり宝石が光った。
「それは?」
「人払いの結界を張る魔導具。流石にしておかないと不味いかなって」
「常備してるの?」
「・・・・初日だし、友達も出来ないだろうって思ってたから、お昼ご飯食べる時に・・・・・」
フェルから出てきた言葉はつまり、ティナと外で2人ぼっちご飯を食べる予定だったということだ。流石にセルマがフェルに向ける目も白くなる。
「・・・・私やラナが居てよかったね?」
「本っ当に良かったよ・・・・・。まぁそれは良いとして、これで大声出しても大丈夫だから」
「ありがとう。それでその黒幕の話だけれど、部活には顧問の先生が必ず1人つく事になってるのよ」
「え?生徒会も部活扱いだったりするの?」
「寄付金とか賄賂とか多いから、大人の目が無いと子供だけだとダメって事らしいのよ」
「まぁそれは分かるけど・・・・、その顧問の人が怪しいってこと?」
「そう。しかもその人は、ソーンリー先生なのよ」
「担任の?」
聞き返したフェルに対して、セルマは無言で頷く。フェルは頭を抱えた。
「問題は証拠が無いってことだよね・・・・」
「そこは私も分からないの・・・・」
「じゃあそっちも見てみるけど、セルマは普段通りにすること。良いね?」
「分かったわ。それと」
「それと?」
「夏休みの予定は空けておいて欲しいのよ。2人を家に招待するから」
「えっ?」
ついででされる話では無いため、フェルは待ったをかけた。
「いやいや、もうすぐ夏休みとはいえ、私とティナと会ったのは今日が初めてだよ?大丈夫?」
「アーロン様が他の人を侍らせているのは目撃情報として複数上がってるのだから、それに対抗したいのよ。それと、友達として招待するから問題無いわ」
「・・・・・本当に?」
「でも、アーロン様とは夏休みに入ったら関係を切ろうと思ってるから、新しい婚約者も探さないといけないのよね」
それをフェルを見て言うものだから、さっきのことを思い出してまた顔が赤くなる。もちろんフェルを見るセルマも顔が赤い。夕日のせいにしたくなるが、それにしては赤すぎる。
「・・・・・お、女2人だけど」
「貴族によっては養子にとったりすることもあるから問題ないわ」
「・・・・・いや、婚約者にするって話」
「例は少ないけれど女同士の場合も存在するわ」
「まだ会って1日も経ってないけど」
「半日もあれば親友よ」
「本当に大丈夫?」
「私の心配は要らないわ」
セルマの覚悟は硬すぎてヒビすら入らなさそうだった。となるとあとはフェルの気持ちの問題。フェルは長い溜息をつく。
「お近付きの印に何持っていったらいい?」
「何もいらないわ。ただ」
「ただ?」
「服装はドレスみたいなのが見たいわね」
「仕方ないなぁ」
そうしてどちらからともなく笑みが生まれる。数奇なことになったものだ、なんて考えつつ、顔を赤くして微笑みながら握手をする。
「セルマ、これからよろしくね?」
「ティナにも言っておくのよ?」
「わかってるよー。っとそうだ、はいこれ」
セルマが疑問符を浮かべる中、フェルが取り出したのは真っ黒な宝石だった。漆黒と呼ぶに相応しいその宝石は見れば見るほど吸い込まれそうな艶のある石だった。
「これは?」
「ブラックカルセドニー。本当は違うけどオニキスとも呼ばれてる宝石だよー」
「これを、私に?」
「もちろんだよー。そんなに覚悟決まってるなら、私からも何かプレゼントした方がいいかなって。それに、この石にはちょっとした対魔術とか抗魔術の防御魔術を仕込んだ魔導具だからねー」
「そ、そんな高価な物、私には合わないわよ」
「絶対合うよ。それにこれ、親から渡されたんだよ。『もし大切な人が出来たら、これを渡すように』って。あとブラックカルセドニーって、魔除けとか人間関係をリセットするだとか、勇気を与えるみたいな効果のあるパワーストーンでもあるんだよね。だから今のセルマにピッタリなのかなって思って」
覚悟が硬かったセルマも、フェルの覚悟の強さには驚いた。親の形見のような宝石を相手に渡すということは、つまり。
「プロポーズ、みたいね」
「あーもう!言わなきゃ気付かないと思ってたのにー!」
今のやり取りで相思相愛みたいになっていると分かってしまったセルマは、フェルの覚悟を尊重することにした。
「どうやって付けようかしら?」
「ネックレスでもブローチでもいいし、・・・・・・・指輪でも」
蚊の鳴くような声で恥ずかしがりながら言ったフェルの言葉もセルマには聞こえていた。聞こえていたからこそ恥ずかしくなって頭が沸騰した。
「と、とりあえずネックレスにするわね」
「わ、分かった」
そうして2人は行動が止まる。セルマはやって欲しいことがフェル待ちだし、フェルはセルマが何かを言いたそうだからセルマ待ちである。
「・・・・ネックレス、付けてくれないのかしら?」
「えーっと、ここでネックレスにするの?」
「あぁ、そういう事ね。同じサイズだから交換しようと思って」
ネックレスの先がちょうどブローチみたいな意匠となっていて、そこに宝石をはめ込むタイプのようだった。セルマは慣れた手つきでネックレスを外すと、嵌っていたルビーのような血のように赤い宝石を取り出した。それを見て、フェルが血相を変えた。
「セルマ、その赤い石は何処で手に入れたの?」
「アーロン様からの貰い物よ。ネックレス自体は私が持っていたものだけれど」
「その赤い石、催眠魔術入ってる」
「そう、なの?」
「多分効果としては、アーロンさんのことを妄信するようになるタイプだと思う」
その言葉にセルマも血の気が引く。
「じゃあ今までお金を渡していたのは」
「その石のせいかも。しかもこれ、壊したら爆発する」
「どうやって処理すればいいのよ」
「私が知り合いに掛け合ってみる」
「分かったわ。任せるわよ」
そうして血のように赤い石はフェルの手に渡り、フェルはそれをポケットの中に収納した。それはそれとして、ブラックカルセドニーをブローチに嵌め込むと、ちょうど同じ形だったのかすんなりと固定された。あとはネックレスを付けるだけ、なのだが。
「フェル、ネックレスを着けてくれないかしら?」
「分かったよー。じゃあちょっと失礼して」
ベッド脇の椅子からセルマの隣に腰掛けるとネックレスを手渡されて背中を向けられる。フェルは宝石が固定されているのを確認してから優しく丁寧にネックレスをかける。かける時にセルマの項を見てドキドキすることはあったものの、無事に装着することが出来た。
「なんだか、自信がついたような気がするわ」
「そういうのも信じられてる宝石だからね」
「違うのよ。フェルに着けてもらったからよ」
「うぇへー。そんな事言わないでよー。今日寝る時とか夢に出てきそうじゃん」
「良いじゃない。幸せな夢なのだし」
「そしたら明日からは顔真っ赤にして授業受けることになるよー!」
「責任ぐらいは、取ってもらわないといけないもの」
そこからは話題が無くなり無言が続いた。ベッドの上で隣りあって座っているが、手を繋ごうとして恥ずかしくて引っ込めたり、セルマがフェルの肩にもたれかかって顔を真っ赤にしたり、セルマが腰より長いフェルの白髪を弄ったりという、無言の攻防が続いた。そういうのが30分程続いたあと、ふと、フェルが気付いた。
「あれ?今何時だっけ?」
「・・・・もう授業は終わってるわ。というか部活の時間ね」
「それじゃあ、寮に案内してくれる?」
「エスコートしてくれるのなら」
「仕方ないなぁ」
そうして結界を解除して、セルマに案内されるがままに寮に向かうことになった。部屋に関しては編入前に聞いていた通り屋根裏部屋に通じる最上階にある部屋との事で、見晴らしは良さそうだった。ただ。
「・・・・・セルマ?部屋の前なんだけど、どうしてついてきたの?」
「隣なのよ」
「んー??????」
実際に隣の部屋に行ってみると、セルマが持っていた部屋の鍵で解錠出来てしまった。つまり。
「本当に、隣の部屋、なんだ」
「私の部屋に帰るついでだから、ここまで着いてきても別に何の問題もないわ」
「確かにそうかも・・・・」
「それじゃあ、後でフェルの部屋に行くわ。お話、しましょうね」
「はーい・・・・」
そうしてセルマと一旦別れ、部屋の鍵を開けると、腕を組み、仁王立ちしているティナの姿があった。中に入り扉を閉めて鍵をかける。
「ティナ?」
「全く、どれだけ砂糖を摂取させる気ですか」
ティナの顔は、それなりに赤かった。
「いや私も予想外なんだけど!?」
「やはりフェルは女たらしですね」
「否定できないのが悔しい・・・・!!」
立っているのもなんだし、ということで取り寄せたキングサイズベッドに腰掛けると、ティナはその隣に座った。
「・・・・見てたの?」
「というかフェルがワーディングを張るので見ざるを得ませんでした。そのあとの砂糖を吐き出すような展開に、ラナから挙動不審者だと言われましたよ」
「それ、見た方がいけないやつじゃ」
「それはともかく」
強引に話を打ち切るティナ。ということは、お互いの情報交換の時間だ。
「まずフェルとセルマのことに関しては上手いこと誤魔化しておきました。ラナも協力してくれたので助かりました」
「はいはい。それに関してはありがと」
「どういたしまして。次にアーロンさんに関してですが、彼に魔術を使用した形跡が見られました。つまり、フェルが仮定していた『真の黒幕』説が濃厚です」
「あぁ、それに関して私からも1個いい?」
そうして取り出したのはセルマから貰った血のように赤い石である。それを見てティナも表情を変える。
「誰から貰いました?」
「セルマから。アーロンさんがプレゼントした宝石だってさ。いや、知らない人からしたら宝石に見えるけど」
「賢者の石、ですか」
「アーロンさんが家で作ったのか、はたまた貰ったものをプレゼントしたのか、それとも闇市みたいなとこで買ったのか。どれにしても近くにいやーなのが居るのが分かっちゃったからなぁ。セルマと適合してなかったのが不幸中の幸いだけど」
そう言ってベッドに寝転がって賢者の石と呼んだ宝石を明かりに通して見る。そんな風に油断していたからか、
「では最後に。私が居ながら婚約者を作ったことに対して弁明を」
「不可抗力だよ!?というかセルマの言葉聞いてたよね!?ティナ『も』なんだけど!?」
「それは・・・・・・・えっ?」
ティナに仕返しが出来た。
「よろしく言っておいて、とかではなく?」
「私とティナの2人を婚約者にするって」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・あと、隣の部屋だから後で遊びに来るって」
「ぴゃ・・・・・・」
ばたんきゅー、という擬音みたいにティナもベッドに寝転がった。完全に処理落ちである。
「フェルみたいにプレゼント渡せないんですが」
「まぁいいんじゃないの?さっき話した感じだと、ただ単に女子トークがしたいだけみたいだし」
「それならいいんですが・・・・」
と、そんな会話をしていると部屋の扉からノックの音が聞こえた。適当に返事して扉を開けると。
「き、来たわよ」
そこに居たのは、黒のネグリジェを身にまとったセルマであった。