サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女と三賢者   作:イェーレミー

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第5話〜 好きな物はいっぱい吸うのが健康に良いとされる

次の日。目が覚めたフェルとティナはおはようの挨拶をしつつ朝のルーティーンを開始。朝ごはんを食べ、シャワーを浴びて着替えていたところで気付いた。

 

「あ、セルマにジャケット貸したままだった」

「昨日、そういえば貸してましたね」

「まぁこういう時のための予備だよねー」

 

と言ってタンスに手をかけたところで扉の方からノックが聞こえた。疑問に思ってティナが扉を開けるとそこに居たのはセルマだった。

 

「お、おはよう・・・」

「おはようございます、セルマ。ちゃんと眠れましたか?」

 

ティナのその言葉にボフッと音がなりそうなほど瞬間的に沸騰するセルマの顔。疑問符を浮かべるティナに対して、セルマは少し慌てた様子でジャケットを渡す。

 

「こ、これ、昨日はありがとう」

「本人に言ってはどうですか?」

「そ、それだけだから!」

 

そのまま押し付けるようにジャケットを渡したセルマはピューッと擬音がなりそうなほど急いで自室に戻って行った。首を傾げつつ扉を閉めると、聞こえていたフェルが顎に手を当てて考える人のポーズをしていた。

 

「部屋に入ってきてくれれば、朝食も用意出来たんですが」

「ティナ、そのジャケットちょっと投げ渡して」

「受け止めてくださいよ?」

 

畳まれたジャケットをフリスビーの要領で投げ渡すと、フェルはそのままそのジャケットを広げた。

 

「あっ」

「どうされました?」

「あー、そりゃ入れないよねぇ・・・・・。見てここ。畳んだ折り目とはまた別の線が入っちゃってる。それにこっちは掴んだような跡だし」

「つまり」

「抱き枕にしたか、吸ったか、もしくはその両方かってこと。あんな様子だったし」

 

後日、2人は予備の予備として制服のセットをもう2着ずつ追加購入した。

 

─────────────────────

 

「おはよー」

「おはようございます」

 

教室に入る直前、ヒソヒソと陰口が聞こえた。そのため何も聞こえていないフリをしつつ教室に入ると、ラナとセルマが会話していて、それを見て扇子で口元を隠しながら会話する3人グループが居た。声質的にも彼女達が陰口を叩いていた人物だろう。一瞬だけ目線を送りつつ、セルマの後ろの座席へと向かった。

 

「セルマ、ラナ。おはようございます」

「フェル、ティナ、おはよう」

「2人ともおはようね。そういえば2人には見せてなかったわね」

「ん?どしたのラナ。何か新商品でも買ったの?」

「ええ、そうなのよ」

 

興奮気味のラナは懐から何かを取り出した。

 

「えっと・・・・櫛?」

「ええ、鳥モチーフの金細工の櫛よ。少し流行には乗り遅れてしまったけれど、手に入れることが出来たのよ!」

「そういえば気になったのですが、流行が廃れた物ってどうされているのでしょうか?」

「そんなの売りに出すわよ。持っていても仕方が無いもの」

 

その言葉に冷や汗を浮かべるのはフェルだった。

 

「私もですが、懐中時計を使ってまして。最近は腕時計が流行りだしているらしいので、どうしたものかと」

「私なら売って、そのお金で腕時計を買うわね。ただまだ腕時計は視認性が低いから当分は懐中時計で良いかもしれないわね」

 

その言葉に胸を撫で下ろすフェル。

 

「フェルも持ってるのかしら?」

「ティナと一緒にプレゼントされたものだから、捨てるに捨てられなくて」

「そ、そういうのは、ちゃんと手入れをして長く使い続ければいいと思うの。特に時計は長持ちしやすいから」

「私もセルマの意見に賛成かなぁ。着れなくなった服も、布材として見れば使い道があるでしょ?」

「なるほど・・・・、その発想は無かったわ」

「もちろん、食べ物にはほとんど役に立たないけど、それ以外の物には素材としての価値があると思ってるよ」

「確かに、使えなくなった剣とかは溶かして再び剣にするというのを聞いたことがあるわ・・・・」

 

何やら鋭い目になったラナがブツブツ呟き始めた。彼女は商人上がりの貴族だから、今まで無価値だと思っていたものがお金になることに気付いて計算を始めたのだろう。その間にスッとセルマの方に身体を寄せた。

 

「セルマ、何か変なこと言われた?」

「だ、大丈夫よ」

「何が大丈夫ですか。セルマ、貴女は私達と一蓮托生なんですよ?つまり、セルマに言われた悪口や陰口は私達に言ってきたことと同義です」

「見栄張らなくても大丈夫だよ。言われたことによっては家同士の問題になってくるし」

「その、アーロン様に関してなの。ノルン伯爵令嬢の」

「相手して貰えなくて可哀想、って廊下でも聞こえてきてたから、人が分かれば大丈夫。あそこの3人組、多分まだこの学校がどんなとこなのか分かってないみたいだし」

「ですね。ではこれからは私達3人、もしくはラナを含めた4人で動きましょうか」

 

やはり外で聞き耳を立てていたのは正解だったようだ。標的であるセルマに対して悪役令嬢みたいな陰湿なイジメを仕掛けてきていた。だから今後の行動の仕方を提案してみる。するとセルマは遠慮がちに言った。

 

「でも、その、」

「噂は言わせておけば良いんだよ。実際に起こった事じゃないんだし。それで傷付けようとしてるなら、反撃すれば良いだけだからね」

「でももだってもありません。もし本当に傷つけるようなことがあれば、それこそ報復も考えなければなりませんし」

 

セルマの反応は分かっていたので被せるようにして言葉を重ねる。何せ彼女は、自分達2人に告白した勇気ある少女だからだ。それならば、彼女のことは家も含めて守らなければならない。

 

「それと」

「?」

「いえ、この話は3人だけの時にしましょうか」

「勿体ぶらずに教えてくれないの?」

「構いませんが、良いのですか?昨日より大変なことになりますよ?」

 

昨日の醜態成を思い出したセルマは赤くなって勢いよく首を振った。

 

「では、放課後にでも」

「ねぇ、何の話をしているのかしら?」

「ん?あぁ、昨日セルマに話してたアーロンさんを探る話」

「それを2人に共有していました」

 

計算が終わったラナに聞かれたので誤魔化すことにした。もちろんティナは私のパスに対応してくれた。

 

「正直聞くに堪えない言葉ばかりだったので、念入りに相談していたところです」

「聞いた感じ、多分生徒会に入れたからって理由で威張ってるのかなぁと。入れて満足してるタイプっていうか」

「そうだったの・・・・・」

「あとは、セルマに聞かせたくない罵倒集とかもあるからね・・・・」

「・・・・・酷いわね。婚約者に対しての言葉とは思えないわ」

「私もそう思う」

 

そうして授業が始まりそうだったのでこの話は一旦打ち切り、ラナは席に戻っていった。

 

────────────────────

 

お昼は昨日と同じく4人で食べ、何事もなく放課後となった。やはり社交界の延長線上なのが分かりやすく、授業に関しても社交界シーズンというのもありマナー講座が大半だった。ただ明日は授業が全くない休みの日であり、その日は寮でゆったり過ごす者、お出かけする者、もしくはクラブ活動に精を出す者で3分割出来るため、何をするにしてもそそくさと寮に戻る人が大多数であった。そんな中、極少数のフェルとティナはセルマに案内されて旧庭園と呼ばれる、本来は立ち入り禁止の場所に来ていた。ここなら、人が来る心配は僅かで済む、と。

 

「それでセルマ、何から聞きたい?」

「まずは、アーロン様の罵倒集から・・・」

「分かりました。ただ、いつでも止めてくださいね。それで精神に異常をきたしてしまったら元も子も無いので」

「分かった、わ」

 

昨日ティナが聞きこみ調査をしている時に本人から聞いたというセルマに対しての罵倒をセルマ自身に浴びせた。一言目でセルマが膝をつき打ちひしがれてたから二言目の前に強制停止させたけど。

 

「ストーップ!流石にそれはまずいよティナ!あーもう、セルマは大丈夫・・・じゃないよね」

「だ、だい、じょうぶ、よ・・・・」

「すみません」

「それ大丈夫じゃないから!あーもうセルマは服汚しちゃって」

 

セルマを立たせてスカートに付いた土汚れを払い、そばにあった長椅子に座らせる。ついでに人払いの結界もオンにしておく。

 

「人払いの結界も張っておいたし、人目を憚らずに泣いても大丈夫だよ」

「今は、いいの」

「全く、意地っ張りなんだから・・・・」

 

ちなみにアーロンさんの罵倒集は、端的に意訳すると「金づる」「貧相」「自分がいなければ使えない存在」といったものである。婚約者だろうとそんな罵倒をするのは個人的に許したくない。というかセルマはどちらかというと豊満な方に入る。それに、何かが引っかかる。

 

「セルマ。アーロンさんに関しては、もう忘れた方がいいですね。あんなのを婚約者だとは思ってはいけません」

「婚約破棄もするんだし、敬称付けるのも止めちゃおうよ」

「そ、そうなると、その、フェル、様?」

「あ、そうなっちゃうの!?私もティナも様とかさんとかそういうの付けなくていいのに!」

「で、でもその、色々お返し出来てないから・・・・」

 

ここまで来てセルマの大体のことが分かった。セルマは律儀なのだ。律儀だからこそ自身の問題は抱え込もうとするし、相談してもするだけに留めて自身で解決しようとする。もし他人が関わって解決しようものなら等価交換のように何かを返さないといけないという強迫観念が強くなってしまう。セルマという少女はそういう娘なのだ、と。

 

「一人で頑張ろうとするのは良いことですが、私とフェルはそんなセルマと将来を誓った訳ですからセルマの些細な悩みも私達の悩みなんですよ。なので報連相とかをしっかりしてくれないと、最悪セルマが居なくなってしまいます」

「うっ・・・・」

「そ・れ・に・、セルマは私とティナのこと、もう好き好き大好きな感じなんでしょ?それなら遠慮なく言ってくれた方が、私もティナも色んなことしてあげられるよ」

「そ、それは・・・・って、もしかして・・・・」

 

言いかけたセルマが言葉を飲み込んで、なにかに気付いて顔を赤くする。ティナは無言でセルマの腕を組んで動けないようにして、フェルは満面の笑みをセルマに向ける。

 

「今日はティナのジャケットで寝てみる?」

「ご、ごめんなさいー!」

「わ、待った待った!」

 

項垂れるように頭を下げようとするセルマを間一髪のところで阻止するフェル。そこにティナがセルマに囁く。

 

「別に悪いこととは言ってませんよ。むしろそれでセルマが少しでも幸せになるのなら、何回でも」

「というか今吸っちゃう?」

 

言葉だけならどう見ても学生がするものでは無いが、別に疚しいものでも無い。リラックスするための方法は人それぞれ。別に吸われても減るものではないし、何でも「生」の方が良いから提案してみた。すると顔を真っ赤にしたセルマは挙動不審になりつつも、ティナの胸元に顔を埋めた。

 

「息は出来てますか?」

「だ、大丈夫・・・」

 

次の瞬間、多分昨日のフェルのジャケットでもしたと推定される行動を取った。セルマは呼吸音が出るほどすごい勢いの深呼吸をした。しかも3回。するとセルマはそのまま涙を流し始めた。気持ちが落ち着いたが故に感情が昂ったのだろう。言葉にならない声を上げて泣くセルマに対して、フェルとティナは母親のように優しく髪を撫で、背中をポンポンと軽く叩いた。

 

───────────────────

 

数十分後、セルマは泣き止んだ。目は泣き腫らして赤くなってはいるがスッキリした様子で、恥ずかしそうにティナの方を向いた。

 

「その、ごめん。汚しちゃって」

「大丈夫ですよ。洗えば済む話ですから。それより、落ち着きましたか?」

「落ち着いた、と思う」

「ならよし!いやー、今まで結構辛気臭そうな顔してたから、思いつめないで欲しいなぁって思ってたんだよー」

「あ、ありがとう・・・・、ってそうじゃなくて」

「ん?ティナだけじゃ足りないなら私も吸う?」

 

みるみるうちに顔が赤くなるセルマ。それに対していつも通りのテンションで対応するフェル。

 

「で、昨日寝る時に私のジャケットをどうしたのさ」

「それは、その」

「大丈夫ですよ、セルマ。どんなことをしたのか聞きたいだけですので。怒ることも注意することもありません。素直に言えて偉い、と頭を撫でるぐらいでしょうか」

「ね、寝る前に、ジャケットの匂いを、吸い込んで、そのまま、ジャケットを抱きしめながら、寝たの・・・・・・」

「・・・・・セルマ、私の事好き過ぎない?」

「き、気持ちが落ち着くから・・・・・」

「まぁアイロンかけてから返して欲しかったけど、時間的にそんな余裕無かったんでしょ?」

「うん・・・。起きて、また吸って、返さないとって思ってそのまま・・・・・・。こ、今度からは、洗って、返すから」

「別に構いませんよ。洗い換えは用意してますので。それに、それでセルマの気持ちが落ち着くなら安いものですよ」

「でも・・・・」

「じゃあ質問するけど、洗って匂いが落ちるのと、洗わず返すのと、どっちが好き?」

「洗わずに返す・・・・・あっ」

「それなら洗わなくて大丈夫でしょ?」

「うっ・・・・・うん・・・・・」

 

誘導尋問みたいになってしまったが、セルマの本当の気持ちと、それからジャケットがどう使われたのか聞けたので満足したフェルは、明日のことについて尋ねた。

 

「そういえば明日ってどうする?」

「暇ですね」

「そ、それじゃあ、デートとか、どう?」

「デートかぁ。私もティナも土地勘ないからどこに何があるかとか分からないよ?」

「だ、大丈夫。私が、案内するよ」

「それなら心強いね。お願いしようかな?」

「行き先は何処ですか?」

「王都、とか・・・・」

「確か王都までは馬車で半日でしたっけ?」

「そうなる、と思う・・・・」

「馬車の手配は済んでる?」

「まだ・・・・」

 

するとここでフェルが1度手を叩く。大体のプランは決まったので、寮に戻ろうという合図をティナに出す。それに反応してティナもセルマとの腕組みを止めた。寮までの道に居る人の姿はだいぶまばらになったため、フェルはセルマと手を繋いだ。

 

「では行き帰りは私に任せてください」

「明日は楽しみにしとくねー」

「ですね。セルマが考えたプランですから。私達があーだこーだ言うものでもありませんし」

「あ、ありがとう・・・・」

「それじゃ、お部屋に戻ろっか。お姫様?」

 

─────────────────────

 

その夜。セルマは侍女に相談していた。デートでのよくある悩み「服が決まらない」である。女同士、かつまだ非公式ではあるが婚約者2人とのデートなため、アーロンの時よりも難易度が上がっているのだ。

 

「別に気楽な服装でいいよ?コルセットとかつけなくていいし、歩き回るなら足も考えた方がいいかも」

「そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ。セルマにお任せします」

 

とは言われたものの、移動方法が分からないためそんなに重いドレスではなくても良いのかなと思いつつ、でもデートだから綺麗におめかししておきたいし髪型もいつものでいいのかという気持ちもありつつで、悩みに悩んでいた。そうして想像の中で思考と試行を重ねた結果、少しだけ露出のあるドレスにすることにした。髪型は2人を見習って結わずにストレートで髪飾りを一つだけ。靴は学園で使っているものを履き、服装は―――

 

 

───────────────────────

 

同時刻。フェルとティナの部屋では。

 

「ティナ?アレ使う気?」

「さすがに使いませんよ。アレは完全に移動チートじゃないですか」

「じゃあどうするのさ」

「斥力を使いますよ」

「はーん、そういう事ね?そりゃ速いね。でも注意しておいた方がいいよ?賢者の石を生成出来るのが居るんだし」

「確かに。そういえば話は変わりますが、あの店に寄りますか?」

「流石に変わってるんじゃないの?」

「全然行ってませんからね。あったら行きませんか?」

「行く時はセルマに相談してね?」

 

 




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