デート当日。楽しみすぎて少し遅れてしまったセルマは集合場所である校門前に5分前に到着した。本来なら15分前に到着して先に待っていたかったが、今日の服装を考えるために睡眠時間を削ったのがいけなかった。それが積もり積もってこんな結果になってしまったので、次からは「服装はその日に悩もう」という結論に至った。ちなみに服装はというとローブデコルテとエンパイアドレスで悩んだ結果、ローブデコルテになった。そしてネックレスを出しており、胸元にはフェルにプレゼントしてもらったブラックカルセドニーが輝いていた。本来は夜間の礼装の最上位であるローブデコルテだが、セルマがこの服を選んだ理由はただ一つ。デートで浮かれていて、フェルやティナにアピールしたかったからである。
そんなセルマが到着したとき、校門前にはフェルが居た。彼女は前に普段着だと言っていた青いドレスを身にまとっていた。そしてフェルがセルマに気付くと、「おーい」といった感じで手を振り出した。
「おはよーセルマー。・・・・すっごいカッコしてるね?」
「おはようフェル。これは、その・・・・・に、似合う・・・・?」
「もっちろん!というか、私がプレゼントした宝石も付けてくれてるから威力マシマシだよ!」
「そ、そうかな・・・・えへへ」
「お二人共、準備が出来ましたのでこちらへ」
そうして空気が緩んでいたところにティナの声が響く。しかし彼女の姿はどこにもない。
「ほーい。じゃ、行こっか」
「ティナの声が・・・・」
「あぁそれね」
フェルはセルマの手を取りエスコートするように歩き出すと、何も無いところからティナの姿が現れた。彼女の姿は黒いノースリーブドレスであった。体型があらわになるタイプのドレスだったためティナの豊満な胸の主張が激しかった。具体的には横から見た時が凄く、セルマは自分の豊満とは言い難い胸を揉んだ。
「ちょーっと変な移動するから、見られたくなくていつもの結界張ってたんだよ」
「いつもフェルが張ってくれてる結界って、外から見たらこう見えてたの・・・・」
「ですね。フェルみたいに魔導具を使うので。今回の結界に関しては、移動方法というより服装ですね」
「あっ」
「結構露出高めなドレス三人衆でしょ?下から見られたら大変かなって思ってね。ほら、乗った乗った」
そう言ってティナが乗る絨毯が敷かれた板に乗ることを促されたセルマはその板に慎重に乗り、座った。大体板の大きさは大人4人がゆったり座れるほどだったため、ティナとフェルとセルマが乗っても十分余裕があった。
「では行きますよ」
その声とともに板ごと浮き始め、校舎よりも高くなると今度は前進を始めた。ゆったりとしたのがどんどん速くなっていき、下の景色がすごい勢いで流れていく。それなのに風は感じず、揺れもなく、乗り心地は良かった。
「これなら王都までひとっ飛びでしょ?」
「すごい・・・・・」
簡素な作りながら安定感は素晴らしく、それでいて早馬が比べ物にならないほどの速度。これが普及すれば恐らく今までは出来なかったことが出来るようになる、と考えていると目の前にフェルの顔があった。
「うわぁ!」
「・・・・・今、これがあったら生活水準上がったり色んなことができそうとか考えたでしょ」
「う、うん・・・」
「こういうシンプルなやつだからこそ、悪い人は悪用を考えちゃうんだよ。例えばどんなところにでも暗殺者とかを運べるようになったり、脱獄した人が逃げるのに使ったり。あとは戦争して敵陣に突っ込ませたりとか。そういうことする人が居ない、とは言えないからコレは他の人には見せられないんだ。飛行魔術は魔術が使える人にしか使えないけど、これは魔力さえあれば誰でも使えちゃうからね」
確かにその通りである。そういう悪いことに使う人が居ないとは言えない。第二王子派であるクロックフォード公爵は戦争をしたがっているという噂もある。そんな人にこんな玩具を与えてしまえば、どうなるのかは一目瞭然だった。
「誰にも見せられないなら、王都に入れないんじゃ」
「1箇所だけ、場所が変わってなければ入れるところがあるんですよ」
「・・・・大丈夫なの?」
「私とティナの唯一の親友がそこで暮らしてるからね。彼女は忙しいから会えるかどうか分かんないけど」
そう言ってフェルは苦笑した。
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学園を出発してから大体1時間後。王都の一等地の角地に立つ建物の屋上に着陸した。それと同時にティナは板を畳み始めた。
「2人とも、王都は知らないって・・・・」
「ここの場所は知ってるだけでここから出たことないからねー。それで王都全部知ってるって言っちゃったら変でしょ?ここに着陸して、ここで買い物して、ここから家に帰ってたから」
「それは・・・・確かに・・・・。あとここってお店なの?」
「そだよー。大抵のものはここで揃うかなー」
「2人の親友が経営してるの?」
「ですね。彼女は天才なので」
「・・・・学校は?」
「確か飛び級で卒業したって言ってたような」
飛び級で学校を卒業した、というところでセルマは思い当たる有名な人物が2人ほど居た。どちらも女性ではあるが見分ける方法が一つある。
「・・・・・・・・七賢人?」
「違いますね」
「じゃあここって」
2人の親友が誰なのか、ここはどこなのかが分かったと同時に、屋上にあった扉が開く。出てきたのは亜麻色の髪を持つ、赤いフード付きローブを着た少女。
「2人とも久しぶり。それとキミは初めましてだから自己紹介しないといけないね。ボクはフィア・グレイス。ここ『シュガーラッシュ』の創業者兼店長さ」
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フィア・グレイス。水魔術と氷魔術を得意とする。が、魔導具に関しても造詣が深い。二つ名である〈砂糖の魔女〉は、彼女が何かにつけてお茶会を開こうとしたり、魔術を使用した後に糖分補給と言って甘いものを食べていたことに由来する。なお本人としては自称したり他称されるのは好きだが「同級生からその二つ名で呼ばれる時は大抵お茶会目当てかお菓子目当てかの二択だからあんまり」との事。ちなみに彼女自身の料理の腕は良く、上記の糖分補給時のお菓子は自作。
魔女ではあるが近接戦闘もそつなくこなせるタイプであり、その場合は魔導具や魔術で剣を作る。一方遠距離戦では妨害に重きを置き、水魔法で地面をぬかるませて動けなくなったところに大量の水の塊を降らせて気絶、出来なければ大量の水による二次災害を起こす、といった戦法を得意とする。そのため魔法戦でのセオリーの一つ「攻撃魔術は回避か結界魔術での防御」を壊した人物でもある。ぬかるんだ地面ではまともに回避することは難しく、結界魔術で防御しようものなら二次災害によって水魔術による攻撃は防げても大量の水による濁流という物理攻撃を防げないためである。そのため「飛行魔術での回避」というセオリーを作った人物としても有名である。
13の時にミネルヴァに入学し、魔術と魔導具の両方で数々の才能を発揮したため半年で高等部1年に飛び級。〈紫煙の魔術師〉ギディオン・ラザフォードの研究室の所属となる。当時の研究室の著名な人物は同級生の〈沈黙の魔女〉モニカ・エヴァレット氏。当時からエヴァレット氏とは共同で論文を出すなどしており親交があった模様。
14の時に宮廷魔法師団から推薦を受け入団しミネルヴァとの2足わらじとなるも、魔法師団の面々はエヴァレット氏の情報を彼女から聞き出そうとしたため逆鱗に触れ半年で退職。なお実力としては入団祝いで実力を測るために総出で魔法戦をした時、宮廷魔法師団を完膚無きまでに叩きのめした程度である。その時の団員曰く「魔女と聞いていたのに氷の剣を作って白兵戦してくるとは思わなかった」。
15の時にミネルヴァを卒業することになり、卒業後は食材や魔導具などを販売する店『シュガーラッシュ』を王都にて開く。現在は『シュガーラッシュ』にて過ごす傍ら、新たな魔術式や魔導具に関する論文を執筆・発表している。
昔読んだ本に書かれていたフィアという人物のプロフィールを思い出していたセルマは固まっていた。そんな本や論文に出てくる有名人物が目の前に存在しているからだ。
「あ、あのっ」
「あーちょっと待ってね。先にこっちから。久しぶり、フェルもティナも。元気してたかい?」
「フィアはまぁいつも通りだね。それと後にされた娘も一応私達が連れてきたんだけど?」
「それはごめん。初見さんだったから間違って屋上から入ってきたのかと思ったよ。というか2人の交友関係ってボク以外居なかったからね。そもそも想像すらつかないよ」
「お久しぶりですね、フィア。私達の婚約者をあとでと片付けたのでそれ相応の代価は支払ってもらいますよ?」
「あー、それは払うよ。一品無料とかで手を打と・・・・・・え、ちょっと待ってくれるかい?」
「どしたの」
違和感を感じたフィアは話を一旦止める。しかしフェルとティナは何が問題なのか分からないというような表情をしている。
「誰と誰が婚約者なんだい?」
「私達とセルマ」
「セルマっていうのは・・・・彼女のこと?」
「は、はいっ。せ、セルマ・カーシュといいます!」
「いつ?」
「一昨日」
「誰から?」
「セルマの方から。一目惚れって」
「ち、ちょっとフェルっ!」
あのフィアと2人に意外な繋がりがあったのは驚きだが、それ以上に告白して婚約者同士になったのをバラされたので一瞬で顔が真っ赤になるセルマ。対してフィアはというと少し値踏みするように目を細めたあと、満足そうに頷いた。
「ボクの親友の2人のこと、よろしく頼むよ」
「は、はい!」
「そうだ。婚約祝いにここの商品持っていくかい?」
「そ、それは嬉しいんですが・・・・その」
「その?」
「さ、サイン、貰っても、いいですか?」
「えっ?」
その言葉にセルマ以外が固まる。変なこと言ってしまったと思ってセルマは口に手を当てようとするが、それよりも早くフィアは座っているセルマと同じ目線になるようにしゃがみ、顔を近付けた。
「キミ、もしかしなくてもボクのファンかい?」
「は、はい!フィアさんが執筆した論文は全て読みました!『ミネルヴァの泉』に載っている物だけですが・・・・・」
「え、理解できたの?アレって最低でも中級魔術師の知識が必要だけど」
「もちろん最初は分かりませんでしたが、読んで調べるうちに少しずつ分かるようになって・・・・。例えば、今までなら魔術で相手の頭上に物を落とす時は座標を検索してその上空で作って自由落下させていましたが、その場合だと自由落下の時点で空気抵抗などを計算しないといけないので魔術式が冗長になりがちな上精度もいまいちでした。しかしフィアさんの論文だと座標ではなく距離で指定することによって仮想的に棒を作成し『棒の先に魔術式をくっつけて、棒ごと落とす』というイメージのしやすいものになっていました。これなら説明もしやすいので初めて魔術を覚える人や魔術初心者には理解がしやすく、魔術師や魔女にとってはこれさえ覚えておけば移動する相手にも仮想の棒を伸縮させる魔術を使うことで、今までの座標での指定では出来なかった不規則な動きをする相手にも対応が出来るという・・・・・あっ」
いつの間にか熱く語ってしまっていたことに気付いて手で顔を覆い隠すセルマ。フィアはセルマを見る目が変わった。
「キミ自身の魔術の腕は?」
「水が少し出せる程度です・・・・・」
「魔術の練習は?」
「ど、独学で・・・・」
しどろもどろになるセルマに対して、フィアの目が徐々にジト目になっていく。フェルとティナはそんな二人をニヤニヤしながら見ていた。
「初恋の人は?」
「あうっ」
顔が赤くなったまま、少し挙動不審になるセルマ。フィアはため息をつく。
「はぁ・・・・。フェル、この娘の初恋はボクらしいね。どちらかというと憧れてる方。大方何処かでボクのことか名前を見て、恋焦がれたから独学で魔術の勉強を始めたってところだと思う。フェルとティナは実際に見て一目惚れしたんでしょ」
「あうあうあうあう」
もはや人語ではなく鳴き声みたいなのをあげるセルマ。ほぼ公開処刑みたいになっているから当然ではあるけれども。
「そりゃサインも欲しくなっちゃうよねー。写真とかでしか見たことの無い憧れの人が目の前に居るなら尚更ねー」
「フィア、実際に告白されたのは私達が先なので」
「いやティナ、フィアが言いたいのは」
「私達と同じくセルマの婚約者になりたい、ということでは?」
「わ、私なんかで、良いんですか?」
卑下するセルマに対して、フィアは目線を合わせたままセルマの頭を撫でた。
「わ、わっ」
「少し弄るようなこと言ってごめんね。キミの魔力が澄んでいて余りにも綺麗だったからボクも見蕩れちゃってたんだ。そんな魔力を持ってるのに、その程度で腐らせておくのは勿体ないからね。キミが良ければ、ボクの弟子になってみるかい?」
「ヘタレ」
提案してきたフィアに対して堂々と暴言ぶちかましたのはフェル。ジト目でフィアを見ながらのハッキリとした物言いに同調するかのようにティナもフィアをジト目で見る。フィアはというとバツが悪そうに目線をズラしていた。自覚はあるらしい。セルマは唐突に聞こえた暴言にギョッとしていた。
「そこは『好きです結婚してください』って言うところでしょうに。いつもそうですよね。半数ぐらいはしっかりと決める時に限ってヘタレたり逃げたりしてますが」
「現に私とティナはセルマに初対面で一目惚れされて、その日のうちに告白されて結ばれたからねぇ」
「ボクにも色々考えはあるんだよ。というか2人はチョロ過ぎるのも問題じゃなかったかい?いくら好きだからって婚約者になると彼女自身も白い目で見られるけど、そこについての対策はしっかり考えたのかい?」
「そ、それは、その」
「セルマをイジメるならやり返すけど」
「そうですよ。社交界なんですから家ごと取り潰しが妥当ではないですかね?」
「ボクもそれには同意するかな」
結構過激なことになってきた。というかいつの間にか3人ともあくどい顔になっていた。具体的にどうやって取り潰すかの会議まで始まってきた。これが親友同士なのだろう、とセルマは少し憧れを含んだ目線で3人を見ていると、それに気付いたフィアはわざとらしく咳払いをして話を逸らした。
「ん、んっ。2人とも、お姫様をボク達の長話に付き合わせて良いのかい?」
「あ、そうだった。ごめんねセルマ」
「い、いえっ。長い間会ってなかったら、積もる話もあると思うし・・・その、フィアさんとフェルとティナはどうやって親友になったの?」
「インタビューとかでも聞かれなかったから言わなかったけど、幼馴染なんだよ。生まれたとこも同じだし。あと敬語とか付けなくていいよ」
「恐れ多くてっ、その、本当なら崇めたいぐらいで・・・・」
そう言って目を伏せるセルマにフィアは手でセルマの頬を包み込み、強制的に目線を合わせた。セルマとしては憧れの人に触られているという幸福感と申し訳ない気持ちが綯い交ぜになっていた。
「だってキミ、フェルやティナと同級生ってことはボクとも同級生ってことだからね。それに憧れの人から直接言われることは聞けないのかい?」
「い、いえ・・・・」
「まぁでも、無理しない範囲で良いからね。一番弟子になるのも、恋人にするのもね」
「え、フィアさんは前に弟子を取ったことあるって・・・・・」
少し意外な発言が飛び出した。『ミネルヴァの泉』にてフィアが特集されていた時に「弟子を取ったことがある」との記載があったのだ。それなのに本人の口から飛び出したのは「一番弟子」。つまりフィアは弟子を取ったことがないということだ。
「あー、『ミネルヴァの泉』でボクが特集されてた時のことかい?あれは『モニカとボクはお互いに師匠で弟子みたいな関係だった』ってやつだよ。論文書く時とかは確認し合ったり、共著の時は先生に確認してもらったりしてたし。それを都合のいいように書いてたから流石に編集部に乗り込んで修正させたけど、初版だけは修正出来なかったんだ。もしかしてセルマは、初版を買ったのかい?」
「フィ、フィアが載った『ミネルヴァの泉』は、初版で買うようにしてて・・・・」
お試しで敬語と敬称を外してみるとセルマは恥ずかしくて顔が熱を持つが、それ以上に言い表せぬ背徳感が背中を駆け抜けた。多分これは―――
「そ、その、フィアっ!」
「なんだい?」
「で、弟子になるから、その代わりフィアのこと・・・・」
「フェルやティナと同じく婚約したいって?」
「・・・・・・・・・・・」
「わーお。ストレートだねぇ」
耳まで真っ赤にしながら首を縦に振るセルマ。それに対してフィアはニヤニヤしていた。
「それならそうと早く言って欲しかったね。ボクは構わないし、後ろ盾にもなってあげるよ。虐められたら2人経由でもいいからボクに言うこと。いいね?」
「う、うん」
「あと、ボクの弟子になったからには、セルマは最低でも上級魔術師資格を20歳までに取ってもらうからね。お勉強もしてもらおうかな?」
魔術師資格は初級・中級・上級が存在する。だが20歳になるまでに初級魔術師資格を取れるのは一部の優秀な人のみ。20歳までに上級魔術師資格を取ろうものなら天才と呼ばれるレベルだ。それこそ、〈沈黙の魔女〉のように。なのにフィアはそれを目指すと言っている。なんて高すぎる目標なのだろう。
「あー、今高すぎるとか思ったでしょ。セルマの魔力って質が良すぎるんだ。平均的な魔力量を魔力の質で補っている感じかな。でも魔力の放出の仕方が今ひとつだから真の力を発揮できてない、ってところなんだよ。ボクの見立てが正しければ、セルマは中級魔術師資格なんて簡単に取れるよ。上級がちょうどいいんじゃないかな」
「わ、私が・・・・・上級魔術師に・・・・・?」
「ボクが〈砂糖の魔女〉の名において保証するよ。セルマはそこまで行ける素質がある。それを十全に発揮するか、今のままで良いのかはセルマが決めることだよ。もちろん今決めてもいいし、後で決めても大丈夫だから」
「そ、その・・・・・・頑張ってみても、いいの・・・・?」
憧れの人にそんな風に言われてしまったら、セルマはもう難易度のことなんて頭から抜けてしまっていた。
「もちろんだよ。魔力の関係上早い方がいい、っていうのはあるけどね」
「わ、分かった。頑張って、みる」
「そう決めてくれただけでも、ボクは嬉しいよ」
口元を綻ばせて喜ぶフィアを見て、セルマはやっぱり惚れてしまった。
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「王都観光といえば、まずはボクの店だよね。セルマには特別に、90%から100%オフでいいかい?」
「え、そんな・・・・。い、いいの?」
「今日からセルマはボクの弟子になったんだから、ボクは弟子のすることを全力でフォローするに決まってるでしょ?」
「そんなんだからヘタレって言われるんですよ」
「そうそう。『好きな人を全力で応援したい』とか言えないのかな?」
「・・・・2人とも黙っててくれるかい?次言ったら口元に水を付けて溺れさせるから」
「はーい」
「・・・・仕方ないですね」
ということで4人でデートとなり、最初の目的地が『シュガーラッシュ』でのショッピングとなった。
『シュガーラッシュ』は魔導具を専門としているが、フィアの趣味でお菓子も販売する店となっている。しかもフィアの並々ならぬこだわりにより彼女自身がその日作ったものを売っているため、王都でお土産を買うなら『シュガーラッシュ』も候補の一つに入るほどである。1階でお菓子を販売し、2階で魔導具の販売。3階がフィアの居住スペースで4階兼屋上がフェルとティナの勝手口らしい。
そんな訳で現在2階の魔導具コーナーを見ているが、やはりというべきか持っているお金では少し買えないぐらいの高いものが置かれていた。宝石や指輪、ネックレスやティアラなどが商材である。
「これでも相場のこと考えたら安い方なんだけどね」
「むしろ相場の方が高いんだよ。ボクはその辺り気にしないからこういう価格で売ってるけど」
「儲かってます?」
「儲かってるよ。だって相場より安いし〈砂糖の魔女〉っていうネームバリューもあるからね。一番最初は流石に苦労したけど、何処かの竜害で役に立ったらしくてそこからはトントン拍子だったよ。そのおかげで今じゃ店員も雇えるようになったし」
そんな話を聞きつつ店の中を歩き回っていると、導かれるようにある商品から目が離せなくなった。
「お、それが気になるのかい?」
「気になる、というか目が離せないというか・・・・?」
「多分セルマの魔力が反応してるからだと思うよ。そのローブはボクの最高傑作って言っても過言じゃない代物なんだ。思い出深いからそこに置いてたんだけど、やっぱり道具は使わないと損だからね」
「売り物じゃないの?」
「売り物ではあるけど、合う人に売ろうと思っててね。今まで誰も見向きもしなかったけど」
「・・・・試着しても、いい?」
「もちろん」
銀色にも見える灰色のローブを手に取ると、上質な絹の肌触りがセルマの手をくすぐる。まとってみると今のセルマにピッタリのサイズだった。それにフードと襟にはファーがついており、シンプルな作りでありながらワンポイントの飾りでオシャレなものであった。フィアが隣に来て説明を続ける。
「一応魔導具の機能としては耐熱と防寒、あとは衝撃に強くしてあるんだ。それと少し魔力を流すとその辺りの機能が強くなるようにしてあるよ。魔法は結界魔術で防げても、その衝撃までは防げないからね」
「お値段はどのぐらいするの・・・・・?」
「このぐらい?」
そう言ってセルマに値札を見せるフィア。セルマはみるみるうちに青ざめてローブを脱ごうとするが、フィアに力づくで止められた。
「こ、こんなお金、払えないよ!」
「いやいや、大丈夫だよ」
「家のお金と私の一生をつぎ込んでも無理なの!」
「聞き分けがないなぁ」
そのまま会計の場所まで強制的に連れていかれるセルマ。この店は詐欺もしくはぼったくりだと思い始めたが。
「セルマへのプレゼントは決まった?」
「ボクからはこれになるかなって。まぁステップアップするにつれて杖とかも見繕う予定だけどね」
「ぷ、プレゼント・・・・?」
「さっきなんでもあげるって言ったでしょ」
「で、でも・・・・・」
「ボクの弟子になりながら、ボクの恋人になったんでしょ?それならこのぐらいはプレゼントしないと」
「しかしローブとは。これだからヘタレと言われるのですよ?」
「そーだそーだー。恋人になったんだったら指輪とかプレゼントしろー」
「いやティナはプレゼントしてないし、フェルは宝石だけだから、ボクの方がよっぽど良いと思うんだけど?」
「良いとか悪いとかじゃなくてー、気持ちがこもってるかどうかなんですー」
「そうですよ。そもそもほぼ非売品だからって法外な値段見せてどんなに貴重か熱弁して驚かせる方が悪いでしょう?」
「とりあえずティナはプレゼントしてないんだから、話するならプレゼントしてからにしてくれるかな?あとフェル。ボクの店で買ったものをプレゼントしてるけど、その魔導具もボクが作ったものだからね?」
なんか言い争ってたのがどんどん子供の醜い争いに変わっていった。ワタワタしてどうすればいいのか分からないセルマを見て、3人とも苦笑した。
「いつもこんな感じだから気にしなくていいよ」
「だねぇ。ちびっ子時代を思い出すよー」
「思い出さなくていいですから」
「仲、すごく良いんだね」
「そりゃあ幼馴染だからねぇ」
「それで・・・・いいの?」
セルマの目の前には綺麗に畳まれたさっきのローブがある。ただ、やはり値段のことを思い出して引け目になっていた。
「さっきも言ったけどもう一回言っておくよ。セルマは『シュガーラッシュ』にある商品なら特別に100%オフだよ。もちろん、キミがボクの恋人である限りね」
「・・・・ズルいよ。憧れの人からそんなこと言われたら、ずっと着るしか選択肢がないよ。買い物するのもフィアに会うために来たいし・・・・・」
「ズルくて良いでしょ。それにフェルから聞いたよ。告白した夜に何したかとかね。同じことをローブでやってみるかい?威力とか効果とか凄いことになると思うよ?」
火魔術を使われたと思うぐらい一瞬で顔が熱くなるセルマ。恋人の匂いを吸ったことを憧れの人にバラされたこともそうだが、むしろしていいと許可され、頭がどうにかなってしまいそうだった。
「その話は後にしましょう。今は初めてのデートを楽しみませんか?」
「二股から三股になるとは思ってなかったけどねー。ま、それだけセルマは魅力がある女の子ってことで」
「色んなこといつでも言ってね?師匠としても恋人としても、ボクに出来ることならしてあげるから」
恋人3人にそんな風に言われて、幸せで思考回路が焼き切れる寸前なセルマはにへらとだらしない笑みを浮かべた。そしてそんな笑みを浮かべながら何かを言ったらしいがセルマ本人は記憶にない。ただ、3人は満面の笑みを浮かべてセルマを抱きしめた。