その後。幸福冷めやらぬセルマは3人とデートすることになった。お昼ごはんとして考えていた貴族御用達のレストランに向かったところ、フィアが〈砂糖の魔女〉であると言った途端スタッフの態度が変わり、何故か個室が用意された。
「今日はボクが奢るから何でも好きな物頼んでいいよ」
「わ、私も払うからっ。今日はそのために色々持ってきたしっ」
「ボクの弟子は、ボクの言うことを聞けないのかい?」
「・・・・・・・ズルいよ、それは」
遠慮しようとしたセルマはフィアの師匠命令に逆らえず、
「わーい太っ腹ー」
「流石はフィア。お金の使い方が適切ですね」
「2人は今度別のことで奢ってくれるかい?」
「もちろんいいよー」
「構いませんよ」
フェルとティナは別のことでの奢りが確定した。
「どうして個室なの・・・・・?」
「セルマ、気付いて無かったの?そのローブをドレスの上から着て、今もそうだけどにやけが止まってないよ?」
「ニヤニヤしたセルマを他の人に見せたくないのでしょう」
「だってこれデートだからね。個室なら色んなことできるでしょ?」
「ぴゃっ」
理由を言われて恥ずかしそうに顔に手を当てるセルマ。瞬間的に沸騰したように顔が熱すぎた。ついでに口元を触ってみると自分でも気持ち悪いほど口角が上がっていた。
「衆人環視の中で、大人の対応とか出来ないでしょ?それなら個室の方が良いと思ってね」
「本音は?」
「2人は学園でイチャイチャ出来るけどボクは出来ないからね。イチャイチャ出来る時にしておかないといけないよね?」
「学園に来ればいいじゃん。あの学園、お金積めば入れてくれるよ」
「流石にそのゴリ押しするぐらいなら〈砂糖の魔女〉で入れさせた方が早いかな。一応結構貢献してるつもりだし」
「ふ、フィアは凄いよ!」
「ありがと。でもそう言いながら幸せそうにニヤニヤするセルマも可愛いよ」
「ぴっ」
「フィーアー?そうやってセルマをイジるのも程々にねー?」
欲望満載なフィアの口撃にセルマはたまらず嬉しい悲鳴をあげる。彼女の声を聞くだけで、夢のような現状が現実なんだと分からせられる。そうして全員異なる料理が運ばれてくると、恋人らしく食べさせあいが始まる。もうセルマはここが天国なのかと旅立ちそうになるぐらい幸せだった。
「おーい、セルマー。戻ってこーい」
いつの間にか本当に気絶しかけたかトリップしていたらしい。名前を呼ばれてハッとするセルマと、それを見つめる3対の瞳。
「あ・・・・・ご、ごめん」
「フェル、いつものアレよろしく」
「仕方ないなぁ」
そう言って起動するのはいつもの結界である。遮音と人払いの効果を持つフェルの結界。そうして部屋全体が包まれると、ニヤリと3人は邪悪な笑みを浮かべた。
「こうすれば、誰も来ないし音も漏れないから好き放題できるね?」
セルマは気付いた。今座っているのは正方形のテーブルで、真正面に出入口がある。そして他3辺に3人が1人ずつ座っているため理由を言って出ようにも許されそうにない。その上3人の表情は獲物を見つけた狼のようなソレだ。つまり、何があっても逃がさないという姿勢だ。そしてそんな狼の巣に迷い込んだか弱い子羊ことセルマは、驚きつつも既に狼達に気を許してしまっているため正直何されても許す姿勢だった。
「はぁ・・・・・セルマ、キミ肝座りすぎだよ」
「そ、そうかな?」
「普通こんな状況になったら恐怖するか叫ぶかするよ」
「だって・・・・皆を信じてるから・・・・」
「気付いてますか?それ、すごく恥ずかしい言葉ですよ?」
「あっ・・・・・・ぅぅぅぅぅ・・・・」
「襲おうとしてる人のことを信じてる、とか本当にボク達のことが好きなんだね」
ただの虚仮威しだったらしい。それとは別にセルマは幸福感と羞恥心が綯い交ぜになった。しかし結界は解除されない。
「この際だからね。アーロンさんにされたかったこととか全部やっちゃおうよ」
「それは・・・・その・・・・・」
「別に遠慮とか必要ないですよ」
「そーそー。私達は友達で婚約者でしょ?そのためにコレ張ったんだし」
「2人とも、そんなにがっつかない方が良いよ。セルマも話し辛いだろうし」
「だ、大丈夫・・・・。ありがとう、フィア」
「それ、大丈夫じゃない人の言葉だよ」
身体をモジモジさせながら大丈夫だと言うセルマをジト目で見るフィア。すると少しずつ、セルマが自分の言葉で話し始めた。
「あのね。その、アーロン様・・・・・とは、政略結婚みたいな感じだった、から、恋愛感情が向けられることは無かったの。けど、アーロン様が居ないと、カロライン様に虐められるから・・・・」
「フェル、ティナ。そのカロラインって誰かな。家取り潰してくるから教えてくれるかい?」
「ストーップ!!」
その話を聞いていると、フィアがブチ切れていた。今すぐ潰しに行こうとするフィアを、フェルが必死に引き止めた。
「たしかにカロラインさんはワガママで自己中心的で2人ぐらい連れが居るし、自分より高い権力持ってる人には恨めしそうな顔してたり、自分より権力が低いといじりまくってるけど、まだ陰口だから」
「フェル?それボクにとってはダメなところしかないけど」
「言動だけでは証拠にならないんですよ。水掛け論になりますし」
「そういうことなんだね。現行犯だったり足がつくようなことが行われない限りは無罪放免、と」
そうしてフィアは席に戻り、糖分補給のために砂糖をたっぷり入れた紅茶を飲む。
「セルマ、ボクでもフェルやティナでも良いから、愚痴とか色々言っていいよ。色々言って気軽になった方がいい」
「で、でも、迷惑なんじゃ・・・・・」
「迷惑ならそもそも提案しませんよ。むしろセルマと会話できる時間が増えるので良いこと尽くめですよ」
「それに、他の人の目が気になるんだったら今みたいに結界張ったら解決するし。っていうか、カロラインさんとセルマってどういう関係なの?」
するとセルマは少し顔を俯ける。
「友達・・・・・」
「友達なら悪口とか陰口とか言わないよ」
「それならいっその事、親友な私達に入り浸ってカロラインさんのことはあまり関わらないようにする方がいいのでは?私達に何かされるなら色々制裁できますし」
「だねー。それに、セルマの婚約者は私達になったわけだから、アーロンさんとかカロラインさんから離れた方が良いかも」
「でも・・・・」
力無く返事するセルマに、一つため息をついたフィアが近付く。俯く顔を覗き込むようにしゃがんで。
「セルマ。キミはボクに憧れていた、って言ってたね。ボクの論文を見て魔術を独学で勉強したって。だからボクはキミの婚約者になることも、師匠になることも良いって判断したんだ。そんなキミを友達と言いながら虐めるそのカロラインって人に、ボクは腹を立てているんだ。キミは努力家で真面目なのに、それを理解せずに都合のいい道具のように使っているヒトが許せないんだよ。キミを守るためなら、それこそ今回の場合は『カロラインや元婚約者と縁を切れ』って命令するよ。このままだと、セルマは間違った方向に行くから」
セルマは少しの間固まっていた。が、身体が震え始め、ぽたぽたと涙を流し嗚咽し始めた。フィアはそのままゆっくりと背中をさすった。
「わか、った・・・・。お師匠、様・・・・・っ、私、わた、し・・・・・・」
「良いんだよ。我慢なんてする必要なんて無いんだよ。泣きたくなったら泣いて、笑いたくなったら笑えばいいんだ。もしセルマに悪口を言う輩が居るなら、ボクの元で成長したキミがその輩にキツい一発をお見舞いしてあげればいいんだ」
そうして、セルマは声をあげて泣いた。それはもう大粒の涙をとめどなく流しながら、鼻をグズグズ音を立てながら。嗚咽で抑えていた声も子供が泣くような大声で。
「虐める人のことを友達って言うのはね。虐める人の思う壷なんだ。セルマを都合のいい奴隷だって言っているのと同じだから。誰かが外から『それは違うよ』って言ってあげなきゃ、永遠に偽の友達関係を結んだままになるんだよ」
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あの後、少ししてからセルマは泣き止んだ。目は赤く泣き腫らしているしローブもドレスも涙で濡らしていたが、少しスッキリしたような表情になっていた。
「セルマ、ちょっとそのまま動かないでね」
「わ、わかった」
フィアに指示された通りに動かずにいると、布に染み込んだ涙が浮き上がって粒となり食べ終わったお皿の上に置かれた。ハッとなってセルマはローブやドレスを触ってみると、涙で汚していないかのようなサラサラ触感だった。
「ボクが得意なのは水と氷だからね。服を汚した時は水気だけならこうやって氷の粒にしてどこかに置けば元通りなんだよ。もしかしたらセルマも勉強すれば、お茶会で服を汚した時に元通りにできるかもね」
「すごい・・・・!」
「さっきはごめんね。ちょっと厳しい言葉を投げかけちゃったし」
「申し訳ありません」
「い、いいのいいの。私も思うところはあったけど、抜け出すことが出来なくなってたから・・・・・。だから頭を上げて欲しいの」
ローブもドレスも元通りになったフィアの魔術に驚き学べばその領域に行けるかもしれないという希望に憧れて、「友達辞めたら?」という厳しい言葉を投げかけたフェルとティナには頭をあげるようにとお願いした。
「色々吹っ切れたかな?」
「そうかも。それもこれも全部皆のおかげだから、私から何かお返ししないと」
「構いませんよ。報酬目当てでこういうことをしている訳ではありませんし。婚約者になった訳ですから、セルマから思い詰めた表情を取り除いてなるべく笑顔にしたかっただけなので」
「そーそー。こーいう蟠りとかはなるべく早いうちに解いておいた方が、後で大きなミスに繋がりかねないし。それにセルマは可愛いんだから笑顔の方が良いって」
「セルマは可愛い」とド直球に言われるとやっぱり慣れないもので顔が赤くなってしまう。が、なんだかセルマが見ている前でフェルの顔もどんどん赤くなってにやけていった。
「フェル。そんなだらしない表情はやめておいた方がいいですよ」
「し、仕方ないでしょ!セルマの表情が自然になったと思ったら、なんか儚げで美しい顔になってるんだからさぁ!」
「そうなの?」
「ほら!今の見た!?小動物的な首の傾け方と儚げな表情の合わせ技!あざといって言われても仕方ないよあれは!フィアもティナもわかるでしょ!?」
「フェル、ボクからは何も言えないね」
「フェル、私たちの婚約者は可愛いんですから最強に可愛いに決まってるじゃないですか」
解説が入ったと思ったら、出てくる言葉が何故か親バカみたいなものばかりだった。もちろん悪い気はしないので口元には笑みが浮かんでいた。
「それでセルマ?ボク達のこと信じてるからって言ってたけど、具体的に何して欲しいとかはあるのかい?」
「まだ、その辺りは・・・・・。むしろ3人がしたいことを聞きたいの」
「聞いたらどうするの?」
「そのままするの」
「んー??????????」
フェルが宇宙に飛ばされた。
「爆弾発言過ぎませんか?」
「それ、言い様によっては私達に好き放題されていいって事にならないかい?」
「なるよ。私には、3人に一生かけても返せない恩があるから、結婚したら尻に敷かれたいし、今も今後も何されてもいいって思ってるの」
同じくフィアもティナも宇宙に飛んで行った。そして宇宙から復帰したフェルが頭を抱えた。
「セルマはどーしてそんなに思い切りがいいの!?ふつーなら涙目になるとこだよ!?」
「だって・・・・」
「分かりました。セルマは何をしてでも恩を返したいタイプなんですね?」
「そうなの・・・・・・」
ティナも宇宙から帰還したが、セルマの言葉でさらにフェルが頭を悩ませる。
「セルマ?言うことは考えないといけないよ?だってそれって最悪セルマを奴隷として売っても良いとか、カーシュ家を傀儡にしてもいいっ言ってるのと同じだよ?そうなったら両親に迷惑かかっちゃうし、セルマも酷い目に合うけど?」
「それは・・・・、でも3人ともそういうことはしないと思ってるの」
「人は見た目によりませんよ?」
そうして無言での見つめ合いが続くはずも無く。先に破顔したのはフェルの方だった。
「あーもう、覚悟とか決意とか意志とかそういうの決まり過ぎなんだって。これはこっちが折れるしかないね」
「ですね。こればかりは完全敗北と認めざるを得ません」
「まさかここまでのガンギマリ具合とは、ボクも予想外だよ」
「えっと・・・・・ヒッ」
戸惑うセルマに対して3人は邪悪な笑みを浮かべてセルマの方を向く。誰だって同時に顔を向けられたら怖くなる。セルマも喉が引き攣ったような音を出してしまうが逃げ場がない。そうしてセルマは―――
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部屋に帰ってきて、着の身着のままベッドにうつ伏せで倒れ込む。ふわりとローブのフードが頬に触れ、師匠でありながら愛する人となった憧れの人の香りが鼻腔をくすぐる。それだけで顔が赤くなってもっともっと欲しいと脳が訴えたため、疲れているセルマはその思考のままにローブを脱いで抱き枕のように抱きしめて思いっきり吸い込んだ。濃い一日だったはずなのにその全てが愛おしかった。婚約者の魅力を再確認してさらに好きになり、憧れの人に出逢えただけでなく婚約者にも師匠にもさせて貰えた喜びもあり、一生ついて行くことを誓った日だった。今はまだ非公式であるが、正式に発表した時には学校だろうと部屋の中だろうと外出先だろうと、フェルやティナと、そして師匠でもあるフィアと、イチャイチャすると心に決めた。
そうして、憧れの師匠から貰ったローブの匂いで悶々とした気持ちになりながら、3人に代わる代わるキスしてもらった唇に手を当てて、幸せな気持ちで意識は闇へと落ちていった。
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一方隣の部屋では、部屋に戻ってきたフェルとティナが秘密の会議をしていた。
『おーい、聞こえるー?』
『聞こえるよ。この距離は少し怪しかったけど届くんだね』
『こちらも聞こえますよ。問題なさそうですね』
『とりあえずセルマは学園では私とティナが守りつつイチャイチャする感じでいいかな?』
『ボクはセレンディア学園に行ってないからね。まぁ正式に発表したあとにはボクも予定あるから』
『分かりました。ではその方向で』
『あと、休みの日はボクのところで特訓させるから連れてきてくれるかい?』
『いーよー』
『時間はどうしますか?』
『さすがに1ヶ月は不味いから1週間で合わせてるよ』
『あー、成長期・・・』
『そういうことだね。とりあえずボクが話すのはこの辺りかな。明日のお菓子の仕込みもあるから』
『あーい。おつかれー』
『お疲れ様です』
『じゃあね』
そうして2人の秘密会議は終わり、のそのそとベッドに入って眠りについた。
『そういえば、賢者の石は確定だったよ』
『やっぱり?』
『となると1人しか居ませんね』
『みたいだね』