異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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十話 ゲヘナ学園

 今日も今日とて多くの学園へと挨拶回りをしていく。そして、今日挨拶回りをしていく中で最も大きな学園は、ここゲヘナ学園となった。

 ゲヘナ学園は、良くも悪くも自由という言葉が似合うだろう。連邦生徒会に記された事件事故等を記録している資料の中では、ある分類を除き他の学園と比べても問題を起こしている件数はここが最も多い。

 何故それだけの問題を起こしていても、こうして大きな学園であり続けているのか。それは、このゲヘナ学園の影響力の大きさ、財力、在校生の多さにある。何かの問題が起きようが、ゲヘナ学園の持つ影響力のせいで泣き寝入りをする案件や、もみ消すだけの金だってある。そして、ここキヴォトスは学生が主体。その学生が多い学園はおのずと強い発言権を得られるようになっている。

 正直に言って、俺がこの色んな学校を挨拶回りしていく中で数少ない、警戒をしている学校の一つ、もう一校はトリニティ総合学園で、どちらもエデン条約に関りがある学園同士だ。

 どんな話をすることになるのか、少し警戒をしながらゲヘナ学園へと足を踏み込んでいったのだけれど・・・

 

「は?不在?」

「はい、マコト議長は現在別の会議に出席していまして・・・」

「俺、時間間違えたかな?」

「いえ、間違えていません。いわゆるダブルブッキングで、こちらの不手際です」

 

 肝心の相手、万魔殿(パンデモニウムソサエティ)の議長、羽沼マコトは別の会議の出席で不在。今、俺の相手をしているのは留守番として残っていた棗イロハだった。

 

「本当に申し訳ございません。後日会議の場を無理矢理にでも設けさせますので」

「わかったよ。俺だったから良いけど、外部の人と何かをするんだったら、ちゃんと予定を組まないとだめだよ?」

「はい、以後気を付けます」

 

 こうして、俺は会議をするために取っていた時間が丸々空いてしまった。ゲヘナ学園内を回ろうか、とはいっても先のイロハは別件を片付けないといけないらしく、俺一人でここの学園を歩き回るわけにはいかない。

 

「どうしたものか」

 

 廊下でどうしたものかと立往生をしていた時だった。

 

「ここでは見慣れない人だけれど、どなたかしら?」

 

 誰かが俺に話しかけてきた。声が聞こえてきたほうを見てみれば、小さな背丈に白く長く沢山の髪を持ち、軍服を思わせる制服をピシッと着こなしているのに対して。持っている銃は自身の背丈に負けず劣らず、その凶暴さを見せつけるようなマシンガンを持っている少女の姿があった。

 

「連邦捜査局シャーレのリムル=テンペストだよ。君は?」

「ゲヘナ学園風紀委員会委員長、空崎ヒナよ」

「風紀委員会、ゲヘナ学園の治安維持組織で合ってるか?」

「ええ、リムル先生は・・・大方万魔殿と会議だったのかしら?」

「その予定だったんだが、議長が不在らしくて、別日にやることになった」

「相変わらず適当な仕事をして・・・」

 

 ヒナはため息を漏らした。その様子からして、普段からマコトは適当な仕事をしてしまうのか、それとも抜けているのか。どちらにせよ、一つの組織をまとめ上げているものにそう言われてしまう程度には仕事を信頼されていないのだろう。

 

「だったら、時間はあると思っていいのね?」

「ああ、会議の為に取ってた時間が丸々空いてね」

「なら、代わりに風紀委員会の私とお話をしてもいいかしら?ゲヘナの問題児達をリムル先生とも共有しておきたい」

「そういうことなら」

 

 ゲヘナの問題児はゲヘナに留まらず、他の学園相手にもよく問題を起こしている。だからこそ、そうした生徒達とよく相手をすることが多い風紀委員会から情報をもらえるのはありがたい限りだった。

 俺はヒナに案内されて、風紀委員会の委員会室へと案内されて中へと入ったのだが、その光景を見て思わず絶句した。

 

「なぁ、この書類の山はなんだ?」

「マコトが風紀委員会に寄越した余計な仕事の山。少し前まで他の風紀委員会の子達が処理していたけど、温泉委員会が無許可で温泉開発をするための機材搬入するところを発見して取り押さえに行ったから不在よ」

「・・・後でマコト議長に話をする必要があるね」

 

 少しだけ仕事の中身を見せてもらったが、明らかに風紀委員会に回すような仕事ではなかった。しかもこれだけの量はもはや嫌がらせとしか思えない。折角の治安維持組織が全く別の業務で活動できなくなってしまっては、本来の役目を果たせなくなってしまう。ゲヘナ学園の今後を考えても、これは絶対にやめさせるべきだ。

 

「ありがとう。でもこの程度私一人でどうにかなるわ」

「え?結構な量があるけど」

「深夜一時まで頑張れば終わるから」

「子供はとっくに寝ている時間だよ!?」

「大丈夫、日の出にはなってないから」

 

 ヒナの社畜発言には思わずドン引きしてしまう。ただでさえ忙しい治安維持組織なのに、他の業務で徹夜を当たり前のようにやっているなど、信じれたものではなかった。

 

「他にその仕事をやるのは?」

「私一人でやった方が早いから不要よ」

「・・・」

 

 俺が今はなしているのは本当にまだ20にも成っていない少女なのだろうか?

 

「ヒナ、上に立つ立場でもある俺だから言わせてくれ」

「?なにかしら」

「仕事は部下に分散できるようにしろ。一人で全てをやってたら圧倒的に時間が足りなくなるから」

「・・・覚えておくわ」

 

 ヒナの普段の生活がとても心配になりつつも、俺とヒナは一つの机を挟み、ヒナから資料を受け取っていく。

 

「一つ一つ説明していたら、時間がいくらあっても足りないから、かいつまんで説明する」

「どんだけあるんだよ」

「一つは、美食研究会」

「話は聞いたことがある」

 

 美食研究会、美食のためならば手段をい問わない集団で、出された食事が気に入らなければ店を爆破し跡形も残らなくさせる。しかし、彼女等が気に入った店はSNS等の情報共有であっという間に拡散されて行き、その店は繁盛する。

 

「特に警戒すべきは黒舘ハルナ、彼女は状況判断能力が高い。突発的な逃走であっても的確に退路を見つけて、こちらの戦術にもすぐに感づく。武器が狙撃銃でフィジカルがいいわけではないから接近戦まで持ち込めればやりようはあるけれど、中距離以上からは数で押さなければ彼女には接近できない。そして懲罰房脱走常習犯よ」

「ああ、うん」

 

 すでに相手に相手をするのが面倒くさくなる情報が出てくる。

 

「彼女達は食が絡むこと以外で問題を起こすことがないことが幸いかしら」

「まぁ、行動原理がわかるだけやりやすいかな?」

「次に警戒すべきは温泉開発部。件数だけで言えばここが断トツで多いわ」

「どのくらい?」

「二日に一回鎮圧する程度には」

 

 顔に手を当てた。そして鎮圧ということはそういうことだ。

 

「それに、厄介なのは部長と副部長の鬼怒川カスミ、下倉メグの二名。部長は人員の扇動、計画が厄介で殆ど先手を取られている状態。副部長はフィジカルが強くて、風紀委員会で強い方のイオリでも拘束できるかどうか」

「しかも部員の数も多いと来たか・・・こっちもこっちで厄介すぎる」

 

 風紀委員会の人数を把握していないものの、恐らくゲヘナの性質を考えれば進んで治安維持組織に入ろうとする人物は少ないはずだ。となれば、温泉開発部の方が圧倒的に多いだろう。それが二日に一回のペース。頭が痛くなる。

 

「あとは、これは別の理由だけれど、一応警戒しておきたい集団が」

「便利屋68?さっきの美食研究会と人数は同じようだけれど・・・何が警戒する理由なんだ?」

「そこは所属している生徒が問題ね」

「所属している生徒ねぇ」

 

 渡された資料の生徒情報を目に通してみるが、ぱっと見怪しい生徒は見られなかった。

 

「鬼方カヨコ、彼女は昔から誰かの下に加わるような人じゃない」

「・・・警戒するだけの人物が誰かの軍門に下ったと?」

「ええ」

 

 そうなればこの集団を警戒するのもわかる。元々警戒していた人物を取り込み、悪事を働いているとなれば、そこのトップも自然と警戒することになるのだけれど・・・

 

「正直に言って、陸八魔アルって子そんな毒気を感じないんだけれど」

 

 資料に添付されている便利屋68をまとめ上げている少女の顔写真。ショートヘアーで丸目眼鏡、見るからに真面目ちゃんと言った雰囲気を感じ取れる少女が、そんな悪さをする気配を感じ取ることはできなかった。

 

「だからこそ謎なのよ。彼女の問題行動も便利屋68を名乗るようになってからしか確認できていないから。彼女の実力を把握しきれていない」

「それはまた、厄介だな」

 

 実力不明の便利屋68、彼女たちがどんな影響を及ぼすのかは未知数だから警戒しておくに越したことはないし。俺も見かけたら対応するか。

 

「全員私一人で鎮圧できるとは思うけど、私の体は一つしかないし」

「何でもかんでも一人で解決しようとしない」

 

 あまりにも自分一人で解決しようとするヒナに、いかに仕事を分散して部下に任せることが必要なのかを教え、しばらくの間、夜中にはなるものの彼女の仕事を手伝うことにした。

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