十二話 アビドス高校
ここしばらく毎日のようにしている挨拶回りにもようやく終わりが見えたころ、俺は今日残された学園へとあいさつ回りをした。
「結構回ったなぁ、これでも回っていない学園がいくつもあるってのが」
流石に全ての学園を回っているだけの時間はないため、幾つか主要な学園に挨拶をし、回れなかった学園には書面での挨拶とやり取りになる。
今日も午前中は挨拶周りをし、ようやく終わりを告げた。ここ数日の日中ほぼ全てを使ってようやく終えるだけの数を入れたのは失敗だったか。少しばかり反省をしつつ、手帳を確認しながら次にやるべき事を考える。
シャーレとしてやるべきこと、リン行政官曰くシャーレがやるべきことは決まっていない。設立時点では何かを目的した組織ではなく、言わば何でも屋とも言える組織として設立している。現状、シャーレに仕事の依頼をしてきているのは連邦生徒会と物珍しさに依頼をしているであろう生徒、後はたらい回しをされてしまい最終的にシャーレに頼ったであろう依頼だった。
一般生徒達から仕事を依頼されることはまだいい、その内容が少々問題があるものは置いておくとして。ただ、連邦生徒会がシャーレに回してくる仕事については問題があった。明らかにこちらに回してくる仕事が、外部に回してはいけない重要書類や、完全に面倒だからこちらに回していると思える仕事、一度に送ってくる量が一人で処理しきれる量を遥かに上回っている。
日中の連邦生徒会とのやり取りと、深夜業務中に連邦生徒会の事を調べて分かったことだが、連邦生徒会のリソースの殆どが行方不明となった連邦生徒会長の捜索に使われている。正直に言おいう、馬鹿じゃないの? とてもではないが彼女達の前でそんなことは言えないため心の中でとどめている。
何故そこまで連邦生徒会長という人物にここまで執着するのか。
《推察ですが、
なんとなく理解した。何でも連邦生徒会長が解決できる程の人物だから、色んな仕事全てが連邦生徒会長任せきりの体制になっていた。だからこそ、連邦生徒会長が居なくなった今、そのしわ寄せがこうして表れている。
「これは体制改革を入れないとだめだな」
彼女たちの仕事全てをやっていては俺がこの世界を調べている時間が無くなってしまう。いつまでもこっちの世界にはいられない。だから、調査をするための時間を確保するためにも、彼女達に自分達の仕事を自分達でできるようになってもらおう。それに、連邦生徒会がいつまでも治安悪化している現状を改善しようとしなければ、この治安問題は解決する兆しすら見せない。
そんなことを考えながら移動をしていると、丁度正午を告げる放送が聞こえてきた。
「もうそんな時間かぁ……そうだ折角一仕事を終えたわけだし、何かおいしいものでも食べよう。アロナ近くにいいお店はないか?」
『美味しい飲食店ですね? ご希望のジャンルはありますか?』
「そうだなぁ、ラーメンで」
『わかりました!! お調べしますね』
シエルの方が解析能力、演算能力は確かに高い。けれど、そのスペック差を埋めるだけのアロナの特技があった。それはネットワークに対して高い適性を持っていて、並大抵のセュリティソフトならば容易に通り抜け、ファイヤーウォールすら無力化してハッキングする。電子機器戦に限ればシエルよりもアロナに分があるほどだ。
そんな処理能力を持つアロナを飲食店調べに使っている圧倒的な無駄遣いは置いておき、アロナはいくつかのファイルを持ってきた。
『検索が完了しました!! リムル先生の好みを元にここなんてどうですか!』
「紫関ラーメンか。うまそうだな」
『所で、ユウカさんにはどう説明するんですか?』
「……」
アロナが持ってきたラーメンの写真に心を奪われた俺は、すぐに場所を調べてその場所へと向かった。砂漠広がるアビドス砂漠で今なお営業している紫関ラーメンへと。
人気の少ない街中にひっそりと建つ戸建てのラーメン屋、俺は暖簾をくぐり横開きの扉を開き中に入る。
「一人だけどいいかな?」
「いらっしゃい、どうぞお好きな席に」
犬の獣人の店主が出迎えてくれた。俺は店主の前のカウンターに座りメニュー表を手に取る。いろいろなラーメンがあり、どのラーメンを注文しようかと悩んでしまう。だがここは王道かつ定番の択を取ろう。
「大将、柴関ラーメン一つ、餃子一つ、半チャーハン一つお願い」
「あいよ、ちょっと待っててくれ」
大将はケースから麺の一玉を湯切りに入れ麺を茹で始める。その間に温めていた器の水気を拭き取り、スープを準備する。
そういえば、
「よし、ガゼルとルミナス達にもラーメンを普及してもらおう」
「はいよ、柴関ラーメンおまち」
そんなことを考えている間に、俺の目の前に一杯のラーメンが置かれた。
「お、いただきます」
割り箸を手に取り、流れるように割り、最初にレンゲを使ってスープをひと啜り。そのまま黄金色とも言える麺を箸で持ち上げると、そのまま口に運び一気に啜り上げる。一本一本の麺がスープを纏い、一緒に口の中へと運ばれていき、味わい深く確りとした味を感じさせてくれる。
正直に言って、この価格でこの味、どれをとっても最高だとも言えるラーメンで、
「やっぱり、立地か」
これほど美味しいいのにも関わらず、客が少なすぎる。この店がある場所アビドス砂漠はここ最近砂漠化の進行が激しく、住人の多くがアビドス外へと出てしまっている。人がいなければ客商売は成り立たなくなってしまう。
俺がラーメンと餃子、チャーハンを食べ終わった頃、突然大将が話しかけてきた。
「あんた、シャーレの先生って奴でいいか?」
「ああ、そうだけど」
「そうか、あの子達の頑張りも報われる日が来たんだ……」
「ん? 何の話?」
大将が言っている話が何なのかわからなかった。俺が疑問符を頭上に上げていると、大将は話し始めた。
「実はな、ここにはアビドス高校の生徒らが居るんだよ」
「アビドス高校?」
アビドス高校、地名が学校名になっているってことは相当古い学校かな?
《アビドス地区の自治権を有するアビドス高等学校です。ですが、砂漠化の進行を境に急激に生徒数を減少させ、現在の在校生は五人の学校です》
シエルがすかざす補足を入れてくれた。
「あの子達は学園を守るために毎日頑張ってんだ。シャーレの先生が力を貸してくれたら、あの子達も子供らしくいられるってもんだ」
もの凄く話を遮りにくい内容が聞こえてくる。子どもたちが学園を守るために何かをしている。その何かは今の話の内容からはわからないが、少なくともこの世界の生徒達の常識からはかけ離れている生活をしていることだけは伝わってくる。それはつまり、俺が知る学校生活からは圧倒的にかけ離れているはずだ。
俺は大将の話に疑問を覚えつつも店をあとにする。
「シエル、アロナアビドス高校の場所は?」
《『あっちです』》
俺の質問を読んでいた二人によってすぐにアビドス高校へと案内がされる。俺はその案内を頼りにアビドス高校へと向かっていたのだが、突然銃声が聞こえてきた。そして、その方向は俺が向かっているアビドス高校。なにか面倒なことが起きていることは確実、俺はギアを上げて力強くペダルを踏み込み、自転車をかっ飛ばす。
「おらおら!! 今日こそ校舎をもらうぞ!!」
盾越しに聞こえてくる声。ここ最近何度も襲ってくるカタカタヘルメット団のリーダー格の声は嫌でも覚えてきてしまったこの頃。
私は盾を自分の身体支えつつ隠れ、残り少ないシェルを一発一発ショットガンへと装填していく。
「うへ~、おじさんピンチだよ」
「ピンチって言ってる場合じゃないでしょ!!」
近くでセレクトリーをセミオートにし、うっかり無駄打ちをしてしまわないように心がけているセリカちゃんはそう言った。
「あはは!! 無駄無駄お前たちの弾が底を尽きかけていることはわかってるんだ。もうお前たちにうつ手はないんだよ」
「ていうか撃つものもないよなぁ!!」
どうして外部の連中が私達の物資状況を知っているのか、そんな疑問を覚えてしまうけれど、今はそんな疑問を気にしている余裕はない。不本意ながらあいつ等が言っていることは正しく、私達の弾は既にそこを尽きかけている。私のショットガンのシェルも先程入れたもので最後、ショットガンの中に残ってる分を撃ち着ればこれはもう無用の長物だ。セリカちゃんは弾を節約しながら撃っているけど、その射撃は有効なものになっていない、そして残されているマガジンは一個。シロコちゃんはフルオートで撃ってたけど、もう撃っていないところから弾は残っていない。ノノミちゃんはこの戦いが始まってから一回も撃っていないけど、次に撃てば弾切れ。アヤネちゃんもドローンを満足に操縦できていない。
不本意だけれど、この場所を守るためにはやるしかないのだろうか。私はこのままでいいのか、そう考えつつ盾から顔を出し戦況を確認する。
私達が置いておいた遮蔽物をあいつ等に利用され、全員の位置を正確に把握することができない。けれど、最初に確認したときの人数から、今の私達に残されている弾丸の数だけではこれだけの人数を無力化することは難しい。せめて弾があれば相手を動かすようなこともでき、シロコちゃん達も満足に戦えたはず。
無いものをねだっていても仕方がない。私はショットガンを持つ手を握り直し、盾を持ち上げる。そして走ろうとしたときだった。
「あだ!!」
突然カタカタヘルメット団の一人の背後から誰かが飛び出してきた。
「よっと」
その人はヘルメット団の一人の背後から自転車を飛ばして接近し、近づいたところで車体を持ち上げて空中で横になり、タイヤでヘルメット団を押し倒していた。
「明らかに穏やかな状況じゃない上、君達この校舎を攻撃していたけど、それはどういうことかな」
その人は自転車のスタンドを立て、自転車から手を放すと、腰に提げている刀の柄に手をかけ僅かに引き抜き刀身を少し見せた。
「てめぇこそなにもんだ!! いきなり現れて何様だ!!」
「連邦生徒会所属組織、連邦捜査局シャーレの先生を務めているリムル=テンペストだよ」
未だに引き金に指をかけている少女たちに対して、先生と名乗ったその人は刀を完全に引き抜き剣先をヘルメット団達に向けた。
「ひとまず、双方銃器を置いて事情を聞かせてもらえないか?」
先生がキヴォトスの外から来たという話はニュースになっていて、私も知っている。そしてキヴォトスの人じゃないのならば、銃弾一発が致命傷になることも知っている。銃撃戦をしていたど真ん中で銃弾を防げるような物を持たずに立っているなんて危険な行為をしてるのにも関わらず、相手を挑発しかねない言葉を言ったことに驚きを隠せない。
私は持っていたショットガンを投げ捨てて、先生とヘルメット団の間に入り守ろうと走った。
「うるせぇ、今更連邦生徒会の犬に話すようなことなんてねぇんだよ!!」
私が間に入れるよりも先に、ヘルメット団の一人が引き金を引いて銃弾が撃ち出された。50mも距離はない。弾速を考えれば撃ち出されてから着弾までほんの一瞬、撃たれてから避けるなんて無理な話だった。
「話、しようか?」
しかし、現実は違った。先生は引き金が引かれると同時に駆け出し、持っていた刀を振るい弾丸を切り落とし、距離を詰める。ほんの数秒というよりも短い時間で、先生はヘルメット団との距離を詰め切る。途中から他のヘルメット団も先生を撃ち始めるが、先生相手にはそれすら意味をなさなかった。
あっという間に距離を詰め、刃は一人のヘルメット団の下顎に当てられていた。
「た、退却~!!」
実力の差を見せられたからなのか、ヘルメット団は散り散りになりながらあっという間にここから離れていった。先生はそんな彼女等を追いかけようとはせず、刀を鞘に納め彼女達の様子を見届けている。そして、此方を向いた。
「あれ、拘束した方が良かったか?」
「いや、あれだけの人数を私達だけじゃ面倒を見切れないよぉ」
「まぁ、そうか」
先生は鞘の位置を調整し、改めて私達のことを一瞥する。
「アビドス高校の生徒は五人って聞いていたけど、不在かな?」
「アヤネちゃんは今校舎の中でサポートしてたからねぇ、今頃こっちに走ってきてると思うよ」
「ホシノ先輩、銃!!」
セリカちゃんが私のショットガンを持ってこちらに来ている。その後ろにはシロコちゃんとアヤネちゃんも銃を降ろしてこちらに来ていた。
「うへ~、ありがとうセリカちゃん」
私はショットガンを受け取り、フォアエンドを引きチャンバー内のシェルが確りと装てんされていることを確認して引き金に指をかけたまま下す。
「少し離れたところから聞いていましたが、本当にシャーレの先生なんですか?」
「ああ、一応そうだよ」
その人は胸元からシャーレ所属の証明書を私達に見せてくれた。
「ん、見た感じ私たちと変わらないのに、大人なんだ」
「ちょ、シロコ先輩!?」
「アハハ……魂年齢はいいおっさんなんだけれどな」
シロコちゃんの突然の発言しセリカちゃんは大声を上げ、先生はほほを掻きながら苦笑いをした。ただ、シロコちゃんの言う通り、大人というには先生の背格好は高校生位に見えてしまう。とても、おっさんと言うにはかけ離れた容姿だ。
「というか、ホシノ先輩といいおっさんて」
「うへぇ、おじさんにも流れ弾?」
「俺の精神は男だからね?」
何故か先生は遠い目をしていて、小声で息子は無いけどと言っていた。息子とは?
「それにしても、シャーレの先生がどうしてこんな所に来たの?」
「まぁ、通りがかりだな。別の用事の通り道で近くを通って柴関ラーメンでここの話を聞いて来たってところだ」
「じゃあ、別にアビドスが目的じゃなかったんだ」
アヤネちゃんが救難要請を出していたけれど、今の話からこの大人はそれが理由で来ていないことははっきりとわかった。そんな大人が数少ない信頼できる大人の、大将の話を聞いて何をしに来た。
「まぁ、そうだな。にしても……」
先生は校舎の方を見る。普段からあまり手入れが行き届いていない校舎には、砂嵐にとって巻き上がった砂達に、ここ最近の襲撃によって多くの銃弾が当たり、酷いものになっていた。
「俺が思っていた以上だな……」
先生は言葉に困っていた。見るからに酷い校舎に校庭、それを見て先生はどう言えばいいのか、言葉を選んでいた。
「皆さん大丈夫でしたか」
そうこうしてる間に、アヤネちゃんも私達の元へと来た。
「彼女が最後のアビドス生徒でいいのかな?」
「そうですよ☆」
「初めまして、アビドス廃校対策委員会一年奥空アヤネです。 。先程はありがとうございます」
「俺は連邦捜査局シャーレの先生、リムル=テンペストだ。よろしくなアヤネとえーと、そう言えば君たちの名は?」
ここで私達は自己紹介をすることを忘れていたことに気がついた。
「私はアビドス廃校対策委員会二年の十六夜ノノミです☆それでこっちは」
「同じく二年、砂狼シロコ。先生よろしく」
「同じく一年の黒見セリカよ。で、最後は」
「おじさんも同じく、三年の小鳥遊ホシノだよォ。よろしくねぇ」
自分でもわざとらしく思えるほどの、気の抜けた声で言った。
「よろしく」
「それで、先生は私達の救難要請を受けて来てくださったのですか?」
先程まで話に居なかったアヤネはそう聞き出した。ただの偶然来た人が、そんなことを知っているわけが無いし。仮に受けたとしても。
「待って、救難要請って何? メールは随時チェックしてるけど」
「あ、書簡で郵送したので」
「緊急を要する内容なら電子で送ってくれた方が早いから。それで救難要請って?内容は?」
「えっと、最近私達の学校が不良生徒達の襲われていることと、弾薬物資等がそこを尽きかけているため補給物資の要請を」
「わかった。不良生徒は先の集団の事だろ? さっき撃退したばかりだからすぐには来ないはず。今から連邦生徒会に向かって補給物資を持ってくる」
事態の緊急性を察してか、先生はあっと言う間に自転車を漕いで何処かへと行ってしまった。