異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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十四話 不思議な先生

 昨日は驚きの連続だった。何時ものように借金返済をしている中、束の間の休息だった昨日。午前中は皆で学校の清掃をして、午後はこれからの借金返済の会議という名の雑談をする予定だった。

 お昼を過ぎたころ、あいつ等、カタカタヘルメット団は性懲りもなく私達の学園を襲撃してきた。いつもなら難なく、容易くあいつ等を撃退できていたのに、今回はそうもいかなかった。残りの弾が少ないことが、何故かカタカタヘルメット団にバレていた。私達がどれくらいの弾を持っているのか、いつどの程度補給したのかはあいつ等は知らなかったはず。

 今回ばかりは私達も危なかった。もし、あいつらが校舎に足を踏み入れようものなら、二年前のように、戦おうともした。けど、私達の弾が底を付く直前にあの人は来た。

 童顔で女性っぽさを覚えるけど、口調は男で自分のことの言い回しが少し変な連邦捜査局シャーレの先生、リムル=テンペスト。あの人は自転車で一人のカタカタヘルメットの一人を轢き倒して現れた。

 キヴォトスでは珍しい刀剣を持ち、銃の一つも持っていない。けれど、その提げていた刀を引き抜き、撃ち出される銃弾たちに屈することなく突き進み、一人に刃を当てて何事もないように話し始めた。

 恐らく、あの瞬間あの場にいた生徒達は皆、先生の異質さを感じ取っていたはずだ。私達とあの人の戦い方はかけ離れている。そして、まともに戦っても勝つことはできない。それをカタカタヘルメット団は察して、一目散に逃げて行った。

 それから、先生とは軽く話した。どうせこの人もこれまで会って来た大人と同じ。私達を利用するだけの大人に違いない。そう思いながら話していたら、そしてこの場に来た理由もただの偶然。何か意味があってきたわけじゃなかった。けれど、救援要請の話をしたら顔色が変わった。ああ、やっぱり、この大人も私達子供を利用するのだと。そう思っていた。

 

「流石にこれはおじさんの夢かなぁ?」

「いえ、現実ですよ。昨日皆で納品確認したじゃないですか」

「そうだけどさぁ、これを急に信じられる程おじさんはファンタジーを信じてないよぉ?」

 

 あの後、先生はシャーレへと戻り、連邦生徒会に向かって補給物資の申請をしてきた。そして、連邦生徒会が持ってくるのだと、時間が掛かるとの事で先生の足で自ら運んできた。()()()()()()()()()になるほどの大量の補給物資を。

 

「先生本当にこれだけの物資を一体いつの間に運び込んだのかなぁ・・・」

 

 私はほぼ常にアビドス校舎にいた、侵入者にも気が付けるようにずっと気を張り巡らせていた。それなのに、先生は私に気が付かれずに校舎に侵入し、空き部屋の一室にこれだけの補給物資を置いて行った。

 

「不思議ではありますが、全部正規の連邦生徒会からの補給物資です」

 

 謎に拍車をかけるのが、ここにある補給物資がすべて正規の補給物資だった。ご丁寧に連邦生徒会内で使われている補給物資の出庫申請の書類のコピーまで置かれていた。

 

「う~ん、まぁ、ありがたいから深くは詮索しないほうがいいか」

 

 所謂大人の力という奴だろう。流石にこれだけの量を一人で運ぶのは時間も力も足りないような気がするけど、気にしないことにしよう。これのお陰で私達は無事に戦える。

 

「それはそれとして」

 

 私達は隣の部屋にいるある人の様子を見に行った。

 

「はぁ・・・」

 

 私達も殆ど使わなくなった部屋の一つを、先生に貸していた。なんでも今日は連邦生徒会長代理から直々にシャーレに居ないようにと言われたらしく、外に出張しているらしい。で、丁度私達アビドスが抱えている問題が一番大きいとのことで、こうしてここで仕事をしている。

 先生は大きなため息を漏らしながら、目の前の書類を次々と片付けていったが、ずっと持ち込んだラジオを付けている。

 

「ん?ホシノに皆もどうしたんだ?」

 

 私達の存在に気が付いた先生は、手を止めることなくこちらに聞いてきた。

 

「ん、リムル先生がどんな仕事をしているのかが気になった」

「少なくとも、見ていて楽しいものではないよ」

 

 気づかれた私達はどかどかと部屋の中に入っていき、先生の目の前に広げられている書類を見る。細かい文字で色々と書かれていてすぐに何が書かれているのかを理解するのは難しそうだ。

 

「そうだ、折角来たのならこれを見てもらってもいいかな」

 

 先生は片づけ終わった書類の山から、少しだけ書類を取りこちらに渡してきた。代表してアヤネが受け取り、内容に目を通していく。

 

「!?先生、これって」

「ああ、今の君達には必要だろ」

 

 アヤネちゃんが驚いている内容はいったい何なのだろうかと思い、私達も書類を覗き込んだ。

 

「連邦捜査局シャーレの優先対応って・・・それに条文も、どういうことですか。これじゃあ、私達が実質・・・シャーレを」

「・・・ちょっと訳があってね・・・多分そろそろかな」

 

 先生は置いていたラジオを手にし、ボリュームを上げて私達が耳を澄まさなくとも聞こえるほどの大きさにした。

 

『次は、連邦生徒会より緊急会見が生中継で行われます。会見内容は未だ発表されていませんが、過去に連邦生徒会から緊急会見が行われた事例はなく』

 

 突然連邦生徒会の会見、その話を聞いて私達は全員顔を合わせた。普段アビドスのことで手一杯の私達はアビドス外の情報に疎く、会見が行われる話も今初めて知った。先生はこのことを既に知っていたのか、それも会見の内容を知ってなのか表情はとてもよくないもので、これからのことを受け入れなければならないそんな感じがした。

 

「君達には俺の口から説明するよ。先日、君達の補給物資の申請についておかしな点があって連邦生徒会の記録を調べたんだ」

「ああ、先日電話をしてきましたね。アビドス高校からの救援要請について・・・」

「連邦生徒会内で汚職が発見された」

「「「「「!?」」」」」

 

 汚職、しかも私達の救援要請で発見したってことは・・・そういうことだよね。

 

「生徒の数名が救援物資の横領をして横流ししていた。連邦生徒会の書類上はアビドス高校を含む救援を必要としている学校に対して、救援を行っていたことになってる」

「はぁ!?ちょっと待ってよ!?どうしてそんなことになってるのよ!?普通、こうした決定には組織のトップが、連邦生徒会長が最終決定を行うものでしょ!!」

 

 机越しにいる先生の胸倉をセリカちゃんは掴んだ。

 

「状況から見て、連邦生徒会長の実印を勝手に複製して使ってた。それも結構昔からやっていることも確認された。上層部もこの事を認知したのは今回の一件だ」

「そんなのって」

「結構昔って、どの程度昔なのですか」

 

 ノノミが聞いた。一体どれだけ前からこんなことになっていたのか、それによって事の大きさは大きく変わる。

 

「確認できた範囲でも十年だ」

 

 それを聞いて絶句するしかなかった。そんな昔から汚職が蔓延していて、今まで誰も気が付かなかった?怒りを通り越して、もはや呆れしか出てこない。

 

「セリカちゃん、手を放してあげて。それだけ前だと今の潔白な方の連邦生徒会も先生も関与していないはずだし、むしろさっきの書類、私達のシャーレの優先権に緊急会見もこの問題を解決するためにやっているんだよね?」

「ああ、問題の範囲が広すぎる。金銭の解決じゃあもうこの問題を解決できないほどに。だから、連邦生徒会は自分達に大きな怪我を負うことを辞さずに、全てを打ち明けると」

「ですが、そうなると先生は今回の一件には全くの無関係ってことですよね。それなのに」

 

 ノノミちゃんの言う通り、それだけ前から汚職が行われていて、先生がシャーレに就いたのはつい最近のことだ。つまり、先生はこの事には関与できない無関係の立場のはずだった。それなのに、シャーレの優先権は自分もその責任を負うことになる。

 

「俺も連邦生徒会に所属している組織の身だ、親の組織の問題は子の組織も解決に協力するもんだ。それに、子供達がここまでの責任を負うものじゃない。だから、俺が可能な限り彼女達の代わりに贖罪をするさ」

「先生は全くの無関係なのに?先生は外から来た人でしょ、ここまでの問題を起こしているってわかったらすべてをほっぽり出して帰ることもできたはず?」

 

 それは無意識のうちに出てきた質問だった。いくら大人のことが嫌いな私でも、自分ではなく他人が起こした問題で、ここまでの尻拭いをしなければならなくなる大人には同情だってする。

 

「私的な事情があるってのもあるが、俺は先生の任を引き受けたんだ。だったらやれることはなんだってやるよ。それが身を粉にすることのあってもな」

「なにそれ」

 

 先生に一体どんなメリットがあるんだ。今でも明らかに一人で処理するような書類の山ではないものを相手にしていたのに、これからもっと大変なことになることが分かっているのに、どうしてそんなことが言えるの。

 

「とはいえ、俺自身はこれまでとやることは変わらないかな。今でも色んな学園から無茶ぶりを振られていたから」

「それはそれでどうなんですか」

「大丈夫大丈夫、仕事量はこっちのほうが多いけど、危険性なら俺がいた国のほうが比較するのがばからしいくらいにはかけ離れてるから」

 

キヴォトスよりも危険性が高いと笑い捨てる。そして、ラジオから丁度会見が始まったことが伝えられた。

それからのSNSや各学園からは様々な反応が見られた。連邦生徒会を非難糾弾、罵詈雑言、とても収拾が着くとは思えないほどの炎上を見せた。その矛先は、先生にも及んでいたが、本人が何処吹く風、目の前の仕事を片付けているだけだった。

 それからしばらくして、ふとリムル先生が口を開いた。

 

「そういえば、ずっと聞こうと思っていたことがあるんだけど、いいかな?」

「うへぇ、何かな?」

「”廃校対策”委員会ってどういうこと?ただ在校生が少ないっていだけじゃないよね?」

 

 先生は、私達の学校がただ在校生が少ないことによる廃校の危機ではないと察していた。

 

「どうしてそう思うのかな?」

「廃校になる理由はいくつかあるが、代表的なのはやっぱり在校生の極端な減少。少し前にも在校生が一人も居なくなって廃校になった中学校がここにはあった」

「・・・私立ネフティス中学校ですね」

「ああ。あとは他の学園との統合による廃校だな。これはトリニティ総合学園とかがいい例だな。ただ、アビドス高校は生徒数の低下でも他の学園との統合でもないよな?だから考えられるのは・・・財政難位だ」

 

 この先生は本当に何者なのだろうか、一日二日。アビドス高校の書類なんて見せていないのにここまでの勘繰り様。昨日だって午後に連邦生徒会の不祥事に気が付いてあれこれ動いていたのに、アビドス高校の存在だってようやく認識したのはその頃なのに、どうして。

 

「どの程度の赤字なんだ?」

「はぁ!?どうしてそんなことを教えなきゃいけないのよ」

 

 先生の直接の質問にセリカちゃんは噛みつこうとしたが、私はそれを制止した。そしてアヤネちゃんのほうを見てうなずいた。

 

「現在アビドス高校が抱えている借金の総額は、9億6235万円です」

「・・・」

 

 今まで余裕を見せていたり、多少困っていた表情を見せていた先生が驚きのあまり固まっていた。数秒ほど先生がその内容を咀嚼し飲み込んだころ。

 

「借金約九億?」

「はい、借金9億6235万円です」

「この学園一校が抱えている?」

「はい」

 

 途方もない借金の総額を聞き、先生は作り笑顔を見せようとがんばっていた。

 

「返済の目途は?」

「毎月八百万弱の返済で、返済期間309年です」

「・・・」

 

 とても返済しきる未来が見えない返済計画に先生の顔からは遂に作り笑顔も消えた。そして、真剣なまなざしで私たちを見た。

 

「俺はあくまで外部の者だ。だから、君達がどんな思いでこの学校にいるのか、借金を返済しているのかは知らない。その上で言わせてほしい」

 

 少しの間があり、私達は頷いた。

 

「その借金は話を聞いている限り、あくまでもアビドス高校の名で借りている借金。つまり返済義務が発生するのはその学園及びその学園に在籍している生徒だ。けれど、生徒である君たちは転校という手がある。その手を使えば」

「するわけないでしょ!!」

 

 先生の言葉を遮ったのはセリカちゃんだ。

 

「他の四人もセリカと同じでいいのかな?」

「はい、私達はこの学園から出ていくつもりはありません」

「ん、私はここで育った。だから、手放さない」

「私もこの学園をどうにかしたいという思いがあります」

「おじさんも、この学園から出ていくって考えは無いかなあぁ」

「そうだよな。流石に借金九億もある中、この学園に在籍し続けているとなれば」

 

 私達の答えはわかりきっていたようで、茨の道を突き進んでいく私達の意思には否定も非難もしなかった。

 

「でも、現実問題その借金はどうするつもりなんだ?君達五人ではとても返しきれない程の借金だし、君達には悪いけど今のこの状況じゃ新入生も期待はできない。たった3年でこの状況をひっくり返せるだけのビジョンはあるのか?」

 

 この問いに私達は何も言えなかった。薄々私達もわかってはいた。この状況を私達だけではどうにかすることなんてできないことを。今、それを改めて先生に言われただけだ。

 私達の答えは沈黙、それに対して先生は。

 

「すまない、意地悪な質問だったな。まぁ、わかった、俺がどうにかこの状況をひっくり返してみせるよ」

「へぇ、そんなことが先生にできるの?」

「任せとけって、こう見えても集落の危機を救って一国を築いたんだ。やれることはやってやるよ」

 

 その話が私たちを安心させるためのホラなのかはわからない。ただ、この先生は私達が会ってきた先生とは何かは違うようだ。

 

「ふざけないでよ!!」

 

 

 

 

 突然セリカが叫び声をあげて思わず俺は驚いた。

 

「好き勝手言って、おまけにどうにかするだって!?ふざけたことを言わないでよ、何にも知らない外から来た人が、それも不祥事を起こしたばかりの連邦生徒会の関係者を信用しろっての!?」

「セ、セリカちゃん」

「まぁ、そう言われるのは無理もないからね。俺は行動で示すよ」

「それで信用しろっていうの!!」

 

 声を荒げるセリカ。今思えば、リグルド達もベニマル達も俺の決定に従って文句の一つも言わずに従ってきてくれていたな。普通なら、こうして反発が生まれるものだよな。

 

「まあまあセリカちゃん、先生もこうして誠意を見せてる訳だし」

「だから何なのよ、結局この人だって私達を利用しようとしている大人だって証明はないじゃん」

「それの意図がないことを示すための優先権だと思うのですが」

 

 彼女達は言い合いを始めてしまい、俺が口を挟むタイミングを探ろうとしたが。

 

「私は認めないから!!」

 

 セリカはそう言い残して部屋から飛び出してしまった。

 

「私、セリカちゃんのことを追いかけていきます」

 

 ノノミが飛び出していったセリカを追いかけて、彼女も飛び出してしまった。

 

「ありゃりゃ、信用されていないとは思っていたけど、結構嫌われちゃってるかな俺・・・」

「大丈夫だよ。数日もすればセリカちゃんも心を開いてくれるって」

「そうだといいけど」

 

 とはいえ、彼女が言う通り俺は本来部外者で関係のない立場かつ、直近で不祥事を起こした組織の関係者。おまけにその不祥事の被害者が彼女たちなのだから、信頼されないのは当たり前な話だ。

 

「それじゃあ、どうして約九億の借金をしているのか教えてくれないかな?」

「どうにも、聞いたってつまらない話だよ?」

「原因を聞かないと対策を講じれないからな」

「そうかもねぇ」

 

 ホシノはそう言いつつ、アヤネの方を見た。

 

「あ、また私ですか?わかりました」

 

 その意図を察したアヤネは咳ばらいをしてから、話し始めた。

 

「数十年前、この学区の郊外にある砂漠で、砂嵐が起きたのです。この地域では以前から頻繁に砂嵐は起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした。学区のいたるところが砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂はとどまり続けてしまいました。その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした」

 

 自然災害の予想外の事態で多額の出費が必要になった。俺の所ではまだ自然災害が起因の復興はなかったが、確かに今の魔国連邦(テンペスト)でも復興が必要になったら、建設した時よりも多額の費用が必要に・・・あれ?ミリムにちょくちょく壊されているからあんまり変わらないか?

 

「しかし、このような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行はなかなか見つからず」

「悪徳金融業から借りるしかなかったと?」

「はい、その通りです」

「自然災害は厄介だな・・・」

 

 自然災害が原因となれば、仮に借金がどうにかできたとしても、再び自然災害が原因で借金をせざるしかなくなる。砂嵐が発生したとしてもどうにかなる対策を講じなければ堂々巡りになってしまう。

 

「さすがに、都市部をドーム状で覆うって訳にはいかないよなぁ・・・建築費がばかにならないし維持費も・・・」

「現状、私達だけでは手が足りず、都市部の砂の多くは積もったままそのままになっています」

「・・・なるほどね。まあ、どうにかしてみせるよ」

 

 セリカからの信用はこれから行動で示せばいい、だから俺は今晩ある行動を起こした。

 

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