異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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十五話 無力

「うーん、昨日集めたあれの始末どうしようかな」

 

 先日、アビドス高校の生徒の彼女達から現在抱えている借金が約九億円程という途方もない額を聞き頭を抱えた後、あのまま考えていても答えは出せないと思い、俺は別の仕事をこなした。

 そして今、俺は早朝の砂一つ無くなったアビドス地区の住宅街、というには人の気配が全くしないこの場所を自転車で走り抜けている。本当ならば連邦生徒会に戻り、様々なところから詰め寄せてくる相手をするのを俺も対応するべきなのだが、連邦生徒会長代理のリンに、不祥事の対処は自分達でやるので俺には俺にしかできない仕事をしてくるようにと出禁を受けてしまった。そのため、俺は今抱えている問題の中でも最も大きな問題のアビドス地区の問題解決に活動している。

 

 

「ん?あれは・・・」

 

 見覚えのある人物が見えたため、俺はそちらの方に舵を切り、自転車を走らせた。

 

「やあ、おはよう」

「う・・・な、何?」

 

 俺が声をかけるやいなや、嫌なものを見る目でこちらを見てきた。そんな表情には流石の俺も心が傷ついてしまう。

 

「今日は自由登校の日だけれど、セリカは学校に行くのかい?」

「気安く話しかけないでよ、それになんであんたなんかに教えなくちゃいけないわけ?」

 

 完全にセリカには嫌われているようだ。懐かしいなヒナタが俺の話を全く聞かなかった時の頃が、それと比べればセリカは攻撃はしてこないし、一応は話を聞いてはくれているから。

 

 

「そう返すってことは、今日は学校には行かないんだな。学生の本文が学業だから成績は疎かにするんじゃないぞ?」

「どうしてそうなるわけ、あと余計なお節介!!」

「え、昨日ノノミに聞いたら数学の成績があんまりだって」

「ノノミ先輩!?」

 

 身内からの密告が発覚し、キーと漫画ならば縦に伸びながら威嚇するような感じをセリカは見せてくれた。

 

「そう言う先生はどうなの!!連邦生徒会は色々大変なことになっているってニュースになっているのに、こんなところで油を売っていていいの!?」

「一応、これでも一仕事をこなしてきたばかりでね。次の仕事で学校に向かう途中だよ」

 

 どうにか話題を切り替えようとするセリカだが、残念だがその手は通じない。こっちは連邦生徒会直々に出張していろと言われている身で、本当に次の仕事に向かう途中なのだから。

 

「あっそ、私もやることがあるから邪魔をしないでね」

「交通安全第一だぞ、横断歩道を飛び出すんじゃないぞ~」

「そんな子供じゃないから!!

 

 

 カッカしていくセリカを見届けてから、俺は再び自転車を走りださせて目的の学校へと向かう。

 

「ま、学校に向かうって言っても、こっちの学校だけどね」

 

 俺が向かった先の学校はアビドス高校ではなく、大分前に廃校となり撤去されることなく建物だけが残されてしまった廃校舎だ。

 少しでも見つかりにくいようにスライムの姿へと戻り、廃校舎の中を進んでいく。

 俺がこの場所に来た理由は廃校探索が目的ではない。一応、この学校が廃校になった理由がわかる書類が見つかればいいかな程度で、本命ではない。本命はこの廃校舎にいる相手だ。

 

「これは、ブービートラップってやつだよな」

 

 廃校舎の中を移動していると、階段を昇り終わり通路へと出ようとしたところで何やら糸が張られていた。張られていた糸を辿っていき先を見れば、グレネードのピンへと結び付けられている。存在を知らずに無警戒に突っ込んでいけば、この糸に足を引っかけて、グレネードを起爆させてしまうだろうが、生憎俺にはこうしたものに一早く察知してくれるシエル先生がいるのだ。だから、在ってないような無いようなものなのだよ。

 俺はワイヤートラップを起動させないように通り抜け、その先にある部屋へと向かいつつ、スライムの姿から人の姿に擬態した、近くのドーナツチェーン店でテイクアウトで買ってきたドーナツの箱を手にしながら。そして、魔力探知が捉えていた相手が居る部屋の扉を開けた。

 

「やぁ、おはよう」

「うわ!?何者だ!?」

「いつの間に入ってきた!?」

「シャーレの先生だ!!」

 

 俺が入ってきたことに驚くカタカタヘルメット団の彼女達。突然の侵入者に驚きつつも、すぐに自分の武器を手にして構えようとしているが。

 

「まあまあ、落ち着いてくれよ。俺は戦いに来たんじゃないんだから、ほら手土産のドーナツだから」

 

 手を挙げて武器を持っていないことを示しつつ、持っていたドーナツの箱を近くにいた少女の方へと差し出し、受け取るよう促す。そして、少女は箱を受け取り少し俺から距離を取ってから箱の中身を確認し・・・

 

「皆!!本物のドーナツだ!!」

「マジで!?」

「ホント!?」

 

 本物のドーナツだとわかると、数人の少女達は持っていた武器を手放して箱に群がる。君達、一応敵認定していた相手がいる状態でそんなに油断と隙を晒してしまっていいのかな・・・そうしつつ、俺は一枚の布を取り出して手を隠し。

 

「安心して・・・」

 

 彼女達からの死角を布で作り出して、その死角の中で胃袋からもう一箱を取り出した。

 

「もう一箱あるから」

「「「わ~~!!」」」

 

 ギリギリ人数分ある程度のドーナツにここまで群がってしまう少女達に別の心配を覚えつつも、どうやら彼女達は俺に対しての警戒を解いてくれたようだった。

 こうして、全員にドーナツが行き渡り皆が楽しく談笑しながらドーナツを食べている中、俺は推定リーダー格と思われる少女の前に向かった。

 

「どう?お口にはあったかな?」

「ああ、ありがとう。久々に甘いものを食べたよ」

「それはよかった。その、ドーナツ代の代わりに少し話を聞かせてもらっていもいいかな?」

「・・・初めからそれが目的だったな?」

「ああ」

 

 俺は少女の前に座り、俺も自分の分のドーナツを食べる。

 

「わかったよ。答えられる範囲なら教えてやるよ」

「ありがとう。といっても、話を聞く前に少し身の丈の話をさせてくれ」

「なんだ?」

「俺はここキヴォトスの存在、学園都市の存在を知ったのは一か月も経たない前なんだ。だから、君達にとって知っていて当たり前なこと、常識なことは何も知らない。俺が無知な事を承知に君の話を聞かせて欲しい」

「・・・そういえば、シャーレの先生は外から来たなんて話があったな・・・そうだよな」

 

 少女は俺が何故こんな前ぶりをしたのかわかってくれた。

 

「先生は、私達がどうしてこんな生活をしているのかを知りたいんだな?」

「ああ、連邦捜査局の資料だけじゃわからないことが多い。だから、実際にそんな生活をすることになっている君達に直接聞くしかない」

 

 少女は顔を伏せてから、天井を見上げてから話し始めた。

 

「私達全員ってわけではないけど、こうした生活をしている奴らって学籍を持ってないんだよ」

「学籍を持ってない?」

「正確に言えば、どこの学園にも所属してないんだ。私達の所は元々通ってた学園が廃校になってな」

「・・・それの何が問題なんだ?」

 

 学籍がない、たったそれだけのことがどれだけの問題をもたらすのか想像がつかない。けれど、それは俺の思っていた以上に深刻な問題だった。

 

「私達にとって学籍がないってことは、アパートも借りれねぇ、学生割も保証も使えない、アルバイトもできねぇんだよ」

「・・・何処かの学園に入ろうとは思わないのか?」

「出来たらこんなことしてないよ。今更他の学園に編入させてもらおうにも、まともな勉強をしていない私達は編入試験に合格できるわけがねぇし、そんな金もねぇ」

「思っていたよりも深刻だな」

 

 学籍なんて名ばかりの、その仕組みはほぼ国籍だ。彼女達がこの地で生きていくには否応なしに何処かの学園に所属しなければならない。だが、現実問題、彼女達がどうにかして学園に戻ろうにも戻ることができないのが現状。

 元々、俺が彼女達に話を聞きに来たのは、どうして彼女達はこんな活動をしているのかの理由を知りたかった。理由を知れば、新しくこうした生活をするような生徒を、今こうした生活をしている生徒達の助けになるはず。そう思っていたのだが、事態は思ったよりも深刻だった。

 

「君達はこれからどうしたいんだ?」

「どうしたいかか、今の私達はそんなことも語れないな」

「・・・すまない」

「いいんだよ。先生がこの現状を知ってくれただけでもありがたいさ」

「君みたいな子もこうした生活をしなければならない現状には」

 

 そこから互いに静寂が訪れた。こうして問題を見てみれば、俺が思っていた以上に問題は根深く、容易に解決できるようなものではない。

 

「君らは普段どうやって生活をしているんだ?」

「基本的には皆お金を稼ぐが、この場所の見回り、あとは皆の飯の調達とかだな」

「どうやってお金を稼いでるんだ?さっき学籍がないからバイトはできないって言っていたが・・・」

「近くにブラックマーケットってのがあるんだよ、あそこなら学籍を問わずに報酬を支払ってくれる依頼があるから」

「闇市か・・・」

 

 ここにきて、新たな不穏なワードを聞いてしまった。闇市、非合法なものやサービスが取引されている市場、そこならば確かに学籍がない彼女達が稼ぎ口を探すには適切だろう。その依頼内容がまともなものではないことは明白だが。加えてそんな場所が、ここアビドス近くにあることも初耳だった。

 

「私達はブラックマーケットで依頼をこなして、どうにか食いつないでいるんだ」

「立場的にはそんな場所に行くなと言いたい所だが、君達には生活に必要なこと、なんだよな」

「そうですね。私達の生活がかかっていますから」

 

 ここでやめろと言っても、彼女達は決してやめることはない。ここが魔国連邦(テンペスト)ならば、今すぐにも法整備を進めさせて、彼女達を救済することができるようにするのだが、ここは違うキヴォトスなのだ。こうしたことを取り扱っている連邦生徒会に話を取り付けさせるのも手だが、残念なことに先日の不祥事の対応で今の連邦生徒会はキャパオーバー、加えてこのような状態になっている具体的な数も不明な状態では予算も組めない。

 

「君達のために何かをしてあげたいが、何もできない無力な俺ですまない」

 

 どんなに超法規的な権力を持っていても、その問題をどうにかすることができなければ意味なんてない。

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