ヘルメット団の彼女達から話を聞いた後、俺はアビドス高校の一室へと戻り書類仕事を進める。今の連邦生徒会は通常業務を滞りなく進めることができないのは誰の目からも明らかな状態。不祥事への対応は彼女達にすべてを任せて、俺は彼女達がするべき業務の書類達を片付ける。
「間借りさせてもらっている俺が言うのもあれなんだけれど・・・一応機密書類もあるんだけど」
「いいじゃんいいじゃん、減るもんじゃないんだしさぁ」
俺がアビドス高校の敷地に入った直後から、ホシノは常に俺が視界に入る位置にいる。ご丁寧にショットガンを対策委員会室のガンラックにかけることなく、この部屋にも持ち込んできている。
あからさまに俺のことを警戒しているよな。
少し前に俺は連邦生徒会ネットワークにある各学園の生徒資料の中から、アビドス高校の中から彼女の生徒資料に目を通して、彼女の来歴を確認した。
二年前にアビドス高校に入学し、一年生ながらアビドス生徒会副会長に就任。その翌年と今年も更新されることなく、そのままアビドス生徒会副会長の任についている。連邦生徒会が有している情報はその程度で、彼女の人となりがわかるような情報は何もなかった。
わからないことが多い中でも、今手元にある情報だけでもある程度の推察をすることはできる。これまでのアビドス高校は裏切られ、搾取されて、同年代の子達にも襲撃されてきた。そうなれば、外部から来た相手には必要以上の警戒を覚えてしまう。それも三年間戦い続けてきた彼女は、もう他人を信用できないのかもしれない。
「ホシノ」
「うへぇ、なに?」
「別に俺のことを信用しなくてもいいし、期待しなくてもいいよ」
「どうしたの急に?」
「俺は、俺のやりたいようにするだけだからな。ホシノも自分のやりたいようにするといいよ」
「本当にどうしたの?」
俺の言葉にホシノは困惑を見せる。
「ところでさ、先生一つ質問があるんだけど」
「なんだ?」
ここにきて、今日初めてホシノが俺に話題を振ってきた。
「なんでだか知らないんだけど、今日のアビドスの街にはさ、砂の山一つ無かったんだけどどういうことだか知ってる?」
「俺が掃除したけど、それが?」
「何言ってるのかなぁ?おじさんが把握しているだけでも、この学校近辺だけじゃなくて市街地や申し訳程度の都市部の砂まで無くなってたんだけど?」
「俺が一晩でやった」
「どうやって、一晩であれだけの砂を取って移動させるの?とてもじゃないけど、大人数の人を雇ったにしてもたった一晩で、だれにも気が付かれるに終わらせるなんて無理だよ」
「まぁ、その辺りは企業秘密?」
実際の所、誰にも気が付かれないようにスライムの姿のまま目についた砂を片っ端から胃袋に入れていった。だから、本来撤去に掛かる費用諸々は俺の時間と胃袋の中のごく一部のスペースだけだ。
「えぇ?教えてくれないかなぁ?それだけ簡単に砂をどうにかしてくれるところがあるんだったら色々と楽だったんだけどなぁ」
「俺も教えられるなら教えたい」
この世界でスキルと魔法の存在を露見させるリスクが今の所まだ計り知れていない。少なくとも魔法やスキルと言ったものが表向きには存在しないことは確認できた。故に、この情報の扱いは未だに慎重にしなければならない。ただ、使わないとは言っていない。
「どうしても教えられない?」
「もし知りたいならホシノが知りうる情報を全てを包み隠しなく話して、守秘義務を負ってくれるなら話さなくもないかな」
「逆にそこまで秘匿しておきたい情報でもあると?」
「そうなるね」
「その条件を飲んだら教えてくれる?」
「ああ」
俺が隠し事をしていることはこれで明白だが、俺の予想ではホシノも何かを隠している気がする。いや、隠しているというよりも抱え込んでいるかな。
「先生ってさ、誰の味方なの?」
「俺のやりたいことに立ちふさがる相手は敵で、俺の仲間と同盟、国交を結んだ位相手は味方だ」
「誰でも敵にも味方にもなるんだね」
その言葉に返そうとした瞬間、突然部屋の扉が勢いよく開きノノミ達がそのまま入ってきた。
「リムル先生☆お昼はまだでしょうか!!!」
「ん、おすすめのラーメン屋があるからリムル先生も一緒に行くべき」
「それと、アヤネちゃんとも合流するつもりらしいです」
タイミングを読まない三人に思わず苦笑いをする俺とホシノ、だが、時刻を見てみればすでに十二時を回っていて、お昼を食べに行くのにはちょうどいい時間帯だった。
「ホシノはどうするんだ?俺はこうした誘いは大歓迎だけど」
「うへ、おじさんも一緒に行こうかな」
俺は卓上に広げていた書類を片付け、ホシノはしわしわになったシャツを正して掛けていたショットガンを手にする。
準備を終えた俺は彼女達の案内を受けながらアビドスの市街地を進んでいく。のだけれど…
「二人とも近くないかな?」
「ん、そんなことはない」
「そんなことないですよ~」
何故だか以上にノノミとシロコの距離が俺に近い。というか、ノノミは俺の腕を掴んでいて、シロコは袖を掴んでいる。昨日今日でこの距離感の変化は一体何なんだ?そして、俺の事を見ているワカモがものすごく殺気立っているんですけど。その殺気に気がついてるホシノがすっごいそっちの方を見てるからね?
「アヤネかホシノどうにかしてくれないか?」
「うぇへ、先生モテモテだねぇ」
「お二人共、先生が困っていますから離れてください」
「ん、やだ」
「いいじゃないですから。減るものではないのですから☆」
ホシノはこの状況をからかい、アヤネは二人に言ってくれるものの残念ながら二人の意思は変わらない。とても歩きにくい状態であるが、彼女達は離れてくれない。子供達相手に力技で振り払う気にもなれず、いつものようにスライムの姿で滑りぬけることもできない。
俺は振り払うことを諦め、二人に手を引かれる形で目的地へと向かうことになるのだが、向かっている方向には覚えがあった。そして、その考えは当たりだった。
「やっぱり、紫関ラーメンか」
「あれ?先生わかってた?」
「年頃の学生が腹一杯食べることができて、これだけの人数が一度に入れる店はここしか知らないからな」
案内された場所は予想通り、この前食べに来た紫関ラーメンであった。そして、彼女達の様子からして、結構な頻度でここには食べに来ていることが伺える。だから、この前対象はあんなことを言っていたのか。
「それじゃあ、行きますよ~☆」
ノノミはノリノリのまま暖簾をくぐり戸を開ける。そしてそのまま元気よく。
「あの~☆5人なんですけど~!」
「あ、あはは・・・・セリカちゃん、お疲れ・・・」
「お疲れ」
この状況を楽しんでいるノノミに対して、アヤネはどう言ったものかと言葉を詰まらせて、当たり障りのない言葉を選んだ。シロコは何事もなかったかのように、当たり前のように言った。
「み、みんな・・・どうしてここを・・・!?」
セリカは突然よく知る友人がこの場所に来たことに困惑し、見るからに顔を赤面させていく。
「うへ~やっぱりここだと思った」
「一応、俺も誘われてな」
三人が店内に入ってから、俺とホシノも店内に入りセリカにも見えるように移動する。
「な、せっ、先生まで・・・私の事をストーカーしてたの!?」
「いやいや、そんなことしてないからね!!普通に仕事してたから!!」
セリカからありもしない疑いをかけられてしまい、俺はすぐに手と横を振り否定する。
「うへ、先生は悪くないよ~。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん?だから来てみたの」
「ホシノ先輩かぁ」
いや、会話的に恐らくノノミとシロコ、アヤネも何となくどこでバイトをしているのかは察しているようだったけど、今ここで余計なことを言って、セリカから余計な怒りを買う必要もないよな。
「アビドスの生徒さんに先生じゃないか、セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」
「あ、うう・・・はい、大将。それでは、広い席にご案内します・・・こちらへどうぞ・・・」
色々と言いたいことはあるのをどうにか飲み込み、今はここのバイトという立場かつ大将に言われた直後、セリカは作り笑顔を見せながら広い席へと俺達を案内した。
ここで一つ問題が起きた。俺達は、俺、ホシノ、ノノミ、シロコ、アヤネの五人。椅子は二人掛けを想定していて、三人で座るには少しばかり狭い。対面も同じような作りで四人程度が座るところだが、この場合俺はどこに座るのが適切なのだろうか。
ゼネコンの時は上座や下座なんてことを覚えてきたが、学生である彼女達にはそんな概念はないだろう。自分たちが好きな席に座っていく。仮に先に四人に座らせて残った場所に俺が座ろうにも、空いているスペースはないのだ。
「はい、先生はこちらへ!私の隣開いています!」
「・・・ん、私の隣も空いている」
さて、俺が考えている間にホシノとシロコ、アヤネとノノミに分かれている。そして、シロコとノノミは俺が隣に座ることを期待している。
「大将、カウンター席一つ借りていいかな」
「駄目だよぉ先生、こんな所で逃げてちゃ」
「そうだぜ先生よ。折角皆と一緒なんだから同じ机を囲わないとな」
くそ、退路を断たれてしまった。ならば・・・
「それじゃあ、椅子を一つ借りていいか?あと通路側に出ることになるけど」
「それくらい構わないさ。そっちにあるのを持ってきな」
俺は大将から許可をもらい、壁際に置かれている椅子を一つ持ってきて彼女たちが座る机の側面の位置に座った。
俺がどこに座るのかというやり取りをしている間に、ホシノはバイト服姿のセリカをからかっていた。
「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう?一枚買わない、先生?」
「いや、そういうものを買うつもりはないから。あ、いや待てよ・・・あっちでも写真撮影ってのはよく売れ・・・いや、俺が着せ替え人形にされるだけだからやめておこう。うん、存在を知ったら多分ルミナスが絶対射影機よこせって言うよな・・・あいつ趣味がおっさんだし」
あっちでも写真という物を売れるようになれればもっと儲けられそうな気がしたが、身内と知り合いの手に渡ったら確実に俺が面倒なことになり、ただでさえ遠隔で遠くの様子を見せる魔法を使っただけでカゼル王に怒られたあたりから、今目の前の一瞬を手軽に残せるものを作ろうものならどうなることやら・・・
「先生・・・なんか突然哀愁が漂い始めたんだけど・・・」
「ああ、悪い悪い。ちょっと自国の方のことを考えちまったわ」
今は食事時だ、そんなことを考えるのは後にしよう。目の前のメニュー表は彼女達に使わせて、俺は壁に掛けられているメニューから何を食べようか考える。
「私はチャーシュー麺をお願いします」
「私は塩」
「えっと・・・私は味噌で・・・」
「私はねー、特性味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで」
「俺は味噌と餃子を頼むよ」
各々が自分の注文を済ませ、セリカは伝票に注文をメモしていく。すると、そのペンを走らせるのを止め。
「ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またのノノミ先輩に奢ってもらうつもり?」
「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆このカードなら、限度額までまだ余裕ありますし」
ノノミが笑顔のまま取り出したカード、それは金色に輝いていた。
えちょ、それゴールドカード!?俺の前世の時でも確か年会費が結構高いうえ、俺の普段使いしている限りでは絶対に必要性を感じられなかったあの?とと、それは置いといて。ゴールドカードを学生が持っているって、ノノミの親ってもしかして相当裕福なのか?
《個体名「十六夜ノノミ」の実家は「セイント・ネフティス」の代表取締役を務めています。「セイント・ネフティス」は現在キヴォトスの広域に事業展開をしており、物流、交通機関の事業が主となっています。かつてはアビドス地区でも事業展開をしていたようですが、現在は撤退している模様です》
すかさずシエル先生からの補足が入った。そうか、ノノミはご令嬢だったのか、ん?確か・・・直近で廃校になった中学校って・・・
《私立ネフティス中学校の運営にはセイント・ネフティスが関わっています》
となれば・・・相当お嬢様だよねノノミって。言っちゃあれだけど、人生イージーモード、親が成功までの道のレールだって引いてそうな家の子が、どうしてこんな貧困なアビドスに。
「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。きっと先生奢ってくれるはずだよね、先生?」
「最初からそれが狙いだっただろ?まぁ、いい、けど俺の中にはこんな諺がある」
俺は懐から一枚のカードを取り出して見せてあげた。
「働かざる者食うべからずだ、俺の金で食うのなら帰ったらシャーレの業務を少し手伝ってもらうぞ」
「おお、大人のカード!!」
”大人カード”俺がシャーレの部室の机周りを整理しているときに見つけたカードで、シエルの鑑定曰く
「ん、仕方がない」
「私達にできる限りのことでお手伝いしますね」
そんな会話をしていると、俺の膝に何かが当たった。そして、ノノミがこちらを見ながら小さな声で。
「先生、こっそりこれで支払ってください」
「大丈夫、給料の大半は食費に回せるだけ余裕はある。(前借だけど)」
机の下で俺に現金を渡そうとするのノノミの手を戻し、俺はそして。
「セリカ、皆の分の餃子も追加で」
「今追加!?」
こうして、子供達には腹一杯飯を食わせてやることにした。あとは今度ユウカと会うことになる俺に任せよう。←子供に財布の紐を握られている魔王兼国王
先生が来てから明らかに変なことが起きている。昨日の大量の支援物資の件もそうだけれど、今朝方自分の部屋から学校に向かう途中、嫌というほど見てきた大量の砂の山が綺麗になくなっていたのだ。昔、少し砂を片付ける機会があったが、その時どれだけ大変な思いをしたか、片付けるのにどれだけの費用が掛かるのかを痛感したことがある。だから、街の至る所にある砂の山をたった一晩でそれも処分までも含めてやるなんて不可能のはずだった。それなのに、現実は砂の一つ見えない街並みが広がっていた。
先日の大量の支援物資の一件を考えれば、先生は何かしらの方法で常人では運ぶことができない量を短時間で運ぶことができることは予測できる。けれど、あれだけの砂を一体どこに運んだ?砂漠にでもわざわざ運んで行ったのか?街中から砂漠までは距離があるのに?
そして、先生は私達に何かを隠していることを認めた。同時にその秘密どれだけ秘匿したいのか、もし知りたいのならば私にどうして欲しいのかも教えてくれた。
「はぁ、私の知っていることを全部教えろか・・・」
私だって人には言えない秘密の一つや二つだってある。それはアビドスの為に頑張ってくれている後輩ちゃん達にだって言えないことだって。けど、先生は何かを知りたい、そのためなら些細な情報でも集めたい、そんな感じがした。あそこまで秘密にしたそうにしていて、私が知っていることを吐けば教えてくれる程度にはなのだから。
「今日も動かないか」
アビドス高校の校舎から少し離れた場所の空き家。私はそこで夜になっても明かりがついている部屋を単眼鏡で覗いている。部屋の中では先生がずっとパソコンと片手でにらめっこしつつ、もう片方の手では次々と書類を片付けて行っている。並列思考だとしても、一体頭の中はどうなっているんだといいたくなる様子だ。
「朝から仕事を片付けてたのに、まだ仕事を片付けてるんだね」
「あのお方はこちらに来る前からそうでしたよ?」
「へぇ、で君でいいのかな?私のかわいい後輩ちゃん達に殺気を向けていたのはさ?」
私は声が聞こえてきたほうにショットガンを向けて引き金に指をかけるが、先に居る彼女は気にも留めずにこちらに歩いてくる。
「ええ、あのお方にベッタリとくっ付いているメスに苛立ちを覚えましたわ。私はまだあのお方とお手を繋げていないというのに」
私の横を通り過ぎつつ、手から短眼鏡を奪い取り先生の方を見始めた。
「随分余裕そうだね。引き金に指をかけてるのにさ」
「あなたが撃つつもりがないことはわかっていますし、私も戦うつもりはありませんからね」
「へぇ、なんで?」
「まず、ここで下手に戦闘を起こせばあのお方はすぐにこちらに来る。私とあなたが戦っている様子を見られるのは、そちらにとっても不都合でしょう?それに、大切な後輩達の安全もわからない。違いますか?」
「うへ、よくわかってるね」
確か和服だっけかな、そんな衣装に狐の面を付けている少女は私に単眼鏡を投げ返した。
「警告ですわ。私はあのお方をお守りするためならば命を賭けても惜しくありません。あなたも後輩さんたちをお守りするためならば命を賭けるのは惜しくないとお見受けします」
「だったら、私からも言うよ。アビドスに手を出してみな、ヘイローの無事は保証しないよ」
少なくとも目の前のこいつは、シロコちゃんたちじゃ相手にならないほどに強い。
「ああ、それと」
突然アビドス高校のほうを指さした。そっちに一体何があるのかと見てみれば、先生がいた部屋の光の洩れ方が変わっている。何かあったのか?私は単眼鏡でのぞき込むと。
”ホシノ・ワカモさっさと寝なさい”
窓ガラスに一枚の張り紙が付けられていた。
「ええ・・・バレてた・・・」
「言ったでしょう、あのお方はすぐに来ると」
「だから、昼間あんなに離れてたんだね」
「ええ」