先生はそのまま空を飛びながら、自分について来るようにと指示をしてアヤネちゃんは先生が空を飛んでいる事実に困惑をしつつも、車を勢いよく走らせた。ちらっと見えた車のメーターは時速120㎞を指しているのにも関わらず、先生はむしろ私達が遅れていないかを確認しながら飛行をする。
「リムル先生、空を飛べてあんなに早いんですね」
「ん、羨ましい」
「いやぁ、あれだったら先生自転車いらなかったんじゃないかなぁ?」
先生が何で空を飛べるのに、わざわざ自転車を使っていたのかなんてわかる。私達ですらこんな反応をしているのに、あれをもっと人目が付くような場所で日常的に使ってみれば、それはもう大騒ぎだ。トリニティやゲヘナにも翼を持っている生徒は居るが、あんなに自由自在に速度を持って飛べる話なんて聞いたことがない。これだけでも先生の異常性は十分だが、これまでの先生がアビドスでやってきたこともこれに関連したことだったのだろう。
先生が持っている力、他の力を含めてもこの世界では悪目立ちする、異常すぎる力が先生にはあった。そして、その先生は今、表立って使ってきていなかった力を、セリカを助けるためだけに使っている。
「はぁ、色々終わったら先生にはしっかり話を聞かないとだね」
「ん、空の飛び方を教わる」
「私たちも飛べるようになるといいですね☆」
「!!皆さん、見えてきましたよ。戦闘の準備を」
そうしている間にも、セリカちゃんを攫ったであろうヘルメット団がいる廃工場へと辿り着いた。
「よっと」
ある程度建物に近づいたところで、先生はジープの屋根に着地し、広げていた翼を隠した。その背中を見れば、今まで隠していた翼を広げたのに対し、今の先生の服には無理矢理翼を広げて服を破いた跡はない。まるで、初めからそんなことは無かったかのようにきれいな服へと戻っていた。
「目標は黒見セリカの奪還、あるいはその痕跡の発見。すでに連れ去られてから大分時間がたってる、ここから移動している可能性は大いにある。最悪の準備もしておいてくれ・・・」
最悪の準備?一体どんな最悪を想定しているのか。
「その必要はないよ」
「ん、必要ない」
「だって、私達は絶対助け出しますから」
私達のどこまでも明るい、暗い方をわかっていても決して見ようとはしない言葉。先生はそれを聞き、少しだけ呆けた顔を見せたが、くすっと笑い、前を見る。
「そうだな、ここで俺達が見つけ出せば関係ないよな」
シロコちゃんは自分のライフルを取り出し、マガジンを差し込みチャージングハンドルを引き、セーフティーを解除していつでも射撃ができるようにした。ノノミちゃんも弾帯をミニガンに取り付け、ボタン一つで撃てるように準備する。私も愛銃を横にしてショットシェルホルダーにシェルが付いていることを確認し、シェルを底の挿入口から装填する。
「まもなく侵入します!!」
私達の準備を終えたタイミングで、目標の建物は目前に迫った。
「基本的に俺から指揮は出さない。この世界の戦い方は君達のほうが熟知しているから、現場判断に任せるよ」
そう言って、ジープが施設のフェンスを突き破りながら侵入する。先生は突き破った直後、ジープを蹴り、飛び上がり施設の屋上を走っていった。
「先生、もう自重しない感じかなぁ?」
「リムル先生はまるでバッタみたいですね☆」
「ん、私もできる」
なぜか対抗意識を燃やしているシロコちゃんは置いておいて、私達がフェンスを突き破って侵入したことは、すぐにここを拠点としているヘルメット団は気が付きわらわらと湧き出てくる。
「リムル先生の言った通り、ここはヘルメット団の拠点みたい」
「さあて、私達のセリカちゃんを返してもらうよ」
これまで襲撃してきたヘルメット団を撃退していた時とは違う。今回は弾もそれ以外の物資も十分にある状態。今更、私達がこいつらなんかに後れを取るなんてことは・・・ない!!
私はシールドを斜めに展開し少し前かがみになることで、体の大部分を盾で隠しつつ視界を確保し、窪みの所から銃身を出して一方的に射撃をする。
シロコちゃんは自慢の足で走り出し、相手との距離を詰めていく。距離を詰めれば詰めるほど、撃たれた銃弾は避けにくくなっていくが、左右に不規則に移動して狙いを絞らさせずに突き進み引き金を引く。あっと言う間に距離を詰めて、目の前にいる敵には後ろ回し蹴りを入れて蹴り飛ばす。
ノノミちゃんは本来セリカちゃんがやっているシロコちゃんのカバーを行う。その絶え間ない弾丸の雨で相手を遮蔽物の裏から出させないように、時にその弾丸の量の暴力で遮蔽物ごと破壊していった。
アヤネちゃんはジープの中からドローンを操縦し、周囲の状況をインカムで私たちに伝えてくれる。
セリカちゃんが抜けてしまっているが、私達は何時ものように戦いを進める。そうしてセリカちゃんがいるであろう場所を確認しつつ、進めていっていると・・・
「あれ?」
まだシロコちゃんが倒していない所でヘルメット団の子達が倒れていた。そして、その体は見たことがない糸でグルグルに巻かれて拘束されていた。
「蜘蛛が獲物を捕らえるときの巻き方に似ていますね・・・」
一本一本、小さな糸が相手をグルグルに包んでいる。アヤネちゃんが言う通り、それはまるで蜘蛛が獲物を捕らえるために一本の糸で何度も何度も時間を掛けてやったように。それが私達の目の前には何人ものヘルメット団がそんな状態で放置されていた。
「ねぇ、君達・・・一体何があったのぉ?」
幸いまだ意識がある子が居たので、その子にこの場で何があったのかを聞くことにする。
「あ!?誰だよお前ら!お前らも」
「余計なことは言わない。私たちが聞いているのは何があったか」
全く関係ないことを話そうとしていた所をシロコちゃんが蹴りを入れた。いつもならばシロコちゃんのこうした所は注意をするのだけれど、今は都合がいいのでノノミちゃんと一緒に何も言わない。
「なんで私が、あ、ちょ、すいません、話しますんでそのミニガンとショットガンをゼロ距離で向けるのは勘弁してください。ほんとに」
私たちの誠実な頼みを聞いてくれた子は自分の身に何が起きたのかを話してくれた。事が起きたのは私達がここに侵入した直後、屋上を走っていった先生が彼女達の目の前に飛び降りると、一瞬にして目の前に大量の糸が現れて自分のことを拘束したのだと。他の子たちは先生から何かを吹きかけられてその場に倒れたり、先生の腕が変質したうえで殴られたりと、とても人ができるとは考えにくい方法で彼女達はあっという間に無力化されてしまったと言う。
「どう思う?」
「状況的に嘘はついていないと思います・・・けど」
「先生って・・・人・・・なんですよね?」
私達の中では先生が魔法に準ずる何かを使うことができる、そういう認識にはなっているが、一つ一つやることに驚かされる。けど、段々先生は私たちと違う外の世界から来ただけではなく、存在そのものが私達から大きくかけ離れているんではないか、そう思い始めた。
ここから先はすでに先生が進んでしまっている、それなら私達は別の場所を捜索しよう。先生は外周を制圧して進んでいるため、私達は施設の中で捜索を開始する。
先生が外で派手に暴れてくれているおかげか、中に敵影を確認できず。私達は楽に仲の捜索をすることができた。建物はひどくボロボロで、この建物が放棄された時から一切の手入れはされていないのか、壁は今にも壊れそうなところがある。それでも、彼女達はここを普段から生活の拠点にしているのか、物資が幾つも置かれていた。
「これは・・・無線通信機?」
「明らかにこの施設ものではないですよね」
「後から運び込まれた・・・」
私は軽く目の前の通信機をいじり、過去にどこと通信していたのかを調べる。シロコちゃんとノノミちゃんは卓上に置かれたままの紙を手にして軽く目を通す。
「あった・・・」
彼女達は自分達が使う周波数帯をメモで残していた。すぐに予備のインカムの一つの周波数帯をそれに合わせて通信の傍聴をする。
『本部!!おいだれか出ないのか!!誰でもいいから出てくれ!!こちら第二警備班、敵影を見失、キャァァァ!!』
インカムから悲鳴が響き渡る。大方先生が奇襲を仕掛けていったのだろう。インカムからは誰の声も聞こえなくなった。そして、外から聞こえてきた銃声もやんだので、先生はほぼ外周の敵を無力化してしまったのか。
「うへ、私達はもうセリカちゃんの捜索をしようか」
「そうですね」
私たちは銃を下ろし、セリカちゃんが捕らわれていそうな場所を捜索する。けど、どこの部屋を見ても誰かが捕らわれていたような痕跡はなかった。その一方で。
「何ですか、この大金」
ヘルメット団にはとても似つかわしくない大金が入った封筒を見つけてしまった。この大金をヘルメット団がどうやって手に入れたのか気になることがあり、嫌なことを連想させてしまう。
「もしかして、セリカちゃんは・・・別のところに」
「ありえるかもね・・・先生はそれも考えているはず」
誘拐の実行犯としてヘルメット団がこれを報酬として受け取った。これだけの額を前金とは考えにくい。恐らくは誘拐を指示した相手とセリカちゃんを交換したとして受け取ったと考えるべきだ。
「急いでリムル先生と合流しよう」
私達はそのお金を持って先生の元へと急いだ。