異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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十九話 解決と新たな問題

 俺がトラックの荷台を漁っている頃、施設の中を捜索していたホシノ達が俺の方へと駆け寄ってきていたが、その中にセリカの姿はなかった。どうやら、悪い方の読みが当たってしまったようだ。

 

「先生、そっちの方にセリカちゃんは居た?」

「いや、ご覧の通りだ」

 

 俺はトラックの中の方を指さす。中は酷く荒れていて、まるで中で誰かが暴れたように。そして、それを手にして皆にみせた。

 

「それは、セリカちゃんの」

 

 セリカが使っていたライフル、市販品の為たまたま同じライフルが落ちている可能性はあれど、同じカスタムとペイントをしているライフルはそうない。だから、みなはこれがセリカの物だと確信した。

 

「外周は全部確認したし、尋問もしたが既に彼女達の手を離れてる」

 

 この場所には既にセリカは居ない。そして受け取った相手が誰だったのか、何処へ向かったのかを知る術も残されていない。

 

「そんな」

「先生、私たちの方ではこれをみつけたんだけど」

 

 ホシノが出したのは、大金が入った一つの封筒。やっぱりそういうことなのだろう。

 

「先生はこれをどう思う?」

「ブラックマーケットに恨みを買う覚えは?」

「指名手配犯を拘束したり、襲撃する不良達を撃退する程度だよ」

 

 どちらも恨みを買っていてはおかしくないか。ただ、これだけの大金を個人で用意するのは難しい。ブラックマーケット経由でヘルメット団に依頼を出した相手が居るのは確実だ。

 

「裏の確定はできないが、今はそれを考えているべきじゃない。今はセリカが何処に連れていかれたかだ」

 

 高校生程度の子供の誘拐なんて嫌なことが思い浮かぶ。それを子供達に実行犯をさせた事にも反吐が出る思いだが、相手の目的を考える。

 身代金か? いや、セリカの身分と払う側であるアビドス高校にそんな財力はない。強姦? 可能性としては捨てきれないが、ここまでの手間を要するか?

 考えうる可能性を当たる。大金をかけてまでセリカを誘拐させた理由を。

 

《アビドス高校の戦力を削ぐ可能性が高いです》

「戦力減少ね」

 

 シエルが導き出した答えは、アビドス高校の戦力減少。たった五人でヘルメット団の襲撃を凌いだり、指名手配犯の拘束ができる面々。その内の一人をそぐだけでも十分な戦力減少が見込める。セリカの筋は悪くない、個としての戦闘能力も十分に高い。何らかのきっかけで拘束が解けて自由に暴れられるようになると考えれば。

 

「衰弱死狙いか」

 

 何らかの形でアビドス高校に戻ってくる可能性がありつつ、何時までも拘束をしているよりも確実に、アビドス高校の戦力を削がせるのならばここで始末するのが確実だ。加えて、ここの人達は並大抵の外傷では死には至らない。が、ホシノは言っていた、仮に戦闘をした状態で砂漠に放置されたら一日も持たない。そこから考えられるのは・・・

 

「やられた」

 

 砂漠のここならば夜と昼の極端な気温の変化に碌に体を休めることができる環境はない、加えて救援を頼もうにも電波は圏外、信号弾や目印になるものを使っても周囲に人は居ないため発見にはかなりの遅れが生じる。

 

「?ホシノ、大丈夫か」

 

 ふとホシノの方を見てみれば、明らかに呼吸が荒くなっている。戦いをして息をきらしたとかそんなものではない、この短時間で彼女の何かに触れた、しかもそれがひどく彼女を刺激してしまった形で。

 

「だ、大丈夫。うん、大丈夫だよ」

 

 とても大丈夫そうには見えないため、ホシノをここで一度休ませるべきか。しかし、ノノミ、シロコ、アヤネの反応からホシノがこんな状態になるのは珍しいようで、ノノミは酷く心配している。

 ひとまず、ホシノに手元にあった水を飲ませるように頼みつつ、俺はもう一度空へと飛び周囲を見渡す。この広いアビドス砂漠の中からセリカ、あるいは輸送している乗り物を探すのは困難を極める。もう一度光を反射させて周囲の様子を確認するか?いや、もう日がだいぶ傾いているから光が使えない。高速で飛翔して砂漠の中を捜索しようにも、時間がかかるうえ見逃すリスクは、シエル先生がそんな失敗はしないか。とはいえ、効率があまりにも悪すぎる。セリカの衰弱死も十分に考えられてしまうが・・・現状はやはりそれ以外の手は考えられないか・・・

 

「俺はセリカの捜索に戻る。しらみつぶしでいく以上時間がかかるから、君たちはここでどこに連れていかれたかわかるものを探してくれ。場所が分かり次第連絡するから」

 

 下にいる皆に声をかけて飛び立とうとしたとき、アヤネがこちらに向かって何かを投げ渡し、それを俺はつかんだ。

 

「先生、それは私たちの周波数帯に合わせたインカムです。連絡はそれで」

「わかった」

 

 受け取ったインカムを耳に取り付けると、俺はすぐに移動を開始した。

 砂漠の中をしらみつぶしで飛んでいく、空はすでに暗くなり気温は肌寒いを通り過ぎて寒くなってきた。丸一日食事を取れていないセリカの体力ではこの極寒は地獄なはず。どこにいる?

 

《移動しているトラックを発見しました》

「!!」

 

 それは唐突に、偶然だった。シエルは現在進行形で走行している一台のトラックを捉えた。俺は直ぐに進行方向を変え、トラックの方へと飛翔する。そして目の前と着地した。

 トラックは急ブレーキを踏み、俺の目前で急停止する。

 

「あぶねぇじゃねぇか!!てかどっから出てきたんだよ!!」

 

 ヘルメットを被った少女が文句を言いながら窓から顔を出す。

 

「ん?」

「あれ?」

 

 ヘルメット越しのため気が付くのに遅れたが、どことなく覚えのある子だった。

 

「何してんのこんなところで、先生」

「それはこっちのセリフでもあるんだけど?」

 

 運転席と助手席に乗っている子はこの前ドーナツを一緒に食べた子たちだった。彼女達は俺だとわかると声を落ち着かせ、トラックから降り、俺は彼女たちの傍へと歩み寄り話を続ける。

 

「先生、本当にどっから来たの?」

「上からだよ。なぁ、このトラックはどこに向かってるんだ?」

「このまま直進した先にだな。目的の場所までこのトラックを運ぶって依頼をしてるんだ」

「依頼?つまりこのトラックは君たちのものじゃないのか?」

「ああ、依頼主のものだってよ」

「中に積んでる積み荷は?」

「知らないな、積み荷は見ないようにって言われてるんだ」

「なるほどね」

 

 俺はそう聞くと、トラックの荷台を強く殴った。とはいえ、魔力探知で内部の様子は既に見えている。これはあくまでも彼女達を納得させるための行動。

 

「ちょ!?何してんだ先生!?」

「・・・」

《反響音から内部配置を計算・・・個体名「黒見セリカ」と思われる物体を確認しました》

「すまないが、連邦捜査局権限で中身を強制調査させてもらうぞ」

 

 運がよかった。この状態ならセリカの体力の消費は少ないはず、生存している可能性は高いだろう。

 

「あ~、先生。私ら中身知らないからさ・・・その」

「君達のことは黙っておくよ。ただ、依頼主の情報はもらうよ」

 

 彼女達も俺がなぜ強制捜査するのかを察し、自主的にトラックの荷台を開けて中を見せてもらう。そして、見つけた。

 荷台に飛び乗り、口に布を巻かれて喋れないようにされ手足を拘束されていた黒見セリカの姿があった。俺はすぐに彼女の体に触れて脈を取るが、すでにだいぶ体温が下がっている。セリカを縛っているものを全て手で千切ると、フルポーションを取り出し使った。ひとまず、これでセリカノ容態は大丈夫なはずだ。

 

「あ、あ、聞こえるか?」

『こちらアヤネです。先生ですか?』

 

 インカムを使い、離れたところにいるアヤネに連絡を入れる。

「ああ、目標を保護した。ただ、気を失っているようだから迎えを頼む」

『本当ですか!?すぐに向かいます、場所は』

「信号弾を打ち上げるから、それを目指してきてくれ」

『わかりました』

 

 一度トラックに荷台から降りると、そのまま夜空目掛けて魔法を放ち、上空で大きな花火が起きた。

 

「今、手から花火?投げなかったか?」

「気のせいだろ。とりあえず、アビドスの迎えが来るまでの間に聞きたいんだが、依頼主は誰だ?」

「あ~、それなんだが、実のところ私たちも知らないんだ」

「知らない?」

「依頼主が仲介を挟んだみたいでさ、私らは依頼主を知らないんだよ。私達みたいなのに依頼をするってのは後ろめたいってことをわかってるから、足をつけないように仲介を挟むからよ」

「なるほどな、ちなみに成功報酬はいくらだった?」

「これくらい」

 

 彼女たちから依頼主のほうへと辿るのは難しそうだ。それでも、この少しだけの話でも俺からしたら十分な収穫だ。仲介手数料がどの程度のものかはわからないままだが、今の成功報酬の話とホシノ達が見つけた報酬、それらを合算するとかなりの額になる。それだけの財力があるうえで、こうして自分達の痕跡を残さないことに力を入れている相手だ。それも、実行犯を別々に分けて行わせているあたり、慎重な相手のようだ。

 

「とりあえず、このトラックは証拠物で押さえさせてもらうぞ?」

「あー、荷台だけに勘弁してくれないかな?流石にこの砂漠の中を徒歩で移動するのはさ」

「・・・あっちの施設のほうに使える乗り物があるからさ」

「駄目か?」

「駄目だね」

 

 まじかぁと彼女たちは声を漏らしながら、アビドスの面々とすれ違わないように遠回りをしながら歩いて行くのを見届けて、俺はセリカの体を温めようか。胃袋から適当な布を取り出して、セリカにかけようとした。

 

《地中から巨大な熱源の接近を確認!!間もなく地表に出ます》

 

 突然地面がひどく揺れる、俺は寝たままのセリカを担ぎ上げ空へと飛翔する。シエルが見つけたそれは、俺が地面から離れた直後に姿を現した。

 

「蛇?いや、機械か?」

 

 白と差し色にオレンジの二色を軸にした装飾を持つそれは、とにかく巨大だった。その全長は高層ビルを容易に超え、ヴェルドラといった竜種達よりも遥かに大きい見るからに機械なそれだった。このキヴォトスの技術力はある程度把握してきたつもりだったが、目の前のそれはどう考えてもこの世界の技術力では無理だと言い切れる。そして、同時にこの世界において明らかに異質な存在、未知の塊といえる。ただ、一つ分かっていることがある。

 

「逃げる!!」

 

 それが登場した直後から、なんの前触れもなく少し先の様子が見えなくなるほど強烈な砂嵐が巻き起こる。天候操作をすることができるスキルを持っているのか?

 

《否定、対象からスキルは確認できません。ですが、何らかの方法で周囲の天候を変える手段を有している可能性は否定できません》

 

 ただでさえスキルでの探知範囲が狭くなっていて、視界に頼っていた俺にとってこの状況はあまりにも悪かった。シエルがここまでの地形をマッピングしてくれていたため、ある程度自分の場所と、どちらの方向に向かえばわかるものの、こちらに向かってきているホシノ達がどこにいるかはわからない。

 

「狙いは俺みたいだし、どうしたものか」

 

 あれは間違いなく俺のことを狙っている。何せ、俺のほうにいくつものミサイルがこちらへと飛来してきて、俺のぎりぎりをかすめていく。

 

「ん?」

《一か所にエネルギーが急速に収束しています。来ます》

「うおぉ!?」

 

 口にエネルギーが集中した時点で何が起きるのかは察しが付く。俺は速度を上げてその場を離れ、放出されたレーザーを回避する。

 セリカを抱えた状態の飛行ではあまり無茶な飛行をすることはできない。一度胃袋にセリカをかくまうべきか、いやでも胃袋の中でセリカが起きちゃったとき事情を説明するのが面倒だし。怖がられてトラウマを植え付けちゃう可能性もあるし。

 

「ちょ!?え!?どういう状況!?」

 

 そんなことを考えていると、アクロバットな飛行によってかようやく目を覚ましたセリカが声を荒げる。そして、自分が何となく掴まれていることに気が付いたセリカは振りほどこうとして暴れる。

 

「おいおい!?危ない危ない!!下、下見ろ!!」

「え?・・・・え?そ、空?」

「今逃げてる最中だから、大人しくしていてくれ」

「ちょっと!?逃げてるってどういうこと、それに空も飛んでるし!?え!?」

「口は閉じとけ、舌を噛むからな」

 

 セリカは状況を呑み込めていないが、相手はそれを許すだけの時間はくれない。俺は速度を上げて相手から距離を取ろうとするが、相手も俺についてくるように移動してくる。

 

「先生!?あれ何!?」

「俺も知りたいが、少なくとも友好的な相手ではない」

 

 逃げても逃げても追いかけてくるうえ、どこまで移動しても砂嵐がやむ気配がない。ただ逃げているだけではこの状況をどうにかすることはできないか。あれが俺を追いかけているとすれば、このまま市街地に逃げてしまえば、あれを市街地に連れてくることになってしまう。浴びどす高校へと戻るにはどうにかしてあれから撒き切れるしかない。

 

「やるしかないか?」

 

 俺が提げている刀一振りだけではあれに致命的なダメージを与えるのは難しい。加えて威力の低い魔法やスキルではあれが持つ装甲に容易弾かれるだろう。

 

「せ、先生、この飛び方・・・酔う」

「すまないけど、尊厳は我慢してほしい」

「そ、そんな」

 

 本当にどうやってあれから撒こうか。そんな事考えている中、魔力探知に彼女たちが入ってきた。

 

『先・!!聞こ・ます・』

 

 インカムからノイズ交じりのアヤネの声が聞こえてきた。

 

『先・、い・・・居る?』

『わ!あ・・です・か?』

 

 ホシノとノノミの声も聞こえてくる。声は聞こえてこないが、恐らくシロコも一緒にこの場に来ていて、目の前のあれを見て驚いているようだ。

 流石にあのレーザーとミサイル、どれだけ丈夫なここの住民でもあれの攻撃を受けてしまってはただでは済まない。かといって、この状況から彼女達が安全に逃げ切れる保証なんてものはどこにもない。

 

「セリカ、そのままでいてくれよ」

「え?ちょ、何をする気なの?」

 

 俺はその場で止まり、俺の手のひらで一つの魔法を発動させる。そして、それの準備が整ったところで、目の前の相手に向かって投げた。

 

「極小黒炎獄」

 

 直後、相手の頭部を覆うように黒い炎の塊が発生して包み込んだ。

 

「うぇ!?何今の!?」

「よし、みんな逃げるぞ!!」

 

 極小黒炎獄で確実にダメージを与えることはでき、それはその場で倒れた。けれど、完全に倒し切れてはいないようで、人でいう気を失った程度のようだ。それでも、この場から逃げるには十分な時間を稼ぐことはできる。

 

「アヤネ、全速力で離脱!!」

『わ、わかりました!!』

 

 アヤネがジープのアクセルを踏み込み、走らせる。俺はジープから離れたところにいたシロコを万能糸で釣り上げ宙づりという形にはなりつつも、全員でその場から離脱した。

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