転移が終わり、自室から転移術を行使した人物が居るであろう世界へと渡った。所までは良かったのだけれど、俺が出た場所は豪雪が降る何処かの上空だった。
「うおお!?」
出た瞬間、重力に引かれて下へ下へと落ちて行く。咄嗟に擬態で翼を広げて羽ばたかせようとするが、それよりも先に白く厚く積もった雪に衝突して、綺麗な人型の穴を作りながら沈んでいった。
「あぁ~びっくりした」
かなり深くまで沈んでしまって人型の状態では身動きが取れない。抜け出すためにも動きやすい体積の少ないスライム状態に戻り、思いっきり跳び上がり自分が作った穴を抜け出した。
「スキルのおかげで寒くないし、痛くもないけど急にこうなったら誰でも驚くよ」
スキルのおかげで寒さは覚えないうえ、スライムの俺に痛覚がないからこんな豪雪が降る場所でも何の問題もない。それにこれまでにもっとやばい状況、ミリムに殴られたり吹き飛ばされたり色々とあったからこの程度まだ優しいほうだ。
さて、特に何も考えずに自分が作った穴から抜け出したが、直ぐに以上に気が付いた。
「……周りが見えないな」
転移から出てきた瞬間は周囲の様子を見ることができた、豪雪な場所の上空にでたと分かっている。それなのに、何故か今は周囲の様子を見ることも音を聞くこともできない。どうして急に周囲の様子を認識することができなくなったのか?
先程と一体何が違うのか? 急に何かが変わった要素があるのかと考えたが、その答えは直ぐに見つかった。自分の姿が人型からスライムの姿に戻っているのだ、そしてスライムの姿では目がない。
物は試しに一度人型の姿に戻ってみる。
「お、見える見える……豪雪だけど」
俺の考えは正しかったようで、スライムの姿から人型の姿に戻ってみれば豪雪で一寸先の様子すら見えないが、目の前の状況が分かる。
昔人型になった時に味覚が復活したことを考えれば、俺の視角も人型になった時に復活していると考えるのが無難だろう。しかし、そうなれば同時に一つの疑問が生じてしまう。
「シエル、万能感知はどうなっている?」
俺の目以外の視界は、熱源感知や魔力感知といった探知系系のスキル達によって得られた情報をシエル先生が纏めて俺の視界に反映させてくれている。その範囲はかなり広いもので普通の視界よりも圧倒的便利で重宝していた。
当然一度に大量の情報が送られてくるため、シエル先生にほぼ全てを一任している為、俺が指示をしなければ勝手にこの視界が無くなるはずがないのだが。
《報告です。こちらの世界に渡ってから多数のスキルに機能不全が確認されました》
「は!? どういうことだ!?」
一時的にスキルを無力化されたり奪われるようなことはあっても、世界を渡っただけでスキルに機能不全が起きる事は初めてだった。
《原因は空気中の魔素濃度が極端に低いことが起因しています。万能感知では感知を行うために十分な魔素が無いため感知できていません》
魔素が少ない、俺が居た世界では魔素はありふれたもので世界を構成するものの一つだった。けれど、ここは異世界。これまで渡ってきた異世界には魔素があったのかもしれないが、この世界には魔素はない。魔素がある事を前提としていたスキル達が全て機能不全になってしまったのだ。
《ただいま
帰還手段が無くなるという最悪の状況は避けられたようだ。それでも、面倒な状況に成ってしまった事には変わりなかった。
「どうにかならないか? せめて万能探知だけでも使えれば楽なんだが」
視界の確保は大事。
《魔素の代替えとなる物質を調査します。……発見しました、仮称「神秘」を対象として魔力探知を行います》
シエルの持ち前の演算能力でスキルをあれやこれやしてくれて本当にどうにかなった。俺にはシエルが何をやったのかは全く分からない。
そして、俺の視界は豪雪の中でも先の様子がはっきりと見えるようになり、背後の死角までも認識出来るようになった。
「おお!! 流石シエル先生!!」
《いえ、従来の探知範囲の三割程度に範囲が縮小してしまっています。想定よりも仮称「神秘」のカオス化が激しく、至らない結果になってしまいました》
シエルの演算能力を持ってしても、仮称「神秘」の動きを予測しきるのは難しいようだ。それでもこれだけの範囲、普通の視力よりも遠くが見えているだけでも十分だ。
「いやいやこれだけ見えれば十分だよ」
《パターンの分析を行い精度向上に努めます》
「程々にね?」
シエル先生は今の結果に大変不満の様で、絶対にもっともっと高精度にしてみせるという意思が感じ取れた。ただ、元々カオス化している以上、無理に精度を高めようとして問題が生じるよりも、初めから分からないと切り捨てた方がいい場合もある。
「さて、これからどうするか」
視界が回復した為、周囲を見渡してみるが何処を見ても豪雪に豪雪、地面の状態からして何処かの山の中だ。おまけに人工物どころか獣道の一つも見当たらない、この辺りを人は日常的に来ておらず、獣の寄り付かないような場所だ。こんな場所に生物がいるわけがない。異世界へと干渉できるだけの技術力を考えれば、どこかしらに文明を築いているはず、それを見つけなければ調査は始まらない。
「こういう時は、山を登ったほうがいいんだっけか?」
見知らぬ土地である以上、何処へと進むのが正解なのかはわからない。空から周囲を見渡して捜索する手もあるが、この豪雪の中を飛んでも少し先の様子すら見えないのだから、遠くの先にある地表なんか見えるわけがない。
加えて、この世界で空を飛ぶ存在がどういう扱いになるのかわからないうえ、俺が気が付いていないだけで見られているかもしれない。下手に空を飛んで余計なトラブルを生む可能性を考えれば地道に地に足を付けて進んだ方がいいだろう。同様の理由で豪雪を降らしている雲を魔法で吹き飛ばす方法も使えない。
俺は標高か高くなっていく方へと歩みを進める。
普通の人ならば、こんな豪雪の雪山の中を歩いていくのは自殺行為になる。この雪山の中で誰かに会えることは期待できないだろう。けれど、この場に留まり続けていても何の情報も得られない。幸いなことに普通の生物にとって地獄なこの環境でも、俺には全く影響はないのだから。
「考えていても仕方がないし、さっさと移動するか」
俺は先の見えない雪山の中を進んでいく。けれど、俺が思っていた以上にこの豪雪と吹き荒れる強風は止む気配を見せない。加えてあっという間に雪が積もっていきスライムの俺を雪の中に沈めていく。
しばらく歩いたところで俺はある決断をした。
「適当な場所で雪が止むのを待とう!」
このまま豪雪の中進んでいっても全く進まない。雪が止めば、遠くの様子を見ることができるようになるはず。しばらくの間は体を休められる場所を設けて時間を潰そう。
俺は胃袋に仕舞いっぱなしだった材料を使ってシャベルを作ると、それを使って大急ぎでかまくらを作ってその中に入る。
「かまくらって結構あったかいんだな」
外の豪雪と強風が入ってこないだけでここまで違うのか。かまくらの実用性に驚きつつも、これからどうするかを考える。
「暇だ」
そう、圧倒的に手持無沙汰で暇なのだ!!
元の世界に帰る事もできるが、それだとこちらの世界の天候が分からず、転移の際の誤差でまた変な所に出てきてしまう可能性もある。かと言って、ここでどの程度待機すればいいのかわからない。下手にこの場を離れることができずに、いつ止むかもわからない豪雪をただ見ているだけしかできなかった。
あまりにも暇であるためスキルで作った糸であやとりをして時間を潰す。
ピラミッドを作ったり、ブリッジを作ったりと色々な形を作っていると、万能探知の範囲に一人の生物が入った。
「ん?こんな豪雪の中?」
どうしてこんな豪雪の中移動している生物が居るのだろうか?野生動物でもこの豪雪ならばどこかに身を隠しているはず。
「シエル、視点を対象の所にできないか?」
《了解しました。対象を中心に視点を移動させます》
万能探知の範囲に入ったその生物に視点を移動させる。相変わらず豪雪が酷いが、そこはシエル先生にお願いして一時的に取り除いてもらう。
「ちょ!?女の子がどうしてこんな山に!?」
見えた生物は一人の少女だった。それも見るからに装備は山登りの装備ではない。このまま少女を歩かせていたら凍死の危険性すらある。
俺はその事に気が付いたら、直ぐに俺はかまくらから飛び出して少女の元へと駆け寄る。
「そこの君!!なんて恰好でこんな場所に来ているんだ!」
「?だ、誰かそこに居るの?」
少女に声をかけるが、少女はこの豪雪で俺の姿は見えていないようだ。
「ああ、いいからこっちに来い!俺が作ったかまくらがあるからそこに来るんだ」
少女の手を無理矢理掴み俺の方へと引き寄せて、かまくらへと戻る。
かまくらに入ってすぐに、胃袋から布を取り出して彼女の顔に被せて、他の布で濡れた彼女の体を拭いていく。
「わ、じ、自分で拭けるから」
彼女は俺の手から布を取り、顔に被さっていた布をどかした。
「え?」
そこで彼女は初めて俺の姿を見た。
「えっと・・・スライム?」
少女は咄嗟に俺から距離を取り、提げていた銃に手を伸ばす。
恐らく彼女にとって未知の存在が目の前に居るから、無意識に何時でも戦える臨戦状態に入った。それに気が付いた俺は触手の様に伸ばしていた部分を上にあげて敵意が無いことを示す。
「僕は悪いスライムじゃないよ!!」
「その声・・・じゃあ手を引いてたのは」
先程自身の手を引いていた声の主が俺だと分かり困惑の声を漏らしつつ、銃を下ろす。
「まあ、ゆっくりしなよ。焚火でも焚こうか?」
「えっと、ありがたいけど、この状態で外から薪を持ってくる方が危険だよ。それに、これ位のかまくらなら十分に暖かいから」
俺は胃袋の中にしまっていた大量の薪を取り出して、それをくべて火を付ける。
「待って、その薪どこから出したの?どうやって火を付けたの!?」
俺が流れるように当たり前のように焚火を起こしていたことに少女は驚いている。そんな少女を無視して、俺は薪の位置と空気の量を調整して火を程よいものにして少女を温めれるようにする。
「これでよし、一気に温まったら体に悪いから少しずつ温めるんだぞ?」
「私の疑問は無視?でも、ありがとう」
少女は冷えた体をゆっくりと温める。
「俺はリムル=テンペスト、ここから遠く離れた場所に住んでいるスライムだよ。君は?」
「私は百鬼夜行連合学院百花繚乱所属委員長、七稜アヤメだよ」
落ち着いたところで少女の姿をゆっくりと見る。百鬼夜行学院その名の通りこの地にある学校で彼女が身に着けているセーラー服の制服はそこのものだろう。制服の上には青い羽織を纏っていて、セーラー服と羽織の見慣れない組み合わせであるものの、そこまで不思議な組み合わせではない。
服装は地域性が出るからそこまで驚くようなものではないが、気になるものが他に二つある。
一つは、彼女の頭上に浮かんでいる特徴的な模様らしき形をした浮遊物。熱源探知でそれを見れば熱を持たないのか何も映らない、というか熱を持たない物質があるのか?魔力探知では像が酷くブレていて、他の探知でも像がブレて映りそれぞれの形が違っている。俺の目で見えている像ですら形があっているのかわからない。
二つは、少女に対して似つかわしくない武器、銃の存在。俺が住む世界では若い人達が武器を持つこと事態はおかしな話ではない、ならばこの世界の若い人が武器を持っていてもおかしくはない。けれど、見たところ十代後半の少女、しかも学生が銃と呼ばれる武器を持っているものなのか?
「ねぇ、君のさっきの質問に答えてあげる代わりにさ、こっちの疑問に答えてもらってもいいかな?」
「え、まぁ、いいけど・・・変なことは聞かないでよ?」
「しないように心がけるよ。それで、さっき何処から薪を出したかだけど、俺の場合」
胃袋の中に仕舞っていた干し肉を取り出して、アヤメに渡す。
「こうして、俺の体の中に色んな物を閉まっておけるんだよ。あ、衛生面に関しては大丈夫だよ?冷凍保存よりもずっと安全性と衛生面はいいから」
「どういう体をしているの?さっきの薪も含めても体積に合わないよね?
「まぁ、そういうものだと思ってくれ」
アヤメは手にした干し肉を引きちぎり、噛み占める。顔には出さないようにしているのか、少女は酷く空腹だったのか、あっという間に渡した干し肉は無くなった。
「もっと食べる?」
「食べる」
干し肉以外の食べ物を出して、アヤメに食べさせる。
「そして、さっきの火は」
次は何もない空中で火を起こす。
「俺は魔法が使えるんだよ。だからそれで火を付けたんだ」
「魔法って、そんなものがあるわけって言いたいけど、ここまで見せられたらね。いや、もしかしてあなたがクズノハさまなの?」
「いや、俺はクズノハってのではないけど」
「ああ、そうだよね」
見るからにアヤネは残念そうにするけれど、アヤメの反応からしてこの世界に魔法はない中、クズノハと言う人物は魔法に準ずる何かを使えるのかな?
「次は俺の質問だ、君の反応からして魔法とかスライムといった魔物はこの辺りにはいないのかな?」
「そうだね。魔法なんてものは絵空事で実在するなんて誰も思っていなかったし、魔物も物語の中だけの存在のはずなんだけれど」
存在しないはずの二つ、けれどそれがアヤメの目の前には俺と言う形で存在している。
「次の質問、君の頭上に浮かんでいるそれは、なに?」
「これ?これはヘイローって言うモノなんだけれど、私達によくわかっていないモノなんだよね。わかっている事は人によって形が異なっていて、意識を失っている間に消える位なんだよね」
あれはヘイローと言うものなのか、けれど彼女達にとってもこれはよくわからないモノなのか。
「じゃあ、次は私から質問させてもらうよ。あなたはここで何をしていたの?こんな豪雪の山の中」
「ある物を探していたんだけれど、降りる場所を間違えてこの豪雪の雪山の中で降りちゃって、下山できずに困ってるんだ」
俺の答えにアヤメは呆れたように声を出す。
「何をどうすれば間違えて豪雪の中の雪山に降りるの?」
「雪山に降りる程度が小さな誤差になる程度には大きな距離の移動とだけ」
「ええ?」
確かに普通に考えれば雪山に間違えて降りるなんて起きないことだ。けれど、現に俺は異世界転移の長距離移動で、雪山に降りるのは小さな誤差だったのだ。それを証明することができるものはなく、正直に話して飲み込んでもらうしかない。
「質問には二つ答えたから、次は俺の質問だ。君達にとってそれは普通に携帯するものなの?」
俺はアヤメの横に置かれている銃に指を指す。
「銃について?ええ、むしろ私達にとっては銃を持っていない人を見る方が珍しい程度に」
「物騒だな、思っていた以上に一般的なんだな」
俺の世界では武器を持っていない人達は居る。けれどアヤメの発言からして俺が思っている以上に、おそらく料理用の包丁の様に一般的に広まっているのだろう。
「そう?銃弾にあたっても少し痛い程度だと思うのだけれど」
「・・・そういうことね」
彼女達にとっては銃弾に当たったとしても大した脅威にはならない。俺が知る範囲で例えるならば、彼女達にとって実銃はソフトエアガン程度の認識なのだろう。それならば、確かに銃に対して大きな脅威を覚えないということに納得ができる。それでも、日常的に銃を持っているということには納得はいかない。
「そういう質問をするってことはリムルさんが居たところでは銃は持ってないの?」
「持ってないどころか、俺が知る限りだと片手でも足りる程度だよ」
「うそぉ」
アヤメは信じられないという顔を見せる。
「むしろ剣や槍とかそうした近接武器を持ってるか、魔法を使うために杖を持っている奴だよ」
「私からしたらそっちの方が治安は悪そうに感じるけど」
「うん・・・まぁ、治安は良い方だよ、俺のところは」
「どうしてそんな場所の人がわざわざ来たの?雪山って意味ではなくて」
「探し人でいいかな、あんまり詳しくは言えないけど俺達の国に宣戦布告とも取れる行動が確認できた。それの真意を確かめるために調べに来たんだよ」
「それで外の世界の人がわざわざキヴォトスに・・・」
「まあ、異世界に干渉できるとなればよっぽどな組織だろうけど」
「え?異世界?」
「ん?外の世界って異世界って意味でじゃ」
「え、キヴォトスの外って外の世界って意味じゃ」
どうも言葉に差異があるようだ。
「え?待って、じゃあ、リムルさんって異世界から来たってこと?」
「うん、まぁそうだな。信じてくれるとは思ってないけど」
「いやいや、信じるよ!?だって、そっちの方がスライムなんて魔物が居るって事実に納得がいくから」
意外と頭は柔らかいようで、俺が異世界から来たという事実を受け入れてくれた。
「そっか、異世界から来たのなら魔法が使えてもおかしくないよね。だからこんな雪山に降り立ったと・・・」
「受け入れてくれて俺としてはありがたいよ」
「でも、そうなると、キヴォトスに異世界へ干渉したした人がいるってことだよね、キヴォトスにそんなことができるような人も組織も居るとは思えないけど」
「それを調べえるために俺は現地調査をしているわけだよ」
異世界の第一原住民ことアヤメ曰く、俺が探している相手に対して思い当たる事はないようだ。
「それを聞けただけでもありがたいよ」
「あ・・・でも、あそこならあり得るかも」
「あそこ?」
「ゲヘナ学園、私が一年の頃の話になるけど、あの時のゲヘナ学園は凄かったから、あっても驚かないっていうか」
「どういう学園だよ・・・まぁ、教えてくれてありがとう」
ゲヘナ学園か、下山したらそこで調べに行くべきか。
「異世界から来たとなれば、リムルさんはキヴォトスについて何も知らないよね?」
「そうだな。異世界に来て早々こんな雪山だから、この世界を知る事ができたのは、君と話せてようやくわかったよ」
「それじゃあ、キヴォトスについて教えてあげるよ」
「いいのか?」
「これ位の事いいよ、その代わりリムルさんの事を教えてよ?」
「ああ」
外を見てみれば、また豪雪が止む気配は見えない。これはお互いにとっていい時間つぶしとなって、俺はこの世界を知る事ができるのだ。
聞けば、ここは「キヴォトス」と呼ばれる学園都市を中心としていて、多数の学園が集まって形成されている。そして、この学園都市の政治や治安維持は現役の生徒達、つまり子供達が行っていると聞き思わず頭を抱えたくなる話を聞いた。一体この世界の大人達は何をしているのかと疑問を覚える。加えて、学園同士で政治的対立をしていたり、交流をしていたりと、自分が知る学園とは大きく乖離している。
それからも、俺はこの世界においては常識とも思えるようなことを聞いていく。この世界に存在する種族、決まり事、宗教観、学園とはどういうものなのかを。
「俺が知る学園からは大きくかけ離れてるよ」
「そうかな?私達が知っている学園ってこんなのなんだけれど」
「いや、普通学校に通っているような子供が政治をしたり治安維持をしないからね?異世界の人の言葉だけどさ」
お互いの常識の差に驚かされる。この世界は思っていた以上に治安が悪いようで秩序がある。本当に何なんだこの世界は。
それからも話を続けていき、主要な学園がどんなものなのかを聞かせてもらった。
最初に教えてもらったのは百鬼夜行連合学院、彼女が所属していて一番知る学園。伝統に重きを置き、話を聞く限りでは俺の前世で生まれ育った日本、その地に似た雰囲気の様で毎日のように祭りが行われているそうだ。
次にミレニアム学園とトリニティ総合学園、ゲヘナ学園等、百花繚乱と言う百鬼夜行の治安維持機関に属している彼女からはあまり他の学園の事は知らないようだった。
学園の話からはお互いの身の丈の話になった。
「リムルさんって異世界に単身で来れるなんて、元の世界だとそれなりの地位だったの?」
「まぁそうだね。というか、国王だったよ」
「国王!?え、スライムが!?」
「あと、魔王でもある」
「魔王!?え、ゲームだと最弱なんて言われてるスライムが」
「君ちょっと失礼じゃないかな?」
「あ、ごめん」
まぁ、スライムは前世の世界でも最弱ってイメージがあったし、あっちの世界でもそこまで強い魔物ではなかったけどさ。というか、この世界のゲームの中のスライムも最弱なのか、ちょっと複雑な気持ち。
「スライムってことだから、色んな形になれるの?」
「ああ、例えばこんな感じになれるよ」
俺は慣れたように人型の姿に擬態して、胡坐をかいて座る。
「わぁ、本当に人の姿になった。てっきり色はそのままだと思ってたけど、うわぁ、これじゃあスライムだって言われても信じられないよ」
「現地の人にそう言ってもらえるならそうなんだろうな」
「あれ、もしかしてその姿で街に降りてきたりする?」
「まぁ、こっちの姿の方が揉めることがすくないからね」
「あ~、これ私まずいこと言っちゃったかな?」
「大丈夫だよ。今のところ君たちが住んでいるところで問題を起こすつもりはないから」
「今のところって、それ将来的にやらないって保障できてないじゃん」
「まぁ、俺は平和主義だから攻撃されなければこっちも攻撃はしないからさ」
「う~ん、まぁ、それなら大丈夫かな?」
少しの間アヤメに体を触られまくってから、次の話題に移る。
「はぁ、百花繚乱てのはそんなに古い歴史があるんだね」
「百鬼夜行連合学院が設立よりも古くからあって、その設立に大きくかかわった人がクズノハって人でね」
「なかなか大変なんじゃないのかな?治安維持機関ってことは仕事が多いんじゃないのか?」
「まぁ、大変だけど。皆の笑顔と変わらないいつもの日常が守れるなら安いものだよ」
「・・・どうしてそんな組織のトップがこんな雪山に居るのかな?」
その質問をした瞬間、明確にアヤメは目をそらした。絶対ここに居ちゃだめだってことを表している。
「はぁ、まぁどうしてここに居るのかは聞かないでおくよ」
「・・・ねぇ、リムルさんは本当に私が説明したこと以外何も知らないんだよね?」
「そうだが・・・それがどうしたんだ?」
「ちょっと胸の内をさらけ出してもいいかな、私のことを何も知らない人に」
「訳ありか・・・俺でよかったら」
見ず知らずの相手に胸の内をさらけ出したい、どうやら只ことではないような気配を感じられる。
「私はさ、百花繚乱の部長としてみんなの期待に答えようとしてきた、答えようとしてきた!!でも、誰も!!誰も本当の私のことを見てくれない!!」
どうやら思っていた以上に重たい話になりそうだ。
「皆はなんでも百花繚乱の部長なら、百花繚乱の部長なら、部長なら何でもできる!!どんなことでもできるって思ってる。でも、私にだってできないことだってある。ナグサだって実力があるのにいつもいつも自分を卑下してばっかり、ずっとずっと私が自分より何でもできるって言ってばかり!!誰も私のことをわかってない、知ろうともしない!!百花繚乱の証でもある「百蓮」だって私には扱えなかった!!私は皆の期待に答えるために何でも出来る百花繚乱の委員長の仮面を被り続けた!誰も私の仮面に気が付かなかった、誰も仮面の内側を見ようとしなかった。どうしてみんな私ばっかりを頼るの!!どうして私が誰かを頼んじゃダメなの”!!ねぇ、なんで」
アヤメは優秀だった、そして皆に頼られてきたことが分かった。けれど、それが彼女の呪縛と化してしまったのか。
「その百蓮ってのは、その銃の事か?」
「そう、百花繚乱の委員長の証」
(見たところはただの銃だし、単純に弾を撃てないとは違うような気がするが)
《リムル様、個体名「七稜アヤメ」が所持している銃は
「・・・触ってみても?」
「いいよ」
アヤメから許可を貰いその銃を調べさせてもらう。見かけはよくある・・・と言っても俺は銃の知識がないからよくわからないので、シエル先生に任せる。
《
(それはつまり、使い手の意思次第ってことか?)
《はい、十分な意思さえあれば個体名「七稜アヤメ」でも問題使用できます》
話を聞いた限りのことを考えれば、今のアヤメの精神状態はあまり良いとは言えないだろう。それが起因してこの銃の真価を発揮させられなかったか。
「ありがとう、返すよ」
俺は手にしていた彼女の銃を返す。
「俺もさ、国王やら魔王をやっていてさ色んな事を部下から頼られるし期待されることもあるさ」
「リムルさんも?」
「ああ、大事なことを任されたり期待されることはいいけど、正直に言って今じゃどうでもいいことまでも沢山あるんだ。この前なんか、俺が着る水着や服の事を皆で真面目に議論していたし」
「そうなんだ」
「たださ、アヤメもさ皆を頼ってみたらどうだ?俺は部下達に色んなことを任されたりしても、それを他の部下に回したり、俺がやりたくない事とかはベニマルに任せたり、商売だって詳しくはないから商人だったミョルマイルに任せてる、後で楽できるようにみんなで事業を進めたり。俺一人でやれたことなんて何一つないんだからさ」
話の全貌を知らない、全てはアヤメの主観だけしかわからない。それでも、アヤメが一人で全てのことをやり切ろうとしてパンクしてしまっている事は分かる。そして、弱い自分をさらけ出せずに居たから何も知らない俺に初めてさらけ出すことができた。
「いいのかな、今までずっと仮面を被ってた私が」
「それで君が壊れちゃったら元も子もないだろ。自分らしく、自分の信念を押し通せばいいだけだよ」
「ありがとう、少し肩の荷が下りた」
「それならよかった」
アヤメの瞳から零れ落ちた涙をふき取った所で外を見て気が付いた。豪雪が止んでいる。
「アヤメ、雪が止んでいるみたいだ」
「え?あ、本当だ・・・移動するなら今のうちかな」
俺とアヤメはかまくらからでる。
「リムルさんはこれからどうするの?」
「とりあえず情報収集をしたいから、下山して街の方に出たいかな」
俺がそう言うと、アヤメはコンパスを取り出して方角を確認し、周囲を見渡す。
「それなら、あっちの方に進むといいよ。私が進むのとは逆の方、そうすれば百鬼夜行の市街地に出られるはずだから」
「ありがとう。あ、アヤメはどうするんだ、逆の方って言ってたけど」
「私はこのままクズノハさまを探すために進むよ。ここまで来て戻るわけにはいかないからさ」
「そうか、わかった」
正直、先程の豪雪の後で今の山を登り続ける事は心配になるし止めたいところだ。けれど、俺が彼女を引き留める権利はないし、彼女にとってクズノハを探すことが大切なことは先の話で分かっている。だから、俺は胃袋からある物を取り出して彼女に投げ渡す。
「持っていきな」
「え?これって?」
「防寒着とお守り、お守りは怪我をした時に使いな、下手な傷薬よりは効くよ」
「・・・ありがとう」
「また会うことになったら、百鬼夜行の案内してくれよな。特に美味しいお店を」
俺は彼女に背を向けて山を下りていく。そしてアヤメも俺に背を向けて山を登っていく。まるで二度と下山するつもりがないかのような背中をして。
《リムル様、一つ報告が》
「ん?」
《先程火の魔法を行使した際、想定の三割程度しか出力されませんでした。どうやら、この世界では魔素の拡散が酷く、魔法及びスキルの影響が極端に減少すると思われます》
「まじか」
どうやらこの世界で魔法やスキルを使うのは少し難しそうだ。