異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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二十話 聴取

 あの後、無事にアビドス高校へと戻ると、保健室にセリカを運び込みセリカの状態を確認する。年頃の女の子を医学の知識がない俺が見るのは事案になるため、保健室の外で待機してホシノ達が代わりに見てくれている。

 とはいえ、魔力探知で保健室の中の様子はある程度確認することができる。ホシノはベッドで横になりながら寝たふりを、ノノミは椅子に座っていて、シロコは寝ている。アヤネはセリカの怪我の手を手当てをして、包帯を巻いていた。

 

 なあ、シエル。俺がセリカに使った回復薬はフルポーションだったよな。どうして、セリカのケガが完治していないんだ?

 

 フルポーション、魔国連邦(テンペスト)の特産品となっている回復薬の一種だが、その効力は驚異な物で、どんな怪我であっても完治することができる。身体欠損をしていても、体の遺伝子情報から復元することができるほどの効力を持っている。俺はそんなポーションをセリカにかけていたのだから、身体欠損に至らない程度の怪我などあっという間に完治させることができるはずだった。

 

《ベクター、ガビルのピポクテ草の研究データより、生物ではなく魔素を有する無機物を再生させることが可能な点を考えますと。魔素を一切持たないこの世界の生命体には効果が著しく低下すると推察します》

 そうか、ポーションは魔素を含んでいることを前提にした相手に回復効果を発揮する。そして、この世界には魔素が一切ないため、ポーションが回復効果を発揮させる前提条件を満たせていない。ハイポーションであれくらいまでしか回復できないとなれば、上級・下位ポーションじゃ彼女たちに対しては回復効果は殆ど見込めないな。

 

 体が丈夫な彼女達がそう簡単に怪我をする場面は想像がつかないでいたが、今回の一件で彼女達は他の生き物同様に怪我をすることが再認識することができた。そして、あの機械の攻撃の威力は生徒達を容易に傷つけることができるほどの存在なのは確実だ。

 

 連邦生徒会のネットワークにあれについてのデータはあったか?

《該当又は類似するデータは確認できませんでした》

『こっちも探って見ましたが、それらしい情報は』

 

 シエルとアロナもあれについての決定的な情報は見つけられなかった。あれだけの強大な相手がここまで情報を残さずに居られるものなのか? いくらアビドス砂漠は人が少なく、踏み入ることが少ないとしても、不自然すぎる。

 

 

「情報が全く足りないな」

 

 先生としての仕事以外時間は、ほぼ全てを情報収集に当てている。それでも、今回のあれについては全く情報を見つけられなかった。

 

「アロナは都市伝説でもいいから、それらしい情報を見つけたら教えてくれ」

『わかりました、このアロナにおまかせを』

 

 今はあれの存在に気がつけただけでも十分な収穫だと思おう。そんな事を考えていると、保健室の戸が開いた。

 

「先生、もう入っても大丈夫です」

 

 

 手当を終えたアヤネが戸を開けてくれていた。俺は中に入りセリカの様子を見るが、元気そうではあるが勢いは失せているそんな感じを覚えた。

 

「セリカ大丈夫か?」

「大丈夫よ。その迷惑をかけたみたいで、ごめん」

「良いってことだよ。セリカは被害者なんだ、負い目を感じる必要は無いよ」

「そうだよぉ。セリカちゃん、私達は当たり前のことをしただけ、悪いのは全部セリカちゃんをさらったヤツらなんだからさ」

「で、でも」

 

 自分のせいで迷惑をかけた。その事実は変わらずセリカは自分を責めようとする。

 

「だったらさ、今度ラーメンを奢ってくれよ。それで今回の一軒はチャラだ、みんなもそれでいいよな?」

「ん、構わない」

「いいですね。構いませんよね? セリカちゃん」

「うへぇ、おじさんは大盛いっちゃうよ~」

「セリカちゃん、それでいいですか?」

「え、あ、うん。それでいいなら」

 

 俺の提案でセリカはそれで納得し、先ほどまでの負い目は感じさせなくなった。この調子ならば、彼女達は大丈夫そうだな。彼女たちの間に問題はなさそうだ、俺が心配するような要素は彼女たちにはない。俺は後ろに引っ込んで仕事に戻ろう。

 

「先生? どこに行こうとしているのかな?」

 

 残念ながら、先回りされてしまった。ホシノがいつの間にやら扉の前に回っていて、俺が出られないように塞いでいた。ならば、窓のほうに。

 

「ん、リムル先生はまだここにいるべき」

「そうですよぉ☆」

 

 残念ながら、こちらも先回りされていた。どちらの窓もシロコとノノミが先回りをしていてそこからは逃げられないようにされてしまった。

 

「あはは、えっと、みんなどう言うつもりかな?」

 

 俺は平和的にこの場所を切り抜けようと、笑顔をつくる。けれど、彼女達の笑みには少しばかし恐怖を感じさせる。

 

「先生はさ、セリカちゃん捜索するためにあの手この手を使ってたよねぇ?」

「空を飛んだり、はたまた体を変質させたり、糸を飛ばしたり」

「そのうえ、とびっきりの魔法も使ってましたよねぇ☆」

「それについて、ご説明を願います」

 

 やっぱり、彼女達の前でスキルと魔法を見せたのは失敗だったか。彼女達はそのことについて完全に追求し終わるまで、俺をこの場から逃がすつもりはなさそうだ。

 

「……話さないとダメ?」

「話さなかったら、先生と会うたびに聞かせてもらうよ?」

「ん、仕事を邪魔してでも聞かせてもらう」

「……はぁ」

 

 どうやら俺に逃げ道はなさそうだ。俺は諦めて席に座り、軽く話すことにするか。

 

「俺は外の世界から来たって知ってるよな」

「うん」

「らしいね」

 

 世間的に俺は外の世界から来た人物ということになっている。その外の世界というのはここ学園都市キヴォトス外のことを指す。言ってしまえば世界と言いつつも、地続きの世界の話だ。一応キヴォトス内外と少なからず交流はしているらしいが、大いに目立ったものはない。加えて、ここでは進んで外のことを調べようとはしないのか、外の情報はあまりない。そのうえで、俺はそんな外の世界から来たことになっている。異世界の事を隠すには都合がいいだろう。

 

「俺はそこでも結構異質な所から来たんだ」

「外の世界でも異質なところ?」

「ああ、そっちでも外の世界と言うレベルでは離れたところでな」

「そこでは、リムル先生のように魔法を使ったりする人がいるのですか?」

「ああ、いるよ。むしろあっちじゃ銃を使うほうが少数だ」

 

 というか、銃の製造自体そのものが一般的ではない。異世界人が来るあの場所でも、銃の製造には技術力が足りていない所が多く、帝国でも銃を持っている人物が少数だ。それに魔法がある以上、銃に頼る必要性が薄いとも言える。

 

「どうして、先生は魔法を使えることを黙ってたの?」

「こっちじゃ魔法は非常識だ、それを大々的に見せてみろ。取材やらなんやらで俺の活動に支障が出るし、俺のやりたいことにやれなくなるだろ?」

「そうですね。私達でもこうしてリムル先生のことを追及しているわけですから」

「ん、魔法がなくても先生は非常識」

「そうね。刀で戦う人なんてキヴォトスじゃ先生くらいだよ」

「悪目立ちしないようにするためなら、先生も銃を使ったほうがよかったのでは」

 

 俺もこの世界に合わせて銃を使おうとガンショップに行かせてもらった。そこで銃の試射させてもらったが、俺の銃の精度はとても酷いものだった。シエルのアシストがなければまともに銃を使いこなすことはできなかった。お店の人にもシエルにも俺には銃のセンスがないと太鼓判を押されてしまったので、もう刀一本で戦っていこうと思っているんだ。

 

「あ、うん。アヤネちゃんよりもひどいんだね」

「あの、ホシノ先輩? さりげなく私が銃が下手なことになっていませんか?」

 

 ひとまずの形ではあるが、俺が魔法とスキルが使えることと今まで隠そうとしていた事には納得してくれたようだ。

 

「リムル先生はこれから先、その魔法を使うつもりはないんですか?」

「原則使うつもりはないかな、今回はセリカの生命の危機もあったから使ったからな。……おい、ホシノ、俺はこれを金商売に使うつもりはないからな、捕らぬ狸の皮算用はするな」

「うへ、ばれたぁ?」

 

  今回はあくまで例外的に使っただけだ、これからもよっぽどのことがなければ生徒達の前で魔法やスキルを使用することはないだろう。それが例え生徒達の頼みであってもな。

 

「説明はこんなところでいいか?」

「うん、まあ今のところはそれでいいよ」

 

 ホシノは戸の前から移動し、俺がこの場から出て行ってもいいという意思表示となった。

 

「リムル先生、私に魔法を教えて」

「無理だからね?」

 

 シロコが俺に魔法を教わろうとするが、俺は魔法を教えるつもりはない。それに、この世界の住人は魔素がない、魔素がなければそもそも魔法を使うことはできない。異世界人でも異世界へと渡る過程で膨大な魔素を受けて、体を変質させてスキルを獲得してきた。異世界人と言えど魔素と関りがないわけではないのだ。完全に魔素と関わりのないこの世界で魔法を使える人物が現れるなんて到底考えにくい。せめて、高濃度の魔素に触れて体に取り込むことがなければ無理だ。

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