昨日はセリカの救出と緊急の仕事が入り、丸一日書類仕事は何一つ手を付けることができなかった。ゆえに今日は大急ぎで溜まりに溜まった書類を一つ一つ手早く片付けて行っている。たった一日仕事をしなかっただけでこれだけの仕事が溜まる現実に頭を抱えたくなる。というよりも、毎日のように連邦生徒会が自分達の仕事を送ってくるせいで積もっていく一方だ。アビドスの一件が終わり次第、連邦生徒会の業務改善を行わせよう。流石にそのころには不祥事の一件にも蹴りがついているはずだ・・・ついているよね?
毎日のようにこれだけの書類の量を相手にしていることを見て、流石に彼女達も異常性に気が付いて、同情的な目を見られた。最近は機密書類も増えてきているせいで、誰かに頼むこともできないんだよなぁ・・・
そうして、日が昇りだしたころ、俺が書類と格闘している中、ホシノが一人で部屋の中に入ってきた。
「どうしたんだ?ホシノこんな時間に」
「うへぇ、先生にちょっとお願いしたいことがあってさぁ」
「お願いしたいこと?」
ホシノから頼みごとをされるなんて、ここアビドスに来て初めてだった。アヤネからは力仕事や手を貸してほしいことなど色々と頼まれていて、シロコやノノミからもちょっとした事のお手伝いを頼まれたことがる。けれど、セリカとホシノから頼まれたことはなかった。
「おじさんとさ・・・手合わせしない?」
ホシノは持っていたショットガンの銃口を俺に突き付けてきた。けれど、その引き金に指はかけておらず、今すぐに発砲する構えではなかった。
「どうして?」
「先生の実力を知っておきたいからかな?」
「こんな時間に?」
「こんな時間だから」
ホシノは日中と夜中で雰囲気が違う。日中は柔らかい雰囲気をしていてなんとも頼りないのだが、夜中は鋭い目でまるで切れ味を覚える雰囲気だった。そして、今ホシノが纏っている気配は後者だ。
「まぁ、いいよ。俺も最近体が鈍ってきそうだし」
「魔法も使ってよ?」
「それは断るよ」
立て掛けていた刀を手に取り、校庭へと向かう。ホシノも続いて校庭へと出る。
校庭は俺が初めてここに来た時からほとんど変わっておらず、遮蔽物になる土嚢や机、ロッカーといった物が置かれていて、それらすべてに銃痕が残されている。
俺とホシノは互いに距離を取り、互いの武器を手にして構える。戦闘開始の合図として、ホシノはスタングレネードの一つを手にし、ピンを引き抜いて適当な方へと投げた。そして、閃光が走った瞬間、俺とホシノは走り出した。
ホシノは一瞬にしてこちらに銃口を向けて引き金を引いた。俺の方へと沢山のペレットが飛来してくるが、近くにあった遮蔽物へと身を隠し被弾を回避する。その間にもホシノはこちらへと接近してきて、何度も引き金を引いてくる。
三発、四発、五発目、ここだ!!
ホシノが五回引き金を引いた瞬間、俺は遮蔽物の裏から飛び出す。五発目は丁度ホシノが持っているショットガンの最大装填数であり。ここまで撃ったのならばリロードをしなければいけない。つまり、この瞬間は撃たれるリスクを警戒せずにホシノへと接近ができる。
そうして、遮蔽物から滑りながら身を乗り出した瞬間、ホシノは銃口をこちらに向けたまま引き金を引いた。
「うお!?弾切れじゃないの!?」
「二発目の後に一発分入れてんだ。悪いけど、おじさんにリロードのスキはないよ」
今の会話の間にホシノはシェルを四発入れた。こんな短時間でリロードを終わらされてしまってはリロードの隙なんてあったものではない。俺はすぐに最寄りの遮蔽物へと身を隠そうとするが。
「させないよ」
俺が隠れようとした遮蔽物が、ホシノが撃った弾丸によって粉々になった。
「うお!?スラッグ弾ってやつか?」
「そうだよ?滅多に使わないけどね」
会話の間にもホシノは一発弾を装填する。隠れていてはこっちのペースは掴めそうにない。俺は遮蔽物へと隠れるのをやめて、そのままホシノへと接近する。それに対してホシノは迎え撃つ形で引き金を引いた。
「って!?」
再びスラッグ弾を使ってくるのかと思っていたが、今度は弾が拡散した。ペレット弾へと戻していた。
「おお!?」
小さな玉が同時に何十発も飛んでくる中では全てを叩き落すなんて芸当は難しい、かと言って横へ回避するには範囲が広すぎた。とっさに姿勢を低くして被弾する面積を少なくし、刀を振るって俺に当たりそうな玉を叩き落す。
一発ならばどうにか対処することができたが、すでに目の間には二発目が来ている。今度は右へと跳び攻撃を避け、三発目も避けるが、ホシノはすぐにそれを対応してきて避けるのが難しくなっていく。
ある程度接近したところで、ホシノは自分の得意な距離を維持しようと後ろへと後退するが、俺の接近のほうが早い。それに気が付いたホシノは提げていた盾を展開して身構えた。そして、ホシノとの距離は俺の間合いに入った。
初撃は横からの一振り。けれど、それはホシノが構えていた盾に防がれ、受け止められる。そして、盾の裏で構えていたショットガンの銃口を俺へと突きつけ引き金を引こうとする。
「っと!!」
「うわ!!」
ホシノの銃身を掴み、銃口を俺から外す。そのまま俺は上段で刀を振り下ろそうと上へと上げた瞬間、盾で俺のことを殴った。
「あれ!?」
ホシノは俺のことを盾で殴ったことで多少ふらつくことを想定していたようだが、その程度ではダメージにならないので、そのまま刀を振り下ろす。ホシノは急いで盾に身を隠して攻撃を防いだが、そのタイミングで蹴りを入れる。銃を握るための力が強かったせいで、姿勢を崩すものの蹴り飛ばすことはできなかった。同時に構えていた盾が崩れたため、十分な防御ができない所に刺突を行う。
「防いだか」
刺突の横から盾をぶつけて攻撃を逸らし防いだ。その間にもどうにかショットガンを振り、俺の手を振り払おうとしている。けれど、俺に力には届かず振り払えないでいた。
流石に武器を抑えられていたらホシノは何もできないか、そう考えていたが、自分の武器を手を放して後ろに跳んだ。
「武器を捨てたか・・・」
「先生はショットガン、使えないでしょ?」
「まあね」
これが戦場ならば、俺の手元にある相手の武器なんて胃袋に入れたり破壊したりして使えなくする。けれど、今は試合のようなもの。相手の武器を破損させて使えなくするなんてことはない。そして、俺が使っている武器は一振りの刀、片手で使うことが多いが両手で使うこともある。ショットガンを持った状態では満足に振るうことができない。だから、手にあるショットガンの使い道は。
「こうするしかないよね」
持っていたショットガンを真後ろに放り投げる。そして、ホシノはそのショットガンを取り戻すために走り出す。
「取らせるわけないだろ?」
当然俺はそれを阻む。ホシノの前に立ち塞がり刀を振るう、そしてホシノは盾でその攻撃を防ぐ。
「お?」
ホシノはとても戦闘のセンスがいい、盾で俺の視界を大きく隠しつつ攻撃を受け止める。俺は防がれることを前提に振るっていたが、返ってきた感触は全くの別物で容易に振り切れ、盾の後ろにホシノは居らず、俺の横を通り抜けていった。
「武器を取りに行ったか」
ホシノはそのまま俺が放り投げたショットガンを取り、遮蔽物の裏へと隠れた。盾を捨てて、武器を取る。ホシノは武器を取られた程度で勝負はあきらめていなかった。
俺は駆け出して遮蔽物ごとホシノへと切りかかる。それに対してホシノは遮蔽物の下から姿勢を低くして滑りながら現れて、下から引き金を引いた。
「うへ、今のに反応するかなぁ?」
「知り合いの剣の方が早いからね」
とっさに横に飛び攻撃を避けていた。ただ、俺が避けてホシノに向き直っている間にホシノは盾を取り戻していた。
「その知り合いはどれくらい剣が速いのかな?」
「少なくとも剣先は見えないかな・・・」
「うへぇ、銃弾よりも早いのかな」
話しつつ、ホシノは展開していた盾を閉じて肩から掛ける。そして、ショットガンにシェルを入れて・・・
「少し、ギアをあげるよ」
「おっと?」
ホシノは盾を構えずにこちらへと近づいてくる。俺は牽制もかねて素早く刀を振るうが、ホシノは容易に避けて俺のそばに接近し引き金を引いたが、今度は近すぎる。俺は軽く移動するだけ攻撃から避けた。
二発目、三発目の攻撃も避ける。四発目は三発目を避けた直後を狙われるが、それも俺は避けた。
「随分攻撃が激しくなったな」
「そうかなぁ?おじさんはいつも通りだよ?」
「今度はこっちだよ」
銃の攻撃範囲は厄介ではあるけれど、引き金を引かせなければただの木偶の棒だ。右腕を左足を、胴をと狙って狙って振るうが、ホシノはギリギリのところで何度も攻撃を避け、反撃の機会を伺っていた。そして、俺が足を狙って攻撃した瞬間、ホシノは真上に飛び上がった。至近距離で、俺が姿勢を低くして刀を振るっている間に、俺の頭部に狙いを定めて引き金を引いた。
「つ~、俺の負けだ」
これは文句の付けようのない一本だった。
「先生、今の本気?」
「本気だよ。それが?」
「・・・噓でしょ」
ホシノはジト目で俺を見た。
「ん、まぁ魔法は使って」
「そうじゃない、魔法を使ってなくても先生はもっと強いでしょ」
「いやぁ、買いかぶりすぎだよ」
ホシノのそれは当たってる。スキルの未来予測やらシエル先生のサポートも組み合わせればホシノがどんな動きをするのかを予測することができ、今回の戦闘を容易にこなせただろう。ただ、今回のはあくまで試合のようなもの、スキルや魔法に頼らずに純粋に俺の身体能力だけで戦っていた。それに、ホシノはスキルや魔法を使わずに戦っていたから、俺がそうしたのを使ってたらズルっぽいじゃん。
「まぁ、いいよ。先生がどれくらい強いのかはわかったから」
「そうか?」
「うん、おじさん。こう見えてもこのあたりじゃ負けなしだったからね」
「それは、道理で強いわけだ。お目にはかなったかな?」
「どうだろうねぇ」
少なくとも俺の実力には納得してくれただろう。俺は鞘に刀を納め、服についた土を払い落とす。ホシノも土を払いショットガン内に残っているシェルを排出していった。そうこうしている間に、シロコが校門へと来たところだった。
「?どうして、ホシノ先輩とリムル先生が校庭にいるの?」
「ちょっと先生とお話ししてたんだぁ。ほら、この校舎だいぶさ、ね?」
ホシノは先ほどの勝負を隠そうとした。何故そこまで隠したいのかの意図はわからないものの、ホシノがそうしたいのならばそうしてあげよう。
「ああ、とはいってもさすがに校舎の修繕費用を今の連邦生徒会から出せるか・・・」
「やっぱり難しい?」
「未だに不祥事の対応で手いっぱいみたいだからね」
適当にホシノに話を合わせながら校舎へと戻っていく。シロコは乗ってきたライディングバイクを駐輪場に置きに行くため、俺らは先に校舎の中へと入っていった。
「硝煙の匂い。ヘルメット団が来た感じはない・・・なら、ホシノ先輩とリムル先生が?」