異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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二十三話 何気ない日常

 あの後、ちゃぶ台をひっくり返すまでカンカンとなったアヤネを落ち着かせつつ、先日のセリカの一件もあり、柴関ラーメンでラーメンを食べに向かった。

 

「いやぁ~悪かったてば、アヤネちゃーん。ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」

「怒ってません・・・それに今日はセリカちゃんの奢りです」

「はい、お口を拭いて。はい、よくできましたねー☆」

「赤ちゃんじゃありませんからっ」

 

 ホシノにノノミよ、それは完全に逆効果だってことは俺でもわかるからさ、そういうことはやらないほうがいいと思うぞ。

 

「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」

 

 おまえもか、シロコ。

 

「なぁ、先生。この前の話なんだけどさ」

「ん、ああ、あの話を受けてくれるのか?」

「正直、そろそろ潮時かなと思っててな」

「そうか、それはそれで残念なんだが・・・彼女達には話してるのか?」

「まだだな、彼女達には世話になってるしいつの日にかは話さないとなって思ってるから」

 

 カウンター越しで大将と俺は話していた。本当ならば酒を交わしたいところだが、流石に今はまだ昼時、アルコールに酔えないとはいえ世間体的に飲むわけにはいかない。加えて、ここは学園都市、未成年の生徒たちが多いこの場所では酒の流通は多くない。料理酒すら手に入りにくい中では、飲食店で酒はなかなか提供されていないのだ。なので、俺はウーロン茶を片手に餃子をつまんでいた。

 

「先生のほうはどうなんだい?」

「全く、色々と情報が出てくるせいで何から手を付けたものか」

「そうか。まぁ、今まで誰も解決しようとしてこなかった問題で山積みだからな」

 

 大将はここアビドスで長いことラーメン一筋で商売してきている。ホシノ達よりもこの地の事を知っている。だから、俺はこちらに来てから大将によくこの場所のことについての話を聞かせてもらっていた。

 

「ノノミも大変だな」

「ああ、初めはホシノちゃんが受け入れてくれるか俺も心配だったよ」

 

 セイント・ネフティス、ホビー事業にも手を出していたりする企業で、調べてみればここアビドスの復興のために大規模な事業に手を出した。今の魔国連邦(テンペスト)が主にリソースを割いている事業と同じ、鉄道事業だ。

 

「ただ、あの様子なら心配はなさそうだな」

「ノノミちゃんは明るい子だからな。あのメンバーのいい母になってるよ」

 

 鉄道事業を始めたのは、人の流通を活発にさせるつもりだったのだろう。けれど、この場所は風によって多くの砂が運ばれてきてしまう。少しの砂程度ならば、レッドウィンターの積雪時用の装備を流用すればどうにかはなっていただろう。しかし、アビドスの砂はそれを遥かに超える量を積っていき、レールが完全に使い物にならなくなった。レールが使えなければ列車は走れない、列車が使えなければ鉄道事業は始めることもできない。結果として、多くの人が費用をかけて、復興の兆しとしての期待をしていたにも関わらず、その結果はアビドスを道連れにする程の崩壊だった。

 

「俺も鉄道事業はありだと思うんだが、今のアビドスにはやるだけのメリットがないからなぁ」

「少し前ならともかく、今のアビドスには何もないからな」

「ああ」

 

 本当に今のアビドスには何もない。他の自治区からこの場所へと来て何かメリットがあるのかと問われたら何もない。砂漠も観光として使える名所もなければ整備もしていない。今から俺が鉄道事業を進めても、得られるものはないだろう。

 

「先生」

「何だ?」

「ホシノちゃんのことを頼むよ」

「ホシノ?」

「あの子は、一人で抱え込む所があるからな。多分だが、まだあのことを引きずってるよ」

「あの事?」

 

 あの事とは一体何なのだろうか、それを聞こうとした時だった。扉に付けていた鈴が鳴りながら、戸が動くことが聞こえてきた。どうやら、このタイミングで新しいお客さんのようだ。つい、どんなお客さんが来たのかと、戸のほうを確認してみれば、一人の少女がいた。

 

「ん?」

 

 少女は居たのだが、その子は店内に入ろうとはしていない。中の様子を伺って、店内の壁に掛けられているメニューに目を通しているようだ。

 

「あ、あのう」

「いらっしゃいませ!何名様ですか?」

 

 バイトのセリカはすぐに伝票片手に接客に向かった。

 

「・・・こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

「一番安いのは・・・五百八十円の紫関ラーメンです!看板メニューなんで、おいしいですよ!」

 

 様子からして懐が寒いのだろうか。そう思っていると、少女は下がっていった。

 

 そういえば、あの子の顔どこかで見たことがある気がする。確か、ゲヘナの・・・・

《ゲヘナ学園便利屋68所属一年生伊草ハルカ。風紀委員会より通達された要警戒組織の組員です》

 あの子がそうなのか。どうしてアビドス地区に?いや、便利屋という程だし、アビドス地区で何かの仕事を受けてこの場所に来たのか。そうだな、うん、ものすごく嫌な予感しかしない。

《ヘルメット団に依頼をした組織と同一の組織の可能性60%です》

 可能性がないわけではない。その可能性は高いとはいえ、全く別の組織からの依頼か、全く無関係な理由でこの場所に来ているか。今この場でそれがどちらなのかはわからない。

 

 店の外の意識を向けて見れば先程の少女を含めて四人、ヒナに見せてもらった便利屋68が全員その場にいるようだった。

 彼女達は話し終わると、そのまま店内に入ってきた。

 

「えへへっ、やっと見つかった、六百円以下のメニュー」

「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

「そ、そうでしたか、さすが社長、なんでもご存じですね・・・・」

「はぁ・・・」

 

 どうにか事態が解決したことに喜ぶ少女と、何故だかマサユキっぽさを覚えてしまう少女、先ほどの妙にオドオドしている少女、そして呆れている少女が店内に入ってきた。

 

「四名様ですか?お席にご案内しますね」

 

 セリカは彼女達をテーブルの席へと連れて行った。

 

「あの子達がどうしたんだ?」

「ん、いやぁ・・・多分あの子たちゲヘナの問題児の子達でさ・・・どうしたものかなって」

「あの位の子たちはやんちゃしてなんぼだよ。まだ取り返しがつく年だ」

「俺が知るやんちゃとは程度が大分違うんだけど?」

 

 流石に強奪や建物を破壊していったりするのをやんちゃというのは、前世でもあっちの世界でも聞いたことはないのだけれど。流石異世界、怖い。

 そんな話をしていると、彼女たちは席に着いた。そして、注文を取ってきたセリカは伝票を持って大将の前に来た。

 

「大将、その先ほどのお客の注文なんですけど」

「?何かあったのか?」

「どうもお金がないみたいで、柴関ラーメンを一杯を四人で分けるみたいなんです」

「そうか・・・」

 

 俺と大将は何も言わずに目配りを合わせて、俺は懐カードを取り出し。そして大将はノリノリでとても一玉というのは、手違いだというのは無理があるほどの麺を取りゆで始める。そして、ゆであがるまでの間に仕込んでおいた餃子を鉄板の上に並べていき焼き始める。

 

「流石大将!!」

 

 いったいどこから出したのか、大盛り用の器よりも大きな器にスープを作り、そしてそこに茹で上がった面を入れて、トッピングのメンマとチャーシュー、煮卵にのりをこれでもかと乗せていき。並盛四人分よりも明らかに量が多いラーメンを完成させた。

 セリカはそれをくだんの四人のもとへと持って行った。

 

「赤字だろ?」

「大丈夫だ、その分先生が払ってくれるだろ?」

「よくわかってらっしゃる」

 

 俺からの奢りの餃子も出来上がり、彼女達のテーブルへと運ばれていった。そして、彼女たちは鍋をつつくかのように、大々々盛りのラーメンを仲良く取り分けていく。その様子は廃校対策委員会の仲のいい友人の集まりとは違い、まるで家族のやり取りとも思わせるようなほほえましいものだった。

 さて、彼女達の話し声はカウンター席に居る俺の所にも聞こえてくる。楽しくワイワイ話している彼女たちの中に、廃校対策委員会の彼女たちも加わっていく。物珍しいというか、彼女達にとってアビドス地区で歳が近く、気楽に話せる相手は居なかったからこそ、便利屋のように楽しく話せている人達は中々いないのか。

 

「アビドス以外の生徒が来るのは珍しいか?」

「ああ、よっぽどのラーメン好きの子なら来てくれるけど、日常的に来てくれる子は珍しいな」

「彼女たちも常連になってくれると嬉しいな」

「そうだな」

 

 銃撃戦があったり、学生が主体的に政治や行政をしているキヴォトスであっても、俺の前世でも、魔国連邦(テンペスト)でも、子供達が分け隔てなく楽しく食事をする様子は変わらないものだった。

 

「あれを守りたいものだよ」

「ホントにそうだな」

 

 子供達の明るい明日を作るためにも、俺にできることを見つけなければいけないな。

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