今日一日俺はアビドス高校へと行くことはできないだろう。というのも調べたいことが多く、それら全ていたら今日一日という時間を容易に使いつぶしてしまうだろう。本当ならばもっと時間が掛かるつもりだったが、運がいいことに今日は人手を確保することができた。
「というわけで、アビドス高校が持ってる利権について調べてもらいたいんだ」
「どうして?そうしたことならアビドスの生徒達ならそういうことに知っているでしょ?」
「残念ながら、ちゃんと引継ぎをされていなかったみたいでね。加えて重要書類をいくつか本校に置いてきちゃったみたいでさ」
本当に困ったことに、アビドス高校を復興させるために何か使えるものがないのかを調べさせてもらったのだが、悲しいことにアビドス高校で使えそうな物を調べるための資料が全くと言っていいほど残っていなかったのだ。以前本校から分校へと移動したという話を聞いてまさかとは思ったが、あっちの校舎へと重要書類を置いてきてしまっていた。
「それなら本校校舎に」
「俺もそうしたかったが、そこはすでに砂漠の中で掘り返す必要がある場所だ。とてもじゃないが時間が足りないよ」
「それで、図書館や資料館にある書類を片っ端から調べるんだね」
「ああ、俺は図書館の資料室を調べてくるから、君達にはこっちの資料館を調べてほしい」
「わかったわ、そのくらいお安い御用だわ!!」
シエル先生に任せれば多くの情報を把握することはできても、俺がそのことをちゃんと把握するにはシエルに教えてもらわないといけない。だから、多少時間は掛かっても俺が使える使えないかの情報なのかは俺が直接調べなければいけない。
「それじゃあ、あとは頼んだよ」
俺はアビドスの図書館へと向かい、片っ端の資料を手にして中身を見ていく。直近の出来事から昔の出来事、ニュース記事や事件事故とジャンルを問わずに目を通していく。
セイント・ネフティスの不祥事、カイザーコーポレーション新事業展開、ミレニアムスクール新技術開発と片っ端に調べては、不要な情報は片づけていく。
「アビドス砂祭り?」
昔のアビドス地区で行われていた祭りの記事だった。今は枯れてしまったオアシスを中心として祭りが行われ、他の学園達が協賛として出資をしたり、出店を出したりと大きく賑わっていたようだ。
アビドス砂祭りが最後に行われたのは、アビドス高校が借金を負うようになった直後あたりだ。このあたりから資金繰りが難しくなり始めたのと砂漠化の進行がひどくなり始めたのがうかがえる。
「これは大将が言ってたな」
セイントネフティスが鉄道事業を始めたことのニュース記事、鉄道開設やトラブルなどが記事となっていて、次第に雲行きが怪しくなっていくところが記されていた。最後にはもう記事にもされないようになってしまった。
一人で使えそうな情報はないかと、山積みとなった資料に囲まれていると・・・
部屋の扉を勢い良く開けて、アルが飛び込んできた。それに続くように他の子達もぞろぞろと中へと入ってきた。
「・・・一応静かにしようね?」
彼女達にとって緊急事態なことがあったのだろう。一番騒いでいるアルを、次いでおろおろとしているハルカを落ち着かせつつ、俺が広げていた資料を片付けて彼女達の話を聞く。
「で、まだ合流する予定よりは早いんだけれど・・・一体何があったんだ?」
「えっと、実は」
「一先ず先にこれを見て」
カヨコは大分分厚い資料を俺の前に出した、それも結構な部数。俺はそのうちの一つを手にして確認する。
「登記簿謄本?確か、土地と不動産の権利者が書かれてる書類だが」
とりあえずパラパラと捲り中身を確認する。これは去年作成された登記簿謄本のようで、中の情報は新しいものだが。
「!?」
それを見た瞬間言葉を失ってしまった。アビドス高校の事態の深刻さは俺が想像していたよりも、さらに酷いもののようだった。すぐに、他の登記簿謄本を過去に遡って確認していくが結果は変わらない。
「これは、まずいな」
「ええ、アビドス高校がこんなことになってるなんて私達は知らなかったわ」
「ゲヘナの諜報部は把握しているかもしれないけど・・・このことをアビドスの生徒たちは?」
「把握してないだろうな、把握してたら俺にこのことを教えてくれてたと思う。こんな、自分達の自治区が消失している事実なんて」
アビドス高校が自治していたと思われる地域の大部分が別の組織に移動してしまっている。何があって権利が移動してしまっているのかは登記簿謄本ではわからないものの、権利が移動してしまっている事実はここにある。
問題はその権利が一体どこへと移動しているのか。登記簿謄本に記されている権利者はカイザーコンストラクション、黒い噂が絶えないカイザー系列の企業。黒い噂が絶えない点で警戒をする相手ではあるが、相手がここで何がしたいのかの目的は見えない。けれど、ここまで大きく動いているのならば、何かをしようとしていることは明白だ。
「学園がここまで自治区を失っているなんてふつうは考えられないし、勝手には売買はされないはず」
「そうなれば、アビドス高校との合意があってこれは売買されたことになる」
「でも、どうしてアビドス高校は土地を手放したの?土地があればそこからお金が手に入るし、自分達の活動をするのにも許可はいらないのに」
「借金だな」
昔のアビドス生が土地を手放してしまった理由は考えなくてもわかる。アビドス高校の膨大な借金を毎月利息分支払えて来たとは考えにくい。そうなれば、担保として預けていたものや自分たちにとって不要なものを売却してお金に換えて返済に当てた。少ない生徒で広大な土地を持っていても持て余してしまう上、管理にも費用が掛かってしまう。出費を減らして返済に充てられれうお金を増やすのならばそうするだろう。
「借金って・・・どの程度なの?」
「約9億」
「え・・・」
「そんなに、ですか」
「すっごい額ね」
「ななんですってぇ~!?」
「アル、うるさい」
アルが大きな声をあげてしまうが、抑えさせる。まあ、普通に考えればそんな大金な借金があると知れば、思わず大きな声をあげてしまいたくなるだろう。しかし、これだけの土地を売却したとしてまだ約9億の借金が残っていることには違和感を覚える。
《アビドス高校の借金はカイザーローンからです。カイザー系列の金融業で悪徳金融と称されています》
「そうか」
これだけの額、悪徳金融から借りられているのならば金利は馬鹿にできたものではないだろう。それに、これまでヘルメット団や便利屋68から受けている被害を考えると、まるで。
「地上げ屋だな」
「地上げ屋ですか?」
「地上げ屋・・・って何?」
アルは言葉の意味が分かっていないようで隣にいたムツキへと言葉の意味を聞いていた。
「えっと、不動産や土地を手に入れるために権利者や住人と強引な交渉や武力行使をして強引に立ち退きを求める業者だね」
「・・・この前私達がアビドス高校に対してやったことだね」
「うそ?!じゃあ、依頼主は自分達の系列が金を貸している相手からさらに学校を奪い取ろうってしてたってこと!?」
「ちょっとまて!?アル、今のことどういうことだ!?」
「あ、しま!?」
アルが口を滑らしてしまったが、それを聞き逃すことなんてできない。アルの言葉が本当ならばアビドス高校に襲撃を指示していたのはカイザー系列の企業であることになる。もし、カイザーがアビドス高校に対して地上げ屋をしているのならば、相手の目的は土地の権利なのか?
「あちゃー」
口を滑らしてしまったアルに、ムツキとカヨコは頭に手を当ててやっちゃったという表情をしている。
「はぁ、口を滑らしちゃったからもう言っちゃうけど。私たちに依頼をしたのはカイザーPMCよ」
「PMC?」
「民間軍事会社、要は一種の軍隊だよ」
カイザー系列にはそんな事業もあるのか。こんな短時間に色んな系列企業の名が出ていることを考えると、それぞれの企業が勝手にやっているのではなく、それぞれの企業を纏めている奴が指示を出しているのか。
「だとしても、一体アビドスの土地を買い集めて一体何の意味があるんだ?」
土地が狙いだということは分かったが、こんな辺鄙な場所の土地を買い集めて一体何の意味がある?ろくな鉱山資源も、観光業も商業もない。砂漠化もひどいこの場所で一体何をしたいんだ。
もっと情報が欲しいが、相手はキヴォトスで一二を争うほどの大企業が相手となる。情報収集も一筋縄ではいかなさそうだ。それに、カイザーは悪徳といえど幅広く事業展開をしていて、それは一部の地域では生活の基盤にまで侵食している。
「・・・俺一人じゃ無理がありそうだな」