異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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三十一話 情報収集のプロ

 ソーカと名乗る人物は、見るからにここキヴォトスではなく外の世界から来た人。ヘイローを持っていないが、その足運びは周囲への警戒を決して怠っていない。銃社会であるキヴォトス、その中でも特に治安が悪いブラックマーケットの中であっても、一発が致命傷でも余裕を見せていた。

 この場所では明らかな異質な存在、けれど、私達は彼女のような異質な存在を見るのは初めてではない。先生、あの人が持つ異質さと同じ異質さだ。

 どうして彼女が私達に接触してきたのか、その意図はわからなかった。けれど、彼女が私達に聞いて来た事はここブラックマーケットで依頼が多く出回っているところを知りたかったようだ。何故そんなことを聞きたいのか、次々と目の前の少女に対して疑問が次々と湧き出てくる。

 彼女と話すためにも、私達はノノミちゃんの奢りで近くにあったたい焼き屋でたい焼きを人数分買い、たい焼きを片手に食べながら話をする。

 

「残念です、皆さんなら何かしらをご存じかと思っていたのですが」

 

 彼女はたい焼きを口にしながら、誰の目から見ても明らかに落ち込んでいた。彼女にとっては私達がというよりも、ヒフミちゃんがこの場所に詳しいと踏んで話しかけてきたらしい。なんでも、トリニティ学園、お嬢様学校に通っている生徒がこの場所で堂々と慣れたように移動している点から詳しいと思ったようだ。

 

「ごめんねぇ、おじさんたちブラックマーケットに来たのは今日が初めてでさ」

「ご、ごめんなさい。私もそうした危険な事には関わらないようにしていたので」

 

 ヒフミちゃんは関わらないようにと言っているけれど、そもそもブラックマーケットに関わっている時点で大分危険な事にかかわっているのではともっともな事を思ったが、それは今誰も口にはしなかった。

 

「それにしても、どうしてブラックマーケットで依頼なんて探しているんですか?外から来た大人がわざわざするようなことでもないような気がするんですけど?」

 

 ノノミちゃんが口にした疑問は私達が思っていた疑問だった。わざわざ外の世界の大人がどうしてここにきて仕事を探している?ましてやブラックマーケットなんて非合法な場所で。

 

「あはは・・・その・・・言ってしまうと仕事でこっちに来ているんです。上からこの学園都市について小さなことでも良いからと調べてきて欲しいとのことで」

 

 少し視線を反らし、どうにか言葉を濁してこの場を切り抜けようとするが、いい言葉が思いつかなかったのかそう言った。けれど、恐らくその言葉に嘘ではないだけで、本当のことは隠している。同時に上といった相手はここキヴォトスの人達では無いことが容易に想像がつく。ここの現地の住民ではなく、外の世界の住人が調査に出向いているのがいい証拠だ。同時に、彼女がいったい何者なのかも少しだけ予想できた。彼女の実力とセンス、恐らくどこかの諜報組織の一人なんだろう。

 

 

「それで、ブラックマーケットにですか?」

「はい、ここならば水面下で起きていることの情報が沢山行き来していると思ってきていたのですが」

「その感じだと、うまく集まっていない感じ?」

「逆です。情報が多すぎて情報の精査に困っているところですね」

 

 確かにキヴォトスの外から来た人にとって、学園都市の至る所が情報の塊になるだろう、ましてやブラックマーケットともなれば、私達にとっても情報の塊なのに彼女にとっては塊どころの話ではないだろう。

 

「そんな状態なのに、新しい情報を入れて大丈夫なの?」

「情報は多いに越したことはないですし、より正確な情報に近づきますから。それに、小さな情報が大きな手掛かりにもなりますから」

「一体何時からここで調べていたんですか?」

「昨日からですね。過去一の仕事量ですから・・・モスさんの力を借りたいものです」

 

 彼女が一日でどの程度の情報を調べて来たのかわからない、それでも彼女の情報収集能力は確実に私達よりも上だ。彼女が一日で集めた情報、それをここで見逃すのは惜しい。

 

「ねぇ、おじさんたちもブラックマーケットで調べごとをしているんだけど・・・知らないかな?」

「そうと言われましても・・・何が知りたいんですか?」

「これについて調べているんだけどさぁ?」

 

 私はメモしていた戦車の情報を彼女に見せる。少女は少し考えるそぶりを見せて。

 

「ああ、これでしたら覚えてますよ。ご丁寧に情報の改竄までされていて調べるのに苦労しました」

 

 いきなり当たりだった。彼女は私達が調べようとしていたことを知っている。この期を逃さない。

 

「ねぇ!!それって一体どんなことだったの!?」

「え!?ちょ」

 

 知っていると分かった瞬間、セリカが彼女へと飛びつき肩を掴みながら聞き出そうとするが・・・肩を掴んだ瞬間セリカは投げ飛ばされて、彼女はその場から離れていた。その様子を私は見えなかった。

 

「えっと、この戦車についてですよね?確か、カタカタヘルメット団に納品するようにと指示があって、その指示自体を記録から抹消するようにとも・・・」

 

 彼女がそこまで話したところだった、私達の間を通り抜けて彼女の真横に何かが突き刺さった。私達には何かが風を切る程度の音で聞きなじみがない音だった。はじめはその音が何なのかはわからなかったが、すぐに答えは分かった。

 

「苦無?」

「誰!!」

 

 彼女の隣に突き刺さったのは漫画やアニメでしか見たことがない苦無だった。どうしてそんなものがこの場に突き刺さっているのか、それは誰かがこれを投げた。私はその投げられた方向を確認するが、そこは人込みで誰が投げたのかはわからなかった。

 

「あ、話過ぎちゃった。すみません、私はこれで」

 

 彼女は突き刺さっていた苦無を引き抜き投げられた方とは全く別の方向へと走っていく。私達は折角見つけた情報の手掛かりをここで見失いたくなく、彼女を追いかけたが、すぐに彼女を見失ってしまった。

 いくら人混みの中に入ったとしても、ヘイローのない外の世界で戦い慣れしている人の足運び、あそこまで異質な存在ならばすぐに見つけられるはずだ、そう思っていたのに、彼女は私達の目から逃げ切り人ごみの中へと溶けて消えて行ってしまった。

 

「ああもう!!折角手掛かりが見つかったってのにぃ!!」

 

 セリカが地団太を踏み悔しがる。とはいえ、元々彼女には自分が調べた情報を私達に話す必要なんてみじんもない。初めから私達は情報の交換をする約束なんてしていないうえ、私達は彼女が欲しがっていた情報を持っていなかった。そのうえで、私たちが彼女から情報を得ようとしていたのだ。いつ逃げられてもおかしくはなかった。

 

「あの人、すごいですね。ブラックマーケットで怖気けずにいるんですから」

 

 逃げられてしまった以上他の方法で情報を集めよう。それにしても。

 私は苦無が突き刺さった痕に手を当てる。

 外の世界でも銃は流通していると聞く、こうしたブラックマーケットに出向けるほどの人ならば武器の一つや二つ持っているはずなのに・・・古典的な方法での攻撃。攻撃の意図はあの時話過ぎたと言った辺りから彼女の味方から私達に情報を漏らすなかな。

 これだけの古典的で銃を全く使わない立ち回り、そして外の世界から来た人達・・・

 

「多分だけどさ」

「ん?どうしたのホシノ先輩?」

「どうかしましたか?」

「あの人、先生の知り合いじゃない?」

 

 可能性の域は出ないけれど、ありえなくはない可能性を言った。あれだけ私達の常識から外れたことをしているのに、戦い方や知っていることが古い外から来た大人の先生。

 

「ありえるわね」

「否定する要素よりも、肯定する要素のほうが多いですね」

『リムル先生も大概ですが、ブラックマーケットに銃を持たないで来れる人となると』

「ん、むしろ納得がいく」

「え?あの先生って、あのシャーレの先生ですか?」

 

 シロコちゃんたちも私の言う考えに賛同してくれた。

 

「でも、その場合どうしてこっそり活動しているんでしょうか?」

「多分、連邦生徒会にも許可を取らずに動いているんじゃないかな?流石に連邦生徒会に真正面から外の世界から知り合いを連れてきて仕事をさせて、しかも連邦生徒会の手が及ばないブラックマーケットで調査をさせるなんて」

「許可が下りるわけがない」

『そうかもしれないですが、ソーカさんとリムル先生に関りがある証拠はないですし』

「どちらにせよ・・・私達の常識とはかけ離れた相手ってことね」

「え~と・・・シャーレの先生っていったい何者なんですか?」

『「「「「非常識の塊/よ/ね/だよ/ですね」」」」』

「ええ?」

 

 銃を使わずに魔法と刀一振りで戦っている人なんて、非常識の塊以外なんて言えばいいのかを教えてもらいたい。

 私達は残ったたい焼きを頬張り、これからどうするべきかを考えることにした。

 

 

 

 

 

 

「不用意に話しすぎだ」

「ソウエイ様すみません」

 

 建物の屋上、地上で人が多く行き交いしているのに対して建物の上は鳥がとまっている程度で全く人の気配も、監視の目もない場所。そこでソウエイとソーカは合流した。

 

「今は陽忍として活動しているのだから、それを忘れるな」

「すみません」

 

 陽忍、普段の隠密を主として活動するのとは違い、あえて顔を見せて隠れることなく現地の人達に接触して、交流をして目的を達成するものだ。そして、今のソーカは慣れず勝手が違う土地で下手な隠密をするよりも、堂々と活動したほうが情報が収集しやすい判断のもとだ。

 

「ソウエイ様、お言葉ですが、これ以上この場に留まっても十分な情報は得られないかと思うのですが」

「そうだな・・・粗方調べつくしたが」

 

 ソウエイは下を見下ろして何かを見つめる。ソーカは一体何を見ているのだろうかと、近づき彼女も見下ろした。

 

「あれは・・・確かトラックでしたか?」

「ああ、リムル様曰くこちらの世界での主な物を運ぶ手段、馬車の代わりに使われているものだ」

 

 ただのトラックならば何かものを移送しているだけで終わっていたが、ソウエイがなぜあのトラックを見つめていたのかは、トラックの周囲を見ればよく分かる。

 

「護衛もかなりの数ついていますね」

「馬車よりも早く、状況によっては魔導列車よりも速く走れる乗り物がゆっくりと周りを歩く者達に合わせているところを見るに、そうだろう」

「どうします?襲撃しますか?」

 

 ここブラックマーケットで護衛をつける程の何か、それが一体何なものなのかは気になるものだった。

 

「機を待とう。今ここで襲撃をすれば目立つ」

「そうですね」

 

 ソーカは取り出していた苦無をしまい、様子を見続ける。しばらくの間走るトラックを見届けていると、一つの建物の前に止まって運転手が下りた。

 

「あそこは、銀行・・・そういえばソウエイ様があそこに侵入する手はずだったはずですがどうでしたか?」

「有力な手掛かりはなかったな、手の込んだ偽造がされている」

「・・・もしかしてなんですけど、あのトラックに偽造される前の記録があったりするでしょうか?」

「・・・そうだな。それに、どうやら俺ら以外にも狙っている者達が居るようだ」

「え?」

 

 ソウエイが指さしたほうをソーカは見る。その先には先ほどソーカが話していた相手が覆面を被り銀行へと近づいていた。

 

「え!?あの子達正面から強盗をするんですか!?」

「度胸のある子らだ。無謀ともいえるが・・・確かアビドスの生徒だったか」

「アビドス・・・って確か今リムルさまがこちらの世界で力を注いでいる場所ですね。あの子達がそうだったんだ」

「ここであの子らが捕まってはリムル様の手を煩わせることになる。ソーカ、お前は彼女達のサポートをするんだ。俺は裏に回る」

「わかりました」

 

 ソーカは口を覆い隠し、ソウエイはいつものようにして、別々の方へと高く跳び移動していった。

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