異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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三十四話 問題児のお供

 数の少ないアビドス地区からトリニティ地区へと向かう電車に揺られ、俺とヒフミはトリニティ総合学園と向かっている。

 ここキヴォトスの学園事情をある程度把握してきたが、何でもある程度大きな学園になれば諜報を行う組織を持っていることが当たり前となる。それは当然、ヒフミが所属しているトリニティ総合学園も例外ではない。

 自治区ではなく独自の秩序が築かれているブラックマーケット内の出来事とはいえ、あれだけの騒ぎを起こしたとなれば、殆どの諜報機関の耳に銀行強盗の一件は届いてしまっているだろう。そして、それに自分達の学園の生徒が入っていたとすれば、なおのこと。

 

「あの、先生」

「なんだ?」

 

 気まずそうに隣に座っていたヒフミが口を開いて、俺に質問してきた。

 

「先生はどうして先生をやろうと思ったんですか?」

「急な質問だな、まぁ、私的な理由ってのと頼まれたってことと・・・俺は昔こことは別の所で先生をしてたんだよ」

「え、そうなんですか?」

「ああ」

 

 今でも先生をしていた時のことを思い出す。シズさんが残した教え子たち、あの子達はまだ子供だけれど、あの世界ではもうそろそろ独り立ちをする年頃になってきた。俺があの子らの先生としていられた期間は短かったけれど、今でもあの子達の為にやれることはやっている。シズさんの教え子だからってわけではない、俺があの子達の為にしてあげられることが在るのならばやってあげたいそう思っているからだ。

 

「今の俺に先生なんかが務まるのかなって、最近は思ってるんだ」

「どうしてですか?噂では色んな問題を解決するために奔走しているって、この前なんか連邦生徒会の不正を暴いたのは先生だって」

「本当にそれは先生がすることなのか?」

「え?」

 

 この世界に来てからずっと思っていたことが在った。果たして俺がやっていることは本当に先生がやるべきことなのか?先生ってのは、先に生まれた人が後から生まれた人のために、知識や経験が豊富な人が知らない人に教える人の立場のことだ。それなのに、俺が今していることはなんだ?

 先生になって最初にやったことは、各学校が抱えている問題やたらい回しにされてきた学園の問題などを解決すること。先生として教え導くことなんて、今日という今日までしてきたことがないんだ。むしろ、子供達に勉学を勤しむようにさせることもできず、生徒が子供がするようなこととはかけ離れた問題解決のために奔走してきているのだ。

 

「でも、先生は多くの生徒達の為になって」

「生徒達の為になるだけじゃダメなんだよ」

「そういうものなんですか?」

「そういうものなんだよ」

 

 未だに連邦生徒会長が俺を超法規的機関シャーレの先生にさせた理由もわからない。俺が一体何をすることを期待しているのか、何を成し遂げるのか、俺がこれを途中で放り出すかもしれない可能性をわかっていてこんな手に出ていたのかわからない事ばかり。

 

「私は先生の事は噂で聞いた話しか知りません。けど、先生は問題を解決するために動く確りとした大人だっていうことはわかります」

「結構面倒くさがりで駄目な大人だよ?俺の最終目標は自堕落な生活をできる環境を作る事なんだから」

「その目標のためにならいろんなことをしているじゃないですか」

「ん、まぁそうだけど」

「先生、もう一度聞きますけど、どうして先生になろうって思ったんですか?昔先生になった時も、今先生になった時も」

「先生になろうとした理由か・・・」

 

 そういえば、どっちも先生になった理由は成り行きだった。ユウキに教職が足りないから手を貸してもらいたい、対価として王都の図書館のフリーパスを貰えるというもの。元々の目的は後者の図書館だった。短期間の教師としての雇用だったが、実際にあの子らと触れ合ってみて、あの子らの時間はそう多く残されていないことを知った。だから、俺は当時のシエル、大賢者にあの子らを助ける方法を見つけてもらったっけ。そういえば、あっちでも先生らしいことなんて何もしてなかったな。

 

「どっちも成り行きだったな」

「ええ!?」

「やっぱり、俺は先生に向いてないわ」

「そ、そんな自分を卑下しなくても」

「いや、先生じゃなくて、リムル=テンペスト。俺が俺としてやっていくさ」

「ん?あ~え~と、なにか解決しました?」

「まぁな!!っと、そろそろトリニティに着くから準備しな」

「え?あ、ほんとだ!!」

 

 ヒフミは自分のリュックを背負いつつ席から立ち、俺と一緒に出入り口へと向かった。そして、俺は同じ列車に乗っていた一人の子を見た。

 

「ティーパーティーとの面会希望だけどできるかな?」

「え?先生どうしたんですか?」

 

 俺が見ていた子は明らかに驚いていた。そして、俺の視界から外れるよう逃げるようにと列車の扉が開いた瞬間に飛び出していった。

 

「あ~あ、駆けると危ないよぉ」

「え?先生、今の子は?」

「ティーパーティーの直轄の子だろうねぇ。多分あそこに行ってた君を監視するための」

「ええ!?ももしかして私があそこに行ってたこと、トリニティにはバレて居たんですか!?」

「そうだと思うよ」

 

 どうして一般生徒なヒフミをテーパーティー直轄の諜報機関の子が監視をして、いや考える間でもないか、何度もブラックマーケットに出入りしている子を警戒しない訳がないか。

 俺はヒフミと一緒に列車を居り、改札から出た。ここまで来ればヒフミが何かしらのトラブルに巻き込まれることはないだろう。俺がこれ以上ヒフミの傍に居なくても大丈夫そうだ。そう思いつつ歩いて駅を出た時だった。

 

「流石に迎えは早すぎないかな?」

 

 駅の正面から出た直後、俺達を待っているかのようにトリニティの生徒、見るからにティーパーティーの直近と思われる子が待っていた。

 

「リムル先生、ナギサ様が会談を申し出ています」

「ヒフミを同伴させたほうが良いかな」

「ヒフミさんの意思次第ですが可能ならば同伴するようにとのことです」

「だ、そうだヒフミ」

「え、ええ!?」

 

 まるでこの世の終わりかのような顔をしているヒフミの肩を叩きつつ、俺は用意された車へと乗った。そしてヒフミも覚悟を決めたのか、俺の隣に座るように車の中へと入った。

 運転手もとい生徒は、俺らが乗ったことを確認するとアクセルを踏み車を走らせた。

 十数分車に乗り、トリニティ総合学園へと到着した。そして、俺が座っている側の扉が開けられて、外の方の見てみれば、ナギサが俺のことを待っていた。

 

「急なお招きであるにも関わらず、来てくださりありがとうございます」

「構わないよ。俺の方からもティーパーティーの方に用事があったから」

「そうでしたか。それはよかったです」

 

 笑顔で出迎えてくれるが、その笑顔はひどく冷たかった。

 

「ナ、ナギサ様」

 

 俺とは反対の方から、車に体を隠しつつヒフミは顔を出した。

 

「ヒフミさん、あなたがアビドス地区へと向かったと話を聞いたときは心配しましたわ」

「えっと、その、ご心配をおかけしました」

「ええ、本当に。あちらの方には危険なところが多いです、カイザーや覆面水着団を名乗る強盗も潜伏しているかもしれないのですから」

「そ、そうですね」

 

 心配しているように見せて、アビドスとブラックマーケットで何があったのかの情報は彼女の耳に入ってしまっているようだ。

 

「ヒフミさんにお怪我がないことがわかって安心しました。あなたのことが心配で紅茶ものどを通りませんでしたから」

「ほ、本当にご心配をかけてしまってごめんなさい!!」

 

 ヒフミは頭を大きく下げて謝罪の言葉を口にした。

 

「構いませんわ。ですが、このようなことはもうしないようにしてくださいね」

「はい」

「それでは、ここまで来てもらって申し訳ないのですが、ヒフミさんにはお帰りをお願いしてもいいでしょうか。もちろん家までの車は手配いたします」

「い、いえ、そこまで」

 

 ナギサは申し訳なさそうにそう提案するが、ヒフミは慌ててそれを断ろうとする。

 

「ヒフミ、ここは受け取っておきな」

「で、でも」

「いいから」

「わ、わかりました」

 

 ヒフミはナギサが手配していた車といか、つい先ほどまで俺とヒフミが乗っていた車をそのまま使い、ヒフミは自分の寮へと帰っていった。

 

「お気に入りか?」

「いえ、私の大切なご友人ですよ」

「なるほどねぇ、さて、ブラックマーケットの銀行強盗の件だろ?」

「はい、立ち話はなんですからゆっくりとできる場所で話しましょうか」

 

 俺はナギサに案内され、トリニティ総合学園の中へと入っていった。

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