ナギサに連れられて前彼女と会った時と同じ、中庭の見える場所へと案内された。彼女は他の子達をこの場所から離れるようにし、この場と周辺には俺とナギサの二人っきりになった。
「先生は紅茶はお好きでしょうか?」
「嫌いではないかな?どっちかって言うと緑茶を飲む機会の方が多いけど」
「そうですか、お口に合うといいのですが」
卓上に置かれていたティーポットにお湯を注ぎ、紅茶を抽出する。抽出が終わるまでの間にティーカップと皿を用意し、ティーカップへと紅茶を注いだ。
「どうぞ」
「ありがとう。こういうことは従者とか召使がやるようなものだと思っていたのだけれど」
「私の趣味なようです」
俺は差し出された紅茶を受けてとり、一口口に含んだ。
「どうでしょうか?」
「結構なお手前で」
「ありがとうございます」
ティーカップを皿へと置き、落ち着いてナギサの雰囲気を見る。落ち着いた雰囲気を見せているが、その腹の内はわからない。
「それで、わざわざ急に俺を呼び出してブラックマーケットの銀行強盗の件の話をしたいみたいだけど、どうしてかな?」
「今回の一件には、少なからずトリニティの生徒と先生は少なからず関わりがありますよね?」
「へえ、どうしてだい?」
トリニティの生徒に関してはヒフミが銀行強盗の実行犯として大きく関わっているのに対して、俺はほとんど関わっていない、強いて言えばソウエイとソーカの二人が逃走の手伝いをしていたが。
「ヒフミさんがブラックマーケットに向かっていることは事前に把握していました」
「それで?」
「トリニティ総合学園の方針として、原則としてブラックマーケットへと向かうことを禁止しています」
「・・・ヒフミは思いっきりブラックマーケットに来ていたな」
「ええ、ヒフミさんがブラックマーケットに向かった際、何人か彼女の後をつけさせました」
「なるほどね」
何故ブラックマーケットでヒフミ以外のトリニティ生徒が隠れて活動していたのかはこれで分かった。
「そして、アビドス校の生徒と接触した後、しばらくしてから銀行強盗が起きたそうです」
「そうだったのか」
「先生は何かこの事についてご存じはありませんか?特にアビドス生がどうしてあのような場所にいたのでしょうか?」
思考加速をしながらなんて答えるべきかを答える。確かにブラックマーケットへと出向いていたこと、このこと自体はヒフミの落ち度となるものの、銀行強盗に巻き込まれて参加したとなればヒフミへの厳罰は避けられない。そして、ヒフミへの妙な気のかけようからして、お気に入りな子なのかもしれない。それと、アビドスの今後を考えると、アビドス生達が銀行強盗をしたなんて話をするのは避けるべきだ。
「俺が知っていることは、アビドスの子達がヒフミに道案内を頼んでブラックマーケット内で調べごとをしていたってことくらいだな」
「調べ事ですか?」
「ああ、俺はその時不在だったけど、今アビドス高校は不良達に高頻度で襲撃をされているんだ」
「それは、また大変なことで」
「それで、鹵獲した不良達の装備が妙に真新しかったり、今では製造されていない製品だったから、そうしたものが取引されているブラックマーケットに出向いて調査しようってことだったらしい」
「そういうことだったんですか」
一応、あの子達の当初の目的であったことを伝えた。
「聞くところによれば、アビドス高校には借金があるそうですね」
「よくご存じで」
「確か八億ほどでしたか?」
「約九億だよ」
「それほどでしたか。随分お金に困っていそうですね」
ナギサは銀行強盗をした集団をアビドスに当たりを付けているようだった。やっぱり、思い付きで行動したせいで、思いっきり足がつきまくっていて、情報収集が得意な相手にはもうほとんど尻尾をつかまれてしまっているようだ。
「今朝方アビドス高校に向かって、彼女達がブラックマーケットに向かったことに説教をしたよ。それに彼女達がブラックマーケットで何をしていたかを聞いてきたよ」
「そうですか」
「ヒフミはペロロ様グッズってのを手に入れる為に奔走していて、不良生徒に絡まれて頑張って逃げていたみたいだ。アビドス生はそんなヒフミを助けて自分達の調べごとに協力させていたみたいだ」
嘘は言わずに真実は言っておく。
「まぁ、いいでしょう。それで先生の要件は何でしょうか?」
「今回の一件で、アビドス生が自分達の都合にトリニティ生を巻き込ませてしまったことを謝罪しに来た。今回の一件は俺の監督不届きによって生じたものだ、再発防止にも尽力する。本当に申し訳ない」
俺は席を立ち、頭を深く下げて謝罪する。
「いいえ、構いません、頭を上げてください。元々ヒフミさんにも日のある話でしたから。ところで先生?」
「なんだ?先に言っておくが今のアビドスに賠償とかを請求しても支払えるほどの」
「先日、ミレニアムから大金をお借りしたようですね?」
どこまで耳がいいんだ?この話をしたのはミレニアム内での話でセミナー以外の生徒は知らない話のはずなんだけれど。
「恐らく、まだ必要な額には届いていないとお見受けします。違いますか?」
「あってるよ・・・どこまで耳がいいんだか」
「お褒めいただきありがとうございます。それで、先生、ティーパーティーから四億の無償資金協力を考えておりますが、いかがですか?」
やっばい、この子本当に何を考えているのかわからないんだけど?こっちが非を認めた直後にそんな大金を、しかも返済不要で四億のお金をポンッて渡すつもりなの?
《おそらく、シャーレの立場を利用することが考えられます》
ああなるほど。確かにシャーレって超法規的機関だし、その権力の一部を恩を売ることで使えるようにするってことか。ここキヴォトスだったら、俺をうまいこと取り込めばそれだけキヴォトスでやりたい放題できるってことだし。
「ありがたい話だけれど、トリニティ側には何の利がないように見えるけど?」
俺は白々しく聞いた。
「ええ、その代わりといっては何ですが。今度トリニティでお掃除をすることになっていますので、先生にそのお掃除のお手伝いをお願いしたいのです」
「どんなお掃除なのやら」
「大したお掃除じゃありませんよ」
ナギサが一体どんなお掃除を俺にさせたいのか、それが一般的な部屋をきれいにするという意味合いでのおそうじでないことだけはわかる。明らかに面倒ごとだとわかりきってはいるが、その破格な条件でその大金を受け取れるのならば悪くないのかもしれない。
「資金提供、感謝するよ」
「書類は後日お送りします。お掃除の件も折り合いが着き次第お知らせしますね」
桐藤ナギサ、下手な生徒よりも厄介な生徒なのかもしれない。