異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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三十六話 重い話

 先日トリニティ総合学園でナギサとの会談のおかげで四億もの大金を用意してもらえた。ミレニアムから借りたお金も含めて合計七億、あとは二億と端数のお金をどうにか用意することができればアビドス高校の借金問題はひとまず面倒ごとから切り離せる。とはいえ、あと約三億のお金をどうにかして用意しなければいけないのだが、トリニティとミレニアム三大校のうち二校からすでにお金を借りている。他に信頼できる学園や企業からそれだけのお金を借りられるだろうか。

 

《その心配は不要だと思います》

 

 なんでだ?あと三億のお金なんて。

 

《勝手に舞い込んできますので心配なさらず》

 

 シエルはどうにかなると踏んでいるようだが、一体どうしてだ?

 

 どうしてシエルは心配いらないといえるのか疑問に思いつつも、俺は今日もアビドス高校で積み上げられた仕事を片付けているのだけれど。視線をすごく感じる。

 

「・・・」

 

 万能探知で部屋の外の様子は手に取るようにわかっているのだけれど、部屋の外ではノノミとシロコ、アヤネ、セリカの四人が俺のことを見ているのだ。ばれていないと思っているかもしれないけれど、思いっきりばれているからね?それに今朝あった時から彼女たちから妙に距離を感じる。

 どうして距離を取られているのか、思い当たる節は昨日彼女たちと話したことくらいなのだけれど、彼女達にとって俺が何千、何万もの命をこの手で奪い取ったカミングアウトがよっぽどのものだったのか。そこまで関係が深くなかったとはいえ、こうもあからさまに距離を取られてしまうと心に来るものがある。

 とはいえ、彼女達から距離を取られてしまっている中、俺から距離を詰めようとしても逆効果かな。今は俺にできることをしていこう。

 

「ねぇ、誰か先生に話しかけないの」

「そうですけど、先生になんて話しかければいいのでしょうか」

「私たちと価値観が大きく違いますからいったい何を話せば」

「ん、そんなの決まってる」

 

 一応彼女たちの声は聞こえているのだけれど、ここは聞こえていないことにしてあげればいいかな。そんなことを考えていると、シロコが部屋扉をシロコが勢いよく、音を立てながら開けた。扉がだめになるから、ゆっくり開けなさい。

 

「シロコか、どうしたんだ?」

「リムル先生の昔の話を聞かせて」

「本当に唐突だな」

 

 シロコに続いてホシノを除いた面々が部屋の中へと入ってきた。俺は目の前の仕事を片付けると、置いていた電気ポットからお湯を用意して全員分のお茶を淹れて彼女達の前に出す。

 

「で、昔の話って一体どんな話が聞きたいんだ?」

 

 ついでに用意したお茶菓子のクッキーを齧り、彼女たちに問う。

 

「リムル先生が先生になるまでの間にしていたこと、特にたくさんの人を殺した理由」

「それって、結構あるし長い話になるんだけれど、構わないか?」

「ん、構わない。みんなもそうだよね?」

 

 シロコが皆のほうを見て、皆は頷いて返した。

 さて、俺はどこから話したものか。多分転生した直後くらいからの話になるけど、あんまり下手なことを話すわけにはいかないし。

 

「俺はさ、人が誰一人寄り付かないような森というか、そこの洞窟の生まれでさ」

「え、病院ですらないの?」

「そうだね。というか、あそこじゃ病院なんてものはないからね。そこで今の親友とも出会ったわけだけど、そいつとは一度長い別れを告げて一人で旅に出たんだ」

「地方、というより山間部でしょうか、そのあたりは生活がしにくいですからね」

 

 これ、限界集落とかそのあたりだと思われていないかな?

 

「旅を始めてすぐに、俺はある小さな集落と出会ったんだ。本当に小さな集落、明日を迎えられるかどうかもわからない中、今日を頑張って生きているそんな集落だ。俺はそこの者達に頼まれて、襲ってくる獣から集落を守る策を打った。その策が上手くいって集落は安全になり、俺はその集落のリーダーとして迎え入れられたんだ」

「それは、よそ者だった先生を」

「ああ、あの状況じゃ獣に襲われて集落全滅だってあり得た話だからな。そっから、まぁいろいろあって、集落の技術力を上げるために外から技術導入のために追放されてしまった技術者を連れてきたり、行き場をなくして放浪していた人達を仲間に迎え入れたりしたんだ」

 

 今でもあいつらが仲間になった日のことを覚えている。ガルム達が来てくれたおかげで魔国連邦(テンペスト)の技術力は一気に上がったのだから。

 

「その位からかな、集落程度だった場所は森を開墾して村といえるくらいには建物や工場ができた」

「それを先生がやったの?」

「確かに俺もやったが、殆どは仲間がやってくれたことだ。俺がやったのは舵取りや計画、必要なものの判断とかだよ。それからしばらくして、俺らが住んでる所からは遠く離れた場所で戦いが起きた」

「戦いって・・・戦争?」

「戦争か・・・あれは戦争なんかじゃないよ」

 

 俺はお前の飢えをちゃんと食らえているか?

 

「少し前からある場所では飢饉が起きていた。食料の調達もままならず、場所が場所だけに他所を頼ることもできない。あいつらは酷く飢えてた」

「飢えって」

「食料が飽和しているって言われている時代にですか」

 

 この子達にあいつらが味わった飢えを理解してもらおうとは思わない。そして、あの飢えの苦しさは知らないほうがいい。

 

「そこの王は少しでも食料を得るためにあの手この手と策を講じてきた。けれど、焼け石に水。状況は何も変わらなかった」

「それで、どうなったんんですか」

「最後の手段、他所から奪うだ」

 

 それを聞いて彼女たちは驚きとどうしてと言おうとしたが、自分達がこの前銀行強盗をした以上言えた立場ではない。

 

「自分達がこれまで住んでいた場所を捨てて、自分達が生きるために食料を得るために女子供問わずに総出で出発した。そして、道中で倒れた仲間の死肉すらも喰って進んだ」

 

 それを聞いた瞬間、彼女たちは絶句した。当たり前だが、この話を聞いたとき俺も彼らの心情を察した。

 

「どうしてって思っただろ?あの時のあいつらはもう本当に飢えていた。どれだけ食べても決して満たされない飢えにとらわれてたんだ。自分たちが生き残るためなら食べ物のえり好みはしていられない。それがほかの集落を壊滅させることになっても、同胞を喰らうことになってもだ」

 

 もう、彼女たちの口から言葉は出ない。

 

「俺らはその時には自分達の住処を守れるだけの力は持ってた。そんな中、あいつらの進行ルート上にあった集落からの救難要請があった。いつ俺らのその牙が向くかもわからない相手、そして俺らの仲間にはそいつらに仲間を家族を食われちまった奴もいた。これ以上の被害を出させないためにも、俺らはその防衛戦に参戦したんだ」

「それは」

「相手を殺してしまっても・・・何も言えませんね」

「殺さなかったら、自分たちが殺されてる。話し合いなんてできない」

 

 この世界と俺の世界で大きく違うところは、もし相手を殺さなければ、自分が殺されないか殺されるか。いつ命を落としてもおかしくないほどのあそこでは命なんて軽いものになる。

 

「その戦いは無事終結した。俺は飢えてたその人達の生存者を全員迎え入れた。幸い俺らのところは食料が豊富だったおかげで、残った生存者の飢えを満たすことができた。多くの被害を出すことになった一つの飢饉はこれでなくなった」

「それだけの被害を出した人達を受け入れてよかったんですか?」

「ああ、文句を言いたいなら俺に文句を言って打倒してみろだからな」

「それは・・・」

「先生をどうやって倒せばいいんですか?」

 

 そう言わないとほかの被害にあった集落の生存者達から皆を守れなかったからね。

 

「まあそんな感じで小さな集落だった場所は、多くのいろんなところの人を受け入れていっていつの間にか一つの国になった」

「あれ?待ってください、先生は集落だった時のリーダーですよね?国になった時のリーダーは」

 

 アヤネは手を挙げて話を切り、疑問を口にする。

 

「ああ・・・俺だよ?」

「「「「・・・」」」」

 

 暗い雰囲気をはどこへ行ったのか、静寂が訪れる。

 

「「「「国王!?」」」」

「今もそうだよ」

「「「「現役!?」」」」

「待って待って!?なんで他国の国王がここで先生なんてやってるの!?」

「明らかに先生やっている立場じゃないですよね?!国はどうしたんですか!?」

 

 セリカとアヤネの剣幕がすごいことになってきた。

 

「部下に任せてるから大丈夫大丈夫。少し前に大戦やって勝ったからうちに喧嘩を売るようなバカはいないからさ」

「なんで言い切れるんですか」

「うちの部下はみんな強いからな」

 

 納得はいかないものの、自分達は俺の部下の実力を知らないから、それがどの程度のものなのかわからない彼女たちは何も言えなくなる。

 

「そっからはしばらくの間は平穏に過ごせていたけど、俺がある日調べごとをするために国を離れていた時だったよ、俺達の国をよく思わなかった国が連合となって侵攻してきた」

「そんな。大丈夫だったんですか?」

「大丈夫じゃなかったよ、俺が戻ってる間に足止めにあって、帰ったころには・・・沢山の仲間が死んでたさ」

「「「「・・・・」」」」

 

 このあたりに関しては前にも話したっけかな。

 

「死んでしまった仲間たちのためにも、俺は侵攻してきていた連合の全て一人残らず殲滅したさ」

 

 自分達にとってよく思わない国、たったそれだけの理由で仲間を殺されてしまったのだ。これで復讐に走ってしまう気持ちを、このまま応戦してどうにかしなければより酷く、多くの仲間が死んでしまっていたのかもしれない。それをわかってしまった彼女達はもう何も言えなくなった。

 

「そっからも、大戦と言えるような戦いはあった。けれど、俺が最も殺しをしたのはここかな?」

 

 帝国との戦いでも多くの命は奪っていたが、俺一人で最も命を奪ったのはここだろう。今更どれだけの人数の命を、生物の命を奪ったのかなんて数えるつもりもないけれど。

 

「ん、先にリムル先生に謝らないといけない」

「そうですね・・・私達でもその状況だったら」

「同じ選択をしていたかもしれないね」

「リムル先生、すみません。お辛い話を」

 

 これ、殺された仲間達は蘇生したってこと本当にいうタイミングがないよなぁ。 

 

「ん?あ、ああ別に」

 

 大丈夫だよ、そう言おうとしたときだった。突然外から大きな爆発音が聞こえてきたのは。

 

「な、なに!?」

 

 ここで爆発は珍しくないようなことかもしれないが、アビドス地区はそもそもの人口が少ない。大きな爆発音が聞こえるほどの火薬を使うような事柄は少ないはず。それなのに今の爆発は一体何なんだ?

 

「ガス爆発か?方向は」

「今調べてます・・・・場所は」

 

 アヤネはタブレットを取り出して情報を収集する。俺もアロナに何が起きたのかの情報を集めさせて、それが何なのか分かった。

 

《音の距離方角より・・・柴関ラーメン近辺です》

「柴関ラーメン付近です!!」

 

 あそこで一体何が起きているのかわからない、けれど大将が心配だ。俺らは言葉を交わさずとも、自分たちの獲物を手にしてアビドス高校を飛び出した。

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