異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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三十七話 あの人って

 私は今日、本当に不本意ながらアビドス地区の数少ないビル群にある一つのビルに来ていた。いつの間にか私の郵便受けに送られてくる手紙に記されている場所へと向かって、そのビルの一つの部屋への扉を開けた。

 

「これはこれは」

 

 わざとらしく声を出し、窓の外を見ていた姿勢から床を蹴り座っていたチェアを半回転させて私の方を見る。

 

「お待ちしておりましたよ、暁のホル・・・いや、ホシノさんでしたね。これは失礼」

 

 名乗った事もない勝手につけられた二つ名を言おうとしたこいつに睨む。

 

「いやいや、キヴォトスにはまだなじめていなくて。こちらへどうぞ、ホシノさん」

 

 全身が真っ黒で黒のスーツに黒のネクタイ、黒の手袋、中に着ているシャツ以外すべて黒で統一されていて、体も真っ黒で肌が見えるところには亀裂があり、その亀裂が目と口をかたどっているこいつは用意していたイスのほうを指さす。

 

「・・・黒服の人、今度は何の用なのさ?」

 

 私は扉を閉めて部屋の中へと入っていく。

 

「・・・ふふ、状況が変わりましてね。今回は再度、アビドス最高の神秘をお持ちのホシノさんにご提案をしようと思いまして」

「提案?ふざけるな!!それはもう・・・!!」

 

 思わず、捨て去ったはずの昔のような目つきと声色で声を荒げてしまった。

 

「まぁまあ、落ち着いてください」

「?」

 

 こちらの反応に対して、目の前のこいつはどこ吹く風。何事もなかったかのように、机の上に置かれていた一部の紙の束を手に取った。

 

「・・・お気に入りの映画のセリフがありまして。今回はそれを引用してみましょう」

 

 それを私に見えるように差し出した。

 

「あなたに、決して拒めないであろう提案を一つ」

 

 気味の悪い笑い声を出しながら、こいつは私にその提案を話した。

 それからしばらく、聞きたくもないこいつの提案を聞く。話は聞き終わったところで、私はここに来る前から決めていた答えを言った。

 

「断る。誰があんたみたいな奴の提案に乗る」

「ククク、今はそれでいいでしょう。近いうちに気は変わるでしょうから、その時までお待ちしておりますよ」

「変わるなんてない」

 

 こいつが私に話したいことはこれで終わった。時間の無駄だったと思いつつも、私がわざわざこいつと会いに来た理由の目的を果たす。

 

「黒服、お前の話を聞いてやったから、私の質問に答えろ」

「ふむ、そうした取り決めはしていませんでしたが、いいでしょう。どんなことを聞きたいのですか?」

 

 黒服は先程の話題に使っていた書類を片付けて、私の問いに答える。

 

「連邦捜査局シャーレの先生。リムル=テンペストはお前たちの仲間なのか?」

「ああ、シャーレの先生ですか。確かにそう思ってしまっても仕方がありません」

 

 こいつは少しだけ笑いを漏らし、そして答えた。

 

「残念ながら、先生は私たちの仲間ではございません」

「なに?」

「あの人はあなた方とも私達とも全く異なる存在です」

「どういうこと?」

 

 こいつが言っていることがわからなかった。こいつも昔自分のことを外から来た大人だと言っていた。先生も自分のことを外の世界から来たと言っていた、加えて外の世界の中でも相当特殊な場所なことも。

 

「そうですね、同胞の彼の言葉を借りるのならば、キヴォトスでも外の世界でも存在してはいけないテクスチャを張り付けています」

「テクスチャ?存在してはいけない?」

「はい、あなたも先生が自分達とは違う存在だとわかっているでしょう?」

 

 確かに、先生の強さは異常だった。魔法が使えるうえ、魔法を使わなくとも刀一振りであそこまでの戦いを身体能力だけで実現している。さすがに大人という言葉一つで片付けるのは難しいほどに。

 

「何故先生はここに来たのか、そして連邦生徒会長は何故あの人を先生へとさせたのか、私としても疑問だらけなのです」

「じゃあ、先生は一体何者なの?」

「それは、直接先生に聞けばよろしいのではないでしょうか?」

 

 それができたらここでお前なんかに聞いていない。

 

「これはあくまで仮説の域は出ませんが、外の世界よりももっとずっとずっと遠い、それこそ私達の常識すら通じない、そんな場所から来たのではないのでしょうか。そう、異世界、ああ、そうです、異世界から来た人、それならば先生のことを説明できるでしょう」

「異世界・・・」

 

 そんな非現実的なと言いたいが、魔法というものを当たり前に使っている以上、魔法がある異世界からこちらの世界にわたってきた存在。そう考えたほうが納得がいく。

 

「あんたが、そんな突拍子もないことを言うんだね」

「研究とは時にひらめきや突拍子もないことが大きなカギになることもあるのですよ」

「あっそ、それじゃあ私は帰るね」

「いい返事を期待していますよ」

 

 だれが首を縦に振るか。そう思いながら私は部屋を出て行った。

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