突然の砲撃、一体何事かと思っていると風紀委員の何人かが砲撃によって吹き飛ばされていく様子が見えた。幾ら風紀委員たちが阿鼻叫喚になっているとしても、この状態で自分達を攻撃するような手を打つとは考え難い。それならば、一体誰が?そんな疑問を持っている中、一台の戦車が砲撃をして風紀委員達を吹き飛ばしながらこちらへと前進してきているのが見えた。
『な、あ、アレは万魔殿の虎丸!?どうしてアビドスに』
「ゲヘナ関係か?」
万魔殿となればゲヘナの生徒会となるが、そうなればどうして万魔殿の戦車がこのアビドスにあって、一応仲間であるはずの風紀委員会を吹き飛ばしながら来ているのか。
『ん、あこんな時に電話って、一体誰ですか』
ホログラムのアコは何やら電話がかかってきたようで、スマホを取り出して一体誰がかけてきたのかと確認するが、その表情は面白いように変わっていく。そして、こんな状況であるにも関わらずアコはその電話を出る選択をした。
『ヒ、ヒナ委員長どうかいたしましたでしょうか』
どうやらアコに電話をしてきた相手はヒナのようだけれど、残念ながら通信越しでは電話先のヒナの声は拾えていないようで、どんな事を言っているのかは聞き取れない。
『わ、私ですか?私は・・・そ、その・・・えっと・・・げ、ゲヘナ近郊の市内の辺りです!風紀委員のメンバーとパトロールを・・・』
上司相手に思いっきり虚偽の報告をしている点、後でしっかりヒナとお話をしないといけないな。けれど、同時に今回の作戦がアコの独断専行、ヒナのあずかり知らぬ所で進んでいた作戦であると確信が持てた。
『そ、それより委員長はどうしてこんな時間に・・・出張中だったのでは?』
学生が出張、子供がやることではない気がと思える。
『そ、そうでしたか・・・!その、私、今すぐ迅速に処理しなくてはいけない用事がありまして・・・後ほどまたご連絡いたします!い、今はちょっと立て込んでいまして・・・!』
どうにかしてヒナとの通話を切り抜けようとしている、もしここで目の前に居るのならばそのスマホを奪い取って俺がヒナと話していたのに、今からでも通信をジャミングでもしようか。
「他の学園の自治区で、委員会メンバーを独断で運用しないといけないようなことが?」
偶々それがマイクが拾ってドローンから再生された声ではない、肉声のヒナの声がこの場の全員に聞こえてきた。そして、その声のほうを見てみれば、砲身から煙を出す戦車の上、寅丸の上に仁王立ちしているヒナの姿がそこにはあった。
『え?』
「上司直々に現場に来ちまったな」
見るからに怒っているヒナが戦車から飛び降り、ゆっくりとホログラムのアコヘと歩み寄ってくる。そして、戦車からはイロハが顔を出してこちらに手を振ってきた。
『えええっ!?』
アコの驚き声が周囲へと響き渡る。
「委員長!?どうして万魔殿と一緒に」
「丁度、アコが風紀委員会を連れてアビドスに向かったって情報を掴んだマコト達と会ったからよ」
普段犬猿の仲と聞く万魔殿と風紀委員会だが、風紀委員会のトップが万魔殿と一緒に風紀委員会の不祥事の場に立ち会うなどとはどれだけの問題なのか、それはこの場にいるゲヘナ生のだれもが理解した。
「ククッ、風紀委員会は部下の手綱も握れていないようだな」
「ええ、そうみたいだったわね」
『羽沼マコト・・・どうしてヒナ委員長と‼』
ヒナに続くように歩いてきたのは、万魔殿議長羽沼マコト、そういえばなんやかんやで彼女と会うのはこれが初めてか。
「それで?アコはここで何をしていたのかしら?」
『そ、その・・・これは、素行の悪い生徒たちを捕まえようと・・・』
「便利屋68の事?彼女達は今シャーレの所属にもなっているのよ?あなたはシャーレに喧嘩を売りたいのかしら?」
『そ、そんな、どうして私が確認したときは彼女たちは』
というか、いつの間にアルとハルカが姿を消していた。さっきまでアルは白目をむいていたはずなのに、ヒナが来ると分かった時点でいなくなったのか。
「もういい、察するに、ゲヘナにとって不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環てところね。でもアコ、私達は風紀委員会であって生徒会じゃない。シャーレ、ティーパーティー、それに連邦生徒会長。そういうのは「万魔殿」のタヌキたちにでも任せておけばいい」
「空崎ヒナよ、本人達がいる前ではっきりということか?」
「事実でしょ。詳しい話は帰ってから。通信を切って校舎で謹慎していなさい、アコ」
『・・・はい』
自分の直々の上司に直接言われてしまってはアコは何も言えなくなってしまう。すぐに通信は切られた。
そして、ヒナは俺のほうを見て歩みよる。
「数日ぶりね、リムル先生」
「ああ、あれからどうだい?ここしばらく仕事を手伝えていないけど」
「それでも、出張中にやる仕事が減っていた分睡眠時間をとれていたから感謝しかないわ」
「なら、よかった」
相変わらず仕事詰めなことに変わりはないようだけれど、ヒナは元気そうだった。
「それで、リムル先生? これはいったいどういう状況?」
ヒナは周囲の様子を見るが、相変わらず風紀委員たちの多くは発狂とも言える状態で阿鼻叫喚な状態が続いていた。
「まぁ、その・・・覇気というか威圧をした結果がこれですね」
「それだけ?」
「本当にそれだけです」
中には気絶や失禁をしている子も居て、本当に地獄な状態なのだ。
「リムル先生が言うのならばそうなのね」
「随分とシャーレの先生を信頼しているんだな、空崎ヒナ?」
「少なくとも、マコトよりは信頼できるわ」
「そうかそうか!!」
なぜ身内より外の者の方が信頼できるといわれて笑い飛ばせるのか・・・ゲヘナはやはり特異な組織なのか。
「本来ならば、風紀委員会の公務妨害や被害に置いて問い詰めるべきなのかもしれないけれど、今回の一件は完全に風紀委員会に非がある。私の監督責任よ」
「一応、あいつも言ってはいたことだけど、俺はそっちで指名手配犯を庇ったわけなんだが?」
「はて?何のことかな?私達が把握しているのは、この場にいたのは風紀委員会とシャーレ所属のゲヘナ生とだけだが?」
「なるほどね」
俺がアル達を庇ったうえ、彼女達に依頼を出していることは知っているとみていいようだ。だからこそ、ゲヘナのトップの万魔殿と治安維持の風紀委員会、その二つがアル達を指名手配と認めなければ同時にゲヘナに追われる道理がなくさせることで、今回の不祥事への俺に支払う対価にしたわけだ。
「係争地帯と言えど、事前通達無しでの無断兵力運用、そしてシャーレの先生へと銃口を向け発砲したこと。このことについては私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、連邦捜査局シャーレに対して公式に謝罪する」
ヒナは深く頭を下げて謝罪の言葉を口にする。
「ゲヘナ万魔殿からもゲヘナ生徒の不祥事を謝罪する」
こちらはあくまで形式的ではあるが、軽く頭を下げて謝罪の言葉を口にする。
「今回の一軒の賠償について、後日話し合いの場を設けたい」
「わかった。日程は今日中に送るよ」
「手間をかけさせてしまって済まない」
「ヒナも頭を上げてくれ」
マコトは随分話が分かりそうな相手だ。だとしても、発狂しているとはいえ一応同じ学園の生徒を当たり前のように戦車で吹き飛ばしていくのはいただけないけれど。
これでひとまずこの場で話すことは終わった、そう思ったのだけれど。
「リムル先生、ちょっといいですか?」
割り込むようにノノミの声が聞こえてきた。
「係争地帯、それってどういうことですか。それに私たちアビドス生徒がゲヘナ風紀委員会との交戦を認めなかったことも。ここはアビドス自治区のはずですよね」
その問いにヒナとマコトはどういうことだという表情を見せた。
「ん?ここはだいぶ前にアビドス自治区では無くなっていると聞いたが?」
「どういうことです?リムル先生もそのことを知っていたんですか?」
「あ~まぁ」
俺がどう説明したものかと考えていると、万能探知がようやくこの場に欠けていた少女を捉えた。
「うへぇ~これは・・・本当にこれはどういう状況?」
発狂している風紀委員達に対して、素でどういう状況なのかわかっていないホシノの声が聞こえてきた。