異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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四十四話 反旗を翻す為に

 ミレニアム、トリニティ、ゲヘナの三校に少し無茶を言って、現金をアタッシュケース一杯に詰めてもらった物を数個用意してもらい、それを持ってアビドス高校へと来た。

 

「リ、リムル先生!?何それ!?」

 

 正面玄関から入っていくと、丁度下駄箱で上履きに履き替えていたセリカが居た。両手一杯持っていて顔が見えなくなっている俺に驚きの声を上げて、俺が持っているアタッシュケースの一つを持って手伝おうとする。

 

「あ、それ重いよ」

「?!重」

 

 そこまで重たくないものかと思っていたのか、一億分の紙幣だけで十㎏もあるアタッシュケースに思わず驚きの声を上げて姿勢を崩したが、直ぐに姿勢を立て直した。

 

「これ何が入っているの?」

「皆が集まったら説明するよ」

「そう?」

 

 途中からアヤネとノノミも協力してくれて、現金の入ったアタッシュケースを全て廃校対策委員会室へと搬入しきった。

 

「あれ?ホシノは?」

 

 運び終わってふぅと一息をついていると、初めから部屋に居たのはシロコだけで、ホシノの姿はどこにも見えなかった。

 

「屋上で寝てると思う、呼んでこようか?」

「ああ、頼んでいいかな?」

「わかった」

 

 シロコは対策委員会室を出て、屋上へと駆けていった。

 

「ねぇ、リムル先生、結局これ何が入ってるの?」

「あ~、まぁ開けちゃっていいよ」

「それじゃあ、開けるね」

 

 セリカはすぐにアタッシュケースを開け、中身を見てそのまま固まった。横から見ていたノノミとアヤネも固まった。

 

「ゲ、ゲゲ、現金!?」

「え、え!?も、もしかして」

 

 アヤネは他のアタッシュケースも開けていき、中の現金を確認して驚いていく。

 

「リムル先生、一体幾らあるんですか」

「十一億、借金と手数料を支払うことになっても全額払いきれる位のお金は用意したよ」

「これだけのお金をどうやって」

「ミレニアムにシャーレ名義で三億の融資、トリニティに四億の提供、ゲヘナから四億の賠償金の合わせて十一億だよ」

 

 アビドス高校が抱えている借金の総額を優に超える額、それが自分達の目の前にあることに彼女達は口を開けて少しの間放心した。その中で、一番最初に戻ってきたアヤネが次の質問をする。

 

「これだけのお金を、一体どうするんでしょうか?」

 

 アヤネが丁度質問したタイミングに、部屋の扉が開きシロコが入ってくる。その手には、今にも寝そうなホシノの首根っこが掴まれている。

 

「ホシノ先輩を連れてきた」

「うへぇ~シロコちゃん、もう少し優しく運んでよぉ」

 

 ホシノは相変わらず昼と夜で雰囲気が全く違う。毎晩俺がアビドス地区にいる間は、ほぼ寝ずに見張っている。わざわざ俺を見張らなければ十分な睡眠時間を確保できて、昼間にずっと昼寝なんかしていなくてもいいのに、俺、しばらくの間は夜間はアビドス地区とは別の場所で過ごすべきかな。

 

「ん?なにこれ?お金?」

「え・・・これって、本物?」

 

 シロコとホシノも目の前に置かれた大量の現金に目を丸くして、先ほどのアヤネ達のように手に取って現金を確認していく。

 

「さて、皆も集まったことだし、皆に一つ提案がある」

 

 みんなの注目を集めて、俺が用意した一つの書類を彼女たちに見せる。

 

「連邦捜査局シャーレから現金十一億、これを君達に融資する」

「ほ、ホントですか!?」

 

 最初に言葉を挙げたのはアヤネだった。俺がこれだけの現金を持ってきた時点で薄々察してはいたんだな。

 

「ちなみに、金利は?」

「ミレニアムから融資してもらった分三億だけの返済で構わない、金利は固定の2%だから最初の一年の利息は六百万程度になる」

「残りの八億は」

「返済の必要はないよ」

 

 今目の前にある十一億、それは俺が汗水を垂らして稼いだお金ではない。ミレニアムに頭を下げて、トリニティとゲヘナはそれぞれの思惑があってシャーレにお金を出しただけ。だから、このお金で新たなお金を得ようとは思わない。金利もミレニアムが提示しした金利のままだ。

 

「皆さん!これならカイザーローンの変動金利よりも圧倒的に安い金利で借りられますし、もし返済が滞るようなことになっても、連邦捜査局からお金を借りているわけですから、カイザーの手にアビドス高校と土地は渡りません!」

 

 俺が言いたいことをアヤネが先に言ってしまった。

 

「ほ、本当にアビドス高校はカイザーの手に渡らなくて済むの?」

 

 セリカはまるで信じられないと言わんばかりに体を震わせてこちらを見る。

 

「ああ、あくまでこれまでカイザーがアビドスの土地の権利を手に入れられていたのは、この借金の口実があったからだ。少なくとも、これまで通りの方法でアビドスの土地を手に入れることは難しいはずだ」

「それに、今まで私達が返済していたお金は結局犯罪組織に流用されてしまっていましたが、これなら返済したお金はシャーレに行く。もう、これまでのようにヘルメット団に頭を悩まさなくて済みます」

「そういえば、最近ヘルメット団が全く襲撃してこないような」

「ん、これを元手に他の銀行にも強盗を」

「シロコ先輩?今なんて言いましたか?」

「なんでもない」

 

 俺が言わなくても自分たちでそれが自分達にとってどんな利益になるのかも次々と見つけていって、アヤネ、セリカ、ノノミ、シロコは楽しく語っている。その一方で、複雑な表情をしているのはホシノだった。

 

「ねぇ、先生」

 

 その声は楽しいや、楽観的とは程遠い、まるで一番現実を見ているようなそんな声だった。

 

「ちょっと、二人だけで話さない?」

「わかった」

 

 あれだけ楽しそうに話している中に割り込むのは気が引ける。だから、俺はホシノ提案に乗り、部屋から出て廊下で彼女と話すことにした。

 

「先生はどうしてアビドスの為にこんなことをしてくれるの?」

「ん?なんでだかって?」

「先生にとってアビドスは幾つもある学園の中の一つの学園で弱小中の弱小校、あれだけのお金をアビドスなんかのためにわざわざ使わなくたっていいじゃない。なのにどうして?」

 

 随分とホシノは自分達の事を低く見ていることが受け取れる。それに、どうも自分達は助けをもらえるような立場じゃない、そう思っているような感じもする。

 

「理由はいくつかあるけど、ま、一番大きな理由は俺がそうしたいって思ったからかな」

「そうしたい?」

「ああ、俺は結構自己主義でね。俺がやりたいと思ったこと、手に入れたいって思ったものは必ずやり遂げて見せる。そのためなら、努力は惜しまないしお金だってかける」

「じゃあ、先生はアビドスを助けることがやりたいことなの?」

「それは違うかな」

「違う?」

「シロコ、ノノミ、セリカ、アヤネ、もちろんホシノも君達が借金に負われていて平穏に過ごすことができていない日常。子供達が借金の返済に負われていて、それを搾取するだけじゃなくてあざ笑うかのようにやってくるカイザー、それらが気に入らない。俺が気に入らないから、こうしてあの手この手持てる手札を使って、新しい手札を補充しているんだよ」

 

 ずいぶん自分勝手な話だってことは俺でもわかっている。そんな自分勝手だから、仲間達と一緒にいたい、この国を発展させたいって思ってきたんだ。

 

「随分と自分勝手だね。それが先生がやることなの?それとも国王っていうのはそういうものなの?」

「案外、みんなそういうもんだよ。うちと外交している所のトップも・・・」

 

 ガゼルは比較的民のことを考えて政治はしていて、ルミナスは自分の力とか色々なモノを得るためには民の力がいるから、民が安全に住める場所を統治しているし、ミリムはそのあたりは全く気にせず放置、ラミリスは自分勝手でトレイニーさん達を困らせてる。うん・・・割とほとんどが自分勝手だわ。

 

「改めて考え直してみると、国のトップとして自分勝手じゃないのガゼル王位か?あ、でもカゼルも結構国抜け出して、うちに遊びに来てるからなぁ。というか、そろそろガゼル王うちに来そうだから、予定組まないと」

「な、なんだか大変そうだね」

「そりゃ大変だよ。外交だから相手のご機嫌を伺って、失礼がないようにしないといけないから。ま、そういうトップだからこそ、仲間は集まってくるもんさ」

「じゃあ、先生も悪い大人なの?」

「何万もの敵国の命を奪った俺が良い大人だとは言わないよ」

 

 ホシノが思う悪い大人がどんなものなのかは俺にはわからない。そして、俺を見本にして同じ道を辿っていって良い大人になるとは思わない。その時代と場所、信条で正義なんて簡単に変わるのを俺はこの目で見て、体験してきたんだから。

 

「・・・」

 

 ほんの少しの沈黙が訪れた。

 

「俺がアビドスを利用して何かしようとしているって思ったのか?」

「まあね、これまでアビドスに近づいてくる大人なんてそんな奴しかいなかった」

「それは・・・大変だったな」

 

 アビドスの惨状を考えれば、今更どうにかできると考えるほうが難しい。それならば、搾れるだけ搾り取ろう、子供相手ならば適当に甘い言葉でもかけていれば騙される。そんな感じだったのだろう。

 

「同情なんていらない。私はもう大人なんて信じないって決めてる。ずっとずっと隠し事ばかりして、私達の何にも知らないところで動いてるあなたのことなんて」

「ずいぶん、信用されていなかったんだな。俺って」

「当たり前でしょ、アビドスの問題なのに私達の事を問題から遠ざけて、バレたらようやく話すような人のことなんか」

「そうか」

「ただ、先生はこれまでの大人とは違う。だから、利用できる限り利用させてもらうから」

 

 その言葉にどう返したものか、思考加速をしてなんて返すべきかと考えようとしたとき、部屋の扉があいた。

 

「ん、二人ともなんで廊下にいるの?」

「そうですよ!!急いでカイザーローンを呼んで残りの借金の返済をさせてもらいましょう」

「ああ、ホシノ、話はまたあとでな」

「うん」

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