カイザーアビドス支社、上層階で見下ろしても廃墟となった建物と、どこまでも続いていく砂漠しかなく、見ていて何も面白さを感じられない。そんな場所で、一人の大柄のオートマターが報告された書類に対して大きく苛立ちを見せていた。
「くそが!!なぜあんな弱小校相手にこれほどまでに手を煩わせているんだ!!」
苛立ちのあまり、それが思わず言葉に出てしまっていた。そして、机を思わず叩いてしまい、積み上げられていた書類が雪崩のごとく崩れた。
崩れた書類に共通して、依頼失敗、依頼失敗と記されていた。
「便利屋68もまだ契約期間であったというのに一方的に契約を破棄しおって、所詮は子供のお遊びか」
崩れた書類の中の一部の書類をつかみ取ると、そのまますぐそばにあったゴミ箱へと乱雑に放り込む所から、彼の心情は察せられる。
彼はカイザーPMCやカイザーローン等幾つもの経営を任せられている理事であり、同時にアビドス高校をあのような状況に追い込んだ張本人だ。
「大体、何故どの依頼も計画実行前に失敗しているのだ!!一度や二度ならばともかく、立て続けに計画実行前に依頼の遂行ができなくなって失敗とはどういうことだ!!」
彼の言う通り、依頼の遂行前に何らかの事情があって遂行できなくなることはありえなくはない話だ。最もその可能性は低いが。けれど、現実は違う。彼はブラックマーケット経由で不良達にアビドス高校を襲わせる依頼を何度も出している。そしてある日を境に、そのすべては依頼遂行前、準備段階で失敗の報告が上がっているのだ。
彼の計画ならば、すでにアビドス校はまともに機能しなくなっているはずだった。毎日のように襲撃され、まともな学園生活が送れなくなるような悪夢の生活から、アビドス生は逃げ出して学園から出ていく。そして、誰も居なくなったアビドス高校を合法的に奪い取る。それが彼が描いていた筋書きだった。だが、今のアビドス高校はどうだ?
まともな学園生活と言うにはまだほど遠いものの、襲撃される悩みは無くなっていて、彼女達になりに青春を過ごしている。膨大な借金があるにも関わらずだ。
「まあいい、まだ多少予定に遅れが出る程度だ。三年、あと三年さえ待てばあの餓鬼どもはアビドス高校を去ることになるんだ。今更、あんなアビドス高校に入学したいと思うキチガイがいるわけがない」
今年度ですら、入学したのはたった二人。来年と再来年にまた新入生が現れる確率はゼロに等しく、三年後には今の一年生ですら卒業している。そして元々理事がここに配属されたのも、長期的な目で見たうえでの話なのだ。今更三年程度増えようが大差ないのだ。
「それに、どうせ来年に辺りには人手が減って利息の返金すらままならなくなる。担保と差し押さえを口実に残りの土地を奪い去ってやる。そして、アビドス地区でそこらの不良生徒を在籍させて我らに都合のいい学園を作って、連邦生徒会を内側から侵略してやるのだから」
連邦生徒会の性質上、在校生の多い学園ほど議員が多く輩出でき、発言権が高くなっていく。もし、それがカイザー側の生徒ならば連邦生徒会がどうなっていくかは想像に容易い。かつてクレイマンがワルプルギスの夜での発言力を高めるために、魔王を自作自演して生み出したように。
「せいぜい、つかぬ間の平穏でも楽しんでいるんだな」
チェアにふんぞり返って、目の前の報告書の山を全てゴミ箱へと投げ捨てた直後だった。
「理事!!大変です!!」
社会人として目上の者の部屋へと入るのならばノックをして入室の確認をしてから入るべきだが、カイザー職員はそんなものは気にしていられないかと扉を勢いよく開き、今にも倒れそうな、バランス感覚を捨てて大急ぎでこの場へと来ていた。
「どうした?そんなに慌てて、ろくでも内容だったら首にするぞ」
ただでさえ機嫌が悪い状態で、礼儀のなっていない部下を見てさらに苛立つ理事だった。けれど、次の報告を聞いて、そんなものはどこかに行ってしまう。
「アビドス高校が、先ほど借金を全額を返済したそうです!!」
「は、はぁぁ!?」
理事が今部下が何を言ったのかほんの数ティックの間理解することができなかった。けれど、理解した瞬間、大声をだして机を破壊しながら立ち上がった。
「どういうことだ!?予定ではこの前利息回収をしたばかりだろ!!」
「そ、それがアビドス高校から返済日ではないけど、手数料を払ってでも借金を返済したいとのことで、手数料15%で対応したのですが。手数料も含めて、借金を全額返済されました」
「そんなことがあるか!!いきなりどこからそんな金が出てきた!!」
約九億の借金に利息を加えれば十億と三千万程度になるのだ。アビドス高校の彼女らにとって手数料ですら惜しい状況だというのに、一体どこからそのお金が出てくるんだ。
「おそらくですが、借り換えかと」
「借り換えだ!?そんなことがあり得るか!?一体どこのバカが十億もの金をどぶに捨てるような真似をするんだ!!」
カイザーですらがアビドスの土地に殆ど利益を見出していない。誰も手を付けないような場所だからこうして広大な土地を手に入れやすく、宝探しを容易に進められてきたのだ。今更どこの企業がこんな土地に価値を見出したんだ。
「今すぐに調べ上げろ!!休むことは許さん」
「は、はい!!」
職員は再び走って部屋を飛び出していく。そして、残された理事はすでに壊れた机を蹴り飛ばして怒りをあらわにする。
「ええい、忌々しいアビドスの連中め!!」
「おやおや、随分と荒れているご様子で」
ふと、先ほど出て行った職員とは別の声が聞こえてきた。理事はどうにか怒りを抑え込み、聞き覚えのある胡散臭い声の持ち主のほうを見る。
「一体いつから来ていたんだ」
「つい先ほどです。何やら職員の方が走っていくのを見かけましたので、何かあったのかと思い来てみましたが、何があったのでしょうか?」
そこにいたのは黒服だ。相変わらず怪しい雰囲気を放ちながらそいつは聞いてくる。
「アビドスの連中が先程借金を返済しきった」
「それはそれは、困りましたねぇ」
本当に困っているのか、まったく声色に変化を見せず、動きも変わらない。
「大方どこかの馬鹿がアビドスに借り入れを進めたのだろう、余計な前をしおって」
「馬鹿ですか、私にとっては彼女たちにとって最善の一手だと思いますよ?」
「なに?」
「カイザー理事もご存じでしょう?最近アビドス高校にシャーレの先生が来ていることを」
「知っている」
シャーレの先生、失踪した連邦生徒会長が用意したシャーレにまたまた連邦生徒会長によって指名された人物が先生を務めている超法規的機関。彼が最近アビドスで活動していることも、いろんな学園に足を運んでいることも、部下たちから報告が上がっていて知っていた。
「もし、シャーレの先生があなたの企みに気が付いているのならば、今回の一手、十億という大金をドブに捨てても十二分な価値があると思いますよ」
「何者だかもわからないよそ者が?」
確かにカイザーの進出を止めることとしては、この一手は十二分に致命的な一手となった。何せカイザーからしたら、アビドス地区を奪い取るための前提条件が崩壊してしまったのだから、代案を用意しなければならないのだ。けれど、理事としては解せないものがあった。
「縁も縁もない部外者がこんな辺境な地を助けて何の意味がある」
「ええ、その点は私にもわかりかねます。もしかしたら、シャーレの先生はアビドスの行く末など気にしてはおらず」
黒服はゆっくりと理事を指さす。
「カイザー、あなた方を敵視しているのかもしれませんよ?」
「ふん、もしそうならば踏みつぶしてくれるわ。たかが銃弾で死んでしまうようなやつなど」
そういったところで、黒服は露骨に溜息を洩らした。
「そうなれば私の方も困ったことになりましたね」
「ああ、貴様の狙いは小鳥遊ホシノだったか」
「ええ、あなた方の借金の話は私が彼女を手に入れるために都合が言い話だったのですが、今の彼女をお金で釣ることはできませんからねぇ。アビドス復興のために資金援助という名目でお金をだそうにも」
「貴様が提示していた借金の帳消しなど、我らカイザーとの契約の一部に過ぎん。貴様にそんな金などないのだからな」
「そうなのですよね。仕方がありませんね。しばらくの間は彼女達の様子を見て作戦を練ることにしますか」
そう言って、黒服は勝手に部屋に入って勝手に部屋を出て行ってしまった。
「相変わらず読めないやつだ」
カイザーは胸元から携帯を取り出して、何処かへと電話をかける。
「ああ、私だ」
その電話が吉と出るか凶と出るか、それはそう日もたたないうちにわかることになった。