アビドス高校の借金をひとまず返済を終え、カイザーがアビドス高校にちょっかいをかける口実を一つ潰した。ソウエイ、ソーカ達にカイザーがアビドス高校への襲撃の依頼に目を光らせてもらい、もし実行されそうになったら夜中に拠点に侵入し装備と兵器を破壊して貰っている。
少なくとも数日は、カイザーはアビドスに対して面倒な事はしてこないだろう。最も、カイザーは一筋縄ではないから、いつ実力行使にことを運んでもおかしくはない。もしそうなった時のためにも、策を講じなければ。
俺は今日、久々に連邦生徒会へと戻ってきた。不祥事の一件から時間が立ち、ひとまず落ち着いた連邦生徒会の中を進んでいき彼女に会う。
「やぁ、リン」
「リムル先生、お久しぶりです」
目の下に隈を作っているリンがそこには居た。あんまり美容のことを詳しくないけれど、少なくとも年頃の女の子が目の下に隈を作るほどの仕事量があることは異常と美容の天敵なことはわかる。
「あ~、寝れてる?」
「リムル先生に取って私は寝れているように見えますか?」
「ごめんなさい」
今にも寝不足そうなリンにこれ以上厄介な仕事を振りたくない。けれど、この世界で行政を担っているのは学生であるため、不本意ではあるけれど彼女を頼るしかなかった。
「リン、そう遠くないうちに俺はカイザーと戦争する」
「は?」
リンのメガネはずり落ちた。すぐに落ちたメガネを戻して、体を震わせつつ深呼吸をして眠たい脳をフル回転させ、俺が言ったことを噛み砕いて理解する。
「リムル先生?どういうことだか詳しくご説明願います」
暗黒微笑、そう言われてもおかしくないほど貼り付けた笑顔をして背後には般若が見える。けれど、ここで屈してしまってはいけない。
「ああ、そのためにもここに来たんだ」
誰も居ない連邦生徒会の一室、そこで話を進める。
「連邦生徒会はカイザーの所業をどの程度把握している?」
「世間一般的に知られていること以外ですと、カイザーローンはグレー金利で暴利を貪っていたり、コンビニ事業で同業他社を潰すような行動をしていたりなどでしょうか、それがどうかしましたか?」
他にもそんなことをしていたのかという点もあったがその点はおいておいて。
「本当ならば一番最初に報告するべきことではあったが、不祥事の対応で忙しそうだったし、急ぎで対応をしていたこと、こちらが得た情報に確信を持つために報告が遅れたことを先に謝罪する」
「・・・一体何があったんですか」
俺が謝罪を口にしたことによりリンの警戒心は上がった。
「学園都市の五%程度の土地がカイザーの手に渡っている」
「な!?どうしてそのようなことが!?」
「やっぱり知らなかったか」
「何故学園都市の土地がカイザーの手に、しかも五%もですか!?」
学園都市といえど、いくつかの土地は連邦生徒会と無数の学園が有していない場所はある。けれど、それを個人や一つの団体が多く所有することなんて普通はできない。学園の土地は学園のもの、基本的には手を出せないのだから。
「だからそのことについて調べて、裏取りもした。リンも知っている筈だ、前から廃校になっていっている学園がいくつもあることを」
「ええ、ですが学園が廃校になることはあることですし、そこまで」
「廃校になった原因だよ、問題の学園の多くは資金難が原因で廃校だ」
「どうして資金難がカイザーと関係・・・そういうことですか」
連邦生徒会のNO.2を務めるだけの事もあって頭の回転は早い。既にカイザーがどうやってそれだけの土地を手に入れたのかのあたりはつけていた。
「ですが、もしそれが本当ならば正規の取引で土地の権利が移動しています。面倒ですが、連邦生徒会からは」
「グレー金利だ、そこをついて契約の違法性を言うしかない。それに加えて、現在進行系の学園も複数あることが確認できている」
「そんな」
「もし、仮にそれらの学園の権利が移動したとすれば、十%は超えるぞ」
学園都市が学園都市ではなくなっていく。その事実を突きつけられてリンは手を力強く握った。
今までそのことに気がつけていなかった自分達が、外から来たこの場所のことを何も知らなかった人物がこのことに気がついたことへの悔しさなのか、無能感に襲われているのかそれはわからない。けれど、現実を突きつけられて責任を感じていることは確かだった。
「すぐに手を打ちます。カイザーに対して」
「まあ待て、落ち着け」
今にも暴走しそうなリンを止めて俺は話を続ける。
「相手はカイザーだ、相手の影響力はリンもわかってるだろ。今まで大きな手を出さなかったのだって」
「そう、ですね」
カイザーの影響力を無視できない。これが本当に俺達の手を狭めている。コンビニ事業など生活インフラに関わる事業にも手を出しているせいで、それらが一斉に撤退することになったときの経済的損失や、生活環境への変化が見過ごせない。もっとも、カイザーに対して手を打たないほうがもっと被害が大きいのだが。
「ひとまず俺の方でカイザーの証拠を固めたが、手段がグレーなものが多い。証拠として扱うのは難しい」
「手段は聞かないでおきます。ですが、そうなりますと」
「カイザーがなにか問題を起こしてくれれば、それを口実に強制捜査に踏み込ませて」
「いえ、SRTを使いましょう」
リンの提案に今度は俺が首をかしげる。SRT?確かそんな名前の学園があったような気が。
《SRT特殊学園、治安維持組織ヴァルキューレ警察学園は連邦生徒会の管轄に対して、連邦生徒会長直属の組織として創設され、連邦生徒会長の権限・命令を以て、あらゆる自治区への介入を可能にしています。また、SRTでしか扱えない最新兵器を保有していて、学園の設備、装備全ての品質が他の学園を上回ります》
なるほど、ヴァルキューレが警察学校ならば、SRTは自衛隊とかそういったところなのだろう。ヴァルキューレでは対処しきれない内容を、SRTが対処する。組織構造はなんとなくわかったが、一つある疑問がある。
今、連邦生徒会長不在では?
「確か、その組織は連邦生徒会長直属の組織だろ?君の権利で」
「連邦捜査局シャーレの解釈を使います」
「え?」
《連邦捜査局シャーレは学園を問わず、全ての学園の生徒をシャーレへと所属させることが可能です。つまり、本来連邦生徒会長の権限でしか動かせないSRT生徒をシャーレの所属生徒として動かすことが可能です》
「ああ・・・そういうこと」
「ご理解していただけたようで」
屁理屈と言えば屁理屈だろう。けれど、連邦生徒会長が俺に対して全ての学園の生徒を所属させることができるようにしていたのは、元々このSRTの生徒を容易に所属させやすくするためのものだったのだろう。SRTを見ず知らずの外部の人間に丸々託すという条文はいくら連邦生徒会長でもだれにも気が付かれずに通すの難しいはずだ。だからこそ、範囲を曖昧にすることで通したのか。
「子供達を戦いに加えるのは気が引けるんだけどな」
「お言葉ですが、キヴォトスではこれが普通です。キヴォトスで起きた問題は私達生徒が解決してきました、私達が戦うことは今に始まったことじゃありません」
世界が違うと考え方が違うのがよくわかる。俺としては子供たちを戦場に出すことは可能なことならば避けたいと思う。けれど、この世界でその信念を貫き通すのは難しい。俺の手の届く範囲で手に入れられる情報には限りがある。だからこそ、情報を取り扱い俺の手が届かない所に手を出せるヴェリタス、学生でありながら非合法な事に手を出すことをい問わない便利屋68、それを自分達の仕事として働いている彼女達の存在はありがたかった。
彼女達は自分達の仕事にプライドを持っている。だからこそ、遊び半分で戦っている生徒達と違って引き際をわかっている。俺も彼女達の仕事を信頼して任せることができる。
「SRTに任せて大丈夫なのか?」
「実力と実績は保証します」
「ん~、わかった」
この世界のこれまでがそうだったのならばそうしよう。気が引けることには変わりないけれど、SRT特殊学園はこうした荒事を元々想定して授業してきている。これまで会ってきた生徒と比べて、戦闘面での技術は高いとのことだから。よっぽどの大けがをすることはないだろう。
「でしたら、至急SRTと連絡を取りましょう。作戦を立てなくてはいけませんから」
「ああ」
俺とリンはそのままSRTへと向かった。
カイザー相手に打つ手を着実に用意していっている。そう遠くないうちにシャーレとカイザーは戦うことになるだろう。
そう思っていた矢先だった。SRTとの作戦を立て終わったころには、とっくに真夜中になった頃、アヤネからモモトークの連絡がきた。
『アビドス校舎が崩壊しました』
俺がアビドスを離れている間に一体何があったんだ?