日は沈みそろそろ日付が変わる頃、SRT特殊学園の応接室でアヤネからモモトークで緊急の連絡を受けた俺は、座っていた席から飛び上がる。
「リムル先生、どうかいたしましたか?」
「アビドス高校の校舎が崩壊したと連絡が来た」
「「・・・は?」」
リン行政官とSRT特殊学園でひとまず代表を務めている子も予想だにしない内容を告げられて変な声を出す。
俺はすぐに広げていた書類を片付け荷物を纏めると、急いでアビドス地区へと向かおうとした。
「待ってください、今からアビドス地区へと向かうつもりなのですか?」
「ああ、緊急事態っぽいからな」
「すでに真夜中ですよ。流石に夜が明けてから」
「そうゆっくりとしてられるような状態じゃないから」
俺は応接室を飛び出して外へ出て、どちらの方向に進めばアビドス地区へと行けるのかそう考えていると。
「先生、乗ってください。アビドス地区ですよね」
車の走行音が響き、SRTの校章がプリントされた車が俺の前に止まった。そして、窓を開けて一人の少女が俺へと話しかけてくる。恰好はSRTの校章がプリントされた制服、彼女達が用意してくれたのだろう、そのご厚意に甘えて、車に乗り込む。
「シートベルト閉めましたか?飛ばしますよぉ!!」
「安全運転でたの~~~!?」
俺が安全運転を頼むよりも先に、彼女はアクセルペダルを軽く踏むのではなく、思いっきり踏み込みエンジンが大きな音を立てて急発進した。
空を飛びながら激しい空中戦をしていた時とは全く別の浮遊感に襲われつつ、シートベルトのお陰でどうにか吹き飛ばされないようにしつつ、アロナが居るタブレットを取り出して、彼女達とのモモトークを開く。
『今DU地区からアビドス地区に急ぐ、何があったかわかる範囲で教えてくれ』
ホシノ、ノノミ、シロコ、アヤネ、セリカの個別チャットで一斉に送る。けれど、すぐに既読となったのはアヤネだけだった。
『リムル先生、三十分程前アビドス地区に響く爆発音を耳にしました。自室に居た私の所でも聞こえるほどのものです。他の皆さんも、それぞれの自室に居たようですが耳にしたと言っています』
爆発と聞けば、この世界ではグレネードやC4、クレイモアといった当たりが思い上がる。俺もこうして今まで縁が無かった兵器のことが分かるようになってきたからこの世界に順応してきているな。けれど、アヤネの家とそれぞれ皆の家は離れている。それだけ離れている距離でも爆発音が聞こえてくるとなれば、相当大きな爆発だ。その爆発がアヤネが言っていたアビドス校舎の崩壊の原因か・・・今は断定はできないけれど、そうと考えるのが無難か。
『私達は爆発が聞こえてきた方へと、アビドス校舎がある方へと向かっていきました。そして、私達が校舎に着いた時には』
『校舎が崩壊していたと』
『はい』
ここまでの情報から何があったのか、その背景を知ることができない。
『何か地震や火災は起きていないか?何か変わったことは起きていないか?』
『いえ、確認できていません。それに周囲は真っ暗で周囲の状況もわからないです』
そうか、アビドス地区の公共施設などはとっくの昔に修繕費なんて全く出ていないんだった。街灯なんかとっくの昔に付かなくなって、アビドス地区の夜はひどく暗いんだった。ひとまず、真っ暗ってことは、火災の心配はしなくていいかな。あいや、でもガス管からガスが漏れ出てる可能性もあるか・・・
『皆はどこにいる?』
『アビドス校舎、今は瓦礫の山になっていますけどそこに居ます』
二次被害の可能性も否定できない。それに真っ暗な状況で瓦礫の山ができている場所にまともな明かりなしでいるのは危ないだろう。
『ひとまず、アビドス校舎からは離れておくんだ。校舎崩壊の原因がはっきりしていない以上、その場で何が起きるかわからない』
『えっと・・・それは難しそうです』
アヤネが写真を送ってきた。写真を見てみれば、全壊した校舎にアヤネを除く全員が一心不乱で瓦礫を退かしている様子が見える。彼女達の事を考えれば、アヤネが何を言っても梃子でも動かないのが明白だ。こんな暗闇の中、ペンライト片手に瓦礫除去をしている彼女達に俺はどんな感情を抱けばいいのか。
『怪我をしないようにと伝えておいてくれ』
『わかりました』
さて、本当に困ったことになった。
「あの、もう少し安全運転できませんか?」
「先生急いでいるんだろ?もっと飛ばすよ」
さて、本当に面倒なことになった。校舎がなくなってしまった以上、ホシノ達がどんな手を打つのかが本当にわからなくなった。状況が状況だったから仕方がないとはいえ、銀行強盗を実行に移す彼女達だ。最悪の場合、全てを敵に回してでも自分達の守りたいものを守り抜く可能性も、自分達の大切なものを奪われたことに復讐に走るかもしれない。
「復讐に走った時に視野の狭さは身をもって知ってるよ」
ベニマル達も俺も復讐を、報復をするために走ったことがある。あれは本当に胸糞悪いものだ。
「頼むから、バカだけはやらかさないでくれ」
彼女達が既に動いていないことを祈りつつ、彼女が運転する車で何度も天井に頭を当てて向かうことしか今の俺にはできなかった。
しばらく車に揺られ、日付が変わって少し経った頃、俺はようやくアビドス地区に入った。
「君、ここで降ろしてくれ」
「え?でも、まだここは」
「アビドス地区の道路は普通の車の走行には適してない。俺の足で行った方が早い」
「そうっすか、わかりました」
アビドス地区に入ってすぐに車を止めてもらい、地面に足をつけると、アスファルトが沈むほど力を込めて蹴り走る。
「うひゃぁ、私が言えた質じゃないけど、先生やっばいっすわぁ」
アビドス地区内のルートは俺の頭にしっかり入っている。車では通れないような脇道近道もわかっているから、建物の屋上や屋根を走り最短ルートでアビドス高校へと向かう。
街灯の一つ付いていない真っ暗なアビドス住宅地を走り抜け、アビドス校舎があるはずの場所へと来た。
真っ暗な中五つの明かりが動いている。万能探知で周囲を見ている俺には明かりがなくても彼女たちの様子は見えるが、俺は明かりという物を一つもつけていないため、彼女達は俺のことに気が付いていなかった。
アビドス高校敷地のすぐそばの建物の屋上まで来て、そこから跳び上がり校庭に着地した。
「な、なんですか!?」
「あ、驚かせちゃったか」
アヤネは俺が着地した時の音に驚き、持っていた懐中電灯を俺へと向けて照らす。
「リ、リムル先生!?い、今の音は?」
「俺が着地した時の音、それよりも状況は?」
「えっと、今私は仮設テントを設営しているところです。皆さんは」
アヤネは懐中電灯を校舎の方へと向ける。その先には本来ならば校舎があったのだが、目の前に広がっている校舎は事前に写真で送られた通り、本当に崩壊していて見る影がなかった。そして、ホシノとノノミ、シロコ、セリカにアヤネは瓦礫の山となった校舎の上で瓦礫をどかしていた。
「アヤネ、懐中電灯一つ借りてもいいか?」
「あ、はいどうぞ」
アヤネが用意していたもう一つの懐中電灯を俺に手渡してくれた。俺はそれの明かりをつけて校舎の方へとむける。
「ありがとう」
「いえ、リムル先生だったらこの暗闇でも見えていそうですけど」
「流石に明かりも付けずに近づいたら驚かれるってさっき学習した」
「ああ、なるほど」
俺は少し駆け足でがれきの山へと向かった。
「シロコ、セリカ」
「リムル先生!!」
「ん、やっと来てくれた」
俺の存在に気が付いたシロコとセリカは瓦礫の山から降りて、俺の前に来た。
「!お前たち・・・」
瓦礫を退かす途中で土や石材の粉が付着してしまったのだろう、彼女達の制服はひどく汚れていた。けれど、そんなこと以上に目が行ってしまうものがあった。
「ん、このくらい平気」
彼女達の手や腕から血が流れていた。こんな瓦礫の山の中、ろくな装備も身に着けずに作業をしていれば、いくら丈夫な彼女達でも血を出してしまうほどの怪我をしてしまうようだ。
「平気な訳がないだろ。今すぐに傷口にこれを使うんだ」
俺は胃袋からフルポーションを取り出し、大丈夫だと振り払おうとする彼女達の腕を無理矢理掴み、惜しみもなくかけていく。
「あの、ありがとう」
「君達は若いんだから、体は大事にしておけよ?傷なんか残ったら一大事なんだから」
俺の周りにはシュナやシオンと女性が多く、よく彼女達に着せ替え人形にされているから、少しばかし美容の事はわかっている。彼女達の怪我をこのまま放置していたら酷い傷跡になる。
相変わらずフルポーションであっても、この世界の住人の彼女達には効きが悪い。俺達の世界の住人ならばすでに傷口は塞がっている頃だが、彼女達の傷はまだ回復の兆しは見えない。
「傷口が塞がるまでゆっくりしているんだ」
「でも」
「こんな暗さでまともに作業できるわけがないだろ、それに傷口を悪化させるわけにもいかないんだから」
今にもすぐに作業に戻ろうとしている二人の首根っこを掴み、アヤネが設営している仮設テントに無理矢理押し込む。
「ちょっとリムル先生!?」
「ん!!納得いかない!!」
二人は当然納得いかず、俺の腕を振りほどこうとするが、こちとら魔王の一柱でミリムの相手をよくしている。彼女達程度の反抗など赤子を相手にしているようなもの、俺は直ぐにホシノところへ急いだ。
「リムル先生!!だからぁ~」
走っていく俺にセリカは大声を荒げる。
「ん、あれ?」
「セリカ?どうしたの?」
「もう傷が治ってる・・・」
瓦礫の上を進んでいき、ホシノ達の元へと近づいた。
「ユメ先輩、ユメ先輩、ユメ先輩」
「ホシノ先輩落ち着いてください」
二人の様子を見て俺は思わず足を止めてしまった。
瓦礫の上でホシノが一人、うわ言のように同じ言葉を繰り返しながら目の前の瓦礫を小さな体で力任せに放り投げて行っている。そしてそんなホシノをノノミは止めようとしているけれど、ホシノは聞く耳を持っていなかった。
「おーい」
それでも俺はもう一度歩き出して、彼女たちのもとへと向かった。
「リムル先生、ホシノ先輩が」
「ホシノ、闇雲に瓦礫を退かしても」
「ユメ先輩、どこ、どこ、どこ!!」
明らかに普通な状態ではなさそうだ。何かを探している、一体何がホシノをそうさせているのか。
「ん、そういえば」
そういえば、アビドス高校には一室開かない部屋があった。建付けが悪いのかカギが掛けられているのかは知らなかったが、アビドス高校の資料を探すために勝手にお邪魔させてもらった部屋が一部屋あった。確かその部屋ってこのあたりだったような気が。
「仕方がないか」
ホシノがあそこの部屋に何か大切な物を置いていたのかもしれない。ホシノはそれを探すためにこうなっているのか。となれば、それが見つかるまではホシノは落ち着きはしないだろう。
いくらシエルの協力があっても、ホシノが探している物がわからなければ見つけることはできない。そして、ホシノから何を探しているのかを聞くことはできない。
シエル、瓦礫の撤去できるか?
《問題ありません。
俺は手を広げ瓦礫の方へと向ける。次の瞬間、黒い渦が出現しそれは校舎だった瓦礫を一つ残らず包み込み、次の瞬間には黒い渦とともに瓦礫は初めから存在しなかったかのように姿を消した。
「え、あれ!?」
瓦礫を足場にしていたノノミとホシノは瓦礫が消えたことにより落ちるが、直ぐに二人を掴みゆっくりと足をつけさせた。
「り、リムル先生。今のは」
「まあ、魔法みたいなものだよ。実際は違うけどそっちの方がわかりやすいだろ?」
スキルと魔法は違うけれど、口頭でその違いを説明するのは面倒くさいし、彼女達が知ったところで何の役にも立たない。
「じゃあ、一体どこに」
「専用の特殊空間に一時的においてるだけだから。後で処理するよ」
ノノミと質問に答えている間、ホシノは何かを見つけたのかそこへと走り出してしゃがみこんだ。どうやら、探し物は見つけられたようだ。
「一先ず、これからどうするかの話し合いをしたいけど・・・」
「けど?」
「とりあえず、君達は寝なさい。こんな夜中じゃ頭もはたらかないから」