異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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五話 シャーレ奪還

 リンの有無を言わさぬ強引な指示と連れだしにより、俺とあの場に居合わせた四人の生徒達でシャーレの部室がある外郭地区へと向かっていく。

 

「あのさ、俺はまあぁ外から来て、ここ学園都市に来たのも一昨日位なんだけれど、こういうことってよくあるの?」

「よくありません」

 

 俺の問いに答えてくれたのは、ミレニアムサイエンススクールセミナー所属二年生早瀬ユウカ。

 

「ある程度の事件は起きはしますが、ここまでの事は稀有な事例です」

 

 次に答えてくれたのはボルトアクションライフルを持っている、トリニティ総合学園正義実現委員会所属三年生羽川ハスミ。

 

「ですが、ここしばらくの状況でしたらそれなりの頻度で起きてはいますね」

 

 ハスミと同じトリニティ総合学園自警団所属二年生守月ミスズ。

 

「ゲヘナでもここまでの頻度は少ないですね」

 

 ゲヘナ総合学園風紀委員会一年生火宮チナッツ。

 ハスミとスズミが同じ学園である事を除き、それぞれが異なる学園に所属して、部活動も全く異なる活動に所属している四人の少女たちが、こうして臨時のパーティーを組み、一つの目標の為に走っていく。

 ユウカ、ハスミ、チナツはセーフティーを解除されている事を確認し、自分の銃にマガジンを差し込む。ハスミはクリップに纏められた弾薬をチャンバーに押し込み。スライドとチャージングハンドルを引き、それぞれ異なる手順と動きで何時でも発砲できる準備を済ませる。

 俺も胃袋に仕舞っていた刀を一振りを取り出して提げる。

 

「あの、先生は銃を使わないのですか?」

 

 されると思っていた質問をされた。

 

「ああ、俺が住んでいたところじゃ銃は一般的じゃないからね。それにこっちの方が使いなれている」

「銃が一般的ではない所があるなんて考えにくいですね」

「俺からしたら、子供達が当たり前のように銃を持っているほうが考えにくいよ」

 

 場所によって常識は違う。それは彼女達に問っては俺が持っている刀に対しても同じようだ。

 

「私達からしたら刀剣を扱うような場所が珍しいですね」

「そうなのね」

「どちらにせよ、外の世界の人なら銃弾一発だけでも致命傷になりますから、先生は後ろに隠れていてください」

 

 彼女達にとっては刀は物珍しい物のようだ。そいて、まぁ、普通に考えれば相手に近付かなければ戦えない刀と、刀の有効範囲よりも離れた外側からの攻撃を得意として圧倒的な弾の数で攻撃してくる銃との勝負では、刀の方が圧倒的に不利に考えられる。そして、外の世界の住人は彼女達と違って普通に銃弾一発程度で致命傷となる。

 彼女達の常識ならば、ユウカの言う通り生身の俺を後ろに隠れさせる判断は間違いではなかった。

 

「まぁ、出番がないことを祈るよ」

 

 ヘリは用意をすることはできなかったが、連邦生徒会が保有している車を一台借りる事が出来たので、俺の操縦で目的の場所へと走らせる。しばらく走れば、煙が空へと登っていく様子が近くで見る事ができる場所にだどり着いた。

 

「うわ、これは酷くないか?普段ここまでやる」

「いえ、これも稀有な例ですよ」

「へぇ」

 

 目の前に広がる酷い光景に思わず声を漏らしてしまう。何せ、ビルの窓は割れて瓦礫が積み上がっている、道路には穴が開いていて、電柱は折れてしまっている。周辺被害も考えれば銃弾以外の爆発物も使っているだろう。道路を塞ぐものも多く、ここから先は徒歩で移動するしかないだろう。

 俺らは車から降りて道路の先を見る。

 

「さて、いい加減受け入れるしかないか」

 

 スライム生になってから、何かと戦いに縁はあったものの、まだ年いかない少女達が銃火器を片手にトリガーハッピーの如く発砲して、その横では車が横転して漏れ出たガソリンに引火して炎上している。まるでここは世紀末かと言いたくなるような光景は知らない。

 

「先生迂回しますか?」

「いや、ここで迂回しても変わらないだろうな」

 

 ここまで不良生徒達を纏め上げて一気に動かせる主犯が居る事は分かっている。そのような人物が、自分の目的を達成させるために不良達を壁として使っているのならば、俺らが中心へと接近できないように囲っているはず。他の所から攻め入ろうにも状況は変わらないだろう。

 できれば交戦するのは避けたい、けれど戦闘をしなければここを突破するのは難しいだろう。どうやって進もうかと考えていた。

 

「横に跳んで伏せろ!!」

 

 万能探知ではなく、純粋な俺の目で数人の不良達がこちらに向けて銃を向けている事に気が付いた。 四人は突然の事であったにも関わらず、直ぐに反応して横へと跳び、ハスミとスズミは直ぐに遮蔽物の裏へと転がって行き身を隠しながら起き上がる。ユウカとチナツは跳んだ先で伏せたまま周囲の状況を確認する。

 それぞれの戦闘経験の差を感じ取りつつ、俺も一先ず遮蔽物の裏へと隠れる。直後、大量の銃弾が撃ちだされて俺達の頭上を通過して行く。

 

「戦車もあるのねぇ・・・こわ!!」

「先生頭を下げていてください」

 

 様子を見ようと頭を出さそうとするが、隣に居たスズミに腕を掴まれてそのまま遮蔽物に隠れるようにと引っ張られてしまった。

 いくら子供達と言えど、銃撃戦の戦闘経験は俺よりも多い。だからこそ、ここは彼女達の戦いを任せてみるのもありなのかもしれない。ただ、なんというか力が俺が戦わないってのは、少年兵を使っているって気分になってあまり良いものではないな。

 砲弾の次弾が装填されるまでの間、僅かに時間はあるものの、その間にもこちらに向けていくつもの異なる銃声が鳴り響き、近くに着弾している音も聞こえてくる。

 

「なんで私達が不良達と戦わなきゃいけないの!」

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから・・・」

「それは効いたけど・・・!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!なんで私が・・・!」

 

 交戦することになり、ユウカから不満が漏れだす。そして、片方のサブマシンガンを撃ち尽くしたのか、素早くもう一丁のサブマシンガンで牽制しながら遮蔽物の裏へと隠れようとした。そのタイミングで、頭部に銃弾が当たったのか大きく体を仰け反らせた。

 

「いっ、痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾使っているんじゃない?!」

 

 結構な威力がありそうな弾丸を受けたにも関わらず、当たった部分を軽く擦る程度で直ぐに遮蔽物の裏へと隠れる。

 

「伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されていません」

 

 弾に違法と合法なんて物があるのかと余計なことを考えている間に、ハスミは遮蔽物に身を隠しつつ隙間から狙いを定めて引き金を引いていた。

 

「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」

 

 傷跡程度で済むんだ。やっぱりここの人達の耐久性高くないかな。

 

「今は先生が一緒なので、その点に気を付けましょう」

「ああ、俺の事は心配しなくて大丈夫だから。銃弾程度なら対したダメージにならないですから」

「こんな状況で冗談はやめてください」

 

 怒られちゃった、冗談なんかじゃないんだけれど。まぁ、信じられないのも仕方のない話か。

 五人で遮蔽物の後ろに隠れて少しの時間が経った頃、俺らは最初の場所から殆ど動くことができずに居た。相手も無駄弾を使わないようにするためか銃声は止んだ。けれど、少しでも顔を出せば先程の様に銃弾の雨が襲い掛かってきて動けなくなるだろう。

 

「う~ん、これ4人でどうにかできると思う?」

「難しいと思います、正義実現委員会でもここまで少人数、ましてや即席のメンバーで任務を遂行することはありません」

「全員この場所の地形を把握しきれていません。何処で狙撃できるか、不意打ちができるか何もわかりません」

「と言うか、たった四人でこれだけの人数を相手するなんて無理よ。弾だって絶対に足りないし」

「せめて補給物資があればいいのですが、今の連邦生徒会にそれは期待できませんし」

 

 俺一人でも、不殺でこれだけの人数相手にするのは、少しばかり骨が折れる。殺してしまっても構わないのならば、あっという間に制圧することができるけど。スキルや魔法があればまだ楽なのだが、下手に騒ぎを大きくするわけにも行かないし、可能ならば隠し通したい。

 

「先生、指揮経験はありますか?」

「だから、先生じゃないって。まぁ、一応戦争経験はあるが」

「え、戦争って・・・あの戦争ですか?」

「ん?まぁ、多分思っている通りのことだよ」

 

 ユウカがどんな戦争を想像しているかはわからないけれど、国と国それぞれの思惑があって敵国の人達を殺していくあの戦争だ。

 

「ただ、十数人から数十人単位の各部隊の総指揮で、班単位での指揮経験はないぞ」

「待って、それってリムル先生外の世界だと相当な重鎮なんじゃ」

「元帥だったのですか?」

「どっちかって言うと総統」

「待って待って?!それ先生って外の世界だと相当な重鎮なんじゃ!?」

 

 俺の言葉に四人は驚きを見せる。

 

「いえ、ユウカ重鎮どころの話ではありません。トリニティーならばティーパーティー、ミレニアムならばセミナー会長、それ程の立場の人です」

「なんでそんな大物がこんな戦場の最前線に、しかも護衛も付けずにここまで来てるの!?」

「一応私達が護衛と言う体なのでは?」

 

 俺の立場に彼女達はここが戦場である事を忘れ、大きな声を出してしまう。

 

「現場至上主義ってのと、これでも仲間達よりもさらに前線を張ってた位だから。そのあたりは気にしなくていいよ」

「気にしますよ」

「色々と気になる事はありますが、私達の指揮を先生に一任します。この状況ならば、私達よりも経験のある方が判断する方が適切でしょう」

「わかった。ただ、これだけの少人数での指揮は経験がないからその点だけは留意しておいてくれ」

 

 ハスミの言う通り、この場では俺に指揮を任せる事が適切だろう。ただ、俺自身は不慣れであるため、少しばかしずるはさせてもらう。

 

「全員の武装を確認したい。あんまりの銃の事についての知識はないから、銃の口径とか特性を言われてもわからない。だから、大雑把に種類と装弾数、マガジンの数、他の武装について簡潔に教えてくれ」

 

 シエルに任せれば詳しい銃の情報も手に入れられるだろうが、俺が知っても有効に使えない。だから、作戦を考えるのに必要最低限の情報だけを聞く」

 

「ボルトアクションライフル、五発装填、クリップ一つに五発が十セット、AP弾十発です」

「アサルトライフル、三十連マガジン五つと閃光弾が二つ程あります」

「ハンドガンの五発装填、クリップに五発取り付けられるのが十個あります。後は鎮痛剤に止血剤、治療道具をいくつか取り揃えています」

「サブマシンガン二丁で、共通のマガジンで三十連マガジン六個と電磁防御障壁の装置があります」

 

 武器が銃である以上、弾が無くなってしまえば武器としての意味がなくなってしまう。そして、ユウカが懸念していた通り、これだけの人数を相手にするには、彼女達が持っている弾は圧倒的に少ない。

 けれど、それは仕方がないことでもある。彼女達は元々戦うためにここに来たわけではない。連邦生徒会に事情を聞くために、道中で不良に絡まれたときの護身用程度・・・護身なのかな?一先ず、戦う為の準備をしていないのに、戦場のここに立っている。

 

「ユウカ、その電磁防御障壁ってのはどれくらい持つ?」

「何も無ければ三十秒間は銃弾を受け止めてくれます、ですが許容量を超えればその時点で効力を失います。再展開には二分程度の充電が要りますね」

 

有効時間の短さに不安を覚えるが、その短い時間でもこの世界ならば十分な時間なのだろう。何せ1秒間に何十発もの弾丸が飛び交うのだから。

 

「ハスミ、君は何処まで安定して狙撃できる?」

「1000ヤードまででしたら、それ以上有効射程外です」

 

1000ヤードってことは、1キロ弱か。スコープなんて付いていないアイアンサイトでそこまで狙えるなんて、ハスミの素の視力が相当良いのかな。

 

「スズミ、閃光弾の投擲距離は?」

「有効距離は15mです。それ以上は空中で起爆してしまいます」

 

こっちは思いのほか短い距離に思えてしまうが、閃光の有効距離と閃光の目的を考えればその程度の距離で十分なのだろう。

 

「チナツ・・・正直に言って君は戦闘はできるかな?」

「自衛程度はできます」

 

 長い戦闘経験があるから、チナツがあまり戦闘慣れしていない事を感じがする。更に提げているバッグが明らかに戦闘をするには不向きなものだ。

 そして、俺の直感通りチナツは殆ど戦闘することはできない。直接的な戦力としか考えられるのは俺とチナツ以外の三人だ。

 

「どうしたものか」

 

 率直に言えば、俺達だけではこの状況を打破するのは難しい。

 まず、俺一人で下手に暴れたり、魔法を使ったりするのは、後々この世界で調べごとをするのに足枷になってしまう。そして、彼女達を殺さないように力加減をするとなれば戦い難いものになってしまう。

 次に、戦力が少ない。探知範囲と目視で捉える事ができる範囲だけでもかなりの人数が居る。ざっと見積もって百人は居るだろう。これだけの人数を只でさえ少ない弾だけでは相手をするのは無理だ。

 下手な戦いは避ける方針にしても、暴れている彼女達を纏めあげている様な人物は居るのだろうか。もしリーダー格が居るのならば、その人物を無力化して有象無象の彼女達を無力化させることができるかもしれないが、見るからにスケバンな彼女達に上下関係があるのだろうか。

 彼女達と戦うのは、国や集落と戦うのとは大きく違う。戦う理由も、戦いに置ける意味も、だから彼女達が何をもってしてこの戦いに勝つのか、負けになるのか俺にはわからない。

 どう動くにしても、今俺達と交戦している彼女達を無力するしか手はないか。

 

「カウントダウンをするから、0に成ったら俺とユウカは跳び出して前方の土嚢の遮蔽物まで移動する。チナツ、ハスミ、スズミは三秒牽制射撃、無理に当てようとしなくていい。相手のリロードのタイミングに成ったら、俺は正面から斬り込む。それを合図にユウカは俺のカバーを、スズミは制圧射撃、チナツは姿勢を低くしたまま前進だ」

「待ってください、それってつまり先生も前線に出るってことですか?」

「それは危険です、いくら戦争経験があると言っても」

「大丈夫大丈夫、銃弾程度かすり傷にならないから」

 

 彼女達は俺が前線へと出ようとすることに驚いて止めようとする。彼女達の様子からして、俺の事を彼女達が言う外の世界の住民だと思っているのだろう。まぁ、確かにこの姿だけならば俺が異世界の住人であると判断するのは難しい話だ。そして、外の世界の住人ならば銃弾一発致命傷になると彼女達は考えている。

 

「指揮を俺に任せるんだろ、それならこうしてくれた方が戦いやすい」

「・・・わかりました。ですが、身の危険を感じたらすぐに隠れてくださいね。最悪の場合私達が」

「その心配は不要だよ。それじゃあ、5,4,3,2,1」

 

 俺はカウントダウンを初める、同時に彼女達の銃を握る力が強くなる。

 

「ゼロ!!」

 

 俺とユウカは同時に遮蔽物の裏から飛び出して走り出す。俺達が跳び出したことに気が付いたスケバン達は銃の引き金を引き発砲して、銃弾の雨を浴びせようとして来る。けれど、銃弾が俺達の元へとたどり着くよりも先に、俺とユウカは姿勢を低くして次の遮蔽物の裏へと滑り込み隠れる。

 

「うわ!!」

「一人無力化しました」

 

 たった三秒の牽制射撃のはずが、ハスミは相手の一人の脳天へと直撃させて気絶させた。

 制圧射撃であるため、相手には当たるか当たらないかくらいの狙いでよかったのだが、彼女のプライドなのか。

 

「あの子って相当狙撃が上手い?」

「確か、正義実現委員会の副委員長って聞きますから、そこらの生徒よりは十分に実力があると思いますよぉ」

「へぇ?うちの方であんなに早く長距離を撃てる奴は居るかな」

 

 俺とユウカは次の遮蔽物に移動して隠れつつ、俺は提げていた刀を引き抜く。

 

「あの、本当にそれで行くんですか?」

「ああ、と言うか俺の獲物はこれ位だからね」

 

 ユウカにも再度銃の確認をさせて、いつでも突撃をできるように準備する。そして、ハンドサインをハスミ達に送り、次のタイミングに合わせる。

 銃撃が止んだ。そこから少しの間を開けて、彼女達の指かとトリガーから離れた瞬間に俺は飛び出す。そして、彼女達はトリガーから指を話していたせいで、ほんの少し一秒にも満たない瞬間、それだけの時間さえあれば俺が一気に距離を詰めるのには十分な時間だ。

 当然、最初に飛び出した俺に彼女達の狙いが集中し、大量の弾丸が俺に対して飛んでくる。これにより、後方に居たハスミ達は狙いから外れる。

 

「先生!!」

 

 飛び出した俺に対してユウカは声を上げるが、俺に対して飛んできた弾丸は俺に着弾する前に、空中で刀の刃で叩き切る。多少の被弾はあれど、弾丸は俺の万能結界により弾かれて、俺に対して対したダメージにすらならない。そもそも、俺が今着ている服は、材質が普通の布ではなく、魔物によって作られた糸で編んだ布で作られている。ただの金属の塊である銃弾程度では、そもそもこの布を貫通させること事態が叶わない。

 

「嘘、先生が全部防いでるせいで私の方に全然来ない」

 

 俺が彼女達の狙いを買っているのは、ユウカへの負担を減らすためだ。いくらこの世界の住人と言えど、先程の被弾でユウカは少なからず仰け反っていた。少なくともユウカはあまり戦闘慣れしていないとみて良いだろう。だから、ユウカが少しでも戦いやすいように、俺がユウカの弾避けの形をとる。

 俺に続き、ユウカも走り出した。少しして、ユウカのサブマシンの有効射程に入り、俺が飛んでくる弾丸を叩き落としている後ろで、引き金を引き不良達を撃ちぬいていく。

 後方に居たハスミ達も俺達が前線を押し上げていくのに続いて、前線を上げていく。

 

「お、おい、こっちに来る」

「大人しくしてろよ」

 

 不良達との距離も大分詰めた、ハンドガンなどのある程度距離が近い状況で戦うことを想定している銃器よりも近い距離まで来た。銃撃がメインなこの世界では近接戦が圧倒的に少ないようで、この距離になったにも関わらず、不良達は持っている銃を構えて引き金を引き続けている。

 目前まで接近し、不良達が持っているライフルやショットガンを叩き切り使い物にならなくさせる。銃が破壊されるとは考えていない不良達は銃が破壊されたことに驚く者、破壊されたことに気が付かずに引き金を引こうとするもので様々だった。

 

「この?」

 

 一人が提げていたグレネードを取り、ピンを抜こうとした。

 

「させない!!」

 

 ユウカがすぐに反応して銃口を向けるが、それよりも先にハスミの狙撃が手にしていたグレネードを弾いた。そして、グレネードを狙っていたユウカの銃弾が不良へと直撃して無力化した。

 彼女達の腕は確かな様な物ではあるようだけれど、連携という点はあまりないのだろう。まぁ、元々別の組織らしいからその点は当たり前か。

 そのような感じで進めている中、何やら地響きが聞こえて来た。何か大きな物を引きずっているような地響きだ。そして、それはこちらへと近づいてきている。

 

「うげ、あれって!?」

「クルセイダーⅠ型、私の学園の正式戦車と同じ型です!」

「不法に流通された物に違いないわ!PMCに流れたものを不良達が買い入れたのかも!」

「要は戦車ってことだよね、こんなものまであるのかぁ」

 

 ハスミが大きな声でこちらに知らせてくれる。わかってはいたものの、この世界の子供達は戦車なんてものを当たり前に使っているのか。そのうち子どもたちが当たり前のようにミサイルを使ってきても驚かないぞ?しかし、装甲車の装甲を俺の刀で切れるかな・・・

 

《これまで戦ってきた魔物の方が数段強固な装甲を持っています。問題なく切断できます》

 

 比較対象として考えていなかったけれど、そうだよね。よくよく考えてみれば俺がこれまで戦ってきた魔物や魔法の中には、装甲車の装甲よりも圧倒的に硬い相手が居たよね。ドラゴンの鱗とか絶対に金属よりも固いだろうから。それで俺が持っているこの刀はそんな相手を切ってきた刀だから、装甲車の装甲程度の硬さならば容易に切断できるか。流石はクロベェが打った刀だよ。

 ・・・あれ?クロベェって俺が思っているよりも実はチート持ちだった?

 それはともかくとして、切断できると分かれば苦労はしない。むしろ、これまでの不良達を相手にするよりもずっと簡単な話だ。

 不良達は戦車の登場により、見るからに活気が上がり、やる気が満ち始める。一方で対照的な反応を見せているのはハスミ達で、厄介な敵が現れたといった表情をしている。

 確かに、前世でも戦車の登場は歩兵戦術に大きな影響をもたらしたとも聞いたことが在る。本来なら歩兵が戦車には勝てない。この世界でもそれが同様なのかはわからないけれど、彼女達の反応から戦車相手に対抗する手段は無いことは明白だ。

 だからこそ、俺が走る足を止めずに戦車の前に向かう。

 

「先生危ないですよ!!」

 

 俺が止まらず戦車の方へと向かっている事に気が付いたユウカは、電磁防御障壁を展開して俺の方へと駆け寄るためにスマホを取り出していたが、俺はそんな彼女の目の前で戦車の砲身を叩き切って見せた。

 

「へ?」

「は?」

「え?」

「??」

 

 その場にいた全員が異なる声を出しつつも、共通して今目の前で起きたことが理解できずに言葉を漏らして、頭には疑問符を浮かべている。

 そんな彼女達を無視して、俺は構わずにキャタピラを破壊して自走を不可能にさせる。これで、この戦車はもうただの大きな的に成り下がる。

 

「さて?まだやるか?」

 

 刀を勢いよく横に一閃、それで戦車全体に綺麗な一線が入る。一応中にいる不良生徒達を切らない絶妙な高さに調整して切っている。

 

「ひ、に、逃げろぉぉ!!」

 

 戦場に居た全員に僅かな沈黙が訪れ、銃声も止んでいたが、一人の少女がそう叫び持っていた銃を投げ捨ててでもこの場から逃げ出そうと走り出した。それを皮切りに俺から逃げるように走っていく少女達が現れていく。これで、俺との力と技量の差、それが明確に、今、はっきりと全員に伝わった。

 

 

「んな、化け物を見るようなって・・・ここでも流石に戦車を単身で破壊したら化け物なのかなぁ?

「普通は爆発物か、徹甲弾、対物狙撃銃を使って戦車は対処するんですよ!?」

「AP弾を持っていたのですが、必要なかったですね・・・」

 

 どうやら、この世界でも刀で戦車をぶった切る行為は相当非常識な部類に入るようだ。

 

「ふむ・・・これは下手に戦わないほうがよさそうですね」

「ん?あんたが今回の騒動の親玉か?」

 

 破壊した戦車から煙が上がり、双方から顔を確認することができない。それでも万能探知のおかげでどの子が話しているのかはわかる。どうやら、この場には似合わない、元々制服を着た少女達が銃を持って戦っているから似合わない服装なんてないか、和服を着ている少女が居る。逃げ出している少女達が居る中で逃げ出していない所から、相当肝が据わっている事が伺える。

 

「ええ、ですが、無謀な戦いはしない主義です。失礼しますね」

「あ!!ちょっと待ちなさいよ!!」

 

 そんな少女は跳んで何処かへと言ってしまった。いや、あれは単純に視界が切れる場所へと移動しただけだな。ギリギリだけれど、万能探知に彼女は引っかかったままである。

 

「待て待て、今回の目的は建物の奪還だろ。わざわざ彼女達を追撃する必要はない」

「それは・・・そうですね」

 

 逃げ出した彼女を追いかけようとするユウカを止めて、俺は目の前にある一際大きな建物を見上げる。どうやらこの建物が俺達が目指していた建物であるらしい。

 

「一応確認なんだけれど、俺達が目指してた建物ってこれであってる?」

「はい、幸い先程の一件で付近の不良生徒達は逃走しました。後はこの建物の中に居る者達を制圧して奪還するだけです」

「あ~、それなんだけれどさ、室内戦は全部俺に任せてもらっちゃっていかな?」

 

 俺の提案に彼女達はぎょっと驚いたが、直ぐにその意図を察した。

 

「どうしてですか?」

「室内戦である以上、戦う間合いがこれまでよりも近くなる。そうなるとハスミの狙撃の意味が薄くなる。そもそも、建物の中だと君達の銃は取り回しが難しいだろ?」

 

 ハスミの武器は狙撃銃であり、長距離の戦闘を前提にしている。室内戦でそこまで遠くを狙う必要性は全くない所か、取り回しが悪すぎで自衛もしにくくなってしまう。

 

「スズミ、ユウカももう弾が残ってないだろ。チナツはそもそも戦闘向きじゃないからな」

 

 彼女達は銃やグレネードを使った戦い方ができる事はこれまでの戦いと、この世界の戦い方を見て居ればわかる。一方で、剣術や体術などの銃や戦車以外での戦術が発展しているようには感じられなかった。

 

「幸い、あの子達がいくつか武器を放り投げて行ってくれたから、入り口を防衛するためだけの武器はあるからな。入口の防衛を頼むよ」

 

 足元にあったアサルトライフルを持ち上げて、スズミの方へと投げ渡す。

 

「それに、室内で銃撃戦をしたら建物が壊れちゃうからな。あと、室内戦は俺が最も得意とする間合いだから心配しなくていいよ」

 

 室内戦は本当に間合いが狭くなりやすい。間合いが狭い至近距離での戦闘ならば、下手な銃火器よりも刀の方が早い。それにここから見えている通路の広さからしても、刀を振るうには十分な広さがある。

 

「わかりました。先生の実力を見れば、そちらの方が賢明ですね」

「私達は入り口の防衛をしていますから、何かあれば連絡してくださいね」

 

 異論は上がらなかった。彼女達は近くに投げ捨てられた銃をかき集めて、入り口を固めて防衛戦を張る。そして、俺は一人で建物の中に入って奪還を開始する。

 

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