異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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五十一話

「ああ、その手筈で頼むよ」

 

 連邦生徒会とSRTの彼女達と通話をして、カイザーに対しての強制捜査の打ち合わせをする。ひとまずは、明日に本社と支社、関連施設に対して同時に行えるよう、今連邦生徒会とSRTの生徒達には情報が漏れないように気を付けてもらいつつ、実行の準備を進めてもらっている。

 下手に時間をかければカイザーがどんな手を打ってくるか、俺等が把握していない所でどんな問題と被害が出るのか予想ができない。その為にも大急ぎで彼女達に準備してもらうしかない。俺単独でカイザーを潰しにかかれれば楽かもしれないが、ここは俺の世界ではない。俺が派手に暴れるわけにはいかないのだ。それに強制捜査という名目上、俺単独で動くわけにはいかない。

 

「リムル先生、無事だった備品を確認してきましたけれど、使えそうなものはあまり」

 

 連邦生徒会との通話を終えた頃、アヤネが話しかけてきた。

 

「そうか、せめて再建に役立てられそうな物があればよかったんだけれど、あのノノミは財布に手を伸ばさない」

「やっぱり、そうですよね」

 

 またゴールドカードを出そうとするノノミを止め、これからどうしていこうかを考える。最初の頃の俺らとは違い、周囲の素材を集めて建物を建てたり物を作ったりしていた生活ではなく、彼女達は建物を建てられるだけのお金が必要。お金がなければこの世界では何もしていくことはできず、それを稼ぐだけの手立てもない。こうして考えると、最初の頃はお金がほとんど必要ない中で始められたのは幸運だったのかもしれない。

 とりあえず、彼女達が最低限の学園生活を送れるだけの場所をどうにか確保できないか。どこかから木材を大量に買い付けて、それで小さな小屋でも立てておくか。学校というより寺小屋っぽくなりそうだけれど。水回りとか設備は諦めるか。

 

「ん?リムル先生、誰かが来た」

「え?」

 

 万能探知の範囲外に居た人物にシロコは気が付き、その方向を指さす。

 俺はシロコが指さした方を見てみると、大柄・・・いや、子供達の身長に見慣れてしまっていたな。大人程度の背丈をした人物が一人いた。

 

「お前達、俺の後ろに居ろ」

「は、はい」

「ん」

「わかりました」

「あ、うん」

 

 俺の直感が警笛を鳴らす。すぐに彼女達を俺の後ろへ移動させて、提げていた刀の柄に手を乗せて警戒を見せる。それに気が付いたシロコ達はすぐに俺の後ろへと周り、自分達の銃のセーフティーを解除する。

 校門まで来たそいつに睨みを効かせながら見る。

 

「初めまして、リムル先生?」

「初めまして、できればアポイントメントを取ってもらいたかったところだけれど。お前は何者かな?」

 

 全身で真っ黒なスーツに身を包んでいて、肌も真っ黒、黒の塗料を全身に塗りたくった程の黒さであるが、塗ったという感じではない。そして顔には青光りする亀裂が入っていて、それが目と口を形作っている。俺がこれまで会ってきたどの種族とも一致しない人物だった。

 

《警告、対象はこの世界の住民ではないと思われます》

 

 シエルがそう告げる。この世界でも目の前の人物と同じような種族は見たことがない。加えて、近縁種も見たことがない。シエルの言う通り異世界の人物だろう。

 

「私はゲマトリアの一員、黒服と言う者です。以後お見知りおきを」

 

 声質的に男だろうか、そいつは真っ黒な名刺を差し出してきた。無意識に前世の社会人時代だった頃を思い出し、名刺を受け取り軽く頭を下げる。

 

「すみません。今名刺を切らしていまして」

「ああ、ご心配なさらず。リムル先生のことは存じておりますので、連絡先から役職など」

「あ、そうですか」

 

 さらっとストーカー発言をされたような気がするけれど、多分気のせいだろう。と言うか、こいつさっきゲマトリアって言ったよな。ヴェリタスの彼女達がカイザーに情報を流していたという奴等の。

 

「それで、一体何の要件でしょうか?」

 

 この状況でカイザーに関わっていた組織がここに来るなど嫌な予感しかしない。

 

「ああ、そう警戒なさらないでください。別に戦いに来たわけではありませんので」

 

 黒服は自分は武器を持っていないと手をひらひらと見せる。

 

「私はリムル先生、あなたに用があって来たのですよ」

「俺に?」

 

 またシャーレの先生という立ち場で俺に関わろうとするやつなのか。

 

「いえ、先生という言葉は余計でしたね。異世界の魔王、リムル=テンペストさん」

 

 次の瞬間、俺は刀を引き抜いて黒服の首筋に刃を当てていた。

 

「お前、それをどこで知った?」

 

 この世界で俺は魔王である事を名乗ったことはないはず。それなのにこいつは俺の異世界の魔王である事を言い当てた。

 

「魔王?」

「異世界?」

 

 黒服の言葉を聞いたシロコ達は困惑をしていた。

 

「いえ、私はあくまであなたが異世界の魔王であると予測したまでです。その反応からして正解だったようですね」

「そう言われて納得すると思うか?」

「この世界ではありえないほどの身体能力に、魔法、異形とも言える翼を持っている。この時点で、リムル先生がこの世界の住人でないことは容易に想像できます」

 

 やはり少し使っただけでも、どこかしらで情報は漏れてしまっている。そしてこういう奴の耳にも届いてしまっていた。

 

「そして、異世界の方がこちらの世界で連邦生徒会長が直々に先生へ指名する。そして、異世界に渡れるだけの力を持っていて、異形と言える翼をもっているのならば、それはもう魔王と言って差し支えないでしょう」

 

 俺の世界での魔王と言う意味と、黒服の魔王と言う意味は大きく異なるようだ。黒服の言う魔王は、魔なるモノで力を持つものと言う意味だった。

 

「そうか」

 

 俺は当てていた刀を下げる。

 

「異世界の魔王である事は否定しないのですね」

「事実だからな。だが、それをこの世界で言いふらすつもりも、威を張るつもりもない」

 

 少なくとも、この時点でこの黒服が俺の世界に干渉した人物と言う確証はない。それでも、他の人物達よりはこいつが関わっている可能性は圧倒的に高い。今はまだ、こいつは怪しいだけだ。

 

「なら、異世界の魔王だと分かったうえで一体俺に何の用だ。下らない事だったら」

「いえいえ、くだらない内容ではありませんよ。あなたにこちらをお渡ししに来ました」

 

 黒服は一つの茶封筒を取り出した。パンパンに詰め込まれたそれが一体何なのかわからなかったが、黒服はそれを俺に差し出してきた。俺はそれを受け取り。

 

「確認しても」

「どうぞ」

 

 俺は茶封筒の封を切り、中身を確認する。中にはいくつもの資料が入っていて、最初は何の資料が書かれていたのかわからなかったが。

 

「おい、これ!?」

 

 カイザーの内部資料、そしてその内容は俺と連邦生徒会がこの後の強制捜査で見つけたかった不正の証拠や、犯罪行為の指示の書類だった。

 

「まさか、内部告発か?」

 

 黒服はカイザーと関係があった。こいつならばカイザーが持っている内部資料を持っていてもおかしくはないが。

 

「まあ、そういうことになりますね」

「どういうことだ?カイザーを切り捨てるってことか?」

「ええ、カイザーとは協力関係にはありましたが、今回のアビドス高校の襲撃、これは明確に私とカイザーで交わした契約に違反します」

「だから、切り捨てると」

 

 この黒服にとって今回のアビドス高校の襲撃は本意ではなかったらしい。だから、関係を断つ。その手切れ金で内部情報を持ってきて、俺と繋がろうって寸法か。

 

「一応聞いておくけど、そのカイザーとの契約は一体何だったんだ?」

「そうですね。まずカイザーに対して私はとある兵器がアビドス砂漠に眠っている可能性があると伝えました。私はその兵器の研究をさせてもらえればいいので、その兵器がカイザーの物にしても構わないと」

 

 兵器ってオーパーツか雷帝の遺産かどちらだろうか。それの情報をカイザーに渡している事実だけでも面倒なのに、ビナーの一件もある。恐らくこの部分は以前ヴェリタスで聞いた話の部分だろう。

 

「他にどんな契約をしているんだ?」

「そうですねぇ。カイザーはアビドス高校に小鳥遊ホシノが在籍していることが都合が悪いと言っていましたので、私は小鳥遊ホシノがアビドス高校を退学するよう誘導することでしょうか」

「おまえ!?」

 

 ホシノをアビドスから退学させるように誘導させるだって?ホシノに今までそんな素振りは、いや、シロコ達の反応を見るに彼女も知らない間にあったことなのだろうか。

 

「そう怒らないでください。カイザーとの関係を切った今、その契約は無効です」

「それでも、これまでホシノに退学を促してきていたことに変わりはないだろ」

「そうですね」

「お前の目的は何なんだ」

 

 カイザーと手を組んでまでやりたいことが見えてこない。オーパーツの研究もあくまでやりたいことの一つであり、その先が分からない。

 

「私の目的は神秘の研究です」

「神秘か・・・それは生徒達からわずかに漏れ出ている力のことか?」

「ほう?リムル先生は神秘が見えているのですか?」

「ああ」

「それは興味深い」

 

 どうやら俺らが仮称「神秘」と呼んでいるそれを研究しているらしい。というか、こいつも神秘と呼んでいるのか。

 

「さて、それともう一つ。リムル先生にお渡しておきたいものが」

「今度はなんだ」

 

 また新しい内部告発の書類か、そう思って身構えていたが、今度出したのはたった一枚の紙だった。

 

「小鳥遊ホシノはアビドス高校から退学していただきます」

 

 小鳥遊ホシノの名が記された退学届けだった。

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