異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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五十四話

 

 その時、私達は初めてリムル先生の実力の一片を見たのかもしれない。

 リムル先生は私達の前で戦ったのは、セリカ誘拐の一件と便利屋68の襲撃の二回だけ。セリカの時には銃を使わずに、刀と外の世界で使われている魔法と思われる術を使ってヘルメット団を制圧した。

 便利屋68の時は刀一本と自身の身体能力だけで戦って見せた。便利屋68の彼女達は誇張抜きで実力者であることはわかっていた。アビドスの五人揃って拮抗するかもしれない相手、それだけの相手をたった一人で制圧して見せた。

 私達よりも身体能力も、身体能力もずっと高いということはわかっていた。けれど、現実はずっとなんて言葉では足りない、天と地、月とすっぽんのように比べることすら馬鹿らしい程に差があった。

 目の前に居たカイザーPMCの兵士達、これまでのヘルメット団と比較しても数に人数、武器の質も圧倒的に上。いくらリムル先生でも苦戦するだろう、そう思って私達は銃を構えようとしたときには、戦いは終わっていた。

 リムル先生は刀を横に一振り、なんの変哲もない、誰にも当たらない間合いで、ただ刀を振りやすい位置に持ってこようとした動き、そう思った次の瞬間、カイザーPMCの胴体と脚部は切り離されていた。

 異世界では魔王のリムル先生、そんなリムル先生にとっては目の前のカイザーPMC兵士など蟻の大群程度と変わりがないのか。

 

「!?」

 

 リムル先生の顔は酷く冷たかった。まるで目の前のPMCを兵士達を人として扱っていないような、ただ自分の邪魔をするそれを退かしたかのような感じだった。

 

「シロコ、ノノミ、セリカ、アヤネ」

 

 リムル先生は私達の名を呼んだ。

 

「ん、何」

「カイザーは俺がぶっ飛ばしてくる。お前たちはホシノを助ける事だけを考えていろ」

 

 リムル先生はゆっくりと歩き出したかと思えば、次の瞬間には走り出した、走り出す最初の一瞬だけ私の目でも追うことはできたがその後はもうわからない。

 先の一振りの範囲から外れていたカイザーPMC兵士達が見えない何かに襲われ、肩から胴体が切り裂かれ、胴体に大きな穴が開き反対側の光景が見えるようになっていた。

 この世界では絶対にありえない光景、けれどこれをやっているのが誰なのか考えなくてもわかる。リムル先生が私達の目では追うことができない程の早さでカイザーPMCの兵士達を倒していっているのだ。

 

「リムル先生って・・・こんなに強かったの」

 

 明らかに便利屋68と戦っていた時とは比べ物にならない強さをしている。あの便利屋68と戦っていたときでさえ手を抜いていたのかと。

 

「いや、違う」

 

 でも、私の中に一つだけある確信があった。

 

「リムル先生は、こんなんじゃない」

「こんなんじゃないって・・・」

「あれで本気ってことじゃない?」

 

 リムル先生が本気を出せばアビドス地区が地図から無くす事なんて一瞬でできるはずだ、そうでなければ異世界で魔王なんて呼ばれるわけがない。

 私達にホシノ先輩のことを助けることだけを考えろ。そう言っていたのは、リムル先生の戦いに私達がついていくことができないから。私達が何発も撃ってようやく倒せるのに対して、リムル先生ならば一瞬の間に何体もの相手を切り倒すことができる。私達が戦うよりも自分一人で戦った方が圧倒的に簡単で安全であるから。

 一方的な戦いには三分も時間はかからなかった。私達と相対していたカイザーPMC兵士達は一体も残らずに破壊された、持っていた銃も破壊されて、私達の目の前に残されてのは大量のスクラップだけだった。

 リムル先生はそんなスクラップの山の上に立ち刀を鞘へと納める。そして、ゆっくりと私達の方へと振り返る。

 

「君たち、大丈夫だったか?」

 

 先程見せた冷たい表情からは一変、まるで何事も無かったかのような笑顔を見せる。

 

「え、うん。というか、私達何もしてないし」

「リムル先生が一人で片付けちゃいましたから」

「ああ、そうか。まあ君達に怪我がないならよかったよ」

 

 目の前であったことよりも、私達の心配をする。

 

「さて、君達に聞きたい」

 

 リムル先生は一拍おいてから、私達に質問した。

 

「こうなってしまった以上、俺はカイザー相手に戦わなくちゃいけない。酷な話にはなるが、連邦生徒会組織の一部である連邦捜査局シャーレの俺は、重要性と急ぎの案件から処理しないといけない」

「ホシノ先輩よりも、カイザーの相手が重要ってこと?」

「ああ、極端に言ってしまえば自主退学届けを出す一人の生徒と、全くの無関係の生徒どころか学園がカイザーと闘わなくてはいけなくなる案件・・・どっちが急ぎで対応しなければいけないかはわかるだろう」

「理屈はわかります・・・ですが」

「社会、それも組織に属するってことはそういうことだ」

 

 理屈はわかっても納得はできない。それをリムル先生はわかっていた。

 

「だからこそ聞きたい。君達はこれからどうする?カイザーと戦いに行くか、他のことをするか、例えばホシノがどこへ行ったか捜索するか・・・その選択は君たちに任せる」

 

 そう問われれば、私達の答えは決まっている。

 

「私達はホシノ先輩を捜索する」

「・・・本当にそれでいいんだな?」

「カイザー相手に思うところはある、けれど、リムル先生がそっちの相手をしてくれる。だったら、私たちにできることをする。それに、今私たちがカイザーに関わることはリムル先生にとって都合が悪い、でしょ?」

「すまないな、気を使わせちゃって」

 

 リムル先生は私達よりもずっと強いけれど、直ぐにその力を振るわない。とにかく物事の順序に重きを置いている。頭が固くて遠回りをしているようにも感じてしまうが、それは私達の事を守るためにそうしている。今回だって私達がカイザーと関わる明確な証拠も理由もない、あるのは憶測だけ。それに対してリムル先生はカイザーと戦わなければいけない口実がある。

 私達が無理を言ってリムル先生の事を邪魔するよりも、リムル先生の手が足りていない方、ホシノ先輩の捜索に力を入れるべきだ。

 

「カイザーを倒すだけならそこまで時間は関わらないが、こういうのには後始末に酷く時間がかかっちまう。後始末に入ったら良くて三日は手を貸せなくなる」

「逆に、後始末に入らなければ手は貸せるってこと?」

「ああ、カイザーを倒したら直ぐに来る」

 

 リムル先生ならば本当に直ぐに終わらせてくるかもしれない。

 

「無理だけはするなよ」

 

 リムル先生はそう言って、どこかへ走っていった。

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