「くそが!!」
カイザーPMCアビドス砂漠拠点、その中の一室で大声の悪態が聞こえてくる。
その声の主は先程リムルによって危うく倒されそうになったカイザー理事だった。つい先程までリムル=テンペストの目の前で戦っていたが、身の危険を感じてすぐに自身の人格データを、カイザーPMCアビドス砂漠拠点にある予備の機体に逃がしていた。
「最悪を想定して用意していたにも関わらずこうも簡単に切らされてどうする!!」
シャーレの先生、リムル=テンペストがある程度の強さを持っている事は報告からわかっていた。カタカタヘルメット団やら他の不良集団達に依頼して挙がってきた来た結果報告書に加えて、黒服が持ってきた情報からある程度の強さは予想で来ていた。
「誰があそこまで力を持っていると予想できるか!!」
少なく見積もっても、リムルの耐久力はキヴォトスに住まう人達と同じ程度かそれ以上であることは分かっていた。その上で、主に扱っている武器は刀の一振りで銃や体術を使っているという報告はない。そんな相手ならば、逃げ場のない弾幕を張れば無力化でき、致命的なダメージを与えられなくても動きは十分に止められるはずだった。そこに最新のゴリアテを加えれば、シャーレの先生など敵ではないはずだと。
「報告が多少の誇張だとは思っていたが、それが事実だと踏まえて準備もした今回の作戦だぞ!?なんだあれは」
けれど、カイザーPMCが用意したものは全てリムルの前では無駄だった。そもそも誰が対物狙撃銃の銃弾やミサイルを直撃で受けても無傷で立っている事ができる程の人物だと、この世界の住民の誰が予想できるか。できるわけがない。
もし、今回のアビドスの一件に協力した人物がリムル=テンペスト以外だったらばカイザー理事の思惑通りに事が進んでいたのだろう。既にアビドス校舎は無くなっていて、アビドス校として再び歩き出させることは不可能。ここで抵抗されても最終的には自分達の価値だった。けれど、それをたった一人でひっくり返せるのが、リムル=テンペストだった。
「おまけに上の奴らめ、こっちが着実に事を進めるために準備を進めていたというのに。まぁ、いい、今更アビドスがこの状況をどうにかできるわけがない。それに連邦生徒会もこれまでの事を考えれば大きく介入はしてこないはずだ」
加えて、少し前まで不祥事を起こしていた連邦生徒会だ。今更生活の基盤にまで侵食しているカイザー相手に強く出れるわけがない。今は準備をして立て直しをすればいい。
「カイザー理事大変です!!」
データーの移動が完全に終わっているのかを確認しているカイザー理事に対して、拠点で待機していたカイザーPMC兵士が今にもこけそうなほど慌てて話しかけた。
「どうした!!下らない事だったらスクラップにするぞ!!」
「れ、連邦生徒会が公式声明でカイザーコーポレーションに対して強制捜査を行うと表明しました!!」
「な!?なんだと!?」
「そ、それにシャーレの先生がこちらに向かってきているそうです。到着まで時間の問題かと」
「はぁ!?アビドス住宅地区からここがどれ程離れていると思って」
「それがもう来ているそうなんです!!」
訳が分からない。訳が分からなさすぎる。
「ええい、本社の方はどうしている」
「それが、どういうわけだがキヴォトス全域で通信障害が生じているようでして、本社との連絡が付かない状態です」
「糞が!!」
全てがカイザーにとって悪い方に動いてしまっている。何故今まで静観して介入してこなかった連邦生徒会が動いている。まさか、シャーレの先生が何かをしたのか?だとしても動くのが早すぎる。まさか、前から何時でも動けるように準備をしていたのか?
そして合わせたかのように、キヴォトス全域で発生している通信障害。
「いつからその通信障害が発生している!!」
「つい先程、連邦生徒会がカイザーに対して強制捜査を行うと発表している最中に」
通信障害が生じているせいで本社との連絡が取れない。ここまで強力なものと考えれば、カイザーが秘密裏に用意している秘密回線も使えないと思ったほうがいいだろう。
「わかった。今は目の前の問題を解決だ。シャーレの先生を迎え撃つぞ」
今の状況では対処できない問題の方が多すぎる。だから、緊急性の順位付けをして今解決しなければならない問題、ここに向ってきているシャーレの先生を対処しなければならない。
「いくらシャーレの先生と言えど、カイザーの最新鋭の兵器を・・・」
無理に自信を持とうとしたが、先程自分の目の前で起きた光景を考える。
カイザーの最新鋭の技術を使って作り上げたゴリアテ、それを空中から運んで私が使おうとした。けれど、それを使う前にシャーレの先生の手によって空中で切断されて破壊された。時代遅れの刀一振りを使って、最新鋭のゴリアテが切断された。
「はぁ・・・この仕事辞めるべきかな」
落ち着いて考えてみれば考える程、あのシャーレの先生の異常性を認識できる。報告書にあったあれは何ひとつ誇張はなかった。自身のどこかにあった、ありえないという感情がこの惨状を作ってしまったのかもしれない。
「カイザー理事大変です!!」
また、新しい兵士が部屋に飛び込んできた。
「今度はなんだ」
「シャーレの先生が敷地内に侵入しました!!」
「もう来ただと!?」
だから、事が動くのが早すぎる。
「すぐに迎撃態勢を取れ!!
「はい」
「お前は今すぐにこの拠点にある全てのデータを破棄しろ」
「え?な、何故ですか」
「私達はこの拠点を放棄する。時間は三分だ、急げ!!」
「は、はい!!
せめてカイザーが追うことになる傷を少しでも減らさなければ。