俺の目の前に広がるのは、無人となったカイザーPMCアビドス砂漠拠点。
「・・・流石に弱すぎないか。これだとゲルドの時の方が厄介だったというか」
カイザー理事が逃げたと分かった後、カイザーの通信網を断つためにアロナに妨害の指示を出して、直ぐにこの場所へ来た。
来て早々熱烈な歓迎を受けたが、兵士達はあっという間に切り倒して拠点内に居た兵士達は全てスクラップと化した。そして、肝心なカイザー理事であったが・・・
「俺の前から逃げておいて、これか」
カイザー理事の機体があったのは、拠点内にあったデーターサーバー室だった。
「・・・自決を選ぶ奴は初めて見たよ」
俺がこの場所に来た時には、サーバーの全ての記録媒体が引き抜かれて、破壊されている。俺がこの場所に来るまでの間に、僅かな時間であっても、俺に、連邦生徒会に対して少しでも情報を残さないようにするために、全ての記録を破棄したのだろう。そして、俺と戦うくらいならば自決を選ぶ。
「ある意味では利口なのかな」
多少の作戦に穴があることは見えたが、そのほとんどは上からの無理矢理な指示によって事を進めていたのが原因だとすれば、逆にあれだけのぼろで収めていたカイザー理事の技量がうかがえる。だからこそ、先の戦いでこの戦いが完全なる負け戦だと悟ったのだろう。
「・・・面倒なことをしてくれているよ」
ここで俺と戦えば、ほぼ確実に負ける。かといって、ここから逃げ出したとしてカイザー理事に何が残るだろうか。結果が出せるかもわからない宝探しの任を任されたとすれば、このカイザー理事は事実上の左遷を受けたと考えられる。そうなれば、ここで逃げればカイザー理事の立場は危うい、ただでさえ危うい立場が完全に崩壊するのは目に見える話だ。
前に進んでも、後ろに進んでも結果は変わらない。ならば、苦しまないように自決を選んだのだろう。
「アロナ、本当にさっきみたいに人格データを転送していないんだよな?」
『はい、私が通信妨害をしていましたから、遠隔で大規模なデータの転送はできないはずです。施設内の通信設備も機能停止していますし、ログにも直近でデータが転送された記録は残されていませんでした』
転送された記録がない、消されたとされるデータもアロナの手によって復元され残されていたデーターを全て暴いていく。物理的に破壊された記録媒体は胃袋に仕舞って、シエルの手によって復元させる。
「・・・後で廃棄すればいいか」
俺はカイザー理事が使っていたであろう機体を捕食して、解析を始める。
《解析が完了しました。破損しているデータの復元を開始いたします・・・復元が完了いたしました。個体名仮称「カイザー理事」の使用していた機体と見て間違いありません。記録媒体から情報の取得を開始します≫
必要な情報だけに絞ってくれ。
シエルがこの場所で手に入れた情報を精査している間に、無人となった拠点を歩き進んでいく。
「にしても、ずいぶんとまぁ悪趣味な場所に拠点を建てやがって」
この拠点が建てられている場所は、旧アビドス高等学校本校舎跡地に建てられている。対立することになるアビドス生に対してこの場所を使うのは随分な嫌味だろう。
過去の記録から、ここに拠点を立てることを進言したのは、あの黒服のようだ。その理由は、ここに研究施設を作ることを目的としている。研究内容までは特定できないが、今はその点を気にしていてもだろう。
色々と考えなければいけないことはあるけれど、今はこのことを考えている暇はない。
少なくともこいつらが抹消しようとしていた情報ということならば、カイザーにとって不都合な情報が紛れている証だ。アロナとシエルの二人係で復元が終わり次第重要な証拠として使うことができるだろう。
「あとは、シロコ達次第だな」
黒服が何を考えてこのタイミングで俺に対して喧嘩を売るような真似をしたのか、その意図が分からない。あいつが考えている計画の中で、俺と対立することが些細なことなのか、それとも俺との力量の差がわかっていないのか、考えられる可能性はいくらでもあった。
黒服は俺にとっても未知な相手と言える、そんな相手にシロコ達だけで向かわせることには気が引ける点もあるが、ホシノの事を考えると今の俺がホシノの元に向かうのは得策とは言えないかもしれない。
「頼んだぞ、シロコ、ノノミ、アヤネ、セリカ」
彼女達がどうにかしてホシノを取り返してくれることを期待しよう。俺は、それを確実なものにするために準備をするだけだ。
リムルが一方的にカイザーPMCアビドス砂漠拠点を襲撃している頃、シロコ達は未だ立ち往生していた。それもその筈、任されたとしても、ホシノの居場所に何一つ検討も手がかりも持っていない状態なのだ。
「リムル先生、せめてホシノ先輩が何処に行ったのか教えてよ」
「いや、あの状態じゃリムル先生も場所は把握していなかったと思う」
何かと問題を解決してきたリムルであっても、今回のホシノの一件には全く手掛かりと言えるようなものは手に入れていない。
「だったら、どうすれば」
行動に移そうにも、元々は大きな繁栄を見せたアビドス地区、そこの跡地ともなれば捜索範囲は広大になりあてずっぽうで捜索して、見つけられるなんて奇跡と言える。
「そういえば、あの黒服と名乗った人物が帰る際に、リムル先生が追っ手を付けたと」
ノノミがあの時リムルが言っていた言葉を思い出す。
「あ、そうじゃん!!」
「ん、確かブラックマーケットでソーカって名乗ってた」
「私の事ですか?」
噂をすればなんとやら、シロコ達がソーカの話題を出した瞬間にソーカは彼女達の前に現れる。
「!?」
「え!?」
当然彼女達は気を十二分に張っていて周囲の警戒をしていた。それなのに、一切の接近を察知させずに近づいたうえで話しかけて来たソーカに、思わず彼女達は驚きの声と警戒を見せる。
「ソウエイ様から大体の事情は聞いています。あなたたちのお仲間が一人連れ去られてしまったと」
「そ、そうだけど。あの黒服ってやつの居場所が分かるの!?」
セリカは食い気味に聞いた。その返答が自分達が望むものであることを期待して。
「私は分かりませんが、その黒服とやらの後を追いかけている私の上司が居ます。私はそこまでの案内役です」
ソーカ自身は黒服がどこに行ったのかは知らない。考えても見れば当たり前だが、今にもここアビドス地区を離れて行ってもおかしくない相手の居場所を、自分達の目の前で話している相手が正確に把握しているわけがない。
「じゃあ、あなたの上司って人に会いに行けば」
「最終的にはあなた方のお仲間さんに会えると思いますよ。こっちです」
ソーカが走り出したのシロコ達は追い走っていく。
ソーカの足は速い、運動が趣味であるシロコであってもソーカの足の速さには追いつくことができず、息を切らしながら走っている。それに対して、ソーカは時折アビドスの皆が付いてこれているのかと確認しているほどだ。
しばらく走っていくと、住宅地区から抜けていき昔工業地区として使われていた場所へとたどり着いた。ここも、大分前から人が居なくなり、今となってはどこの工場も稼働していない無人地帯だ。
「ん、ここなら確かに」
「隠れるにはちょうどいいですね」
元々工場として使われていた建物たち、配管やら安全やらで複雑な造りとなっていて部屋も多く死角も多い。ここならば確かに隠れるならば丁度いい場所と言える。
そして、廃墟となった工場の建物の中を進んでいき。
「ここ、なんかおかしい」
「直近で荷物が搬入された感じがしますね」
廃棄された建物のにしては人が出入りしたような痕跡を確認できた。ヘルメット団の可能性を否定しきれないが、ホシノがここに連れてこられた可能性は十分にある。
暗い工場の中を進んでいくと、暗闇の中に背の高い誰かが立っていた。
「ッ!!」
大人だった。それも男性の大人、私達は思わず身構え方、ソーカが手を伸ばして静止させた。
「ソウエイ様、彼女達をお連れしました」
「来たか、警戒する気持ちもわかるが、俺は敵ではない」
黒服とはまた違う大人、額に一本の角を持ち背中には二振りの刀を背負っている。黒服とは全く別の雰囲気をしている。
「あなたは?」
私達が思っている疑問を代表してノノミが聞いた。彼はソーカが言っていた人物でいいのだろうか。
「リムル様が俺に託したというのならば、話してもいいだろう。俺はリムル様の配下、ソウエイだ。リムル様の命で不審な人物の後を付けていた。そして、必要ならばお前達をその者の所へ連れて行くようにと言われているが」
ソウエイと名乗ったその人は私達を一瞥する。
「・・・粗削りだな」
「な、なに?」
「お前たちが探している人物はこの先に居る。行きたければ好きに行け」
奥の方を指さして、そのまま壁に寄り掛かる。
「ソウエイ様はいかないのですか?」
「俺の受けた命は不審な人物の追跡であって戦うことではない」
「手は貸してくれないの?」
その問いにソウエイは答えない。ソーカもこの答えには予想外だったのか、ソウエイと私達の方を交互に見てあわあわしていた。
「まぁいいわ!!この先にホシノ先輩が居るのは確かなのよね!?」
セリカの問いにソウエイは頷いた。
「行こう、皆」
彼は協力的ではない。ここで彼の協力を得るために時間をかけていたら逃げられてしまうかもしれない。それに、最悪戦うことになっても、私達四人で居れば戦いで負ける事もないはず。
「案内してくれたことはありがとう」
礼をのべて私達は奥の部屋へと向かった。
「そ、ソウエイ様!?ソウエイ様も彼女達の事情はご存じですよね!?」
「知って居る、だが、本来なら俺もソーカも関わるような案件ではない。それどころか、リムル様も本来ならば関わるような立場ではない」
「そ、そうかもしれませんが」
「彼女達だけで解決できるのならば、彼女達で解決させる。それがリムル様の意向だ」