異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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五九話

 俺以外の誰も居なくなったカイザーPMCアビドス拠点内で他に何か使えそうな情報が残されていないか漁っていた所に見覚えのある姿が見えた。

 

「リムル様!!」

「ソーカじゃないか、どうしたんだ?」

 

 シロコ達をソウエイの元へと案内しているはずだったソーカ、彼女がどういうわけだか俺の元へと来ていた。

 ソウエイの実力をシロコ達の移動能力、経過した時間から考えて、彼女達は十分にソウエイと合流して黒服の元へとたどり着いているはず。となれば、ソーカが俺の元へと来たのは何かしらのトラブルがあったのか。

 

「実は少し困ったことになりまして」

 

 ソーカ達で困ったことがあったとなればあまり良い予感はしない。基本的にソウエイ達には現場判断である程度の行動の自由を認めている。そのうえで、ソウエイとソーカが自分達の裁量で判断を行わなかったとなれば、よっぽど面倒な事が起きてしまったことが想像に容易い。

 

「何があった?」

「あの黒服という人物がリムル様との対話を希望でして、小鳥遊ホシノ彼女に関する全ての権利を譲渡する交渉の場を設けましょうと」

「黒服が?」

 

 あまりこの黒服という人物がどのような相手なのか完全にはわかっていない。それでも、少し前に会ったときにどのような相手なのかは何となくわかった。加えて、あいつは自身の探求と研究の為ならば、どんな手でも使うと明言している。その証拠で、仮説として魔王だと思われる俺に対して、最悪敵対しかねない対話を行うことができる程度には肝が据わっている。

 あの肝の座りようは、西方諸国評議会が自分達の身もわきまええず、自分達の勝手な要望をあれやこれやと突き付けてきていた時とは全く違う。自身と俺の実力差をはっきりと分かったうえで、あそこで俺が最後までやらないと分かった上で、俺と対立しかねない発言をしたのだ。

 

「・・・わかった。交渉の場と時刻は?」

「明朝、ネフィティス中学校とのことです」

 

 こいつ、今はホシノと俺に対して狙いを絞っているけれど、ノノミ達の些細な事についても調べていそうだな。もし必要ならば、その情報を使って手を打ってくる可能性も十分にあるし、最悪の場合は俺達も知らない何かで手を打ってくる可能性もある。あまり、黒服を好き勝手に動けるような状況を作っているのはよくないかもしれない。

 

「明日には連邦生徒会メンバーがこっちに来る。それまでの間に事を済ませるとして・・・ソーカはここ以外のカイザーの拠点について調べていてくれ」

「わかりました。お気をつけて」

 

 連邦生徒会の彼女達が荒れ事に慣れているとは到底言い難い。それに対して、カイザーはこれまでの活動から見るに、大分裏で動いていて荒れ事にも慣れていることが伺える。彼女達を信用していないわけではないが、相手が相手であるため、俺が打てるだけの手を打っておくに越したことはない。

 

 

 ソーカから報告を受けてから時間が経ち、明朝、俺は黒服によって指定された場所、ネフィティス中学校へと来た。

 ネフェティス中学校、外観はアビドス校舎から薄々察していたがこちらも俺がよく知る日本の中学校のような建物で、私立のようにも見える。この学校はノノミの親が経営しているネフィティスが資金を出して運営していたため、私立なのはあながち間違いではないのかもしれない。

 ノノミを最後の卒業生として閉校となり、建物を含めた土地はそのまま売りに出されてカイザーが買ったとされている。けれど、ノノミが卒業した後、時間が止まったかのように放置されている。

 正門から入ろうと向かっていくこ、この数週間で見慣れた姿の少女達が居た。

 

「お前達も来ていたんだな」

「ん、当たり前」

 

 この場に呼ばれたのは俺一人だけであったが、シロコ達は彼女達の意思でこの場に来ていた。

 

「リムル先生、カイザーの件で手一杯な中来てくれてありがとうございます」

「大丈夫、連邦生徒会のメンバーがアビドスに来るまでもう少し時間がかかる。それまでの間に済ませればいいだけだ」

 

 それでもあまりかけている時間はない。既にある程度情報を抑えているため、証拠という一点は強固なものとなってきているが、未だに逃亡を阻止する策は打てていない。元々、今回の一件が双方急なことであるため、先に手を打つということができていない。

 

「先に言っておくが、これからは君達でいう倫理観がずれた大人と汚い大人での交渉の場だ。子供達がわざわざ見るようなことじゃない。変えるならば今の内だが」

「それで私達が関わらないわけにはならない」

「ま、そうだよな」

 

 銀行強盗をする程肝が据わっている彼女達が今更、大人達による子供には聞かせたくない話の場で在っても今更だったのだろう。

 

「止めはしないよ」

 

 俺は閉じたままの校門を飛び越えて敷地内へと入る。そしてノノミ達は俺に続くように塀を乗り越えて敷地内へと入っていく、シロコは俺を真似て飛び越えようとして、スカートを引っかけた。

 

「そういえば、リムル先生はあの黒服がどこにいるのかわかるの?」

「てっきり校庭や正面玄関で待っているかと思っていたのですが、どこにも見当たりませんし」

「ああ、大丈夫。黒服とホシノが何処に居るかはずっと見えているから」

 

 万能探知には黒服とホシノがいる場所が常に捉え続けられている。様子からしてこちらが来ていることにも気が付いているようで、黒服が俺達が来る前に書類を確認しているようだった。

 

「見えているって・・・リムル先生の目って三つ以上あるの?」

「まぁ、魔法で周囲は見えているよ」

 

 ちょっとした会話をしつつ、俺達は黒服が居る教室への扉を蹴破りながら中へと入る。

 

「来てやったぞ、黒服」

「ええ、先日ぶりですね。リムル先生」

 

 律儀に並べられた学習机といす、その中に黒服は座っている。ホシノは部屋の隅っこで俺達から視線を逸らすように外の方を見て座っている。

 俺は用意されていた椅子にドカッと音を立てながら座り、黒服を睨みつける。シロコ達も俺の後に続いて中へと入ってきて、ホシノを見つけると駆け寄ろうとするが静止させる。

 

「で、わざわざ俺が魔王であることを知ったうえで、交渉をしたいようだけれど、自殺希望者なのかな?」

「いえいえ、そのようなつもりは全くございませんよ?」

「だろうな」

 

 こいつは分かったうえでこの場にいる。加えて、厄介なことにここまで一切の怖気を見せておらず、威圧にも十分な効果があるようには思えない。

 

「リムル先生にはそれほど時間があるようには思えませんからね、先に今回の取引の内容をお伝えしましょう。まず、こちらが提示するのは小鳥遊ホシノに関する全権の譲渡です」

「ソーカから聞いている、で、お前はわざわざ俺を指名して何を要求するつもりだ」

 

 黒服がわざわざ俺を指名して取引する内容が全く持って検討がつかない。ここまで手の込んだ策をこれまで講じてきてにも関わらず、容易に手にしたホシノをこうも簡単に手放す。黒服にとってこれまでの労力と費用に見合うものが、今回の俺との取引で手に入れられるか。

 

「そうですね。簡潔に申し上げましょう。リムル=テンペスト、あなのことに関して幾つかの質問に答えてもらいましょうか。異世界の魔王にはとても興味がそそられます」

「そういうことか」

 

 初めからこいつの狙いは異世界の情報か。確かにそれならば、この世界の情報ならばいつでも手に入れることができるが、異世界の情報は情報源である俺やソウエイ達といった異世界の住民からしか手に入れることはできない。加えて、俺等がいつこの世界から居なくなるのかもわからないから、早めに情報を手に入れておきたいわけか。

 

「俺の事を知りたいと?」

「ええ、もちろん」

「高くつくぞ?それこそ、子供一人の全権程度じゃ足りないほどに」

「それも承知の上ですよ。ですので」

 

 黒服は机の上を滑らせて、一部の資料を俺の方へと差し出した。俺はそれを手に取り中に目を通すが。

 

「・・・お前、諜報組織でも持ってるのか?」

 

 資料には俺がこの世界で最も知りたかった情報の一つが記されていた。

 

「いえ、個人的な興味と研究で仮説を立てるのは慣れているのですよ。より詳細な情報が欲しいでしょうか?」

「・・・わかった。お前のその提案を飲もう」

 

 こいつに異世界の情報を渡すことにはリスクはあるけれど、こちらとしても情報が欲しい。多少リスクは取ってでも、情報を得るべきだ。それに、これでホシノの全権を取り返せるのならば安いものだろう。

 

「それでは、最初の質問です。異世界の魔王が何故この世界に?」

「俺の世界に干渉した奴がいるからそれの調査だ」

「ならば、なぜ態々先生に?」

「連邦生徒会長の直々の指名だ。俺としてもこっちの世界で活動しやすくなるから引き受けたまでだ」

 

 黒服から次々と俺に関する質問が飛んでくる。俺がこの世界で何を目的として活動しているのか、俺が本来住んでいた世界が一体どんな世界だったのか、魔法がどんなものなのかと事細かに聞いてくる。

 

「ふむ、その魔法というものは私達でも使うことはできるものなのでしょうか?」

「多分無理だろうな。魔法を使う前提として魔素が必要になるが、こっちの世界の住民には元々ないからな」

「前提条件をそもそも満たせていないと、ふむ、残念ですねぇ」

 

 最も、こちらの世界の住民が魔素をもっていなくとしても、異世界人の例からして何かしらで大量の魔素に触れることがあれば、魔法を使えるようになるかもしれないが。

 

「ふむ、今回はここまででいいでしょう」

 

 話始めてから二時間程度の時間が経った頃、黒服はようやく満足したのか、俺との会話を記録していたボイスレコーダーを止めて、パソコンをたたむ。根掘り葉掘り聞かれてしまったが、こいつが俺達の世界に来たとしても、できることがたかが知れている。最悪、ギィがどうにかしてくれるだろう、たぶん。

 

「それでは、契約通り、こちらをお渡しします」

「・・・確かに受け取ったよ」

 

 黒服が渡す分厚い大量の資料。その中には、小鳥遊ホシノの全権を譲渡する書類も含まれている。

 

「これで、小鳥遊ホシノはあなたのものです。さて、私は目的を果たしましたので失礼いたしますね」

 

 やることを終えた黒服は席を立ち、部屋を出ていった。

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