彼女達と別れて、俺は単独でこのビルの中に居た不良達を倒していく。幸いな事に、ビル全体の監視カメラが機能していないことは直ぐに確認することができたため、彼女達に認識されないように隠れつつ、スライムの姿に戻り排気口等普通は警戒しないであろう死角を進んで行った。
少女達の警備は甘く、俺が一人一人背後に回って麻痺毒を浴びせて無力化されていることに気が付くことができず、ものの三十分程度で全員の無力化を終わらせることができた。
「思いの外、戦力の殆どを外に置いて来ていたんだな」
元々のビルの中が殆ど無人で在った為か、中に配置されていた不良達の数はそう多くなかった。ここに人員を割く必要性が無かったのか、それとも他に誰か一人でこの建物全体をカバーすることが出来る程の戦力を有している人物が居るのか。
恐らく可能性としてあり得るのは後者だろう。たった一人で建物全体をカバーすることができる戦力を有しているのは、さっき出会った和服を着ていた少女だろう。あの子だけは他の不良生徒達と比べても実力が高そうだった事に加えて、漏れ出ていたオーラも他と違っていた。下手したらヨウムよりも全然強いんじゃないかな?実際に戦ってみないとわからない要素も多いけれど。
そんな余計な事を考えつつも、順調にビル全体の奪還を進めていく。そして、最後に残った地下を奪還する為に階段を下りて行く。
「居るな・・・」
大分前から万能探知には彼女が引っ掛かっていた。彼女、先程俺達の前に立っていた和服の少女は、ユウカ達の見張りを潜り抜けて侵入してきている。やはり、彼女は他の普通の生徒達と比べても何か秀でている物があるのだろう。そして、彼女は地下でなにやら物色をしているようだった。
「ここならば、逃がさないで済みそうだ」
地下から地上へと抜けることができる通路は限られている。そして、その数少ない通路には俺が立っているため、彼女は難なく拘束する事が出来そうだ。
「拘束した後は、連邦生徒会に引き渡すとして……」
恐らく、彼女が今回の一件で不良集団を纏め上げていた主犯なのだろう。連邦生徒会に対して何かしら恨みを持つ不良達を煽り、こうして騒ぎを起こしている間に自分は安全に建物の中に侵入して、お目当ての物を手に入れる。詳しいことはそろそろ一連の事態の情報収集を終えたであろう連邦生徒会が把握しているだろう。けれど、今の俺には連邦生徒会の彼女達と連絡する手段を持っていないため知るすべはない。こっちの世界で活動するなら携帯かインカムを手に入れたほうがいいかな。
ゆっくりと階段を下りていき、彼女が物色している部屋の目前まで来た。人型の姿に擬態し、足音を消して、物音を立てないように気を付けながら、彼女の背後へと近づく。
「あの連邦生徒会が大事にしているもの、それはこれの事でしょうか?」
丁度、彼女が部屋に厳重に置かれていたタブレットを手にしたところで、俺は彼女の背後に立った。同時に彼女は俺の気配に気が付き、勢いよく振り返りながら手にしていたライフルをこちらへと向ける。
「!?いつの間に、背……ご……に」
「それ、ここの物だろ?大人しく置いてもらえないかな?」
彼女は俺に銃剣を突き付けてきて、俺も彼女に対して刀の剣先を突き付ける。そして、彼女が持っているタブレットを置くように指示をしたのだけれど……なんだか、彼女の雰囲気が何かがおかしいような気がする。狐の面を付けているため、その裏に隠された表情と、視線が何処へと向けられているのかはわからない。けれど、彼女が俺に対して向けている視線には酷く覚えがあるものだった。そう、シュナとシオンが俺の取り合いをしている時に向けている視線だ。うん、なんで行き成り俺にそんな視線を向けられているのかな?
《気のせいです》
いや、絶対気のせいじゃないよね?
《気のせいです》
「ああ、えっと、それを置いて、こっちに来てもらおうか?」
「そ、それって、つ、つまり、お、おつ」
明らかに彼女の体温が上昇して、呼吸が荒くなり始めている。絶対、これ気のせいじゃないよね?
「し、失礼しましたぁ!!」
直後、彼女は俺でも驚く程の瞬発力で地下から飛び出していこうとした。俺は直ぐに彼女を追いかけて捕まえようと共に廊下へと飛び出した。
地上へと出るルートは限られているため、数少ない脱出経路である階段を封鎖すれば逃がさずに済む。階段の傍に積み上げられている荷物の山、それらを留める紐を切ろうと手にしている刀を投擲しようとしたが、すぐに鞘に納めた。
可能な限り備品を壊さないようにしているのに、ここで俺が壊してしまっては意味がない。それに、俺がわざわざ彼女を拘束する理由もないのだ。彼女をここから撃退することができた、それだけでも連邦生徒会に対して十分な土産になるだろうか。
「はぁ、とはいえ、近い内にもう一度会うことになりそうだけどな……」
俺は地下へと戻り、彼女が破壊してしまった物がないかを確認する。特に彼女が先ほどまで持っていたタブレット、走り去る時に放り投げて床へとぶつかっていた。その際に液晶や内部の回路が駄目になっていないといいのだけれど。
「大丈夫そうだな」
手にしたタブレットの埃を払い、全体を見たところ小さな亀裂も見当たらない。電源を入れて液晶を確認してみるが、変な線や色は出現しない。素人目で壊れているような要素は見受けられなかった。
「……これってもしかして機密情報とか入っているかな?」
先程の少女にああ言った後ではあるものの、俺も情報が欲しい。もしこのタブレットに情報が入っているのならば大収穫だ。どうにか中身が見れないかと適当に操作するが、すぐに問題に当たった。
「やっぱりパスワードによるロックがあるよな」
当然な話ではあるが、俺がパスワードを知っているわけがない。しらみ潰しで開ける方法もあるが、その場合は圧倒的に時間が足りない。なので、ここは一つズルをする。
「シエル先生、お願いします」
《お任せください》
タブレットを捕食して胃袋の中に入れると、後の事はシエル先生に解析を任せる。何せシエル先生の前身である
《お褒めに預かり光栄です》
実際にシエル先生には昔から助けられてるから、それでどう?
《問題なく解析完了しました。解除コードは”我々は望む、七つの嘆きを。我々は覚えている、ジュリコの古則を。”です》
「んん?なんだか思っていたパスワードとは全然違うな……それになんだか物凄く意味がありそうな文っぽいし……」
てっきりqwertyとか1234とかそういうパスワードを創造していたのに、全く予想外のパスワードが出てきたことに驚いた。
《パスワードの解除に成功しました》
シエルがパスワードの解除を終えた為、胃袋からタブレットを取り出し画面を確認する。
「は?」
画面に表示されている光景を見て、俺は思わず変な声を漏らしてしまった。
タブレットに映し出されたのは、半壊し足首程度の高さまで浸水した教室。この部分だけでも十分に意味が分からないにも関わらず、教室の外には大量の机が山積みになるように積み上げられていて、その奥には海の地平線が広がっている。この壁紙を設定した人のセンスを疑うが、それ以外のものも映っている。
「女の子?」
こんな訳が分からない教室の中で、一人の少女が椅子に座り、机にうつ伏せになって、寝息を立てていた。
『くうぅぅ……zzz』
寝息はタブレットのスピーカーから発せられていた。寝息に合わせて呼吸していて、肩と頭が少し動いている。アニメーションのある壁紙なのだろうか?
『むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうがぁ……』
その組み合わせは果たして美味しいのだろうか?
そこでようやく気が付いた。このタブレットがおかしいことに……どうしてアプリの一つもないんだ?そして、いま表示されているこの画面は、寝ている少女を見せるためのカメラアングルになっている。
試しにホームボタンを押してみるが、この画面から動くことはない。どうやら、この画面がホーム画面であることは確かなようだが、それならばこのホーム画面に一体何の意味があるのか。
今度は寝ている少女をタップしてみた。
『うにゃ・・・まだですよぉ・・・しっかり嚙まないと・・・・』
こちらのタップに反応して、少女がまるで触られたかのような仕草をする。
もう一度少女をタップする。
『あぅん、でもぉ』
どうやら、先程の反応は偶然ではなく、俺がタップすると少女は反応する。これに意味があるのかはわからないが、反応からして何度かタップすれば少女が起きるかもしれない。
もう一度少女をタップする。
再びタップする。
『うぅぅぅん』
そこでようやく少女は目を覚まし。ゆっくりと体を起こして寝ぼけつつも周囲を見渡す。
『むにゃ・・・んもう・・・ありゃ?』
少女と目が合う。少女は寝起きであるが、目の前に誰かがいるとは理解していて、俺のことを上から下へ、下から上へと視線を動かしていく。
『ありゃ?ありゃりゃ・・・?え?あれ?あれれ?』
少女は見るからに困惑してこちらを見る。そして、落ち着いたところで口を開き。
『リムル先生!?』
「君も俺のことを先生と言うんだね・・・」
俺が先生に成るとは一言も言っていないのにも関わらず、この世界の連邦生徒会関係の子達は俺の事を先生と言ってくる。
『え、あれ?本当にリムル先生なんですか?』
「先生かはともかく、俺がリムルであることには間違いないよ」
『ですよね!!』
俺との会話はできるようだ。タブレットの何処かしらにあるマイクとカメラで俺の事を聞いて見ているのだろうけど。
俺がタブレット内の少女と話している間に、シエルはこのタブレットから発せられている、或いは、受け取っている通信が無いか調べていた。結果として、送信も受信のどちらも無いため、消去法としてタブレット内部で情報が完結している。よって、この少女は外部の誰かが操作しているのではなく、タブレット内部のプログラム、AIが自己判断をしている。
『となれば、そこにシエル先生も居るんですよね!?』
「《!?》」
その言葉に俺とシエルは驚いた。それもそのはず、シエルの存在を知る人は少ない。それに、俺がシエルの存在を大々的に公言したことも、異世界の人達には言った覚えもない。本来ならば絶対に知りえない筈のシエルの存在を知っていた。
「おい」
『は、はい!?』
「その名を一体何処で聞いた?」
『え?あ……えっと』
思わずドスの聞いた声で聞いてしまい、少女は委縮してしまう。
『ごめんなさい。初めから知っていて、どこからその情報をインストールしたかまでは・・・』
「・・・そうか」
AIであるのならば、このAIのプログラムを組んだ人物がシエルの情報を取り込ませたのだろう。そうならば、AIのこの少女は動作し始めた時から知っていた事にも納得がいく。
「なら、君を作った人はわかるか?」
『それもわかりません。私を作った人も、何の意図があって作ったのかもわかりません』
「・・・」
作られた時に作った人のデータが入れられていない以上、このAIの少女にいくら聞いても、このAIをシエルに解析させても、答えを見つけることはできないだろう。
『ただ、一つ分かっていることはあります』
「それは?」
『私は、リムル先生とシエル先生をサポートするためにここに居ます。ジュラの大森林盟主にして、オクタグラムの一柱の魔王リムル=テンペスト。魔国連邦では自分の庭の様に歩くことができても、ここキヴォトスでは右も左もわからないお二方をサポートするために」
本当にこのAIを作った人物は一体何者なんだ?俺とシエルの名だけでなく、俺の肩書に付いても知っている。そして、魔国連邦のことについても。ここまでの事を知っているとなれば、相手は俺の事を知っているだけでなく、あっちの世界まで知っているのかもしれない。
『っと、自己紹介がまだでしたね。私は「アロナ」この「シッテムの箱」に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれからリムル先生とシエル先生をアシストする秘書です』
《リムル様の秘書は私で十分です》
秘書という言葉にシエル先生が反応してしまった。
『う、まぁ、確かにシエル先生の処理能力には負けるかもしれませんが!!シエル先生にできなくて私にできることだってあります!!例えば、ネット上に散らばった情報はシエル先生でも集められないでしょう!!あとは、サーバー内の情報を探すこととか』
「あ~」
確かに連邦生徒会のサーバーを調べようとしたが、シエル先生の演算能力を持っていたとしても、サーバーに干渉することができなかった。サーバー本体を胃袋に入れることができれば、いくらでもやりようはあるものの、この世界では端末からサーバーの距離は星の反対側にあったとしてもおかしくはない。端末を胃袋に入れたところで、サーバー内にしかデータがなければ意味がない。
『私ならば、この世界のどんなコンピューターのハッキングだってお茶の子さいさいです。端末からサーバーにアクセスして、管理者権限を奪取することだってできますよ!!』
自身の事を誇張して言っている可能性はあるものの、このAIはだいぶ得体が知れない。もしその言葉が本当ならば、このタブレット一つでこの世界を容易に混乱に陥れることができる。
『リムル先生……私の事を疑ってますよね?』
「まぁ、否定はできないかな」
『たっだら、私の力をお見せします!!え~と、それじゃあ、うん、これにしましょう』
アロナは空中に仮想モニターらしきものを広げ、それらを操作していく。直後、視界に変化が起きた。
《施設全体の照明が復帰したことを確認しました》
万能探知のおかげで初めから周囲が見えていたため、照明が点いたことに気が付くのが遅れた。というか、そういえば非常灯の明かりだけで暗かったな。
『はい、たった今サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了しました。これで今サンクトゥムタワーは、私アロナの統制下にあります』
「・・・は?」
『今キヴォトスは、先生の支配下にあるのも同然です!』
今このAIはなんて言った?サンクトゥムタワーを統制下に置いた?百鬼夜行の本屋でサンクトゥムタワーについて軽く調べたが、あれは行政・インフラ等全ての中枢機関であったはず。それを統制下に置いた?それに、ここにはサンクトゥムタワーにアクセスすることができるような端末もないのに?
《警告、識別名「アロナ」は世界の根幹を揺るがす能力を有すると認定します》
シエルもアロナの脅威性を認めた。俺もこのアロナに対しての認識を改める必要がありそうだ。
「アロナ、それだけの能力を持って何がしたいんだ?」
『先ほども言いましたが、私はリムル先生とシエル先生のサポートをする為に居ます。私一人で何かしたいことはありませんし、この能力は先生達の為に使います』
「俺達のためにか」
なんだか、これを
「アロナ、連邦生徒会に連絡してくれ」
『はい!!なんと連絡しますか?』
「先生の任、受けてやるよと」
その権力を使って俺をこの世界に読んだ理由を調べさせてもらうぞ。
3500字位だったのが、6400字位に増えた・・・