「ホシノ先輩!!」
黒服が居なくなったを確認して、シロコ達は一斉にホシノの元へと駆け寄る。
「・・・今は彼女達の世界にさせておくか」
彼女達だけの世界ができている間、俺は黒服が渡した資料に目を通す。
黒服が個人的に研究しているもののレポートであり、神秘や恐怖それを応用した技術などが書かれているが、そんなことはどうでもよい。肝心なのは、黒服がこの世界を調べている中で見つけたロストテクノロジーだ。
今のこの世界の技術力では到底考えられないオーバーテクノロジーが、昔のこの世界には存在していた。そして、それらに深く関わっているとされる無名の司祭達、気になる情報が多数ある中で一つの項目で目を止める。
「アトラハーシスノの箱舟にウトナピシュティムの本船か・・・」
黒服でも存在を確認できていない、文献内でしか存在が確認されていないオーパーツ。この二つの資料が律儀に他の資料よりも目立つように作られていた。
俺がこの世界で探しているものの一つ、異世界へと干渉するための技術。より正確に言えば、果てしなく遠くにある異なる世界へと渡航することができる技術だ。この技術さえわかれば、異世界の人達が俺達の世界へ干渉するのを未然に防ぐことができるかもしれない。そして、この世界でそれが可能なのはこうしたオーパーツの中にあると踏んでいた。
「・・・思っていたのとは違ったな」
けれど、残念なことに当ては外れた。黒服が用意した資料の中には確かに異世界に渡航することができる技術を有するオーパーツは存在していた。けれど、この二つのオーパーツは遠くの世界に渡航するものではなく、並行世界、遠くもあり近くもある世界を行き来するための能力しか有していない。この世界から俺の世界に渡航することはできない。
この世界に平行世界に干渉することができる技術が存在している事実でも十分な収穫かもしれない。俺らの世界でも時折平行世界と関わることがこれまでなかったわけではない。そんな世界で俺はこうして、遠く離れた他の世界に来れている。平行世界に渡ることができるのならば、どこかしらに遠く離れた世界に渡れる技術があってもおかしくはない。
他に気になるオーパーツがないかと調べていくが、どれも実在した場合、俺の世界でも頭を抱えたくなるほど厄介なものがある。下手をしたら、覚醒魔王級の被害を出しかねないようなものばかりだ。
これだけのオーパーツがこの世界の何処かには埋もれて忘れ去られてしまっている。これだけのやばい技術力を有していたとされる、無名の司祭。彼らが何故今となっては存在を消してしまい、技術力が失われてしまったのか。この世界の辿ってきた歴史に疑問を覚える。
「・・・デカグラマトンもこれ関連なのか?」
デカグラマトン、ミレニアムの彼女達が追っている存在。あれも、見るからに今のこの世界の技術力からは外れているもののように見える。あれは、生きたオーパーツだったのか。
「わからないことばかりだな?」
《情報が不足しているため、断言できません》
シエルでも情報が不足していてこの無名の司祭達が一体何なのかはわからない。
「シエル、あとのことは頼んだ」
難しい事はシエルに丸投げして、俺は俺でやれることをやろう。
シロコ達のほうを見れば、泣きじゃくるホシノをノノミが抱きしめている。身長差もあって、ノノミの大きなものがホシノの頭に乗っかっている。俺に息子が残っていたら、ゲフンゲフンっと。
彼女達の様子から、わだかまりはなくなったことが見受けられる。あれならば、ホシノはいつも通りの日常を送ることができるだろう。
俺は資料を胃袋の中へとしまうと、席を立ち彼女達の元へと向かう。
「ホシノ」
「先生・・・」
ノノミは俺がホシノと話そうとしている事を察して、抱きしめるのをやめて、ホシノから一歩離れる。ホシノは近づいてきている俺に気が付き、こちらのほうを見る。
ホシノの顔を見れば、これでもかと泣きじゃくった結果、目の下は真っ赤になり少しばかり鼻水が垂れてしまっている。
「歯、食いしばれ」
「え?」
パシィ
乾いた音が響き渡った。ホシノは何が起きたのか分かっておらず、そのまま倒れた。
「あちょ!?リムル先生!?」
セリカは俺が叩いたことによって倒れたホシノの元に駆け寄り、起き上がるのを手助けする。一方で、ホシノは叩かれた場所に手を当てて俺のことを見上げる。
「先生、やっぱり怒ってる?」
「怒ってはいないよ。ただ、ホシノがやったことには呆れてはいるな」
「・・・」
ホシノは俺から目をそらす。
「さっきの様子からして和解は済んでいるだろうけど、俺からもしっかり話させてもらうぞ」
倒れたままのホシノを立ち上がらせて、近くにあった椅子に座らせる。
「誰かを守りたい為に行動するその事は非難しないし評価する。カイザーがどんな手を使ってくるのか分かってこないし、最悪シロコとノノミ、アヤネやセリカの誰かが、もしくは全員殺されてしまう可能性があるかもしれない」
ホシノがこんな行動をとってしまったとされる原因は、シロコ達の誰かが殺されてしまうかもしれない。カイザーが手段を択ばなくなったあたり、いや、セリカの誘拐の一件あたりから誰かしらが亡くなってしまってもおかしくはなかっただろう。だからこそ、ホシノはそのことをこれまでずっと警戒していたのだろう。
「でもさ、どうして誰かを頼ろうとしなかったんだ?シロコなんか特に、誰かに守られるような質じゃないだろ」
「それは・・・」
「ん、私もホシノ先輩をみんなを守る」
「だとよ、それとも、前に話していた生徒会長と何かあったのか?」
「・・・」
ホシノは露骨に俯く。生徒会長がよっぽどホシノに守られてきて、ホシノは誰かを守ることが当たり前になって、守られることはなかったのだろう。
「今ここに居る彼女達は生徒会長じゃないんだ。自分達である程度の問題を解決することだってできるし、戦うこともできる。ホシノが気を張って守り続ける必要もないんだよ」
「そうだね」
「俺を頼ってくれてもよかったんだが、もしかして忙しそうにしているから気を使ってくれたか?」
「いや、そうじゃ」
「気を使ってくれたんだよな?」
「いや、私が先生をし」
「気を使ってくれたんだよな?」
信用していなかったから頼まなかったなんて言わせないよ?
ホシノのこれまでの行動を考えると、責任感が大分強いだろう。ましてやこれまで俺のことを疑っていたから、俺に対して負い目を感じているだろう。だったら、少しでも感じないようにさせる。
「ホシノが気を使ってくれたことにはありがたいけどさ、それで結果が悪かったら意味がないんだよ。何より、それでホシノが居なくなっちまったら、誰も喜ぶ結果にはならない」
「そう、だけど」
「使えるものは使う、それでいいんだよ」
この場でそのまま言葉を返すわけにもいかないが、俺的にはホシノには使えるものは使う、あの時俺に言ったようにしてくれていればよかった。
「うん」
「さて、と」
俺はそのまま窓のほうへと近寄り、窓を開ける。
「俺は、カイザーの一件で連邦生徒会と話さないといけないから行ってくるよ」
「えちょ!?ここ三階」
「後始末は任せといていいから」
俺は窓から飛び降りて、リン達がいる場所へと向かって走った。