異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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六十一話

 カイザーの一件とホシノの一件の全ての問題が解決してから数日程経った頃、俺はカイザーPMCとの戦闘によって荒れに荒れたアビドス地区を歩いていく。

 目先の問題であったホシノの全権は取り返し、俺は全てホシノに返した。

 次に、カイザーの一件、これに関しては一件という言葉で済ましていい程の数ではないけれど、こっちの問題は未だに全ての問題が解決したとは言い難い。

 ここアビドスだけでも、これまでアビドスが被った損害全てに賠償されていない。最も、今のアビドスならば、これまでカイザーによって課せられていた負債などを全てチャラにすることができ、失ってきたものが取り返せているため、これ以上を求めないとも思えるが。

 

「おっと、こっちだった」

 

 大企業だったカイザーでも、今回の一件は致命傷であり大規模な事業縮小は免れず、カイザーが保有していて小売業や一部製造業が手放されることが公表されて、どうにか資金繰りをしていることが見て取れる。元々、カイザーとは関係ない企業を装い、状況が悪くなればトカゲの尻尾切りで逃げようとしていたようだが、そこはソウエイ達とシエル先生によって綺麗さっぱり暴かれてしまい、切れるものも切れなくなっていた。けれど、腐っても大企業、少しでも自分達の損害を減らすように工作をして、どうにか倒産までは免れていた。

 苦しくなったカイザーの一方で、楽にそして自由になったアビドス生徒達の方はというと。

 

「もう窓ガラス張りなおしたのか、アビドス校舎(仮)」

 

 新しい校舎を構えて、心機一転した学校生活を送っていた。

 俺は新しい校舎の中を進んでいき、彼女達が居る部屋へと向かう。

 

「だから!!これをやれば一攫千金で!!」

 

 相変わらず、セリカの心配になりそうな声が聞こえてくるが、その声が聞こえてくる部屋へと向かう。

 声が聞こえてきた部屋の室名札にはアビドス復興委員会と書かれている。その部屋の扉を開けて、俺は中へと入る。

 

「セリカ、また詐欺に引っかかったか?」

「ちょ!?リムル先生!?まだ詐欺だなんて」

「一攫千金をうたうものはのは基本詐欺だ」

 

 セリカの反論を一言で切り捨てつつ、持ってきた書類を机の上に置く。

 

「こっちの校舎には慣れたか?」

「はい、まだ慣れていないところはありますが」

「ここは私が元々居た学校ですので☆」

 

 爆破によって跡形もなくなってしまったアビドス校舎、流石のキヴォトスでも建物を建てるにはそれなりの時間と資金を必要とするため、一日二日程度の時間で再建させることはできない。けれど、校舎無しでこのまま過ごさせるのは気が引けるため、再建以外の方法で校舎を用意した。

 

「にしても、閉校になってるといっても他校の学校の校舎を使うことになるなんてね」

「これが一番手っ取り早かったからな」

 

 ネフィテス中学校校舎、建物自体は多少修繕をすれば十分に使える程度であったため、俺とアヤネの二人で水道管や電線を修復し、窓ガラスやタイルなどはシロコ達が修復し、日常生活を送れるようにしていった。

 

「それで、リムル先生。今日は一体何の用で、まだカイザーの方の後始末があるのでは」

「そうだけど、先に君達に伝えておきたいことがあったからね」

 

 俺は持ってきた書類をアヤネに手渡し、アヤネはすぐに渡された書類に目を通して、目を見開かせて驚く。

 

「リムル先生!?これって!!」

「ああ、今回の一件でいろいろとこじつけして賠償額を増やさせたからな」

「うへぇ、アヤネちゃん、賠償金だけでそんなに驚いてるのぉ?いろいろあったんだからそりゃあ、賠償金は多いでしょ?」

「カイザーにホシノ先輩が誘拐されたことにして賠償金を上乗せした?リムル先生?」

「うぐ」

「ああ、使えるものは使わせてもらったよ」

「うう・・・」

 

 ホシノが何故かダメージを受けていることは置いておき、アヤネは手にした書類を皆に見えるように並べていく。

 

「えっと、何これ?」

 

 セリカは並べられた書類が一体何なのかぴんと来ておらず、シロコもわかっていなかった。その一方でノノミはすぐにそれが何なのかわかり、ホシノも遅れながらそれが何なのか理解した。

 

「リムル先生!?これってもしかして」

「ああ、アビドス地区の大部分の土地の権利書だ。全部って訳では無いけど取り返してきた」

 

失われて取り返すのが難しいと思っていた筈の土地を取り返して来た。その事実を知って彼女達は驚いていた。そして。

 

「じゃ、じゃあカイザー所か他の学園がアビドスで好き勝手な事はできないって事でいいのよね?」

「それ所か、カイザーが出していた退去命令も撤回させて、呼び込む事ができるようにもなります!!」

 

土地を取り返した事に歓喜するセリカとアヤネとノノミ達だった。うん、やっぱり、こう土地の権利で一喜一憂しているのって年頃の子供達がするような反応じゃないよね?え?ユウカは不動産投資もしていているって?あれは規格外という例外だからね?というかミレニアムの子達はほぼ例外の集まりだから。

 

「先生」

「ん、どうしたホシノ」

「本当にこれ、私達が受け取っていいの?私達何もして」

「いいんだよ。これはカイザーが君達に対して支払われた賠償の一部だ、君達が受け取る権利ある」

 

 こんな所で謙遜していたら、ホシノは何時かというか今回の一件でもそうだが、大切な物を失ってしまう。

 

「ホシノ、君はもう少し欲深く生きろ」

「欲深く?」

「ああ、自分とシロコ達皆を守る、その為ならば手段を選ばなくなっていい」

「それって、この前の一件の何が違うの」

「リスクと確実性が釣り合っていない。守る為の選択でも、無謀な手には何の意味もないよ」

「・・・そうだね。ねぇ、先生」

「ん?」

 

 ホシノは改まってこっちを見て、俺の方を見る。

 

「リムル先生、ってこれから呼んでもいい?」

「好きな様に読んで構わないし、俺は先生付けは慣れてないよ」

 

 少なくとも、ホシノと俺の間にあった壁は無くなったのかもしれないな。

 

「って、おいおいそれ結構重要書類だから乱雑に扱うな!!」

 

 歓喜しているのはいいけれど、頼むから書類が駄目になるようなことは勘弁してくれ、再発行結構面倒くさいんだから。

 

 土地を取り戻したことで歓喜していた彼女達が落ち着いてきた頃、ようやく俺が話したかった本題に移る。

 

「さて、今回の一件でカイザーから賠償が払われたが、悪いが賠償金は全く期待できない」

「え?どうして」

「カイザーの資金を凍結させるのが間に合わなくて、かなりの額を逃がされてしまったんだ。それでも、残った資金の殆んどは回収したが」

「他にも被害にあった学園への賠償金として支払われたのですね」

 

 カイザーによって被害を受けたのはアビドス一校だけではない。賠償金はそれぞれの学園の被害に応じて分配されるため、多くの土地を賠償の一部として受け取ったアビドスには賠償金はの分配はないものと言える。

 

「土地を取り返しても、お金がないのね」

 

 今回の戦いでアビドスは失ったものを取り返しただけであり、失ったものを全て取り返したわけではない。むしろトータル的に見ればマイナスであり、財政事情を変えれるような要素は何もない。

 

「賠償金をどうにもならないが、君達にとってはこっちの方が大事だろうな」

「え、今度は何があるっていうの」

「ああ、借金をチャラにさせた」

「借金をチャラにって、得るものがなきゃ・・・」

「「「「「借金をチャラに!?」」」」」

 

 五人揃って大きな声を出しながら驚いた。この子達やっぱり結構いい反応をしてくれるな。

 

「えちょちょちょ、な、何で借金がチャラになってるの?」

「カイザーの不正を暴いたうえで、カイザー系列を含む学園と結んだ契約は軒並み無効にさせた。当然、その中には君達の借金の契約の内容も含まれていたってわけだ」

 

 契約自体には違法性がなかったため、この契約の無効は無法的な処置かもしれないが、ここキヴォトスの最高機関は連邦生徒会なのだ。その連邦生徒会が合法と言えばそれは合法なのだから。やってることは、どこぞの独裁国家みたいなことかもしれないけど、これを咎められるようなものはここにはいないので、問題ないのだ。

 

「まぁ、俺と連邦生徒会が契約を無効にさせなくても、カイザーは金融業の事業から撤退する事になるのは確実だからな」

「どうして言い切れるんですか?」

「カイザーを完全に潰すつもりでやったんだ、今のカイザーに金を転がして増やせるほどの余裕はないよ」

「あ~、それもそうか」

 

 借りてた銀行が潰れてしまっては、返す先が無くなる。ここまでカイザーの余力を削げば、カイザーローンが事業として成立しなくなるのは時間の問題だった。

 

「まぁ、借金の問題はこれで解決として置いておくとして、お金を転がす関連で」

「リムル先生、これは?」

「ちょっと、アビドス復興について提案でね」

 

 俺は用意しておいた資料を彼女達に渡す。今となっては大分久々で今世では初めてやる事になるプレゼンを始める。

 

「君達はこれまでアビドス廃校対策の為にこれまで活動していただろう?」

「ええ、そうですね。アビドス高校が廃校になってしまっては問題解決以前の問題でしたから」

「借金返済の為に毎日のように、色んなことをしてお金を稼いでいたっけ」

 

 セリカの言葉に皆が頷く。俺がこちらに来てから彼女達がそのお金を稼いでいる所は殆ど見ていなかったが、記録から他の学園の生徒達と比べても結構大変なことをしていたことは想像できた。

 

「君達がこれまでやってきたのは、アビドス高校を廃校にさせないための活動に過ぎない。つまり、これからアビドス復興においては殆ど流用できないと言っても過言じゃない。正直に言って、今の君達じゃアビドスを復興させることはできないと言い切れる」

「え!?なんで!?」

 

 セリカがはっきりと言い切られたことに反論しようとするが、セリカ以外は頷いて声を出さない。彼女達も薄々察しては居たのだろう。

 

「地域復興の為にただお金を稼げばいいというわけじゃない。極論を言ってしまえば、地域を復興させるためにお金は二の次、いや必要ないとも言える」

「お金無しでどうやって復興させるのですか?それでは観光地を作ることだって」

 

 アヤメの指摘の通り、お金が無ければ何かを作る事も手に入れることもできない。貨幣経済が定着してしまっている以上、物やサービスを物かサービスで交換することはできない。最も、物もサービスもないアビドスではいかにして貨幣を手に入れる事が大事になるのだが。

 

「お金が在っても、アビドスに人が居なくちゃ意味がないだろ」

「それは、そうだね」

 

 ただ金と物やサービスが行き交いするだけの場所ならば、そこは市場と変わらない。アビドス地区である意味は何もない。

 

「とはいえ、ここが貨幣経済であることには変わりないからね。ある程度お金を手に入れなければいけない」

「それじゃあ、さっき言ってたことに矛盾してない?今のアビドスはどうにかしてお金を稼がないといけないのに、ただお金を稼いでいちゃダメなのって」

「そこで、この提案だよ」

 

 俺は皆に渡した資料の次のページを見るように促す。そのページにはキヴォトスでは知らない人達が居ないであろう学校三校の校章が記されている。

 

「アビドス地区の土地の一部・・・一部って言葉は適切ではないけど、結構な土地を三校に貸し出す」

「はぁ!?ちょっとなんで折角取り返した土地を行き成り他校なんかに貸出するわけ!?」

「お、落ち着いてセリカちゃん、リムル先生にも考えがあるわけですから」

 

 案の定、折角取り返した土地を行き成り貸し出す提案に反応してキレたセリカに、それをなだめるアヤネ。一方でホシノとノノミはこの提案の意味を理解しているのは頷いていて、シロコは全く分かって居なさそうだった。

 

「セリカ、今の君達でアビドス地区の治安維持をしながら同時並行でお金を稼いで、復興を行えるか?」

「う、それは・・・・無理」

 

 単純に考えても、結構な土地を保有しているアビドス。それだけの土地をたった五人だけで見回りをしつつ、他の事をすることは到底できない。だからこそ、土地を他校に貸し出すのだ。

 

「えっと、リムル先生。それで、どうして他校に土地を貸し出すわけなんですか?」

「大きな理由は三つ、一つは君達の管轄する土地を減らすこと。貸し出した土地の管理は借りた学校に任せる。こうすれば君達の負担は一気に軽減することができる。

「今の私達じゃ、広大な土地を持っていても持て余すだけだからねぇ。それはいい考えかもしれないね」

 

 今のアビドスでは重荷となる管理であっても、三大校は元々広大な土地を有している為、今更少し管理する土地が増えたところで大差はない。この負担をよそに任せられるのならば任せていいだろう。

 

「二つ目は、お金の確保。当然ただで土地を貸すわけではないから、安定した収入を確立させることができる。これは今まで君達が汗水垂らして稼いできたものとは違い、君達が何もしなくても安定して手に入るお金だ。このお金を元手にアビドスの復興を進める事ができる」

 

 安定した固定収入は必要だ。特に大金を稼ぐことができるものは何よりもだ。そして、今のアビドスには無駄に管理できないほどの広大な土地があるため、これを使わない手はない。あと、他に産業として使えそうなものが何もないってのがあるけど。

 

「あの、リムル先生。仮に土地を貸し出すとして、借りてくれる相手は居るのでしょうか。リムル先生の話は、借りてくれる相手が前提ですし」

「それは安心していい。トリニティ、ミレニアムとは話を付けてある。二校とも土地を貸してくれるのならば、借りてくれることになってる。あと、トリニティが借りればおまけでゲヘナも借りに来てくれるから、三校が土地を借りてくれることになる」

「いつの間に話を進めていたの?」

「カイザーの一件を片付けている間に平行に」

「リムル先生?」

 

 あれ、なんかすっごいホシノが笑顔のまま怒っていないかな。なんか背後に般若が見える気がするんだけど。

 

「次からは私達に相談してからにしてね?」

「あ、はい」

 

 これ次ホシノを怒らせたら単純に怒られるよりも大変なことになりそうだ。

 

「んん、三つ目の理由は人を呼び込むことだな。金を払ってまで借りた土地に誰も来ないなんてことは基本的にあり得ないはずだ。土地の用途は分からないが人が来てくれることには変わりない、そして、一度人の流れができたのならば、それを絶やさないように大きくしていく。そうすれば、自然とアビドスに来てくれる人も、商人も目を付けてアビドスで商売してくれるようになるはずだ」

「端的にまとめると、他所の自治区の人達がアビドスに来る切っ掛けを作りたいってことでしょうか」

「まぁ、そうだね」

 

 産業と言えるようなものがアビドスにない以上、観光業か物流を得て人の流れをを作り、その人達がお金を落としていく環境を作っていく。その為にも、人が来る切っ掛けを作りたかった。

 

「形になるまで時間はかかるかもしれないけれど、どうかな?」

 

 俺の提案に彼女達は顔を見合わせる。言葉はなくとも彼女達は見合わせていき、最終的にホシノへと視線が集中する。

 

「うへぇ、おじさんが決めちゃっていいのかな?それなら」

 

 ホシノは席を立ち、俺の前へと来て手を差し出す。

 

「その提案をしたのは先生なんだから、最後まで付き合ってよ?」

「やれるだけやってやるよ」

 

 俺はホシノの手を握り返した。

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