異世界に来たら先生になった件   作:御神梓

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七話 ミレニアムサイエンススクール

 俺が連邦捜査局シャーレの先生に就任してから最初に取り掛かったことは、連邦生徒会に関わりがある関係各所へと挨拶回りだ。

 先生の任に就いて早々、連邦生徒会の会計担当に頭を下げて給料を前借して購入した自転車に乗り、アポイントメントが取れた学園から挨拶回りしていく。経理担当の子、アオイには少し可哀想な目で俺を見られたが、俺はこの世界で使える通貨は持っていないので、背に腹は代えられない。加えて、これから電車やバス、タクシーといった色々な公共交通機関は利便性はあるもののを利用する機会が多く、運賃の総額を考えれば自転車の方が安く済む。更に向かう場所によっては電車やバスは使えず、俺は運転免許を所持しておらず、取得している余裕もない。他にもある諸々の理由を考えれば、小回りが利きつつ、素早く移動できる自転車を使うことにした。魔法を使えば手っ取り早いかもしれないが、騒ぎを起こしたくないのと、この世界において魔法は異常すぎる存在になり、業務に支障をきたす可能性を否定しきれない。

 地図のほぼ全てがどこかしらの学園の自治区となるこの場所では、学園間を何度も自転車で移動すれば、確実に前世では筋肉痛程度では済まない程の距離を漕いで移動する。

 就任から数日、今日はミレニアムサイエンススクールに来た。通称はミレニアム、事前に調べた範囲で分かっていることは、キヴォトスで最も最先端な技術を有している。何故有しているのか、それはここが最先端な技術を生み出し、それを応用して様々な製品を作っていっている。その証拠に、家電や電子機器の製造元を確認してみれば全て何かしらの形でミレニアムが関わっているほどに。学園の歴史としては、比較的新しい方ではあるものの、歴史ある学園に負けず劣らず多くの実績を残し、影響力を強めていっている。

 自治区の中を移動してみると、街並みは俺が最初に訪れた百鬼夜行とはまさに対極を位置する街並みをしている。百鬼夜行が伝統であるのならば、ミレニアムは近未来。監視カメラや俺の前世でも見たことがない乗り物、様々なことを自動化している機械などが見ることができ。建物もビルが多く、ホログラムや映像の広告塔もあった。百鬼夜行ならばほのかに明るい夜になるのに対して、こちらの夜はビルの明かりが夜を照らし懐中電灯すら不要の明るさになるだろうな。

 移動の間この場所のことについて考えていると、いつの間にかミレニアムに到着した。駐輪場に自転車を置き、一際大きなビルの方へと向かっていくと、見覚えのある人影があった。

 

「あ、先生!! こっちです」

 

 手を振りながらこちらに駆けて来る。その隣にいた少女もゆっくりとこちらに向かってくる。

 

「よぉ、ユウカだっけか?」

「はい、早瀬ユウカですよリムル先生」

 

 あの日一緒に建物の奪還で戦い、サブマシンガンを持っていた少女。彼女が出迎えてくれた。

 

「初めまして、リムル先生。ミレニアムサイエンススクールの二年生、セミナー所属の生塩ノアです」

「ああ、シャーレのリムル=テンペストだ。よろしくな」

 

 ユウカと一緒に来た少女も自己紹介をしてくれた。確か前ユウカもセミナー所属とか言ってたから、同じ所属の子か。

 

「先生、シャーレから自転車で来るって言ってましたけど、本当にここまで自転車で来たんですか?」

「ああ、電車が使えないからね」

「電車にも乗れないほど無駄遣いをしたのですか」

 

 ジト目でこちらを見てきた。

 

「いや、俺は元々こっちの住人じゃないから、ここで使える通貨を持ってないんだよ。あの自転車も給料の前借で買ってるから、電車代も建て替えができない状態でね」

 

 俺は懐からドワーフ通貨の金貨をユウカに渡す。異世界で使われている通貨であるため、当然この世界で使える通貨ではない。仮に主成分である金を溶かそうものなら、後でガゼルにバレた時になんて言われるのか……

 

「見慣れない通貨ですね」

「私も見たことがない通貨です」

 

 ユウカとノアは渡された通貨を覗き込むように見る。

 

「こっちじゃマイナーどころじゃない程知られていない通貨だからね。こっちじゃ換金できるような所もないからね」

 

 俺は金貨を返してもらい懐に戻す。

 

「そういえば、リムル先生。先日はユウカちゃんがお世話になったそうで、ユウカちゃんが余計なお節介をかけませんでしたか?」

「ちょ!? ノア!?」

 

 ノアがそんなことを言って、ユウカはその話を遮ろうとするが俺は何の話だか分からなかった。

 

「え、ユウカ昨日来てたの? 俺昨日早朝には書類仕事を片付けて、日中は関係各所にあいさつ回りしていたんだけど、いつ頃来たの?」

 

 俺は寝る必要がないため、夜中と早朝はシャーレで積もりに積もった書類を片付けていた。日中は挨拶周りや連邦生徒会とやり取りする書類を送ったり受け取ったり、日中にしかできない業務を優先的にこなしている。だからこそ、日中の殆どのはシャーレの部室にはいない生活をしていた。

 

「大体十時ごろです」

「うん、その時間は確かハイランダー学園に行ってたね……ごめん」

「いえ、こちらも連絡を入れずに行ったわけですから、気にしなくていいです」

 

 今度からは出張していることを周知したほうがいいのかもしれない。

 

「って、そんなことはどうでもよくて。リオ会長との会談にはまだ時間がありますね」

「ああ、時間には十分余裕を持って来たからな」

「それじゃあ、時間になるまでミレニアムの案内をしますから、付いて来てください」

「できれば、私達から離れないようにしてください」

「お願いするよ」

 

 俺は二人の後を付いていき、建物の中に入っていく。

 ここミレニアム学園はまさに近未来と言う言葉が適切な学園で、校舎は最早ビルだ。以前見た連邦生徒会の校舎もビルではあったものの、建物の大きさと高さは比に成らない程の大きさと高さをしている。そんな建物が複数建っている、これ全てがミレニアムの所有物であるのだから驚かされてしまう。加えて、敷地内にはモノレールが開通しているのだ。一つの学園の敷地内にバス等の交通手段がある話は聞いたことがあるが、流石にモノレールは聞いたことがない。そして、学園の性質上、必要といえば必要なのだが、様々な研究内容の為に適した実験棟が多く建てられている。

 

「ここは学習棟で、授業等は基本的にここで行います」

「とても学習だけでこれだけの部屋数は必要ないと思うんだけど……」

「実技の実習などもありますし、私達セミナーの部室やサーバールーム等の部屋もありますから」

 

 二人と話しながら、ミレニアムでの学習内容を聞いていくが、技術系の学園ということもあり専門用語や難しい言葉が多く正直に言って理解できるような内容ではなかった。二人もそのことは何となく伝わったのか、別の話題に移った。

 

「リムル先生、どうしてミレニアムはこうして一見関連性の無い多くの分野で活動しているのにも関わらず、多種多様の部活動の活動を推し進めているかわかりますか?」

「え? ん~、言っちゃ悪いがお金になるからか? もしくはそれがどうなるか知りたいから?」

「それもあります。ミレニアムの資金源のいくらかは特許やライセンス料などで賄っていますが、そうではありません」

「ならわからないな。俺のところの研究者は探求心で研究をしているから」

 

 魔国連邦(テンペスト)の研究者であるベスターは、ほぼ全ての研究を自主的に行っている。だから、彼は自身の探求心を行動原理にして研究をしている。俺からしたらベスターの研究内容は有益なもので、内容によっては様々な事に転用できるから。

 

「ミレニアムの創立者達は千年問題と呼ばれる問題を解くために、多くの実験や検証を行いました。そして、その過程で数多くの研究機関が増えて、最終的にはこうして多くの研究や検証を行う学園になったのです」

「え、まさかこの学園全部がその千年問題を解く為だけにできたの!?」

「はい、そうですよ」

「んな、非効率的にも思えるし……このゲーム開発部もその千年問題の解決になるとは思わないのだけれど……」

 

 とても千年問題には関りが無さそうな部活動が存在している。その理屈ならば、どうしてこの部活動達が孫座敷いているのかの説明になっていないような気がする。

 

「リムル先生は錬金術をご存じですか?」

「ああ、えっと等価交換だとか、黄金を作るための研究とかのファンタジーな奴だよな?」

「ファンタジーの世界ではそうですね。ですが、黄金を作るための錬金術は科学に大きな関わりがあります」

「え? そうなのか?」

「昔の人たちは黄金を作るために様々な事をしてきました。例えば蒸留技術です」

「蒸留、うちの国で蒸留酒を作って輸出する程度にはお世話になってるけど……話の流れ的にその蒸留技術が錬金術で発見されたのか?」

「そうです。黄金を作る研究の中で蒸留技術が発見されて、一つの液体から性質の持つ液体を分離させることができるようになりました。これにより、全く別の分野の研究で見つかったものが、また他の別の研究で新たな発見を見つける糸口になるかもしれません」

「なるほどねぇ」

 

 まさにやれることならば全てやる。もしそれが遠回りになることであっても、一つ一つを紐解いていくつもりのようだ。もしここにベスターを連れてきたら、本当に四六時中研究に没頭して、今でも時折無理矢理研究を中断させないといけないときがあるのに、もう歯止めが利かなくなってしまいそうだな。

 

「っと、そろそろ時間ですね」

 

 時間を確認すると、会談を約束していた時間に迫っていた。ミレニアムの案内を中断し、二人に会談場所へと連れて行ってもらう。彼女たちの部室であるセミナーの中を通りつけて、奥にある部屋へときた。

 

「この先でリオ会長がお待ちですので」

「あとでお茶をお持ちしますね」

「ああ、ありがとう」

 

 俺は着ていた服を正し、戸を叩いた。

 

「どうぞ」

 

 中から少女の声が聞こえてきたため、俺は戸を開けて中に入る。中に入って最初に確認したのは相手の姿。長い黒髪にピシッと切られたスーツ……あれ? 俺が聞いた話だとセミナー会長も確か学生だって話だったんだけれど、なんか目の前にいるのはOLの雰囲気を醸し出している人なんだけれど。

 

「連邦捜査局シャーレから来たリムル=テンペストです。本日はお時間を取っていただきありがとうございます」

「構わないわ。ミレニアムサイエンススクール、セミナー所属の調月リオよ。お掛けになって」

 

 リオに促されてから、席に着き。カバンから事前に用意した資料を卓上に並べえる。リオも事前に用意していた資料を卓上へと並べた。

 

「事前に送ったメールでお伝えはしていますが、本日は連邦捜査局シャーレの先生に就任したことによる挨拶と、これから先シャーレが活動していく中で、ミレニアムサイエンススクールとは多くの関りを持つ事になるので、様々なやり取りについてを改めて確認させてもらいます」

「ええ、それともう少し気楽で構わないわ」

「あ、そうか? ならそうさせてもらうよ。まずは連邦捜査局シャーレの超法規的権限の一つ、際限無く生徒の所属学園を問わず、シャーレの部活動に所属させることができ、所属させる生徒は先生つまり俺の一存で決定できる」

「それについて一つ質問があるのだけれど、いいかしら?」

「ああ、どうぞ」

「送られた資料の中には生徒が所属するための手続きについての記載がないのだけれど、どのようにして生徒がシャーレの所属になるのかしら?」

「主に臨時的に所属させることを主にしているらしく、手続きを踏まずに所属させることができる。言ってしまえば、俺がその生徒がシャーレに所属していると言えば所属していることになる」

「逆を言ってしまえば、あなたが所属していないといえば、その生徒は所属していないことにもなるのね?」

「そうだな……」

「シャーレの存在意義と目的に置いて緊急性は理解できる。けれど、それでは生徒の立場が弱いものになってしまう。事後処理にはなってしまうけれど、ミレニアムの生徒がシャーレに一時的でも所属したのならば、セミナーへ正式に通達をできるかしら?」

「それくらいなら簡単だ。もし緊急の通信網を用意してくれるなら、こちらから臨時で所属した際、即時に通達できるようにするけれど」

「それならすぐにできるわ」

「だったら、他の学園にも同様の通達できるようにしたいけど、できる?」

「その場合、他の学園の生徒情報も必要になるから、ミレニアム内で完結させるのは難しいわね。連邦生徒会ならキヴォトスの全生徒に関する個人情報が収束しているから、連邦生徒会の管理の下でならいけるわ。それと構築するにあたっては……これくらいの費用が必要ね」

「わかった。連邦生徒会にはこちらから話を通しておくよ」

 

 シャーレの超法規的権限は誰の目から見ても過剰なうえ、明らかに余計な誤解と警戒を生んでしまう。この誤解と警戒を早い内に解消しておかなければ、後に余計なトラブルが生まれることは確実。俺だってガゼルに何度も大きなことをする時は相談をしろと言われたり、皆の意見を聞いてやりすぎないようにと勉強はしているんだから。

 シャーレと各学園との亀裂を生まないよう、各学園の代表と話し超法規的権限にもある程度の制約を加える。とはいえ、大体の物事は俺一人で解決することはできるだろうから、この生徒を所属させるという条文周りは使うことにはならないと思うけれど、念には念のためだ。

 こうして、リオと俺で話し合いシャーレとミレニアムで良好な関係を築けるよう取り決めをしていく。

 

「ひとまず、現状で決められることはこのあたりかしら」

「そうだな。必要なら後でもう一度会議の時間を設けようか」

「それでお願いするわ」

 

 話し合いを始めて既にかなりの時間がたった。互いに目の前に広げて、いくつもメモを記した資料を片付け、俺は帰り支度を始める。

 

「リムル先生、これは個人的な質問なのだけれどいいかしら」

「ん? なんだい?」

 

 どんなプライベートな質問を初対面な俺に質問するのだろうか。それも年頃の高校生の女の子。前世では女性に恵まれなかった自分だからちゃんと答えられるだろうかと思わず身構えた。

 

「リムル先生は一つの犠牲で、多くを守れるとしたらどうするかしら?」

 

 質問の方向性は俺の思いもよらない方向性だった。

 

「何を犠牲にするかだな。大切なものを守るためならば、小さな犠牲だろうが大きな犠牲だろうが問わないよ」

「そう、質問に答えてくれてありがとう」

「ん、ああ、えっと、それだけ?」

「ええ、質問は以上よ。リムル先生は直ぐにシャーレに戻るのかしら? 必要ならタクシーを手配するけど」

「あ、大丈夫、自転車で来てるから」

 

 さっきの質問にリオにとって何の意味があったのか。そして何が分かったのか、それは俺にはわからない。それでも、彼女にとっては何か納得するものがあったのか。

 こうして俺はミレニアムサイエンススクールを後にした。

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