トリニティ総合学園に続き、レッドウィンター学園、ワイルドハント芸術学園と挨拶回りをして行き、今日は俺がこの世界に来て初めて訪れた学園、百鬼夜行連合学院へと来た。
町並みは以前言った通りではあるが、日本の伝統的な建築様式を今の建物に落とし込んだものが立ち並んでいて、懐かしさも覚える。
「ここの学院はほぼ城と城下町みたいな感じがするよ」
百鬼夜行学院の建物はとても学院とは思えない建物、日本のお城が建っている。え、もしかしてあそこの中で学業をしているのかな・・・部屋数足りる?
加えて学院の敷地はすべて水堀で囲われていて、入るための道は限られている。他校の歴史と比較しても、百鬼夜行の歴史は頭一つ抜けて古く。争いが多かったころの名残なのだろうか。
俺は敷地内へと入るために橋を渡ろうとすると、橋の上で一人の少女が保護柵に寄りかかりながらこちらを見ていた。
「そういえば、君はここの学院だったね」
「あら、覚えてくださっていたのですね?うれしい限りですわ」
和傘をさし、綺麗な着物を着る少女は笑顔でそう告げる。
「ただ、俺の記憶が確かなら君は百鬼夜行を停学中じゃなかったかな?狐坂ワカモ?」
俺が連邦生徒会に向かった日に、シャーレがある建物を襲撃していた集団を先導していた少女。それが今、目の前に立っていた。
「確かに、停学中ではありますが、学院の付近に来てはならないとは決まっておりませんよ」
「ここはもう学院の敷地内だとは思うけれど」
なぜ彼女がこの場にいるのかわからないが、戦うためにこの場所にいないことは何となくだがわかる。以前あった時とは服装が違い、スカートが短く動きやすかった服と、足の可動域が極端に狭くなる和服とではどちらが過激な戦闘を行えるかは明白なものだ。
「それで、ここで何をしていたのかな?」
「リムル先生がこちらにいらっしゃるとお聞きしましたので、お迎えに上がりました」
「だから、君停学中だよね?それに一応指名手配もされていたよね?」
「そんなもの関係ありませんよ」
「いや、関係あるからね?」
何故彼女は自身の顔が知られているかもしれない百鬼夜行でここまでして俺のところに来たのか、その真意はわからない。
「陰陽部の面々と会議までまだお時間はありますか?」
「まぁ、時間はあるけれどさ」
「でしたら、リムル先生。ちょっとお時間をいただけませんか?」
一応この世界の常識で考えれば、停学かつ矯正局と呼ばれる牢屋とも言える場所から脱走した生徒、そんな生徒と一人で一緒にいるのは危ないなんてものではないだろう。それでも、俺は彼女は自分が捕まるかもしれないリスクを取ってまで俺に会いに来た理由を知りたかった。
ワカモに連れられて、百鬼夜行にある一軒の茶屋へと来た。手軽にお茶が楽しめるといった茶屋ではなく、お客一組一組の為に個室が用意され、一品一品がとても高価なモノだった。
「ここは人の目がありませんので、私でもゆっくりすることができます」
「確かに、君じゃあまり一般的なお店には行きにくいかもしれないね」
「何かをするときはお面をつけていますが、こうして普段はお面は付けていません、この状態なら案外誰にも気が付かれないものですよ?」
「それだけでわからなくなるものなのかな?」
《以前のカリオンの一件をお忘れですか?》
それを言われると何も言い返せない。あの時はカリオンが亡くなったとも思ってたし、覆面をしただけのあからさますぎる変装だったからね?
「それで、わざわざこんな場所に来てどんな話をしたいのかな?」
「まあ、リムル先生、こうして二人っきりになれたのですからゆっくりとお話をいたしましょう」
「はぁ、会議に間に合うまでだぞ?」
「ありがとうございます」
俺とワカモはお菓子と飲み物を・・・
「そういえば、俺持ち合わせが殆どないんだけれど・・・・給料を前借している身だし」
「存じております。私が誘ったのですからここは私が持ちます」
「すまない」
生徒におごられる先生、後々問題になりそうだから、何らかの形で借りを返すことにしないと。とりあえず、一番安い・・・
「あんみつ二つと棒茶を二つおねがいします」
「んあ、ちょ・・・」
ワカモが頼んだあんみつの値段を見てみれば一つ2000円近く、お茶も安くはない。俺が止めようとするのもむなしく、注文は通ってしまった。
「安いのでよかったのに」
「遠慮なさらず、リムル先生と同じ物を食べて過ごしたい私のわがままですから」
「・・・うん」
彼女のやりたいようにさせよう。
「先生になられてからそれなりの日が経ちましたが、慣れましたか?」
「まぁ、それなりにはかな。仕事の量に忙殺されそうではあるけど」
「それは、それは、リムル先生の仕事を増やしている原因を始末してきましょうか?」
「そうしたら余計に俺の仕事が増えるし、君の事を追わなくちゃいけなくなるよ」
ワカモのその言葉は、とても冗談で言ったとは思えないほど力が籠もっていた。もしここで実行しないように言わなければ、このあと直行しそうなほどに。
「先生に追われるのは喜ばしいことですが、先生の心労は増やしたくありませんからやらないことにします」
「そうしてくれると嬉しいよ」
「ですが、毎晩夜通しお仕事なさるのは感心いたしません。折角美しいお顔が台無しになってしまいますよ?加えて毎日のようにいくつもの学園にも出向いて」
「大丈夫、あのくらいで体調は崩さないから」
連邦生徒会から聞いたワカモの雰囲気と、今目の前にいるワカモの雰囲気は全く別人のように思える。仕事モードというか、プライベートがハッキリと別れているから、メリハリがあるからか、とても話している中に時折混ざる不穏な要素を除けば良い子のようにも思える少女だった。
そこからの会話はやけに俺のことを心配するような話だった。ただ、明らかに連邦生徒会とシャーレで発信している情報よりも、深く広く俺が活動している内容を知っていて、暗にストーカーをしている発言を受けてどういう表情をすればいいのかはわからなくなった。
「先生は、これからの百鬼夜行がどうなると思いますか?」
「どうって、言われてもな。俺はあくまでサポートする立ち位置だから、主体は百鬼夜行の生徒たちだし」
ワカモはお茶を一口。口に含んでから、湯呑みを置いた。その目は先程までの俺を心配するような目ではなく、真面目な目になっている。
「私も最近百鬼夜行に戻りました。その際に耳にしたのですが、百鬼夜行の治安維持組織、百花繚乱紛争調停委員会の委員長と副委員長両名が行方不明とのことです」
「は?まて、百花繚乱って」
それを聞いて彼女のことを思い出した。キヴォトスに来て初めて会った彼女、七稜アヤメ。彼女は確か、自分のことを百花繚乱の委員長と名乗っていた。
「七稜アヤメのことか?」
「ええ、ご存知だったのですか」
「ああ、シャーレの先生になる大体前日位に雪山の中で会ってた・・・」
「その時ですと、すでに行方不明になっていたはずですね」
「そうかぁ・・・・」
アヤメとの会話内容を思い出す。精神的に限界だった少女があまり装備を持っていない状態で豪雪の雪山、あの時点で気がつくべきだったのか。と言っても異世界の出会ったばかりの少女に俺がそこまでやるのも、彼女が受け入れてくれる可能性も低そうだし。
「すでに過ぎてしまったことです。今からその場所に向かっても追いかけるのは不可能でしょうし、陰陽部と百花繚乱に会った場所をお伝えしておくべきでしょう。私としても張り合える相手がいなくなってしまうのはさみしいですから」
「そうするよ」
今から彼女を捜索しようにも、あの雪山の中あの装備、行方不明になった日数から考えても生存は絶望的。捜索範囲も俺が見つけたポイントからかなり絞られたかもしれないが、それでも範囲が広い。この時期でも雪が降る雪山の中、捜索に割ける人員も、俺が他の仕事と並行して探しに行ける時間もない。
「さて、私から話題を振ってしまいましたが、明るい話題をしましょう」
「今の話から明るい話には簡単にならないと思うんだけれど」
「まぁ聞いてみてください。近いうちにここ百鬼夜行の自治区で、「百夜ノ春ノ桜花祭」を催すそうです」
「祭りか、それは興味があるな」
ワカモの言う通り、俺は話題を切り替え、祭りについて考える。ここ百鬼夜行はかなりの頻度でお祭りが催されている。他の学園でもお祭りは行われているかもしれないが、ここ百鬼夜行はその頻度と規模が比較するのも馬鹿らしい程のものだ。
「なるほどね、祭りの名的に桜の花見か」
「夜は例年花火を打ち上げます。とても見ものでして、私も一人楽しく見させてもらっているものです」
「それは期待できるね」
「まぁ、ハメを外しすぎる人も多くいるのが悩みの種ですが」
「・・・それ、ワカモが扇動とかしてないよね?」
シャーレの一件も考えると、そこらの不良を纏めあげて何かをするなんてことは普通にありえそうだった。ましてや、ハメが外しやすい祭りの中となれば、尚のこと。
「いえいえ、そんな幼稚でつまらないことは致しませんよ。もっと大きく破壊をしたいですから」
「うん・・・迷惑にならない程度にお願い」
それからも、ワカモと日常的なことやワカモのことについての話をしてから、俺は陰陽部の少女達と会議をした。
当然、アヤメの一件に関しては陰陽部と百花繚乱の子達に報告し、彼女たちは雪山での捜索を開始することと、俺には口止めを頼まれたのだった。