お祝いにフランス料理店で、皆で食事をすることに。
海老原僚は、その日、偶然にも驚きべき出会いをした。
社会学の権威としてTV出演も子にしていた彼は、ここ数日、多忙な日々を過ごしていた。
講義だけではない、テレビ出演するとね終わった後にTV関係者だけでなく、専門家たちから、少しでいいから話がと誘われる。
無下に断ることはできない。
忙しいことで、忘れることもできる。
「先生、私、海外に行きたいんです」
彼女の言葉を聞いたとき、ああ、これは別れだと海老原は思った。
自分が若ければ君の帰りを待っているということができたかもしれない。
一緒に行くという選択もあったかもしれない。
だが、大学を辞めたくはなかったし、TV出演の仕事も嫌いではなかった。
色々な人間と知り合いになる切っ掛けにもなったし、社会学というのは幾ら学んでも、これで終わりだという終着点が見えない。
自分にとって、これほど興味深い分野はなかった。
数ヶ月が過ぎても別れることができない。
教え子の成長は嬉しいがね寂しさを感じる自分に海老原は自分は恋をしていたんだなと改めて実感した。
だが、終わったことだ、いつまで悩んでいても仕方ない。
そうだ鎌倉に行くかと海老原は思った。
お気に入りフランス料理店「ヴァンデミエール」コックの腕もいい。
落ち着いた店内でゆっくりと美味しい料理でも食べようと思った。
ただ、場所が鎌倉という少し離れたところなのが残念なところだ。
2日ほど休んで、食事をして、観光でもするのはどうだろうと海老原は思った。
ロックフェスの酸化は初めてではない、川田、浜中、竹田の三人は今まで何度か出ていた、だが、今回は特別だ。
新メンバー、キーボードの美也の参加で緊張していた。
この日の為に練習を重ねた、だが、今まで男三人はともかく女性の美也は初参加だ。
今まで友人と駅前で演奏していたのとは勝手が違う。
参加者の数も比ではない。
それにキーボードといってもエレクトーン、ロックを主体としていた男三人の演奏についていけるのかと美也自身、不安に思っていた。
「大丈夫、自信を持っても駅前で演奏していた姿、カッコよかったぞ」
川田の言葉に美也は。
「あれは友達と一緒だったし、女だけの演奏だと舐められたらって気負いもあったし」
言い訳する美也に浜田と竹田はとんでもないと首を振った。
川田は美也の演奏しているところをスマホに撮って二人に見せたらしい。
そのせいもあり、自分達のバンドに強引に誘ったのだ。
そしてフェスは無事に終わった。
初参加の美也は緊張していた、失敗がないと言えば嘘になる。
「いや、俺は興奮した、バンドやってて良かったと思った」
ギターの竹田は感無量といった様子で呟いた。
ドラムの浜中は、次も参加したいと、切実な顔で川田を見た。
「彼女を正式メンバーにするんだろう」
川田は一瞬、無言になった。
「そのつもりなんだが」
「おい、どうした」
川田はあのフェスで彼女に目をつけたバンドもいると呟いた。
「声をかけらたって、昨日、言われたんだよ」
川田の言葉に浜中の表情が固まった。
「まさか、そっちに」
「俺達より」若いバンドのグループみたいなんだか」
「腕前はどうだ」
川田は肩をすくめた。
「ロックじゃない、最近、流行りの曲も演奏しているみたいで」
まずいぞと竹田は顔をしかめた。
「教え子だろ、なんとか、俺達のバンドに」
すると川田は大丈夫だと言った。
「彼女も乗り気じゃないみたいだ、誘いをかけてきた動機が見えるみたいなこと言ってたな」
動機という言葉に、竹田が、ははーんという顔になった。
「楽器を演奏して、バンドをやってればモテるとか」
川田が苦笑した。
「そういうオーラ、彼女を感じたらしい。ところで、飯を食べに行かないか、フランス料理、なんだか」
川田の言葉に浜中と竹田は驚いた。
「フランス料理!?」
「どうしたんだ、今まで」
今まで居酒屋だったろう、竹田の店じゃないのかと聞くと水田は知り合いから紹介されたんだと笑った。
「オーナーの老人が亡くなってリニューアルしたらしいんだ」
「もしかして、その店、経営が厳しかったのか」
川田は無言になった。
「今は持ち直したらしいが、一度でいいから言ってくれと頼まれたんだ」
「だったら、そこで彼女の正式メンバーにするっていうのはどうだ」
「いいねえっ」
浜中の言葉に竹田は頷いた。
「店はどこなんだ」
竹田の言葉に少し遠いが、鎌倉だと川田は答えた。
海老原は驚いた、いや、目を奪われたといったほうがいいかもしれない。
いつもなら車を使っての移動が普通なのだが、今回はゆっくり過ごしたいと思い、電車やバスを使うことにしたのだ。
人が多くて混んでいるのではと思った。
だが、週末ではない、平日なので公共の乗り物のほうが楽かもしれないと思ったのだ。
電車の中で海老原が目を奪われたのは一人の女性の姿だ。
(別人だ……)
若いから、髪は肩口あたりまで、ロングではないから。
だが、似ていると思ってしまった。
目が離せなかった。
気づかれないように見ている自分に海老原は、心の中でやめろと自分に言い聞かせた。
だが、視線が離せない。
電車を降りたネジ分と同じ駅で降りる偶然、駅の前で女性はスマホを取り出して確認しているようだ。
服装も黒のモード系の大人っぽいドレスだ。
あっっ、女性が小さな声を漏らし、慌てて周りを見る、地図を見つけたらしい。
だが、困惑しているようだ、近くまでいった海老原は気付いた、落書きされていたのだ。
それも日本語ではない、派手な落書きだ。
海老原は思わず声をかけた。
そろそろ来るはずだ、川田は時間を確認する。
「もしかしたら迷っているんじゃないか」
そういったのは浜中だ。
「初めての場所だろう、スマホがうればグーグルマップで大丈夫だろう」
竹田は笑うが、水田は気になった。
しっりしているようで、時々、とんでもないドジなことをしでかすことがあるのだ。
だから、目が離せない、つい過保護のような見守るような視線で見てしまう。
だが、彼女も社会人だ。
はっきりとは口にしない、だが、浜中も竹田も女として恋愛対象として見ているのではないかと思ってしまうときがある。
歳を考えろと言おうとした、だが、それをはっきりと口にはできないのは自分もとおもつてしまう時があるからだ。
店の名前、場所もメールで送ったから迷うことはない。
だが、先日、スマホの電池残量が、先生、お願い、場所を教えて」
この間、新しく行く、スタジオの場所がわからないと連絡がきたことがあった。
中で待とうと三人の男たちは、店に入った。
「俺、フランス料理なんて初めてだ」
竹田が店内を見ながら場違いじゃないかと二人を見た。
「いや、それより、普段とは別人だぞ」
「いや、折角だからな」
はははと愛想笑いをする竹田に水田は腹の中で呟いた。
キスしたこと、知ってるんだ、私の教え子に、どういうつもりなんだ、言葉にしなかったのは自制心がきいたからだ。
「支度には時間が、かかるものだ女性なら」
さりげない口調の口にした浜田の言葉に川田は頷きながらも視線を向けた。
「そろそろじゃないか」
「あっっ、来たんじゃないか
浜中と竹田が声をかけたが、次に続く言葉が出てこない。
だが、それは川田もだ。
入ってきた彼女、美也の服装を見て、普段とは違う彼女の姿に驚いたのだ。
だが、一人ではいな、隣には眼鏡をかけていかにもインテリといった感じの男性がいた。
「ありがとうございます、助かりました」
彼女は男に頭を下げている。
「遅くなってすみません」
「どうした」
川田が道に迷ったのかと聞く。
「駅の地図が汚れていて、場所がよくわからなくて、海老原先生が」
三人の男が、海老原と顔を見合わせた。
名前を知っていることに驚いたからだ。
「TVにも出ていますよ、社会学、偉い先生ですよ」
美也がニッコリ笑うと三人の男は無言になった。
勢いがついて書きはじめてしまいました。