『死』となった男の話   作: 燃える空の色

1 / 6
『死』となった男の話

 

 ―――それはまだ、世界が産まれて間もない頃。

 後に地球と称される星に、漸く生命が姿を現し始めた頃に、ソレは現れた。

 

『―――』

 

 ソレは、姿形を持たぬ存在だった。

 ソレは、意志を持たぬ存在だった。

 ソレは、生命が生まれた瞬間に、この世界に存在するようになったモノ。

 

 

 ソレが吐息を吹けば、枯れ果てた大地に緑が戻った。

 ソレが指を振るえば、どれだけ強靭な生命だろうと命を落とした。

 ソレが呼吸を止めれば、世界は一時その存在を見失った。

 

 

 ソレは、やろうとすれば、それこそなんだってできた。

 けれども、ソレに確かな意志はなく、目標はなく、心はなく。

 ただそこに在り、ただそこで、あらゆる生命を見送り、見届け、世界の果てを見続けた。

 幾千の時が流れて、幾万もの命がソレの元へと帰り、幾億もの命がソレを糧として産まれた。

 

 

 ソレはあらゆる命、あらゆる形を含むモノ。

 ソレは命あるところに産まれ、命喪う時にこそ現れるモノ。

 

 

 ソレは本来、姿形も意志も、何も持たず、ただあり続けるだけの存在――しかし。

 

 

 なんの気まぐれか、一体どんな奇跡か。

 ソレが僅かに身震いをした。

 同時に、遥か遠いどこかで、ひとつの生命が永遠の眠りにつき、その魂が天へと昇る―――そして、数奇な運命を辿ることとなった。

 その魂は、遥か遠い、世界の果てよりも遠い場所で、何の因果か、ソレによる抱擁を確かに受けた。

 故に、ソレとその魂の間には僅かながらの縁が紡がれ、そこから何万何億年と近い時間、あるいはもっと短い時間をかけて、その魂はソレの元へと馳せる。

 ソレの―――『死』の恩寵を授かった魂は、たとえ幾年の月日が流れようと摩耗することなく。

 そしてやがて、魂は『死』へと辿り着く。

 遠い遠い旅路を送り、そして見事たどり着いて見せたその魂を、『死』はありのまま受けいれた。

 そのままでは己の中で崩壊してしまうであろう魂を、ゆっくりと自身に馴染ませ、確実にひとつとして。

 

 

 本来なら、ソレが真っ当な意志を持つまでに、あと何万年とかけるはずだった。

 本来なら、ただ機関として、存在として、自然として、在るだけのはずだったソレは、―――幾億年の果てに目覚め、この世界に降り立つ。

 

 形無きカラダは人の輪郭を覚え、浅からぬ呼吸を披露する。

 意思無きココロは確かな思考を果たし、明確な感情を定義する。

 

 気づけば、ソレの周りには、無数の生命がいた。

 かつて、ソレが――『死』と、その片割れが創り出した生命たちが、ソレの真の生誕を祝うようにして囲っていた。

 ソレは周りを見渡し、そして重々しげに、形を為した口を開く。

 

 

『―――ここ、どこ』

 

 

 ―――そしてここに、存在するはずのなかったイレギュラーが発生した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。