転生したら黒歴史なゴジラ映画だった件について 作:アイアイホイホイおさるさん
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………主人公を殺すにはどうしたらいいか?
一見すると簡単のように見えて、かなり難しい問題である。
特に、人気作品で主人公を殺すのは難しい。
作者がもう描きたくないからと名探偵を滝壺に叩き込んだが結局シリーズは続いたし、自機を自爆させ要塞と共に散るはずだったスーパーコーディネーターも急遽決定した続編の為に生き残った。
性欲に任せた愚行の果てに滅多刺しにされ、作者はおろか読み手からも死んで当然だと罵倒された主人公も、ヒロイン人気のために続編で生きているifがいくつも作られた。
このように、主人公を殺すというのはメタ視点で見てもかなり難しいのだ。
しかし創作活動の長い歴史の中で、それを解決するための攻略法はいくつも作られている。
その中の一つが「クロスオーバーにより他作品の主人公を連れてくる」というもの。
主人公が主人公足り得るのは、文字通り作品世界の中心であり、いわば「主人公補正」によるもの。ならば、バケモノにはバケモノをぶつける理論で別作品の主人公補正を持った別の存在をぶつけてやればいいのだ。
これは意外と馬鹿にできない効果がある。
現に、女性専用メカに唯一乗れるハーレム主人公はスパロボクロスオーバーにより他のロボットアニメのキャラクターからその不誠実さを詰められる事になり、実家が極道のラブコメ主人公は公式のコラボで真剣に恋愛をしている俺の物語の骨太な主人公に一喝された。
それを考えると、わざわざ異世界転生により別の世界の人物を勇者として雇用するのも、異世界では魔王こそが世界の主人公であり、それに対抗するためには別世界の理を持った勇者が必要という事なのかもしれない。
***
不安定で先の見えない将来におびえ、その日その日をエナジードリンクとインスタント食品、そして某機動戦士のプラモデルを買う事を生き甲斐に生き延びている、とあるメディア会社の企画部メンバーである。
そして………何より彼は、ゴジラファンだ。
しかしよくいる頭ドハティな怪獣優生思想というわけではなく、あくまで彼のオタク道の始まりが、たまたまテレビ放映していたゴジラ映画を観てからだったというだけだ。
特撮ヒーローも、美少女アニメも、ロボットアニメも一通り楽しんだが、やはり一番はゴジラだった。
「今回の仕事成功しますかね、先輩」
「するだろうよ、売上は」
そんな拓夫は今、ある大きな仕事の山場に取りかかっていた。
以前よりカルト的人気のあった海外アニメ「スケアリーホテル」の劇場版の国内上映が決まり、その配給に拓夫の会社が選ばれた。そしてその企画を担当したのが、他でもない拓夫の部署だった。
「問題はファンが納得するかですが………」
「そりゃ無理だろう。劇場版とはいえレトロ調
「でも、声優がついてるのは原語版からですよ?それに吹き替えが気に入らないんじゃ字幕版を観ればいいのに………」
「それが理解できんぐらいあの手のオタクってのは視野の狭い連中なのさ。それ故に、スケアリーホテルは日本においては売り上げが望めないほどマイナーで、売り上げが伸びなきゃスタッフが飢え死にして続編が作られないという想像もつかん」
もっともガンプラを生きがいにしている自分にオタクを批判する資格はないがな。と付け加え、会場スタッフとして招かれた拓夫は、後輩と共にその劇場版スケアリーホテルの吹き替えに選ばれたアイドル声優・
やってくる客の多くがスケアリーホテルの………ネット上で女性向けファンアートばかりが流れてくる海外アニメのファンでは間違いなくないような、よくない見た目の野郎ばかりの時点でこの采配は失敗である事がよくわかる。
「………胸、でかいですね」
「言うな、聞こえるだろ」
「でも先輩も見てるじゃないですか」
「うん………まあな、うん」
宝田女史の豊満なツインボムはグラビアアイドル等と比べると見劣りするが、女性の目線や意見が幅を利かせる今のメディアで普通のアイドルをやるには、確かに大きすぎる。
だから声優になったのか?と下衆の勘ぐりをしながら拓夫達はサイン会の様子を見守っていた。そこに。
「………ん?」
「どうしました?先輩」
拓夫が気づいた。サイン会に訪れたファン達の中に、少し背丈の低い人物がいた。屋内だというのに厚着をして、他のファンとは少し違う雰囲気を醸し出していた。
………思えばこの時、若いが故に無いものとして扱っていた"玄人の感"が、拓夫にも現れたのかも知れない。
「………」
「応援よろしくお願いします!」
厚着のファンの順番が回ってきたが、そいつが出したのはサイン用紙でも原作の単行本でもなく、血走った目と荒い鼻息。
そこに確かな殺意を感じた時、拓夫は自分の意志に反して走り出していた。
「宝田真央死ねよやぁあああ!!」
「まずい!!」
ドギャオンッ!!と厚着の人物が甲高い女の声で叫び、厚着の奥に隠し持っていた
アイドル声優に向けられた憎悪の意志を込めた弾丸であるが、それが貫いたのは彼女ではない。
「ぎ………ッ!!」
「先輩!!」
後輩が叫んだ。ショットガンの一撃を受けたのは寸前の所で宝田女史と相手の間に飛び込んだ拓夫だった。
「捕まえろォー!!」
「ちょ、離せ!!離せよ!!キモいキモいキモい!!」
警備員やその場のファンがショットガン女を取り押さえる。そいつの甲高い抵抗の叫びを聞きながら、拓夫は銃弾を受けた腹を押さえ倒れる。
「スケアリーホテルは字幕だからよかったんだよ!!アイドル声優を使うなんて台無しだ!!死ね!!死ね!!死ね!!死ね死ねェ!!!」
ああやっぱりそういう事か。と、薄れゆく意識の中で拓夫は苦笑した。
そしてキャスティングの諸悪の根源である企画部の自分が撃たれ、無実である声優を守れた事に若干の喜びを感じた。
おそらく自らショットガンの弾丸に飛び込んだのも、宝田女史がほぼ自分たちのせいで原作ファンからの怒りを向けられている事への罪悪感が、無意識のうちにそうさせたのだろうとも思った。
「先輩!しっかりして先輩!」
「だめっ!死なないで!だめえっ!!」
後輩が急いで救急車を呼ぶ中、声優・宝田真央は自分を抱いて必死に呼びかけている。彼女の大粒の涙が拓夫の頬を濡らし、頬にその豊満な乳房を感じながら、拓夫は終わりゆく自らの人生に思いを馳せる。
「(へへ、どーでい。僕は死ぬ時はアイドル声優のでっかいおっぱいに埋もれて死ぬんだぜ、羨ましいだろオタクども………声優詳しくないからよう知らんけど………)」
そして今まで給料と生活を人質に無茶を強いてきたスポンサーや、自分達企画部や制作スタッフの立場を考えずに今まで好き放題に罵倒してきたオタク達を心の中で全力で皮肉りながら、佐藤拓夫の29年の人生は終わった………
***
………真っ暗な闇とぼんやりとした意識の中、拓夫は倒れていた。痛みはない、だが意識ははっきりしない。
ああ、自分は死んだのか。死ぬとこうなるのか。それとも、完全に意識を失うまでの一瞬か。
そう考えながら拓夫は闇の中を漂い、そして。
「ガオーーッ!!」
「あっぢい!!!!」
突如火炎で炙られ、あまりの熱さに驚いて飛び起きた。
「何だよ!?何、何いきなり!?えっ………あっ!」
何事かと思い飛び起きるとそこにいたのは、緑色のクマを思わせるような謎の生き物。
しかし、拓夫はそれを知っている。否、このキャラクターを知っている。この見覚えのある背びれと福◯潤ボイスは紛れもなく、ヤツだ。
「もしかして………ちびゴジラ!?」
「そうだよ!ボクちびゴジラ!」
驚愕であった。そこに居るのはゴジラシリーズの番外的存在として作られたショートアニメ・ちびゴジラの逆襲に登場する主人公。デフォルメを極めたような外見のゴジラ、ちびゴジラである!
いきなり他人に熱線を浴びせるサイコぶりはアニメの通り。
「突然だけど、君は死んだ!」
「………それは知ってる」
「ついでに言うと、ある世界がとってもヤバいんだ!」
死んだと思ったら眼前に居たアニメキャラという異常事態に拓夫が困惑している間も、それを無視して話を続けるちびゴジラ。
「あの………出来たら状況の説明をしてくれない?」
「君は死んだで十分じゃないの?」
「いや解らないよ!?ここは何処!?死後の世界?!」
「チュートリアルは早く終わらせたいんだけど、仕方ないなぁ〜」
「て、てめえ………」
飲み込みが悪いなとでも言いたげに、鬱陶しそうにしているちびゴジラに思わず手が出そうになるも、相手がちびでもゴジラである以上はオタクのステゴロでは無理だと拳を引っ込める。
そして、拓夫は思った。ちびメカゴジラはいつもこんな気持ちだったのかと。
「異世界転生って知ってる?」
「読んだことはある」
「話の冒頭で「間違って殺しちゃったんだごめ~ん!」ってあるでしょ?」
「あるね」
「それ」
「さよか」
しかしトントン拍子で分かりやすく話を進めてくれたお陰で、拓夫はなんとなく自分の立ち位置が理解できた。
あの世という解釈は間違っておらず、ここは来世を決めるための駅のような場所だと言う。
「実はあるゴジラの世界線が滅茶苦茶にされちゃって、君にはそれを正しい方向に修正して欲しいんだ!」
「世界線………どんな?」
「こんな」
「ん?」
どこから取り出したのか、ちびゴジラが出してきたのは一枚のタブレット。
そこにはYouTubeに上がっている動画。もっと言うと、違法アップロードされた映画が丸々1本。
「………「聖戦」だこれ」
「知ってるの?」
「ゴジラファンなら知らない人はいないよ、悪い意味で」
作品名を、ゴジラ・ジハード・オブ・タイタンズ。
一応ゴジラシリーズの一つではあるものの、レッドタートルラッキー財団という俗に言う左巻きの団体が製作に関与しており、そのイデオロギーを前面に押し出したが為にあまりに酷い内容となってしまった作品。
更にモンスターバースシリーズや
直接名前を言うのも虫酸が走るという事で、ファンの間では皮肉を込めて《聖戦》という渾名で呼ばれている。
………一応、当時の東宝・レジェンダリーの双方が不景気を理由にした酷い経営難に陥っており、藁をも掴む想いでレッドタートルラッキー財団の手を取ってしまったという点を付け加えておく。
「………まさか、僕の転生先って」
「そう、ここだよ!」
「ゼッテーやだ!!!!」
思わず大文字で拒否してしまう拓夫。
というのも、このジハード・オブ・タイタンズにはゴジラオタクであるレッドタートルラッキー財団代表のゴジラに対する(偏った)美学が反映されている。
具体的には、
①ネタに走らずノリ優先というオタク的価値観を全面的に排除する。
②核の権化、大いなる自然の力の象徴としての"GODZILLA"を描く。
③「ゴジラに立ち向かう人類」などというゴジラ打倒を正当化する為政者目線丸出しの発想を断じて許さない。
と言った所。
あのマイケル・ドハティでさえドン引きするレベルで人間に対して一切の容赦がなく、とどのつまり「大怪獣時代は
そんな世界に転生など真っ平ごめんな拓夫だが、"あの"ちびゴジラがそれを聞き入れるはずがない。
「じゃあ頑張ってね!!」
「次会ったらオキシジェンデストロイヤー浴びせてやる!!!!!」
否応なしに、拓夫は突如足元に開いた穴に落下してゆき再び意識を失った。その場には少しの静寂とちびゴジラ一匹が残された。
「………行っちゃったなぁ」
「いや、ちびゴジラが行かせたんだろ………」
「あ、ちびメカゴジラ!」
しみじみとしているちびゴジラにツッコミを入れたのは、ちびゴジラの親友にしてツッコミ役のちびメカゴジラ。
「仕方ないよ、"あれ"の存在はボク達にとっても脅威だからね!」
「まあ………元は誰かが個人で書いたネット上の二次創作だったのが、公式作品になるよう誰かが世界を歪めた結果、僕達や現実の世界を含めた色んな世界が崩壊しそうになってるからね」
「いわゆるバタフライエフェクトってやつだね!ほんと、自分の都合のいいように世界を書き換えるメアリー・スーはいい加減にして欲しいよね!」
「いやそれに関してはたった今僕達も人の事言えなくなったけどさ………というか、彼一人に任せて大丈夫かな」
「大丈夫だよ!ボクが保証するからね!」
「それが一番保証できねーんだよォ!!!!!!!」
ウェルカム怪獣島、レッツゴー異世界。
ちび怪獣達が暮らす怪獣島は、崩壊の危機にあるにも関わらず今日も平和であった。