転生したら黒歴史なゴジラ映画だった件について 作:アイアイホイホイおさるさん
………オーストラリアのモナーク前線基地にて、ある物資がテロリストによって強奪された。
それは一週間遅れで日本支部にも伝わったが、肝心の物資が何かまでは「防衛軍に奪われて怪獣撃滅に利用されると困る」としてモナークは報告を拒否。結果元より険悪だったモナークと防衛軍の両者の溝は一層深まった。
それからしばらく。
***
今日もまた、日本に恐るべき怪獣の危機が迫る。
神戸港に姿を現したのはキングジョー………ではなく、原始恐竜ゴロザウルス。ギガノトサウルスを祖に持つ巨大怪獣で、本来はギアナ高地に生息している。おそらく餌を求めて海を渡ってきたのだろう。
して、そんなゴロザウルスに立ち向かうべく現れたのは、NIGODが産んだ無敵のスーパーロボット・エヴァンゲリオン………
『ウォーバルガ、現着します!』
………ではなかった。
その名は「ギガンティックアンローダー・バルガ」。かつてある企業により巨大汎用人型重機として建造されたが、コスト面や安全性の問題が露呈し、開発が中断された苦い過去を持つ。
だがその性能の高さから細部を改造されて
タクオが乗っているのは対100m級怪獣のためにサイズアップして作られたもので、グレーのカラーリングの「ウォーバルガ」と呼ばれるバリエーション機だ。
「来い!怪獣!」
ゲゲェェーーン!!
ゴロザウルスが、その大きな口を開けて迫ってくる。
その鋼鉄をも噛み砕く顎を、ウォーバルガはそのクレーンのような両手で掴み、受け止める。
「パワーならこっちが上なんだよ!!」
ゲゲェェ!?
そしてウォーバルガは力に任せて、ゴロザウルスを海中に抑え込み、その顎を無理やり開く!
バキバキバキ!という不愉快な音が響き渡り、じたばたしていたゴロザウルスはやがて動きを止めた。ウォーバルガが立ち上がり、その足元の水面は赤く染まる。
海中に沈んだゴロザウルスの亡骸がどうなっているか等、引き上げなくても誰にもわかった。
「………あーあ、またバッシング記事書かれるんだろうなあ」
回収班を待ちながら、タクオはウォーバルガの周囲を羽虫のように飛ぶ報道ヘリを、恨めしげに見つめていた。
***
…………遠い宇宙から帰還したエヴァンゲリオンであるが、メカゴジラヴィーナスとの激闘もあり、戦闘はおろかまともに歩く事すら困難な程のダメージを負っていた。
しかし、記録されていた異星の技術………特にメカゴジラヴィーナスとの戦闘データは、雁夜に絶大なインスピレーションとそれを成す為の科学力を齎した。
雁夜は「これでようやくプロジェクトは完成するぞ!ヒヒヒヒ!」と研究室と工場に篭り切りになり、
「せめてエヴァF型でも用意しろってんだよ、まったく………」
愚痴りながらウォーバルガから降りてきたタクオは、今年15歳になった。中学最後の夏休みであるが怪獣は待ってはくれず、出撃に備えて遊びにも行けない日々が続いていた。
「お疲れ様、たっくん」
「あっ、雪江さん」
そんなタクオを迎えるのは、同じく業務中のわずかな休憩時間を見つけて会いに来た雪江女史。本人としては部活のマネージャーのような感覚だが、端から見れば息子を迎えるお母さんにしか見えないのは御愛嬌。
「まったく
「あら、いざとなればここにパイロットで雇ってもらったら?」
「だとしても最低でも高校は出ないと。それにパイロットだって安定した仕事じゃないよ。ゴジラが倒されたらお役御免なんだし」
前の人生で苦労したというのもあり、タクオは将来の事はちゃんと考えていた。某漫画家が「クズが異世界転生した所で幸せになれる訳が無い、クズに相応しい人生がもう一回あるだけ」と冷笑し吐き捨てていたのを知っていたが、少なくともタクオは自分はクズではないと自認して………もとい言い聞かせている。
それにこれは《聖戦》。いつ自分がヒーローの座から引きずり下ろされるかも分からない。
「まあ、いざとなったら私がたっくんを養っていけばいいし」
「………雪江さん、僕にも男のプライドはあるんですよ」
「あら?ベッドの上でママーって甘えてくれる人が言える事かしら?」
「それは………うう………」
そんな話をしながらNIGODの食堂で昼食を取っていた、その時。
『コニー・マツが現場より臨時報道をお送りします!たった今沖縄県が武装集団に占拠されました!』
『武装集団ではない、我々は「ネオ琉球」だ!!』
『きゃあっ!』
突然食堂に置かれたテレビに臨時報道が流れた。
そこでは普段、ゴジラをはじめとする様々な怪獣に関連したニュースをお届けしている女子アナが、スーツに身を包んだ血色の悪い壮年男性にマイクを奪われる様が映っていた。
『愚かな日本人どもに告ぐ、私はジョニー大藤!真の琉球人の志を継ぐ者である!!』
その「ジョニー
『米軍基地をはじめとする我々
今の今まで大人しくしていたが、まさかこのような暴挙に出るとは誰も思わなかっただろう。
銃を持った武装集団を従えての嫌にわざとらしい演説を前に、タクオも雪江も最初はたちの悪いドッキリか何かでは?と思った。が、直後慌ただしくなったNIGOD基地内を前に、それが現実に起こっている事件であると嫌でも自覚した。
***
沖縄米軍基地からの連絡が途絶えた直後に、武装組織ネオ琉球による声明が出た。日米間で交わされた様々な条約に従い、アメリカが軍を動かすには十分だった。
沖縄取り残された同胞たちを救うべく発進した米海軍艦隊は、今まさに沖縄本島を視界に捉えていた。
「あの提督、本当にいいんでしょうか?戦後こんな事を、しかも沖縄で行うなど………」
「構わん、もう総理から許可は得ている。それにこんな時の為の日米条約だろう」
米海軍艦隊を率いるこの男ガーノー提督は、こんな大変な時期に時代遅れの平和の祈りと正義の怒りを振り回し、世界情勢を混乱させんとするジョニー大藤の蛮行に怒りを募らせていた。
「人類が団結して怪獣に立ち向かわねばならない時代に、つくづく日本という国は、国民は一流なのに政治家は無能揃いだな………!」
加えて、娘の結婚式の準備に追われる中事件が起き、さっさと片付けたいという苛立ちもあった。彼自身アメリカの軍人として任務に従事する事の重要さは理解していたが、結婚式に出なかったダメな父親として娘に記憶される事だけは勘弁願いたかった。
「………時間です、提督」
「よし!作戦開始!!」
ガーノー提督の号令により、揚陸作戦が開始された。
陽動作戦のための戦闘ヘリが母艦から次々と飛び立ち、後に歩兵と
電撃強襲作戦により沖縄を一気に制圧する作戦だ。これはガーノー提督、というよりは米軍がネオ琉球を小規模なテロ組織だと考えていた事に由来するだろう。が、その希望的観測はすぐ覆る事になった。
「………提督、大変です!」
「どうした?」
「ソナーに反応!海中から何かが上がってきます!」
「何だとこんな時に!?」
直後水しぶきが上がり、沖縄を目指していた揚陸艇が吹き飛んだ。そして海中から現れたのは、獅子………もとい、沖縄の守護神たる神獣シーサーを思わせる風貌の巨大怪獣。
沖縄の伝説に伝わるその怪獣は、モナークの識別コードにより「キングシーサー」の名が与えられていた。長らく単なる伝説と思われていたそれは、現実の脅威として米海軍の前に立ちふさがった。
グルワァアアア!!
キングシーサーの100mの巨体は、それ自体が巨大な質量兵器。腕を振るい、足を振るい、海上を進む揚陸艇や戦闘ヘリを次々と破壊。沈めてゆく。
「て、提督!あれは………!」
「ハイパーメーサー砲射撃用意!ヤツを仕留めろ!!」
しかしガーノー提督は冷静な男だった。自身の部隊がたった一頭の怪獣により大損害を被ったにもかかわらず、次の手を打った。
ガーノー提督の乗る旗艦エンタープライズの砲塔が展開。巨大なパラボラアンテナが出現した。
………ここで、この世界で活躍している超兵器・メーサーについて解説しよう。
2016年に上陸した「シン・ゴジラ」は凍結・無力化され日本の管理下に置かれた。そこで日本はシン・ゴジラを徹底的に研究・解析した。
その過程でシン・ゴジラの放つ放射線流を分析し、兵器として再現しようとした結果生まれたのがメーサー。光線が稲妻状にうねるのはエネルギーの収縮が不完全である事が理由だ。
放射線流の再現はエヴァンゲリオンに搭載されたプロトンビームという形で一先ずの完成に漕ぎ着けたが、コスト面や技術的な部分から兵器=安定して生産・整備・配備が可能な工業機械として優れているのはメーサーだった。
そして日本の善意によりデータが世界中に共有された事により、防衛軍を中心に「対怪獣に限り使用を許可する」という国際条約の元、世界中で様々なバリエーションが開発・運用されている。
「ハイパーメーサー砲、角度調整!」
「エネルギー充填95%!」
「目標!前方獅子型怪獣!」
旗艦エンタープライズに搭載されたハイパーメーサー砲はそのバリエーションの一つ。大型化したパラボラを3つ連ねたサーチライトのような外観のそれは、共振により通常のメーサー砲の何倍もの威力を発揮する、いかにも
しかし、決してこれは見た目だけのハッタリ兵器ではない。現にニューギニアに現れた大型のスカルクローラーを30%の出力で一撃の元に焼き殺している。
「ハイパーメーサー砲………
ガーノー提督の号令により、ハイパーメーサー砲が発射された。ピャアァーーー!!と空を切り裂き飛ぶレモン色の破壊の稲妻は、それだけでボストンの一ヶ月の電力をフルで賄えるエネルギーの光だ。
これを受ければ次の瞬間にはキングシーサーはローストビーフになっていると、その場にいたガーノー提督や兵士たちは思った。
しかし、勝利の女神は二度にわたって彼らを裏切った。
「な、なんだアレは!?」
「光線を食ってる!?」
兵士達が驚愕する。放出されたハイパーメーサー砲の光はキングシーサーに直撃する一歩前で急停止。そしてキングシーサーの額の王冠のような角の宝玉の中へと吸い込まれ、消えてしまう。
呆然とする兵士達、そしてガーノー提督の眼前でキングシーサーがニヤけるようにグルルと唸ってみせる。そして次の瞬間、キングシーサーの宝玉が再び輝いた!
ばりばりばりっ!!
宝玉から光線が放たれた。と言うよりは、ハイパーメーサー砲を吸収し、倍にして反射したと言っていいだろう。
これはキングシーサーの持つ「プリズム光線」と呼ばれる能力。相手の光線を額の宝玉に吸収し、倍にして打ち返す技だ。
「わああ!」
「ぎゃああ!!」
倍になってきて帰ってきたハイパーメーサーは、米海軍艦隊を襲い、破壊し、蒸発させる。
ガーノー提督は自身が指揮する艦隊がこうもあっさり負けるという現実に何も言えないまま、プリズム光線を受けて蒸発した。
グルワァアアア!!
炎に包まれた沖縄の海で、
ハイビスカスの花が、再び沖縄に上がる戦火の炎を静かに見上げていた。