転生したら黒歴史なゴジラ映画だった件について 作:アイアイホイホイおさるさん
普通、こういった内乱の類に地球防衛軍が介入する事はない。彼らはあくまで"怪獣から地球を守るための軍隊"であり、国家間の戦争や内紛といった"人間同士の争い"には介入しないという国際条約による取り決めがある。
しかし、それに怪獣が絡んでいるのであれば話は別だ。
『琉球の守護者たるキングシーサーは我々の思うがままに戦ってくれる!これこそ我々ネオ琉球が琉球の後継者であり、絶対的な正義の証!大和人よ、即刻我々の独立と自治権を認め、琉球の国土と資源全てを我々の所有物と認めよ!猶予は一週間だ!もし拒む場合はキングシーサーが貴様ら大和人に鉄槌を下す!返答がない場合も同じと思え!!』
ましてや、このように怪獣を操っている事を大っぴらに演説に混ぜてきた、その上日本本土を襲わせようとしているのなら尚の事。
間もなくNIGODに出撃要請がかかり、エヴァンゲリオン………の代用機であるウォーバルガが輸送機しらさぎに空輸されながら、打倒ネオ琉球のために出撃する事になった。
「キングシーサーはビームを弾く、ならビームはおろか飛び道具すら持たないウォーバルガにはうってつけの相手か………でもあの運動性のキングシーサーを相手にするにはバルガは鈍足すぎる。どうすれば………」
愛機エヴァンゲリオンならもう少し戦えていたと思いながら、タクオはコックピット内で考えていた。米軍との戦いを見るに、キングシーサーは飛んだり跳ねたりの小回りの利く怪獣だ。対するウォーバルガは、パワーこそあれど鈍重な機体。
………そも、キングシーサーの出現についても不可解な点が多い。《聖戦》の原作にもキングシーサーは登場するが、金星人による侵略に呼応して目覚めるという内容。
しかしこのキングシーサーはむしろ侵略者側………国土の奪還という大義名分こそ掲げているものの、やっている事は不法占拠な上に怪獣を使ったテロをやっているネオ琉球の味方をし、彼等の沖縄県民に対する侵略行為を手助けしている。
一ゴジラファンとしてキングシーサーという怪獣の本質を知っているタクオからすれば、今回の事件は不可解な点だらけである。
「まあそもこれ《聖戦》なんだけど………おっと、見えてきたぞ」
そんな事を考えていると、ついに敵の姿が見えてきた。
青い空、白い雲、白い砂浜、青い海。それらと不釣り合いな黒い残骸と焼死体が広がる沖縄の地で、キングシーサーはウォーバルガの到着を待つかのように佇んでいた。
『ウォーバルガ、現着します!』
ワイヤーが切り離され、ウォーバルガがずしぃんと沖縄の地に降り立った。
敵の登場を前にキングシーサーは威嚇するようにグルルと唸る。相手も臨戦態勢である。
「考えるのは後だ!まずはこいつでお前を叩き潰してやる!」
ウォーバルガがバシンバシンと拳を叩き合わせる。動作確認は終了し、怪獣と巨大ロボットの激闘が始まろうとしていた。
グルガァ!!
まずキングシーサーが動いた。100mあるとはとても思えない身のこなしでウォーバルガに接近し、飛び蹴りの一撃!
「ぐっ!」
タクオの操作はなんとか間に合った。が、腕をクロスして防御態勢を取ったウォーバルガに炸裂したキングシーサーのキックは、ウォーバルガのコックピットを激しく揺らす。
グルァ!グガアアッ!
キングシーサーの追撃は止まらない。そのまま回し蹴りを二発、三発と炸裂させる。蹴りが決まる度にウォーバルガの装甲がガィン!ブッビガァン!と鳴る音が響き、重い機体がよろめく。
「この野郎ォ!!」
一方的に打ちのめされる事に苛立ちを覚えたタクオが、怒りのままに操縦桿を倒す。
ウォーバルガはキングシーサーの回し蹴りの一瞬の隙をつき、腕をハンマーのように振るい叩きつけんとする。数日前に仙台に現れたジャイアントタートルを一撃で沈めた必殺・ハンマーパンチ。直撃すればキングシーサーとてひとたまりもないだろう。
グルァ!!
「嘘ォ!?避けた!?」
しかしそんな事は他ならぬキングシーサー自身が知っている。ウォーバルガのハンマーパンチは虚しく宙を切り、その場にいたハズのキングシーサーは空中で一回転しながら、離れた地面に着地する。
………まるで牛若丸を相手にする武蔵坊弁慶だ。得意げに笑うように唸るキングシーサーを前に、タクオの額に汗が伝う。
「くそっ、エヴァンゲリオンならこんな奴………!」
同時に、自分がいかにエヴァンゲリオンのシンクロによる反応速度の速さに頼っていたかも、むざむざと突きつけられるようでもあった。
***
監視衛星からの中継で沖縄での戦いを見守る雪江は、キングシーサーにいいように手玉に取られるウォーバルガを前に、NIGOD指令室の巨大モニターの前で焦りにも苛立ちにも取れる表情を浮かべていた。
本来NIGODの総司令の立場は雁夜なのだが、彼が研究室に籠もりきりになってしまった為、代理として雪江が指揮を執っている。
「ああっ、もう!鬱陶しい事してくれるわねあの毛むくじゃら………!」
行き過ぎた公私混同はしない彼女であるが、愛するフィアンセを乗せたウォーバルガを嘲笑うように舞うキングシーサーの猛攻の前には、苛立ちを露わにして口調を荒げるのも無理はない。
なんとなく、運動会で我が子の活躍を邪魔するよその子に怒りを募らせる母親のようにも見えるが、気の所為だろう。
「旋回中のしらさぎによる援護射撃を!」
「了解、しらさぎに伝えます」
しかし司令官としての仕事はしっかりこなさなければならない。この状況を打開するための手は打つ。
しかし、相手は怪獣。怪獣とは常に人々の想像を超えてくるものだ。
「………はっ!司令官!しらさぎより伝達!上空より接近する敵影あり!」
「なんですって!?」
雪江に情報が伝わった直後、しらさぎの一機が上空から飛来した翼の一撃により破壊され、連絡が途絶えた。
***
………ばきゃん!!
上空から飛来した巨大な翼がウォーバルガを弾き飛ばした。バランスを崩して倒れるウォーバルガの前で、その黒い翼がキングシーサーの前に控えるかのように降り立つ。
カロロロロロロ!!
それは一見するとステルス戦闘機から変形したロボットの類に見えたが、開いた口から引く涎がそれがれっきとした地球の生物である事を物語っていた。
その怪獣の名は「ムートー」。モナークが最初に管理下に置いた怪獣であり、ゴジラが最初に人類の前に姿を現した際に交戦した記録の残る怪獣。50mの小型で空を飛ぶ様から、オスの個体である事がわかる。
「キングシーサーの次はムートーかよ!?くそおっ!!」
タクオは苛立ちながら、ウォーバルガをよろよろと立ち上がらせる。ムートーが威嚇するように翼を広げた瞬間、タクオは見た。ムートーの右腕の鎌に赤いエネルギーの光が見えた所を。
「(まずいっ!?ムートーの持つ能力は………!)」
ウォーバルガが立ち上がる。タクオは急ぐ。そもムートーという怪獣は、これが最初に監視下に置かれたからこそ人類が怪獣を危険視したと言える「ある能力」がある。
もしそれが発動すれば………ウォーバルガはムートーを先に潰そうとした。しかし、ムートーの光る赤い鎌は、裁判官の槌がごとく無慈悲に振り下ろされた。
ドゥッ………ン
瞬間、残った一機のしらさぎが落下し爆ぜた。ウォーバルガは糸が切れた人形のように機能を停止し、その場に崩れ落ちる。
………「電磁パルス」。ムートーの持つその能力は、電子機器を破壊し、その動きを止めるいわば「人類文明への特効兵器」。安い市販品かつ次の機体への"繋ぎ"として急遽用意したウォーバルガには、そのあらゆる機械を鉄屑に変える魔法の杖への対処は、残念ながらなかったのだ。
***
そこからはもう一方的だった。モニターの中でキングシーサーは動かなくなったウォーバルガをサッカーボールのように蹴飛ばし、その四肢を引き抜いてバラバラにしてしまった。
「ああっ!たっくん!!」
それを見せられる雪江はもう限界だった。そこに乗っているのは、深く愛し合い求め合った相手なのだ。司令官代理という立場上気丈に振る舞わなくてはならないが故に自分を律するにも限界があった。
「案ずるな!奴のバイタルサインは正常だ、死んではいない!ヒヒヒ!」
すると、そこに現れたのは、数ヶ月ぶりに出てきた雁夜。風呂にも入らず新型機開発に没頭していたのか、薄汚れていた。
「司令………」
「ヒヒ!こんな事もあろうと、せがれに生体反応を確認するバイタル発振器を取り付けておいてよかったぜ。新型機完成まではあと少し!それまで奴が頑張ってくれるのを祈ろう!ヒヒヒヒ!」
聞いている間その場にいる全員は唖然とした。雪江は無論、その場にいたNIGODの職員一同も、雁夜の言動が信じられなかった。
ロボットアニメの科学者としてはよくある言動であろうが、そこには現実の人間として………何よりタクオの父親としての視点や思いやりが欠如していた。
「………司令官、子供が心配じゃないんですか?」
「ンム?あいつはそう簡単にくたばるタマじゃない。それに今は新型機完成が最優先だ!ヒヒ!それに愛機を失って大ピンチ、ナイスな展開じゃないか!ここからの逆転劇が燃えるんだよ、ヒヒヒヒ!」
「貴方は………!」
聞いて雪江は怒りがこみ上がった。雁夜は仮にも息子であるタクオの心配などこれっぽっちもしていない。それ所か、敵地で機体を破壊されるという誰の目にも見て分かる危機に「ナイスな展開じゃないか」と宣ってしまう始末。
雪江は理解した。雁夜は、息子ですら「自分の思い描くスーパーロボット劇場を演じるキャラクター」としか見ていないのだと。
そして雪江は大人が故にそれ以上何も言わなかった。が、背を向けて開発工場に向かう雁夜を強く嫌悪した。
***
同じ頃、バラバラに解体されるバルガを前にして、自身の拠点の大モニターを前にしたジョニー大藤は狂喜乱舞していた。
ネオ琉球の指導者としての衣装………琉装紅型と呼ばれる琉球伝統の着物に身を包んだ姿であるが、端から見ればバカ殿の類にしか見えなかった。
「ははははどうだ!!大和人め!!これがネオ琉球の力だ!!正義だ!!思い切ったか!!はーはははは!!」
憎き本土人の開発したメカを己の怪獣で粉砕する快挙を前にしてひとしきり笑った後、ジョニー大藤は手元の宝箱のような機械を愛おしげに撫でた。
「はははっ、感謝するよ"Mr.A"………あんたがくれたこの
………オルカ。
それはモナークが開発した、元来怪獣を都市部から遠ざける為の機械。しかしそれを応用して怪獣のコントロールが可能という危険な機械でもある。故に防衛軍は怪獣対策を理由にした提供を呼びかけてはいるが、モナークは悪用を危惧し拒否し続けている。
そんな、オーストラリア支部から強奪された物資であるそれがここにあるのは、彼らネオ琉球に協力を申し出た「Mr.A」なる人物から提供されたからだ。同時にそれが、ジョニー大藤が武力蜂起するきっかけにもなった。
「代表、パイロットについてですが………」
「おお!捕らえたか!」
そしてジョニーがキングシーサーにウォーバルガの完全破壊を命じなかったのはパイロットであるタクオの捕獲が目的だ。
捕まえて人質にするのだ。日本を怪獣の脅威から守り続けていたヒーローだ、交渉材料としてはこれ以上ない人材だろう。だが。
「………居ないんです」
「何?」
「コックピットシートには誰も座っていないんです。空っぽ、との報告がありました」
「逃げたな………周囲に隠れている可能性がある!探させろ!」
「はっ!」
今まで事が思い通りに進んでいたジョニーは、初めて躓いた気持ちになった。しかし、若干の苛立ちを漏らしつつも部下に指令を下す姿からは、それでも最後は上手くいくという自信が見え隠れしていた。