転生したら黒歴史なゴジラ映画だった件について   作:アイアイホイホイおさるさん

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第2話

 ………ジハード・オブ・タイタンズ。

 と、一々長ったらしい正式名称で呼ぶのも面倒なので、ネット上で皮肉を込めて使われる本作への蔑称を取り、これを《聖戦》と呼ぶ事にする。

 

 さてこの《聖戦》には番外編の小説………と言ってもifなのか前日譚なのか分からないが、に登場する「雁夜慎吾(カリヤ・シンゴ)」という科学者がいる。

 日本のある名家のボンボンであり、後に対ゴジラ兵器開発計画の主任及び淡路島に拠点を置く国立ゴジラ淡路島研究センター・NIGODの所長を任される事になる天才科学者………なのだが、小汚いオタクっぽい外見から解る通り、趣向は変態・人格は最低と、人間的にはクズの部類に入る。

 

「ひひ、"ユイ"、俺とお前の息子がもうすぐ生まれるぜ………ひっ、ひひひ!」

 

 具体的な変態エピソードとしては、彼が理科教師としてある中学校で働いていた時の事。

 その"ユイ"という女子生徒に対して、修学旅行時に入浴に覗き行為を行った。雁夜は彼女に対して歪んだ愛情を向けており、その時に襲い掛かりつけられた歯型を、自分と彼女の愛の証しと信じて疑わない。

 更には今現在においても住所を把握しており、下着を盗む等の変態行為を繰り返しては、自身の名家の跡取りという立場とを利用した権力によるもみ消しを行っている。

 

「ひひっ!見てみろよユイ、目元なんか君そっくりだぜ………」

 

 そんな彼の欲望(あい)もついに来る所まで来た。

 今彼が地下の極秘ラボにてニチャニチャした顔で見つめているのは、某国が開発した人造人間を作るための人工子宮………有り体に言えば培養カプセル。

 本来超人兵士を作るために用意されたそれに、雁夜は自身の精子と、何処からか手に入れた"ユイ"の細胞から作った人工卵子を組み合わせた受精卵を入れて培養させていた。

 

「そして俺は生まれた子供を俺の作ったロボットに乗せ、ゴジラを倒させる!実に燃えるシチュエーションだと思わないか!?ひひっ!ひひひひ!」

 

 こっぴどく自分をフッた"ユイ"が自分にひれ伏し、詫びる様を妄想し変質者らしい不気味な笑みを浮かべる雁夜。

 

「ああっああ!ああーっ!ゴッ、ゴジラの死体の前で"ユイ"が全裸になってこの俺に詫びる瞬間はまだかっ?!こっ、今度は修学旅行の時みたいにしくじらないからなっ!そして次は二人目を作ろうなっ!ああっ!あっ!ああーっ!」

 

 妄想が最高潮に達し、手にした"ユイ"の写真(盗撮)をベロベロ舐めながら自慰行為を始める雁夜。

 しかし、彼は知らない。自分の願いは何一つ叶わない事を。番外小説の最後、この男はゴジラに踏み潰されて死ぬ事を。

 が、それはあくまで《聖戦》の原作の話だ。この瞬間、少しだけ運命の歯車に狂いが生じた。

 

 ………………原作である《聖戦》の番外小説にも、設定資料集にも、この"ユイと雁夜の息子"は存在しないのだから。

 

「(まじかー………僕の親父よりによってこいつかー………)」

 

 培養液の中で目覚めの時を待つ、「KARIYA TAKUO」と書かれたカプセルの中の人造人間。その器に宿った魂は、自身の父親の反吐の出るような様に酷く落ち込んだ。

 

 人間的な理由により結婚相手が見つからず、お見合いも相手側から断られ続けるという有様だった雁夜は、最後の手段として自身とユイのDNAを組み合わせたクローンを培養した。それが、「雁夜(カリヤ)タクオ」。こちら側での佐藤拓夫の新たな名前だ。

 しかしながら、一応の父親である雁夜はタクオにほとんど会わなかった。特典小説のあとがきにおいて「趣味しか興味のない図体だけ大きくなった幼稚な男=オタクとして雁夜を描いた」レッドタートルラッキーの代表は語っていたので、まあ「オタクに父親が務まるわけねえンですワ」という事だろう。

 

 ………まあタクオとしては、変な使命感で下手に関わられて過干渉毒親になられても困るから逆に助かってはいるが。

 

 して、そんなタクオは現在中学生。時系列は2017年。シン・ゴジラの一連の事件が解決した後で、ゴジラの被害から日本が立ち直ってきた辺りの所。そして、タクオがこちらで新しい人生を過ごし始めて14年の月日が流れた頃。

 雁夜が、今までタクオを遠方の親戚に預けて放置していた父親が、突然タクオを呼び出した。

 

 

 ***

 

 

「常々思うが露骨に母親に似せてんなぁこれ………」

 

 父である雁夜に呼び出されたタクオは、彼の仕事場であるNIGODのある淡路島にやってきていた。ミーンミーンと蝉が鳴く中、タクオは駅の窓に偶然映った自身の顔を見てつぶやく。

 どこからか入手した本来の主人公(ユイ)のDNAから作った卵子と雁夜の精子から生まれたとされる自分だが、こうして見ると母親の遺伝子を意図的に濃くしているというか、あの見るからにキモオタである雁夜からこんな美少年が生まれるワケがないと言える見た目。父親のDNAなど黒髪の部分にしか無いのでは?と思えるほどに。

 

「行くかぁ」

 

 そんな事を気にしても仕方ないタクオは、蝉の声を聞きながら駅の前に出た。その時。

 

 ………ドオッ、ン

 

 遠くで音がした。海の方から聞こえたそれは常人なら聞き慣れたもの。今は大怪獣時代。日本のような海に面した国では、海から来る怪獣に対処するため領海を対怪獣用の機雷で囲っている。怪獣が近くにいるという事自体日常の光景となって久しく、タクオも特に気にしない程度には慣れた光景となっていた。

 駅から見える海の彼方に豆粒のような水柱が見え、やられたかなと思った直後、タクオの前にバスが停車した。

 

「乗ります、乗りまーす」

 

 タクオが駆け込むようにNIGODに向かうバスに乗り込んだ後も、小さな水柱は遠方に立ち上がり続けた。そうしてバスが発進し、少ない客を乗せて走ってゆく。

 機雷の爆発音がバスの走行音で聞こえなくなり、タクオはある事を思い出した。

 

 ………雁夜が登場する《聖戦》の外伝のおおまかな流れは以下の通りである。

 対ゴジラ兵器を作り上げた雁夜は意気揚々と怪獣誘導装置(オルカ)を使いゴジラを呼び寄せ、自身の兵器と戦わせようとする。しかし、兵器に使われていたゴジラの同族の骨はそれを拒否して自爆。結果雁夜は上陸したゴジラにNIGODごと踏み潰される事になる………という話。

 

 記憶が確かなら、それは夏の出来事だったとタクオは記憶している。たしか、劇中で夏祭りのようなイベントをやっていたと。

 そして今もミンミンと蝉の鳴く夏であり、遠くには接近した怪獣による水柱。それってつまり………

 

「………あれ、これ詰んだ?」

 

 もし全てが原作通り進んだとしたら、その兵器に乗せられてゴジラに殺されるのは自分ではないか?と考えられる程度には、タクオも賢かった。

 だが既に乗ってしまったバスからは「次はNIGOD本部前」と聞こえてきていた。

 

 

 ***

 

 

 NIGOD本部には大きなモニターに何人ものオペレーターという、ロボットアニメで見たような光景が広がっていた。無論、このような絵面は現実的な組織の姿かと言われると疑問は残るが、兎に角目の前にあるものが現実である。

 

「目標、防衛ライン突破します!」

「迎撃システム作動!ヤツを近づけるな!」

 

 そして案の定このNIGODに迫る怪獣は機雷程度では止められないらしく、防衛戦力が迎撃に出ていた。

 して、そんなNIGODに連れてこられたタクオはと言うと。

 

「タクオ、エヴァに乗れ」

「やだ」

 

 父雁夜から案の定も案の定な台詞を言われていた。ただ違うのは、隣にエッチなお姉さんがいないという事だ。

 

「タクオ、また逃げるのか?」

「何からも逃げてないよ僕は」

 

 そんなタクオと雁夜の背後に立つのは、何を隠そうメカゴジラ………ではない。シン・ゴジラのメディアミックスで共演してから何かと組む事が多い、腐れ縁とでも言うべきかの汎用人型決戦兵器エヴァンゲリオン初号機!

 ………なのだが、そのボディは鈍いシルバーに塗られており、エヴァの象徴でもあるアンビリカルケーブルも無い。

 おそらくエヴァンゲリオンだというのは名前と見た目だけであり、その実態は雁夜が最終的に作ろうとしている対ゴジラ兵器=メカゴジラのプロトタイプの一体という事なのだろう。それを表すかのように、その外見は"ゴジエヴァ"で出た「エヴァンゲリオン初号機 メカゴジラカラー Ver.」に瓜二つである。

 

「む、息子よっ!父さんは情けないぞ!!こういう時男なら誰かのために立ち上がるのがロボットアニメでの常ではないのか!?兜甲児やアムロ・レイ、流竜馬という熱い男の魂を知らないのか!?」

「現代の基準ではそれ少年兵っつーんだよクソジジィィ!!つーかそれらと対極にいる主人公の乗るメカ作っといて都合よくロボットアニメの権威にすがるなァァ!!」

 

 すがる父親をゲシゲシと蹴り飛ばすタクオ。何だかんだいいつつ付き合いも長く、どういう対応や態度で接するべきかは経験で学んでいる。

 

「それにゴジラと戦わされるなんて僕は御免だぞ!初陣なんだぞ!勝ち目無いだろ!!」

 

 何より相手がゴジラだとすれば尚の事「ノー」一択である。本家本元のエヴァでも勝てるかどうか怪しいのに、未完成試作機のメカゴエヴァで行けと言われて行く奴がどこにいるのだという話である。

 

「怪獣、浮上します!」

 

 そんなタクオに追い打ちをかけるかのように、モニターに今淡路島を襲撃している怪獣の姿が映し出された。海を割り上陸するその姿は、太古の肉食恐竜を思わせる外見に、背中に並んだ剣のような背びれ。そう、それはまさしくゴジラ………

 

「………ジラだね」

「………ジラだ」

 

 ………ではなかった。喉にトゲがあればゴジラだったかも知れないが、それには無い。単に貶める為だけに作られたCGと同じのっぺりした外見のそれは強足怪獣ジラ以外の何者でもなかった。

 

「父さん」

「何だ?」

「乗ります」

「現金だなあ」

 

 ゴジラと戦わされると思い拒否を繰り返していたタクオであるが、相手がジラなら勝つ気も湧いてくるという物である。

 

 

 ***

 

 

 バタフライエフェクトという言葉がある。ある場所での蝶の羽ばたく風が台風に影響を与えているという話だ。おそらくこれも、タクオという転生者(イレギュラー)の登場によるバタフライエフェクトだろう。本来の物語では千葉の銚子漁港を襲うハズだったジラが淡路島へと上陸した。

 

 アェエエーーーン!!

 

 ジラはゴジラに似た特徴・声を持つが生物学的には全くの別種。その起源は核による変異という共通項こそあるものの、イグアナからミミズトカゲまで多岐に渡り、それがゴジラに似た姿に進化する事から恐竜をはじめとする全ての爬虫類の原点にゴジラが関わっているのではないか?という学説もある。

 そんなジラが淡路島に現れたのは産卵の為だ。単体で生殖するジラからすれば、すぐ近くに海のある陸地である淡路島のような場所は都合がいいのだ。

 だが、そんなジラの前に立ちふさがる影が一つ。

 

『淡路SA上り下り及びハイウェイオアシス閉鎖!エヴァンゲリオン発進!!』

 

 ズシンズシンと大地を震わせ走ってきた銀の機体。100m級のジラと対峙する80mの巨体を持つそれは、他ならぬタクオのエヴァンゲリオンである!

 

「下手な所まで原作再現してるんだから!あのクソ親父は!!」

 

 ここら辺も《巨神》のアレな所だろう。何のひねりもなくまんま用意されたエヴァのコックピットと神経接続(シンクロ)による操縦システムで愛機を操りながら、タクオはエヴァンゲリオンをジラに向けて突撃させる。

 

 アェエエーーーン!!

 

 ジラの背鰭が一瞬光ったかと思うと、エヴァンゲリオンに向けて口からオレンジ色の炎が吹きかけられた。パワーブレスとも呼ばれる、強酸を含んだ放射火炎である。

 しかしそれが何のその。ジラの炎ではエヴァンゲリオンの装甲を溶かすまでもいかない。

 

「おらあああ!!」

 アェエエーーーン!!

 

 エヴァンゲリオンの肩のウェポンラックから取り出したパレットライフルがジラに向けて掃射される。毎秒何百発も撃ち出される。レールガン方式で放たれる劣化ウラニウムパレット弾はジラの体表を穿ち、貫き、真っ赤な血の花を淡路の街に咲かせた。

 

 アエエ………アッ………

 

 事切れる寸前、ジラは自身の腹を見た。これから生まれてくるハズだった子供達。もう助からない子供達に詫びるように悲しく泣いた後、ジラはズウンッとゆっくりと倒れた。

 そしてタクオは見た。ジラの瞳から光が消えるのを。ジラもただ生きたかっただけであり、多くの人命を守るためとはいえそれを踏みにじったのだという事実を、ジラの亡骸はタクオに突きつけた。

 

「………転生者は他者の人生を踏みにじる悪魔、か。へっ、その通りだよ逆張りオタクさん」

 

 司令室でキャッキャと騒いでいる父・雁夜と反比例するように、タクオは初勝利を冷めた顔で味わっていた。そこに戦いの高揚感も熱い男の魂もなく、ただ命の奪い合いがあるだけだという事をタクオはこの一瞬で学んだからだ。

 それを考えるとタクオはとてもじゃないが「やっぱマグロ食っているようなのはダメだな」なんて言う気にはなれなかった。本当にダメなのは、怪獣の命よりも強い弱いしか目に入らない俺達じゃないか、と。

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