目が覚めるとそこは雑に教室を広くしたようなそんなただ広い空間があった。
「私の名前は、エミコ」
確認をする、頭は分かってるのにこうしてしまうのは生前の癖だからか。
体を起こし頭をさすりながら記憶を想起する。
「確か…」
保健室で目覚めた私は、武器がある準備室に行って、そしたらそこが沈むような感覚と一緒に溺れるように気を失ったんだ。
―――もう一度周りを見渡す。
机や椅子などを雑にバラバラしたようなものが大量にあり、窓にはただペンキで塗ったような青がある。
誰もいない空間。
と思考がそうシフトし、瞼を閉じた時。
「目覚めたか?」
軽い口調でなんとも言えない無機質のようなでも溢れる邪悪さを隠しきれない声が響いた
目を開け、焼き付けるように奴を見る、視る、みた。
「お前は……神!!」
怒りとどうしようもない虚しさと一緒に涙を流しそうになる心を閉じるように叫んだ。
それでも奴は―――。
「久しぶり」と友人に挨拶をするように話すのだった。
*
「なんで…すか?」
今更だと思いつつも問う、答えが答えでないなんて分かるのに…だ。
「さぁね、私はただ私というものを真っ当に、至極真っ当に生きてるだけさ」
冷たい感覚を探るが見当たらない。
「これ?」
その疑問を解決するように奴はただ少し笑って銃をぶらぶらと見せつけるように私にみせた。
「はぁ……このピストルねぇ」
ため息をつく……前々から気に入らないと思ってたのだろうか?それともいい思い出がないのか?
「昔の愛銃を使うのは理解出来るけど…今は昔と違って1発も当たらない腕前じゃないでしょ?」
古い友人に話しかけるように軽々しく、いっそ軽快な程話す。
―――気が紛れる、迷うな…奴はただの敵だ。
「ほいっ」
軽々と、奴は銃を投げる……自分がこの銃で攻撃されても意味が無いと言ってるようなものか?
考えすぎかもしれないがコイツを相手に考えすぎを辞める方が愚かだ。
「そう睨みつけるなよ?」
―――本当に頭が痛くなるほど軽々しい神だ。
なんで今更会話なんてしようと思ったんだろうか?
神は……嫌いだ、私に『無限の1日』を取り付けそれに気づいた時に全て嗤い去って消えてから。
でもあの時、あの時の一瞬の……本当の神様のような優しさが、どうしても心に刺さって抜けないのだ。
「なんで――」
絞るように、滲む、眼を開け問う。
信じてた、信じてたはず、そう、そうだった。
この体は確かに……私が望んだものだった。
それを与えた神が眩しく映る程に。
「まだ分からないのか?」
心底呆れたように、馬鹿の生徒に言い聞かせるように、優しく答える。
「なんで?とかどうして?とかもう聞き飽きたんだ」
「何回も説明してるのにそれを飲み込めず一瞬の情に縋って、縋って、擦り切れるまで縋り続けるお前達には飽きたよ」
「ならどうして今更会話なんてしようとしたんすか!!」
思わず声をはりあげて叫ぶ。
はァとつまらなさそうに息を吐き嫌々と言った感じで話す。
「客が来たんだよ、知らない?会ってない?」
―――知らない、誰のことだ?起きて、保健室から出た時には誰も来なかった…もしかして準備室に居る時に誰かが来たのか…?
?で埋め尽くされそうになる頭を必死で回し言葉を探す。
でも結局その誰かは頭には居なかった。
―――どうしようもない。
何回も話して、会話して、理解してみようと、理解さえできると思えた。
でも結局神の言ってる言葉は理解出来なかった。
それは人の神の違いなのか、それとも価値の尺度の違いなのか、染み付いたこの時間の感覚は何も答えない。
「やっぱり…こうなるんすね」
「それはエミコ……君の選択だろ?」
冷たい金属の感触を握り、確かめて。
目の前にいる『敵』を見据えた。
*
覚悟なんて曖昧なものを決め、足を軽くし走る!走る!
まるで一種のアニメーションの冗談のように近くにある机達が悲鳴をあげる。
それに対して神はあまり興味を示さないように応える。
「はい」
瞬間吹き荒れる風のような何が体を劈くように切り裂く。
――傷はない、ただ塊のようなものをぶつけられる感触がする。
「んんん!!」
踏ん張るように足に力を込めるがそれも長くは持たない。
奴はただ左手を私にかざして一言呟いただけだ。
「つまり」「分かってるんだ?」
神には……勝てない。
絶望思想になりかけるが、神には勝てないだけだ。
まだもうちょっと力を込めて頑張れば勝てないけどなにか掴めるかもしれない。
「はァ――あんまり好きじゃないんだけどね」
左手をかざしたまま神は右手になにか……いや銃を持つ。
構えた、今これに固定されるように踏ん張っては蜂の巣になるのは想像に難くない。
「うぎゃぁぁぁぁああああ!?」
銃を撃たれる前に自分からぶっ飛ばされるように力を抜いた。
左右感覚がぐちゃぐちゃになって上下さえも分からない、今分かってるのはどうやら遠く上空にぶっ飛ばさているということだけ。
状況の確認は終わった。
思考は防御へとシストする……つまり受け身だ!
「へぶぅ!?」
……上空からの受け身は上手く出来なかったが舌を噛みちぎらかったと考えれば御の字だろう。
――――銃口が、みえた。
「ばん」
「ーーーーー!!!!!」
ゴロゴロと惨めに転がる。
「ぃ」
少し……遅かった、少しだけ銃弾を食らった…弱い身体ではない、でもこんなにも痛みを感じる。
撃たれたところを触って確認する…血は出てない。
大丈夫、大丈夫、まだ大丈夫。
痛みを誤魔化すように自己暗示をし、目を前の脅威を対処する。
「おー叫ばなくなってる」
本当に……軽々しい神だ。
現実に身体を持っていけたらこんな銃など多分何発も食らっても痛くはない……はずだがこんなにも痛みを感じるのには理由がある。
簡単だ、ここは神が作った世界、銃弾1発も向こうの比ではない火力だと言うことだ。
「本当に馬鹿らしい火力っす」
忌々しげに言葉を吐き捨てる、実際そんなことしてる暇などないのだがそんなことに思考を割かないと痛みでどうかしそうだ。
「それはそっちもおあいこでしょ?本当に馬鹿らしい程の体だね」
―――痛み関係なしにこの神に毒を吐き散らしそうになったがここは抑えた。
こっちはやっすいピストル1本、向こうは火力が馬鹿みたいなサブマシンガン。
武器性能では圧倒的にこっちが不利、そして向こうはさらに謎の力を使う。
―――だけどこの体なら隙さえみえたなら勝機はあるはずだ。
「―――ふぅ」
息を吐き、思考を切り替えていく。
―――まだまだここからだ。
ここは雑に広がったような教室。
机などはこれまた雑にバラバラに積み上がってるものであり、窓は青いペンキで塗ったような外しかない。
相手を出し抜くためにはどうすべきか?
まず一直線に突き進んでも、相手は風のようなものを起こし、私を固定し銃で撃つだろう
これではさっきの二の舞だ。
では近くにある机などを使って隙を作るのは?
これもダメだ風でどうせ吹き飛ぶ、神がそこを考慮してないわけがない。
よってこれもダメだ。
ではどうするか?
答えは簡単、神は風を使って周りを吹き荒らす。
なら風を無効にできるものさえ使えれば意味は無い。
ではでは風を無効にするものとは?
―――それは。
「決まったっす」「―――へぇ」
銃弾を避けながら考えを決めた私とそれを察知したのか笑う神。
上を見る……行けそうだ。
まだ憶測を超えないが、確かめて行けるならこの方法で行くしかない。
静かに選択をし…まずは椅子を掴んだ。
投げられた椅子は上空を駆け、神へと身を焦がしたようにぶち当たりにいく。
それを。
「邪魔」
と神は一線する。
手をかざし、暴風のようなものが吹き荒れる。
椅子は虚しくも神へは届かずひゃげるように地に落ちた。
「で?」
「ここから……す!!」
銃をポッケに突っ込み、走り出す。
椅子、机、とにかくなんでも神の方に投げる。
「はぁ……」
落胆するように神はゆらゆらと手をかざしものを吹き飛ばす。
―――神は今、私を注視してない。
この瞬間、私を目を離したこの瞬間にここまで着けた……私の勝ちだ。
最初に話したがここは雑に広がった教室のようなものだ。
そして教室にあるものと言えば……だ。
気づいたようだが遅い。
神は頭上を覆う影を見て嗤い、応えるように叫んだ。
「―――そう来たか!」「黒板っすぅううううう!!!!」
10m以上はある黒板を机を踏み台にし持ち上げながらのジャンプ。
押し潰すように神へとダイブした。
地響きのような音がした。
神の姿は見えない…この質量で押し潰すことに成功したのか?
「はは…勝ったんすか?私」
思わず少し笑ってしまう…嬉しい、嬉しいはずなのに、胸が痛む…何故だろう?とんでもなく悪い悪党を倒したのに―――。
黒板を持ち上げた時に傷んだ体がギャーギャーと騒ぎ出してるはずなのに全く感覚がない。
「虚しい」
思わず漏れたそれは…本心だった。
確かに神はどうしようもなかった、やったことは悪で、度が過ぎてる程の邪悪。
でもそれでも最初の…あの、あの優しい言葉が忘れない。
「君は……あぁそうだな、少し混乱してるか?………少し座ってみなよ。君、随分と疲れた顔してる」
昔の言葉を思い出す……本当に昔の言葉だ。
いつの間にか忘れてもおかしくないはずなのに、何故か覚えたままずっと長い年月を過ごした。
「なんで―――」
また同じ問いをする答える人を失った問いを。
何度も神は答えた…何度も、それでも問いをし続けたのはそれでも信じたかったのか?認めたくなかったのか?
どちらとも一緒だ、私はこのまま…ここで―――。
「馬鹿な話だな」
*
「かっ…ぁ」
苦しい、何があった?
首が締まって、締まって何もなにも何が?
何があ―――。
「酷く馬鹿な生命だ…何度も抗って、それで得た答えがそれか」
「か………み?」
「そうだよ、お前が最後まで信じてしまってた神だ」
今更気づく、私、首を締められてる。
「今更バタバタと動かしても意味が無いんだよ」
ぁ…駄目だ、ダメだ、だめだ、これは―――
「それじゃ、貰おうか…『願い』を」
「なんで…」「その問いをする前に、お前は自分の頭の悪さと罪を自覚するんだな」
体にだんだん力が無くなる、バタバタと生存本能に従って動いてる手足がゆっくり、死ぬように動かなくなる。
「やめて―――」
「知るか」
無くなる、失くなる、亡くなる、私の身体が。
―――願いが。
ゆっくり、じっくり、飲み込むように、溶かすように、咀嚼するように。
「誰か……助けて」
「受け入れろよ、これがお前の運命だ」
視界が暗転しそうになる、カチカチとチカチカと視点が、目が眩みそうに―――。
"エミコ!!"
弾けて崩れゆく視界の中、最後に聞こえた声は―――。