先生は塞翁が馬という言葉を知っているかな?   作:ミサキル

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名前

ぐちゃりと肉を潰したような気持ち悪い音となんとも言えない骨が折れたような音ががした。

 

"せい"「邪魔」

 

セイアを心配するように先に神は拳をぶつけたセイアに対して突き上げるように腹に拳を突き刺した。

 

「う」

 

セイアは言葉も吐くことすら出来ずただ上にぶっ飛ばされた。

 

―――今までの攻防はなんだったのか?

 

まるでお遊戯を終わらせるようにつまらない表情をする神。

部屋が悲鳴を上げる声を聞きながら絶望という言葉が侵食するように、足音を立てた。

 

"今までは…?"

 

ただ、疑問をつく。

それに神はただ単純にシンプルに答える。

 

「遊びだけど?」

 

足の力が抜けてくる。

何とか出来る……そう見えていた。

無敵だったけど攻撃は出来ていたし、余裕のなさそうな瞬間もあった。

でもそんなのはただ見せかけの希望で、実際はただの余興だった。

硬いものが壊れるぐちゃなんて音を聞く振り向くと真っ赤なセイアが転がってた。

セイアが転がってたんだ。

 

「本当に馬鹿なヤツだな、人間みんなこうなのか?」

 

淡々と語る神の声は透明でなんの色も持たなかっただからこそだろうか。

無色透明なその声で、全て写すくせに色を持たない透明な声が。

 

――今はとんでもなく頭を冷やしていった。

 

神に飛びかかるなんてことを思考する沸騰した頭が絶望という水をぶっかけられ、冷静になる。

その冷静な思考はただ冷静に言った。

 

"この絵画、そんなに大事なのか?"

「あぁ…そうだよ」

 

答えは簡潔で、まるでその情報を与えることぐらいははした金にもならないと言った様子だった。

 

"なんで?"

「答える義務が私にあると思うのか?」

 

全く面白くないように、神は答える。

ため息をつき、面白くなさそうに話した。

 

「先生、自殺をしろ」

 

簡潔に、簡単に、それで言って絶望的な程にまで神は一言命じた。

 

"なんで…"

 

無気力な私に視線を合わせるように、しゃがみ神は話し始める。

 

「何となく分かってた、先生…君はもしかしたらここでループした可能性があるってな」

 

推理を披露する探偵のように、されど淡々と話す。

 

「あの外皮に配置した包囲網を1人で突破したとは考えにくい、だからと言って協力者のエミコはもう居ない…ならまぁ結論は1つだ」

「一度ここまで先生は来てループしたってな」

「……ここで巻き戻ったらまた先生はシャーレから、私は黒い空間からだ」

「こんな終いはお互いにとって面白くない」

 

まるでゲームマスターのように、あんまりにも軽々しい口で話す。

 

「だから、先生…君の手で決めてくれ」

「私に殺されるか、ここで死ぬか」

 

嗤ったりそんなことはしなかった…本当に面白くない結末だと思ってるのだろう、ただ無感情なまま神は話す。

 

「そうすれば……またそこに転がってる彼女と一緒に勝てるかもよ?」

 

最悪だ。

本当に最悪だ、今まで見せられたものが余興で、しかももしかしたら勝てるなんて煽られるなんて。

勝てるわけないなんて分かってる、でもこのまま、このまま繰り返すだけじゃダメだ。

何か…何かあったはずなんだ。

何か少しでも掴める手綱があったはずなんだ。

繰り返すのはいいがこのまま繰り返すだけなんてみっともなさすぎる。

エミコは倒れた、セイアは血まみれだ、それでもと思うなら。

何か―――

 

"あ"「あ?」

 

不意にでた言葉、それが何を意味するなんて全く分からない。

ただ…このままだとダメだという反骨心に沿ってただ呟いた。

 

"「神は神であることが神たる所以であり、故にその玉座かは引き摺り堕ろすことが」"

「!?」

 

言葉に反応する神は今の時には絶望的なほど遅い。

反応してしまった時点で負けなのだ。

人は…人とは何か絶望した時、諦めたそうになった時ほど何か希望というものを探してしまう生き物である。

それは死であったり、それは夢であったり…今回はその反応だった。

最善では無いが最悪は引かなかった。

 

 

「そう…言う……ことか」

 

血を吐くように呟いた声に気付く、振り向くとセイアが倒れながら必死に息をしていた。

 

"セイア!"「そうはさせるか!」

 

セイアの方へと走る私に向け、瞬間移動で目の前に現れ拳を叩き込もうとする神。

もうそれが神が追い詰められてたという証明だと言うことが神にはわかってただろうか?

 

"まだだ…まだ!"

 

まだ最悪は引いてない、まだコンテニューには速い。

まだ絶望するには速すぎた。

最善策は閃かないし、ここから打破する秘策も思いつかないけど。

 

諦めたくはなかった。

 

拳が振り抜かれるのは確定事項、もう既に防ぐ術は無い。

なら思考のレールを変更する。

 

"ぐ…"

 

鉄球が豪速球で飛んできたような硬く、刺さるような拳がヒットする。

振り抜かれた拳の威力でそのまま上空へとぶっ飛ばされるが。

 

"こ…てい"

 

最初からぶっ飛ばされるのと認識していれば覚悟はできる、そして覚悟したものにはその次の瞬間の対策という蜜が与えられる。

 

「な!?」

 

驚く神をそのままに固定を解除、ストンと重力に引っ張られて落ちる。

痛い…痛いが死ぬわけでも死んでる訳でもない、まだ足は動けるし口からは血が出てるけど貧血になってる訳じゃない。

まだ動けるなら可能性がある。

驚いて固まってた神を通り過ぎ、セイアの元へ走る。

あと10m、近いはずなのにとんでもなく遠く感じる。

 

「せん、」

 

言葉を発しようとしたセイアに呼応するように神の方向へと向くと。

神がピストルを向けていた。

意識される前に撃てばいいと考えていたと思っていたのか?

だがそれもセイアの言葉で意味がない。

 

「ダメ元だ」

 

銃撃されるその1歩手前で。

 

"アロナ!"

 

叫ぶ。

 

それしか生存の道は無いと示されたのならそれに縋るしかないだろう。

金属がひゃげる音と共にピストルは壊れる。

チッと苛立ちを抑えるように舌打ちをする神を横目に。

 

"セイア!"

「先生……」

 

なんとかセイアを抱きかかえた。

抱きかかえたセイアは熱く、命の熱を感じた。

―――まだ生きてる。

 

「先生…神は」

 

喋ろうとするセイアを制ししようとするが逆に制される。

 

「言わせて…くれ」

 

息も上手く出来そうな感じはしない、今にも死にかけで瀕死という言葉が合う。

命の灯りは死んでしまいそうで、怖く、思わず強く抱き締めてしまう。

 

「心配しなくても…大丈夫だ」

 

私の様子を見て、情報よりも先に不安を解いた方がいいと考えたんだろうか、セイアは優しく母のように語りかけるように話す。

 

「ここでは死なない、死は許されない」

"セイアそれって…"

 

セイアはただ笑った、優しく…もうそれでさっきの解をしたと言わんばかりに。

 

「先生…神は、かみは」

 

ゆっくりと意識もだんだん眩んできてるのかゆっくりと話す。

最後の一息にのせるように。

 

「『神は神なんかじゃないただの詐欺師だ』」

 

そう言い残し、瞼を閉じた。

 

 

最悪な状況というのはこういうことを言うのだろうか?

セイアは黙らせることに成功したようだがあの様子だと逆効果だ。

目の前の男はセイアを床へ置きユラユラと揺れるように立ち上がる。

 

"神…君は"

「みなまで言うなよ、なんて考えているのか分からないが、まぁ大方予想はつく」

 

もう既に私の『カラクリ』は解けてる。

だいたいループの願いと要らん情報を遺した2番目のやつのせいだろう。

 

―――それ以外だと■■しか有り得ない

 

「あ?」

 

なにか、ノイズが走る。

知りはしない、知りえることはない。

消えることはない、消えないことはない。

 

「そんなのいいだろ」

 

ただ笑って、相手を視た。

お望み通りの結末、誰一人お前には居ない。

それでいい、それでもいいのだと……私は確かにあの時思ったのだ。

 

ここはもう危ない、消えかかってた不安定な椅子が不安だが…まぁいいだろう。

 

「君の好きな、ラスボス戦だろ?」

「笑えよ」

 

こんなちっぽけな話ししか出来ない自分に苛立ちを覚えそうだ。

全くもって私は完璧じゃないらしい。

ただ…倒れるのはまだ速い。

まだ『準備』が出来てない。

まだ願いを叶えるためには『準備』が出来てない。空間を仕切り、記憶を反芻、投影するその準備が。

 

"そろそろ行くよ"

 

まるで覚悟の決まったヒーローのような顔しやがって、その傲慢さが本当に気に食わない。

 

「本当に、馬鹿な話だな」

 

誰にも聞こえないような微かな声でそう呟いた。

 

 

神は神ではない。

それは何か?

冷静なほどクリアになってくる思考がその問いに答えた。

結論から先に言うと神は神という存在そのものではなく、神の名を騙る別のナニカということだ。

このこと自体はなんとなく察していたが、これをもう1つの事象と紐付けると見えるものがある。

神隠しだ。

神隠しの条件、それは良く分からないが願いと言った神と日記、それを考えると願いが何らかのトリガーになってることは明白だ。

―――エミコは神に願った。そうしてここで望んだ体を手に入れた。

でもだ…神が神ではないとしたらなら。

いやもっと簡潔に言うとだ。

エミコが願ったのは『神』であってこの神を騙るナニカじゃない。

 

"お前の名を暴けば、その神の座から堕ろせる!"

 

あのメモの内容はそう言うことだったのだ。

もっともっと別のナニカ、神という名を騙るだけの怪物。

神という者に願った、願いの精神に相乗りし、巣食って、願いを叶えるという名の元、神隠しを起こす全く別のナニカ。

それが。

 

"お前の正体だ"

「探偵気取りかよ」

 

名を暴く、そうすれば神という座から堕ろせれる。

 

"名前は!"「言うわけないだろ!」

 

瞬間移動からの鉄拳だがこれもパターンを掴めれば何とか対応できる。

鉄拳は少しラグがあり、瞬間移動に合わせるように飛び、神からの攻撃を避ければ―――!!

 

"まっだ!まだ行ける!”

「さっさと倒れてくれ」

 

名前、記憶の回廊であるここならば神の記憶もあるはずだ、だとすると神の名を記している可能性があるのは。

 

"絵画だ!"

 

この無数ある中から神の名がある絵画を見つける……そうすれば神の名を暴けるはず。

……暴いてどうなるかはその時に考えればいい。

 

「そう簡単に事を運ばせるほど甘くないんでね」

 

フッと目の前から消える。

 

うし―――"いや上か!"

 

ご名答とばかりに拳をぶつけようとする。

避けれない今1発喰らえれば絶対に気絶する。

と思うがそこまで神は多分考えてるならばここは。

 

"わざと喰らう!"

「ぐ」

 

拳は額を擦るように流れる。

部屋が悲鳴を上げるが、ここは頑丈らしい、まだ耐えてる。

 

「厄介な……厄介な敵だ」

"殺してみろよ"

「殺してやりたいね、その顔を穿って」

 

殺すとループを発動されて神が不利になる…神は私をぶっ飛ばして別空間に隔離するか、私に宿ってるループを取り除くしか勝ち目はない。

先ほどまでの何も知り切れない状態とは違い、今は微かだが知っていることがある。

……それを神は許さない。

戦況は有利だが、まだ神のことは分からないことが多い、油断は禁物だ。

ここでループする選択もあるが、セイア関連のことが分からない……次、セイアは来るのか?

まだそこも不透明だ。

だけど……勝ち目が見えた。

 

強がりでもニヤリと笑って。

 

"反撃開始だ"

 

ここからの最終決戦に狼煙を上げたのだった。

 

 

とは言ったもののだ。

 

"ぐああああああああああぁぁぁ!?"

 

基本的に身体能力が化け物の神相手に逃げながら名を探すという無理ゲーは厳しい。

今も何回もされている空中浮遊をしているところだ。

 

"こっ……定!"

 

必死に脳に形を教え込むように叫びながら体を固定する。

空中で蜘蛛の糸に引っかかった虫みたいに急停止した私を見ながら。

 

「さすがに慣れたか」

 

と余裕な感じを醸し出してる神にさすがに怒りたいが、怒ったとしても状況は変わらない。

固定を解除し、着地寸前でまた固定、こでやっと地上に足を付けられるのだが。

 

"見逃すわけないよねぇ!?"

 

フリスビーのようにぶん投げられる絵画を必死に横飛びで避ける。

こんな調子だと絵画をみる時間もない。

さっき投げれた絵画も誰かと誰かが仲良く喋ってるだけの絵画だ。

 

"このままじゃ"

 

焦る、焦ってしまうこのまま神の妨害でまともに見れないまま体力勝負で負けるのはダメだ。

だと言って何をすればいいのか問われると何も答えられないのが不味いのだが。

 

「そろそろ諦めたら?」

 

さっきから全く同じ質問をしやがって……

 

"いいや諦めないね"

 

まだ余裕だと言わんばかりにニヤリと笑って答える。

 

「威勢はいいな」

 

その諦めない表情に少し思うところがあるのか苦い表情をする神。

鼻をかすめるこの劣悪な空気、最底辺な戦いはまだ終わってない。

勝ち目を探すなら……目を凝らすしかない。

 

”―――ッ!!”

 

避ける私と、それを追うように駆ける神。

一方的なワンサイドゲームだが、たった1つのチャンスで全てが瓦解する。

 

"これも……違う!"

 

必死に絵画を、名を探しながら神の攻撃を避ける。

 

"これは……エミコ!?"

 

上から降ってくる椅子を転がって避けるようにしながら見つけた絵画はエミコと緑髪の誰かがヘッドホンを探してる様子の絵。

多分……日記にあった舎弟のミトとの買い物のシーンだろう。

 

"微笑ましいけど今は関係ない!"

 

他にも誰かが花火大会に行って遊んでる一コマを切り取ったような絵画。

 

なにかの武器の絵画。

 

カーテンが開いた部屋とカーテンを開けたと思わしき誰かの絵画。

 

誰かを突き飛ばしてしまった絵画。

 

誰かの記憶を、思い出を見る度にこの子達を神隠しから救いたい気持ちが募る

だが現実はそんな上手くいかない。

 

「そろそろ終いに……!」

"まだァ!"

 

走る、回避する、固定でなんとか受け切る。

探す、探す、探す探すさがーーー!!!

 

"あっ……"

 

気づいた時には部屋の隅にまで行ってしまった。

 

「本当に、長い…永い戦いだったな」

 

決着をつけれそうになった神はご満悦の様子で笑いを堪えていた様子だった。

 

「今までねちっこくネズミのように逃げやがって……これで終わりだ」

 

私に神は右手をかざす。

 

「ここから飛ばされたらもうこの空間に戻ってこれない」

 

楽しく、笑ってる。

 

「今まで頑張ってたが……結局は無駄だったな?」

 

まるで全ての犯行を明かす真犯人のようだとぼんやりとした頭で思い浮かべる。

 

「グッバイ、先生、無限の1日で気が狂った君を見るのが楽しみだよ」

"最後に……一言ぐらい言わせてくれ"

「ん?嗚呼……冥途の土産ってやつかいいよ」

 

終わりという予定調和を刺すように言葉を発する。

夏の体温が体の中で膨張するような感覚に襲われる。

けどきっとこの感覚はただ私が終わるからと言う訳では無いだろう。

たった一言呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"いい名前じゃないか、イノリ"

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